東京都立川市。
立川災害対策本部予備施設にて。
巨災対による、ゴジラ第六形態対策ミーティングは続いていた。
大きなモニタに、ピピ美の姿が映っている。
はるか遠方から観測された映像なので解像度が悪いが、ゴジラの尻尾の先端に身体を半分埋めて、静かに眠っている様子が見て取れる。
ゴジラも休止中のようだ。
「これが15分前の映像です。
ゴジラは依然沈黙、ポプ子さん救出時に足止めしてくれた老人の姿もありません」
「完全に動きが止まったな……」
「おそらく一時的にエネルギーを使い果たし休眠状態になったと思われる」
「現在、戦闘中の映像を分析してエネルギー消費量を推定、活動再開までの時間を算出中です」
「ポプ子との戦闘中、ゴジラの尻尾先端からピピ美が分離、その後はゴジラ本体の活動がほぼ完全に停止した。
この事実から、ゴジラ第六形態は戦闘能力の大半をピピ美に依存していると考えられる」
「兵器として捉えたときゴジラ最大の欠点はあの巨大な身体そのものだ。
どれほどの筋力を持とうとニュートンの法則からは逃れられず、体重が大きくなればなるほど動きは緩慢にならざるを得ない。
だが戦闘能力を小型のユニットにあずけて本体から切り離せば機動性は大幅に向上する」
「超弩級戦艦から、空母と艦載機に変身、ってわけか」
「ポプ子に対抗するために……か?」
「おそらくそうだろう。
これまでのゴジラの形態変化は基本的に環境変化に対する
第四形態の分厚い装甲や放射線流による遠隔攻撃が自衛隊、ひいては米軍による攻撃への対応であったと仮定すれば、ゴジラにとって最大の脅威であったポプ子とピピ美への対抗策をとることは充分考えられる」
「その手段がピピ美の能力を取り込むことだったと?」
「しかしどうやって?」
「月が破壊された時その場にはピピ美さんがいたはずです。
もし脳が大きな損傷なく残り、細胞が死滅する前に回収されたとすれば……」
「ゴジラは体内で自在に元素を変換し物質を合成できる。ピピ美の肉体を再構成することも可能……か」
「こいつはやっかいだぞ……
ただでさえバケモノじみてるってのに、あの子の力まで加わったら……」
一同、沈黙。
そこで、先ほどから沈黙を守っていた立川始(資源エネルギー庁電力・ガス事業部原子力政策課長)が口を開いた。
「いや、これは好機じゃないか?」
一同の視線が集まる。
「ピピ美が攻撃を中止してゴジラの体内に戻ったのはなぜだ?」
「たとえば……エネルギー補給?」
「ゴジラの生体原子炉が人間サイズの肉体に収まるとは考えにくい。
ならピピ美は今、活動に要するエネルギーをゴジラ本体から供給されているんじゃないか?」
「つまりゴジラが
「そしてゴジラ第六形態は攻撃機能の大部分を外部デバイスであるピピ美に依存しているわけだから……」
「そうか。ピピ美をゴジラ本体から切り離しエネルギーを枯渇させれば、ゴジラの戦闘能力を大きく削ぎ落とせる!」
「その状態なら矢口プランの実行は容易だ!」
「待て。その場合、切り離されたピピ美はどうなる?」
「ゴジラがピピ美の肉体を忠実に再現したのなら、その構造は人間同様のはずだ。医学的に治療できる可能性は高い」
「肝心の分断方法は?
ワシントンを失って米軍は混乱の極み、自衛隊だっていくらも余力は残ってないぞ」
「ひとつだけ残ってる。
ピピ美に対抗しうる存在が」
「……なるほどな」
「おい!
これは行けるんじゃないか!?」
盛り上がる一同。
その輪から少し外れたところで、ポプ子は腕組みしている。
「あーそーゆーことね。
完全に理解した」
↑わかってない。
矢口蘭堂、ポプ子の前に向かい合った。
「ピピ美さんを助けられるかもしれません」
ポプ子、自分の三倍ほども背丈のある矢口蘭堂の顔を見つめ返した。
今の彼女の目は、いつも他人に向けるような、なんの期待もしない冷めた目ではなかった。
警戒しながらも、歩み寄ろうか迷って踏みとどまる、野良猫のような目だ。
矢口蘭堂が続ける。
「まだ可能性の段階でしかない。うまく行くかもわからない。
だがやってみる価値はある。
それがゴジラを倒すことにも繋がるでしょう。
作戦立案と実行準備は我々がします。
しかし、この作戦を遂行するには、あなたが必要不可欠だ。
ポプ子さん。
ゴジラを倒すため。
ピピ美さんを救うために。
我々に、力を貸してはくれませんか!」
矢口蘭堂が、手を差し伸べる。
ポプ子は――
その手を、握った。
ポプ子with巨災対。
ゴジラに立ち向かう最強のチームが、今、ここに産声をあげた!
*
それから。
ゴジラとの決戦に向けて、日本中がたくましく動き出した。
ゴジラ凍結に必要な薬剤の追加生産。
作戦立案と綿密な検証。
実行部隊の再編成。
被害者たちへの救済措置と、あらたな避難地域の設定。
および腰となった米国への説得と協力要請。
そして――どうしようもなくなったときの最後の手段。何発かは瞬間移動で突き返されるのを覚悟のうえで、確実にゴジラ本体を焼き尽くすための核による飽和攻撃準備――
ゴジラ活動再開までの時間は残り少ない。
殺人的なスケジュールのなかで、財前正夫(自衛隊統合幕僚長)は、ゴジラ凍結のための作戦立案を終え、矢口蘭堂に提出した。
矢口蘭堂、その内容を見て満足げにうなずく。
「ありがとうございます。
無理なスケジュールの中で」
財前正夫、硬い表情のなかに、わずかに微笑みを浮かべる。
「礼にはおよびません。仕事ですから」
「では……ゴジラ撃滅計画というのも子供っぽいですから。
『ポプきちのバクチン大作戦』としましょう」
「分かりました」
*
一方、ポプ子はこの期間ずっと、災害対策本部の屋上で修行を続けていた。
誰にも打ち明けてはいなかった……が。
実は、ピピ美に負けたあの戦い以来、ポプ子は“
いや、“
クイックブーストも、黒魔術も、エネルギー波も。
パクリネタが、なにも使えなくなっていたのだ。
師匠、
――オリジナリティが必要だ。
オトナになれ、ポプ子!
「オリジナルかー。正論だなー。
……いや。
よく考えたらクッッッソむかつく」
と、そこへ。
出撃時間を知らせるサイレンが鳴り響いた。
*
そして。
ポプ子は
今や彼女には。
ビームもない。
魔法もない。
いかなるスーパーパワーもない。
……だが!
「やってやらぁよ!
やってやらぁよ!!!」
たとえ力のすべてを封じられようと。
己の
この釘バットと。
ゴジラめがけて中指
「行くぞゴジラ……
これが最後の戦いだ!
そしてピピ美ちゃん!!
君だけは!!
絶対私が救ってみせる!!」
(つづく)