ポプ子、植木鉢のふたばに水やりをしている。
ふたばがしゃべった。
「質が低い!
読むに耐えない!
この小説はクソ!」
だが、ポプ子はにこやかだ。
「ありがとう♡ ありがとう♡」
ピピ美が来た。
ポプ子のしていることを、不思議そうにのぞきこむ。
「なにしとん」
「アンチの芽に“ありがとう”と声をかけるとすくすく伸びるんだよ」
「伸ばしてどうする」
「食い物にする」
ピピ美は腕を組み、力強くうなずいた。
「惚れ直したわ」
東京都立川市
立川災害対策本部予備施設にて。
矢口蘭堂――巨災対事務局長あらため、巨大不明生物統合対策本部副本部長、兼、特命担当大臣(巨大不明生物防災)。
矢口蘭堂が、山積みになった決裁を片付けていると、巨災対のメンバーがプリントアウトの束を持って駆け込んできた。
森文哉――厚生労働省医政局研究開発振興課長(医系技官)。
「ゴジラの現在地が分かりました!」
それを聞くや、その場の全員が浮足立ち、群がってきた。
長机に置かれたプリントアウトを大勢でのぞき込む。
そこには、解像度の悪いほとんど真っ暗な写真が印刷されていた。
ただ、画面の中央に白くボヤけた六角形の板のようなものが見える。
矢口蘭堂、眉間にシワを寄せる。
「これは……なんだ?」
彼の隣からひょっこり顔を出した尾頭ヒロミ――環境省自然環境局野生生物課長補佐――が、ぼそりとつぶやく。
「……宇宙空間」
森文哉がうなずく。
「東京都心から原因不明のワープをしたゴジラは月面に出現。
月を破砕した後、そのまま月軌道付近を周回している」
「じゃあ……この六角形が、ゴジラの新形態か」
「概算で1辺50km、総面積約6500平方km。東京都の3倍以上の範囲に薄く展開しているものと推測される」
「でかい!」
「どうしてこんな形になったんだ?」
「なんだか傘みたいですね」
「宇宙で雨は降らんだろう」
「じゃ日傘かな」
一同、乾いた笑い。
「日傘……」
間邦夫――国立城北大学大学院生物圏科学研究科准教授――が、口元で、ポン、と手のひらを合わせる。
「……そうか。
「なんですそれ?」
「宇宙空間に鏡を展開して太陽光を反射し、その反作用で推力を得る装置だ」
「宇宙の帆船ってわけか」
「こんな巨大な帆が、よく崩壊せずにもってるな」
「必要と見積もられる引っ張り強度と靭性から考えて、カーボンナノチューブの支柱に有機高分子フィルム素材の鏡面膜を張ったものと思われる。
体内に元素変換機能を有するゴジラならこの程度の変態はやってのけるだろう。
空気も水もない宇宙空間では原子の補充もできず生体原子炉の活動にも限界があるが、この方法なら推進剤なしで軌道を遷移し、地球に帰還することが可能だ。
あらたな極限環境に投げ出されることでゴジラの形態変化が促進されてしまったんだっ……」
「つまり……まったく未知の、ゴジラ第五形態……!」
一同、息を飲む。
ゴジラは消えたかに思われた。だが、まだ戦いは終わっていなかったのだ。
「……問題は、ゴジラがいつ地球に到着するかだな」
「至急、全国の天文学系研究室に軌道計算を依頼します!」
「宇宙にいるなら核ミサイルを撃ち込んでもよいのでは?」
「熱媒体となる空気の存在しない宇宙空間では核爆弾の破壊力は著しく低下する。
直撃させられればまだしもだが、ゴジラの軌道を正確に読むのは困難だな」
「軌道上での核爆発は地上の広範囲にEMPによる障害を引き起こす恐れもあります」
「そもそもロケット打ち上げ準備が間に合うかどうか」
「しかし米軍に打診する価値はありますね」
「よし。核兵器使用は政治的な問題が絡む。私から赤坂官房長官を通じて首相に話をあげてみよう」
