ゴジラ vs ポプ子   作:外清内ダク

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7.最狂の敵

 

 ゴジラの身体が、星空を突き刺しそうなほど高く、そびえ立っている。

 その手のひらの上には、ピピ美。

 

 ポプ子は、地べたにはいつくばって、うるんだ目で彼女を見上げている。

「ピピ美ちゃん……」

 

 ポプ子は舞空術で飛び上がった。

「友情パワーでよみがえってーっ!」

 

 まっすぐにピピ美の胸に飛びこんでいくポプ子。

 

 だが、ピピ美は、ポプ子の頬をはり倒した。

 

 

「アッ!」

 

 ポプ子は流星のようにはじき落とされ、地面にバウンドする。

 

 ピピ美が瞬間移動で追いつき、ポプ子の腹へパンチをぶち込む。

 拳が、背中まで貫通するのではないかと思うほどめりこむ。

 

 ポプ子が苦しげにうめいた。

 

 さらにピピ美の回し蹴り。

 ポプ子は数回地面に跳ねながら吹き飛ばされる。

 

 ピピ美が大きく口を開け、その中に青白い光を灯した。

 ふたたび、ピピ美の口から放射線流が発射され、ポプ子に追い打ちをかける。

 

 

 爆発がポプ子を飲みこんだ。

 

 

 ……雨が、ふりはじめた。

 

 爆発で巻き上げられた砂ぼこりを、雨粒が洗い流していく。

 視界が開けると、そこには、焼け焦げたポプ子が、ボロ雑巾のように転がっていた。

 

 

「ピピ……ちゃ……」

 

 もはや息も絶え絶えだ。

 

 地べたを這い、泥水をすすりながら、それでもポプ子は、ピピ美を呼び続けた。

 

 そんなポプ子を、ピピ美は、興味なさげに見下ろしている。

 

 

 ふと、ピピ美が空を見上げた。

 上空に流星のような光のすじが見える。

 

米国のICBM(大陸間弾道ミサイル)だ!

 

「……無駄なことを」

 

 

 ピピ美が、弾丸のように上空に飛び上がる。

 

「Okay, Let's partyyyyyyyy!!!」

 

 すさまじいスピードで、ほんの数秒のうちにICBMまでたどりつく。

 そして、ICBMに手を触れ、瞬間移動した。

 

 行き先は、ワシントンD.C.、ペンシルバニア通り――大統領官邸(ホワイトハウス)

 

「How do you like me now?!」

 

 

 顔面蒼白になった大統領の目の前で。

 

 核が炸裂した!

 

 

   *

 

 

 一瞬の後には、ピピ美は日本――ゴジラのもとへ戻っていた。

 

 これでもう、米軍、いやどこの軍も、うかつには動けないだろう。

 核を撃ち込めば、瞬間移動でそのまま自国に返されるのだ。攻撃のしようがあるまい。

 

 

 あとは。

 ポプ子さえ片付けてしまえば、ゴジラに対抗できるものは、この地球からすべて消滅する。

 

 

 と、ピピ美の脳天に、戦車砲の砲弾が直撃した。

 

 ピピ美は爆炎を切り裂いて飛び上がり、砲弾の来たほうを眺めた。

 はるか遠方の山肌から、数えきれないほどの戦車が、荒野と化した斜面を駆け下りてくる。

 

 うっとうしい虫を追い払うような感覚で、ピピ美は口の中に放射線流を準備した。

 

 が、別の方角にエンジンの音を聞きつけて、そちらに目をやった。

 無人航空機(プレデター)の群れが飛んできている。

 それらが一斉に対戦車ミサイル(ヘルファイア)を発射する。

 

 狙いはゴジラだ。

 

「チッ!」

 

 ピピ美は舌打ちして、放射線流で空を薙ぎ払った。

 プレデターとミサイルの群れが、左から右へ次々に爆発四散する。

 

 その隙に、さらに戦車砲が着弾。

 かと思えばまたしてもプレデター。

 息をつかせぬ波状攻撃――迎撃に追われて、休む暇もない。

 

 

 ――いったい何が目的だ、人間どもよ?

 

 ピピ美は、はたと気づき、ポプ子のほうに目をやった。

 いつのまにかポプ子のそばまでたどり着いていた装甲車が、彼女を車内に引っぱり上げている。

 

 

 ――狙いはポプ子(コレ)か!

