ポプ子は、動物園のオリの中のゴリラだ。
隣にはゴリラ(ピピ美)もいる。
オリの前には、つぎつぎに客がやってきて、キャアキャア言う。
「あ! ポプテピピックだー!」
「かわいー!」
「ゴリラかよ」
「なにこの急展開www」
「さすがにこれは草」
ゴリラ(ポプ子)は(うるせえな)と思って、ダルい動きで客の方に顔を向けた。
よけいに騒ぎが大きくなる。
「きゃー!! こっち向いたー!!」
「かわいー!!」
「シュールwwww」
(……………)
バシ!!
ポプ子は
「「きゃあ――――っ!!!!」」
ますますうるさくなった。
東京上空、380,000km――月軌道上。
無数の岩石が浮遊する中に、ゴジラがただよっている。
ゴジラはとまどっていた。
ゴジラは、自分を傷つけようとする敵に対して、なかば本能的に放射火炎を吐き、周囲の地盤ごと敵を粉砕しようとした。
しかし必殺の一撃を放つ直前、理解不能のなんらかの力によって、突然月にワープさせられたのだ。
その結果、ゴジラの放射火炎は、月と、竹書房と――そして、ピピ美のみを打ち砕いたのだった。
少しの間、静かに思考を巡らせて、ゴジラは自分が目的地から遠く離れてしまったことを認識した。
そして遥か遠くに見える巨大な青い球体こそが、自分の向かうべきところであると理解した。
なんとかして、あの場所に届かせたい。
その一心で、ゴジラは口を大きく開いた。
放射火炎の青い光が、その喉の奥からあふれ出た。
一直線に、地球へ向かって。
*
同時刻、東京。
千代田区北の丸公園――ビッグ武道館。
ここは今、避難所になっていた。
ゴジラの火炎から生きのびた人々が、武道館いっぱいにつめこまれ、不安な夜を過ごしていた。
あちこちから、すすり泣きや、恐怖の叫び声が聞こえる。
ひとつひとつは小さな声だが、万単位の人々が集まると、耳がおかしくなりそうなほどの騒音になる。
みんな、それぞれに、家を失ったり、家族や友達を失ったりしたのだろう。
大やけどを負い、これから命を失おうとしているひともいる……
ビッグ武道館のかたすみで、膝をつき、がっくりとうなだれる男がいた。
彼は――ミュージシャン、ヘルシェイク矢野。
「くっそう!
こんな大変なときだってのに、オレには何もできないぜェ……!
オレは無力なのか……」
だが、そのとき。
絶望のどん底で、ヘルシェイク矢野の目が、逆に熱く燃えはじめた!
「いいや!
まだだ! オレにはまだ、やれることがある!
それは……ここにいる人たちを、元気づけることだぜ!!
このオレの音楽でな!!」
すっく、と立ち上がったヘルシェイク矢野。
その背後に、別の男の声がかかった。
「よく言った!!」
「なにぃ!?
ま……まさか、お前は!
マグマミキサー村田!!!」
暗闇の中から姿を現したのは、ミュージシャン、マグマミキサー村田だった。
マグマミキサー村田が、ニヤリと笑う。
「キサマひとりでは頼りない。
このオレが力を貸そう」
「マグマミキサー村田ァ!」
「おっと、勘違いするなよ。
お前を倒すのはこの俺だ。それだけのことだ」
「フッ……分かったぜ!」
ヘルシェイク矢野。
マグマミキサー村田。
夢の最強タッグが、今、ここに誕生した!
「行くズェ! マグマミキサー村田!!」
「いいズェ! ヘルシェイク矢野!!」
「「
並んだふたりの体がアーチを作り、その指先が合わさったとたん、閃光がほとばしった。
ふたりの身体が! ひとつに合わさる!
爆誕!! ヘグマシェキサー村野!!
そしてさらに。
「待ちな! 俺もいるぜ!」
『ユーロビートの神様!』
「私もお手伝いしますよ」
『ジャズの神様!』
「ワシはパス」
『サボ神!!!』
『みんな……みんなありがとう!
さあ行くぜ!
最初で最後で最高の!!
俺たちのスーパーセッションだぜ!!!!』
ヘグマシェキサー村野の、4本腕をフル活用した超高速ギターソロ!
ユーロビートの神様の、魂を揺さぶるテクノサウンド!!
ジャズの神様の、胸を打つ哀愁のメロディ!!
その熱い演奏を耳にした避難者たちが、ひとり、またひとりと顔を上げる。
暗く沈んでいた避難者たちの表情に、ヘグマシェキサー村野の燃えるような情熱が乗りうつっていく!