「ゴジラの形態変化は不安だが、これで少し時間が稼げたということだ。この隙に矢口プランを実行レベルまで推し進めるべきだな」
安田龍彦――文部科学省研究振興局基礎研究振興課長――が、手をあげた。
「提案です。
ゴジラと戦っていたあの少女を、民間の協力者として迎えられませんか?」
一同、しんと静まり返る。
安田龍彦、不思議そうにあたりを見回す。
「あれっ。僕、空気読めてなかったです?」
「いや……ちょっとあの子のことは……自分の中で整理がついてなくてな」
「自衛隊を蹴散らした怪物を相手に互角に渡り合ってましたよね……」
「というか、手からビームとか出てなかったか?」
「あたりまえのように空飛んでましたよ」
「なんなんですかね、あの子」
「なんか住んでる世界違いますよね……」
「矢口さんは直接話したんでしょう?」
「ああ。名前は確か……
ポプ子。
そう、ポプ子と言ったか。
……まあ、人間不信な子だったよ」
袖原泰司――防衛省統合幕僚監部防衛計画部防衛課長。
「映像を分析したが、ポプ子には少なくとも戦車大隊レベルの戦力が見込める。
作戦に組み込めるなら大歓迎だが」
「頼んでみましょう」
「いや待て。現役中学生を働かせるのは労基法上問題があるぞ」
「15歳未満の労働には労働基準監督署長の許可、勉学に差し支えない旨の学校長による証明、及び親権者の同意書が必要です」
(労働基準法第56条、57条)
「親とかいるのかな……」
「いないわけはない……はずだが……」
「午後8時から翌午前5時までの深夜労働もさせられませんし、労使協定による残業時間や休日勤務などの例外も認められません」
(労働基準法第61条、第60条)
「爆発物や有害ガス、有害放射線などの危険をともなう業務に就かせることもできないだろう」
(労働基準法第62条)
「……そもそもの話をしていいか?
子供に戦争をさせたくはないぞ、私は」
一同、再び沈黙。
矢口蘭堂、議論を黙って聞いていたが、ここで口を開いた。
「私は彼女の自由意志に任せたい」
「矢口さん……」
「私は彼女の慟哭を聞いた。
彼女はたったひとりの親友を喪ったらしい。
そのうえで、彼女はゴジラへの闘争心をむき出しにしていた。
今の彼女には、闘うべき相手が必要なのだと思う。
だからそれを認めてやりたいんだ。
……大人として、褒められた考えではないかもしれないが。
責任は私が取る」
「まあ、矢口さんがそうおっしゃるなら」
「ではみんな、ポプ子さんについては労基法の抜け道を探るのと特例法制定の両面から立案してくれ。
それと並行して彼女の意思確認と交渉を行う」
「分かりました」
「で、ポプ子は今どこにいるんです?」
矢口蘭堂はうなずいた。
「惑星
「……どこですって?」
「惑星アウチー。
銀河系未知領域の。
会いたい人がいるんだそうだ」
「そう……ですかあ……」
*
銀河系、未知領域。
惑星アウチー。
一面の海に、ポツリと浮かぶ岩塊のような島。
そこに一台の、薄い箱型のスペースシップが降りた。
ミトミヤス・ファミコン号だ。
ファミコン号から出てきたのは、ポプ子だった。
彼女はこの島に、ある人物を探し求めて来たのだった。
島の果ての、崖の上に、その人物はいた。
近づいてきたポプ子の気配を読み取り、その人物が――老年の男が振り返る。
そう。
彼こそが打倒ゴジラの鍵を握る男――
人呼んで――ジェd(以下検閲削除)
(つづく)
■次回予告■
私、星降そそぐ!
信じられない! せっかく助け出した現地スタッフさんがニセモノだったなんて!
今度こそだまされないんだから!
と、気合いを入れる私たちの前に現れたピンク色した謎の影!
いったい、あなた何者なの!?
次回、
来週も、恋にオーバードロップ!