 

 

 ポプ子を逃がせば、また面倒なことになる。

 ゴジラ本体への多少のダメージは覚悟のうえで、ポプ子にトドメを刺しておいたほうがよい。

 ピピ美はそう判断して、狙いをポプ子に向けた。

 

 

 しかし、放射線流発射の直前、何者かが上空から飛び降りざまにピピ美を斬りつけた。

 ピピ美の身体が、肩から胸にかけて、バッサリと斬られる。

 

 

「ぐうっ!?」

 

 

 ピピ美は、苦痛に声をあげ、大きく飛びのいた。

 

 ヒゲづらの老人が、青い光剣(スパッド)をぶら下げて、のんびりと立っている。

 公爵(デューク)空歩男(スカイウォークマン)だ。

 

 

「君たち、はやく行きたまえ」

 

 空歩男(スカイウォークマン)が、自衛隊の装甲車にプラプラと手を振る。

 

「ここは私が引き受ける」

 

 

 ピピ美と空歩男(スカイウォークマン)は、にらみあった。

 

 ピピ美が身がまえる。

「避けたつもりだったんだがな。

 まるでどう避けるか分かっていたような太刀筋だった。

 それが“(チカラ)”か」

 

 

 空歩男(スカイウォークマン)が、にこりと微笑む。

「すばらしい。すべて間違っている」

 

 

 ポプ子が装甲車に乗せられ、安全なところに去っていくのを、空歩男(スカイウォークマン)は背後に感じていた。

 

 自分はこの戦いから生きて帰れないだろう。

 うすうすそう感じながら、空歩男(スカイウォークマン)は、最後の弟子に心の声で呼びかけた。

 

 

 ――ポプ子よ。

 オリジナリティが必要だ。

 勝利は、それの向こうにある……

 

 

 ピピ美が来る。

 空歩男(スカイウォークマン)が剣を構える。

 

 

 ――オトナになれ、ポプ子!

 

 

 光剣(スパッド)と放射線流がぶつかり合い、閃光の中にふたりの姿は飲まれていった。

 

 

   *

 

 

 夜が明けた。

 

 

 東京都立川市

 立川災害対策本部予備施設にて。

 

 矢口蘭堂をはじめ、巨災対のメンバーたちが、山積みになった仕事に追われている。

 電話もメールもパンク状態。

 新情報が怒涛のように舞い込み、もはや処理しきれないほどだ。

 

 それらを整理・分析して対策を練っていると、外から騒ぎが聞こえてきた。

 

「離さんかいオリャー! イテモータロカワリャー!」

 

 ポプ子だ。

 

 

 ドッギャーン!

 

 ドアを蹴り開けて、ポプ子が飛び込んでくる。

 彼女は全身血まみれで、腕には点滴の針が刺さったままだ。

 

 看護師と医師が、3人がかりでタックルして止めようとするが、ポプ子はそれを引きずりながら突進をやめない。

 なんという爆発力(パワー)、なんという根性、まるで重機関車だッ!!

 

 

「ピピ美ちゃんはッ!

 ピピ美ちゃんはどこだァーッ!!」

 

「いけません! まだ処置の途中ですッ!!」

 

「処置だかジョチだか知らんがンなもんしとるヒマあるかいィィー!

 ピピッ……ピミッ……ピピピッピーッ!!」

 

 

 わめきちらすポプ子の前に、矢口蘭堂が立ちはだかった。

「ポプ子さん、まずは落ち着いて」

 

「コレが落ち着いてられるかァ!

 ピピ美はどこやオォーッ!?」

 

「今、その話をしていたところです。

 各地から情報が集まってきている……あなたも会議に参加しませんか?」

 

「……………」

 

 ポプ子が黙った。

 こういうふうに落ち着いた対応をされるのは、生まれて初めてのことだった。

 そのため、どうしていいのか分からず、とまどってしまったのだ。

 

 矢口蘭堂、真面目な顔をして、続ける。

「ただし条件があります。

 この場で治療の続きを受けること。

 

 ――まあ、妥協案です。

 ここらで手を打ちませんか?」

 

 

 ポプ子、しばらく、獣のように、フーッ、フーッ、と荒い息をついていたが、やがて大きく深呼吸した。

 

「……まあ……わかった」

 

 

 と、ポプ子が言ったとたん、時間停止が解除されたかのように、官僚たちが慌ただしく動きだす。

「では席はそちらへ」

「資料一部どうぞ」

「モニタ左からサーベイデータ観測映像報道その他もろもろ」

「飲食セルフ禁煙よろです」

「森さん続きお願いします」

「了解です」

 

 官僚たちの機関砲めいた早口に、ポプ子はすっかり圧倒されてしまった。

 

 モニタに映ったゴジラの映像が、拡大され、ピピ美が大写しになった。

 ポプ子はそれを見て、資料の小冊子を握りしめる。コピー用紙に、クチャクチャにシワが寄った。

 

 

「じゃ、みんないいか?

 ゴジラ()()()()対策ミーティング、再開するぞ!」

 

 

(つづく)

 

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