誰もが、生きる希望を取り戻しているのだ!!
その光景を見て、マネージャーのおっちゃんは、脂汗まみれで拳を握りしめる。
「なんてえこった。
やつらはこの地獄の中でさえ、観客の心のマグマを沸き立たせてやがるっ!
ヘルシェイクにしてマグマミキサー!
ヘグマシェキサー村野じゃあ!!」
またたくまに、ビッグ武道館は割れんばかりの歓声に包まれた。
まるで武道館が、いや、日本列島全体が震えているようだ。
ヘグマシェキ!
ヘグマシェキ!!
ヘグマシェキ!!!
へ……
*
――そのとき。
月軌道からの放射火炎が、ビッグ武道館を直撃した!!
建物の屋根が融ける。
蒸発する。
中の人々が炭化し気化する。
最後の一瞬まで途切れぬサウンドに包まれたまま――
ビッグ武道館、消滅。
*
『ツイッターで物申すマン@twitter_de_mono
悪質なデマが出回っているようです。騙されないように! 特に支援要請にTwitterを用いることは混乱をまね
ツイッターで物申すマン、消滅。
*
「この小説は面白くない! クソ!!
なんでオレが死ななきゃいけないんだ! クソ! クソ!! ク……」
アンチ、消滅。
*
「ぼくベーコンムシャムシャくん!
ベーコン食べるの大好きさ!
ベーコン……」
ベーコンムシャムシャくんは、目の前の光景をぼんやりとながめ見た。
だが、そこに広がっているのは、見渡すかぎりの――焼き払われた荒野のみだ。
「ベーコン……どこ?」
ベーコンムシャムシャくん、消滅。
*
月軌道上のゴジラは、熱線の放射を止めた。
エネルギーが枯渇したのだ。
それに、この位置からでは、せいぜい日本の地上を全て焼きはらう
ゴジラは目を閉じた。
今のままでは、宇宙空間に投げ出されて、これ以上どうすることもできない。
だから、しばし休息を取りながら、考えてみることにしたのだ。
あの青い球体――地球に戻る方法を。
*
ポプ子は目覚めた。
「ピピ美ちゃんーッ!!」
そこは、ボロボロになった民家の中だった。
そばには、老人がひとりいる。
「ム……気がつかれたか。
ずいぶんと、うなされておった……」
「ピピ美ちゃん!
ピピ美ちゃんは!?」
老人は首を横に振る。
「倒れていたのは、あんただけじゃった……」
ポプ子は、それを聞いて、家から飛び出した。
外には、一面の荒野が広がっていた。
月軌道から降りそそいだ熱線によって、東京の街はあとかたもなく崩壊してしまった。
ガレキ以外何もなくなってしまった街に、ねじ曲がった東京タワーだけがポツンと残っている。
スカイツリーは、ない。完全に蒸発してしまったからだ。
ポプ子は、膝をついた。
拳の中に、地面の灰を握りしめた。
ゴジラに負け、ピピ美が死んだ、あのできごとは……
「夢じゃ……
なかったんだ……」
その背後に、一台の車が止まった。
中から飛び出してきたのは、スーツ姿の男だった。
彼のスーツは汚れだらけで、顔にもケガがあり、疲れ果てていたが、まだ気力だけは残っているようだった。
「そこの人!
ここは危険だ! 一緒に避難しましょう」
車の中から、部下が声をかける。
「急ぎましょう! いつまた攻撃があるか……」
「少し待て」
「矢口さん!」
部下の制止をふりきって、男はポプ子の後ろに駆け寄った。
彼の名は、矢口蘭堂。
巨大不明生物特設災害対策本部(巨災対)事務局長。
衆議院議員、矢口蘭堂である。
「車に載ってください。避難所まで送ります。
さあ!」
矢口蘭堂につかまれた手を、ポプ子は、力まかせに振りほどいた。
ポプ子は両手の拳を地面に叩きつけ、叫ぶ。
「ゴジラゥアア゛ーッ!」
涙をぬぐい捨て。
怒りを目に宿し。
ポプ子はふたたび、立ち上がった。
「覚えてろよゴジラ……
地べたを這い
ドロ水すすってでも」
頭上の白い影を見上げ、野獣のように中指勃てる。
「お前の前にもどってきてやる!!」
(つづく)
■次回予告■
私、星降そそぐ!
今度のステージは地下都市アンバークラウン!
はりきって現地入りした私たちを待っていたのは、やる気のない現地スタッフさん。
ちょっとお、マジメにやってよおー(汗)
もう! こうなったら、私たちの歌でスタッフのみんなを動かすしかない!
次回、
来週も、恋にオーバードロップ!