しくじった。
派手にやりすぎた自覚はあったが、欲をかいてしまった。その結果がこれだ。
「響。あなたが今ここにいる理由がわかりますね?」
ショートランドに日が沈む。常夏のソロモン諸島だ。日が沈むころにはまだまだ気温が落ち着かないが、響の頬にはそれとは無関係に汗が止まらない。
ショートランド泊地の司令官と、その秘書官の龍田。手を後ろ手に縛られた状態で対面したくない連中を二人挙げろと言われたら、響は今目の前にいる二人を迷いなく挙げる。
つまり状況は最悪だ。
「まあ、そうだね。わかるよ。流石にちょっとやりすぎたね。私も反省しているよ」
「ご理解いただけて何よりです」
先ほど龍田が持ってきた封書を億劫そうに読みながら言う司令官の口調は穏やかだ。しかしそれが表面だけのものであることは、響をはじめ、ショートランドの艦娘たちは嫌というほど知っていた。
「本当に反省してるのかしら~?」
「龍田。勝手なことはしないでくださいよ」
「わかってます~」
龍田も龍田で危険だ。もともと『龍田』の適合者は激情にかられやすい傾向があると言われているが、ここの龍田の傾き方はその中でも最悪である。
殺意。殺気。殺し合いに酔う、悪鬼のそれなのだ。
「……さて、響」
「なにかな」
「ちょっと仕事をお願いします。そうすれば今回のことは不問としましょう」
「……仕事?」
そんな二人の前に引っ立てられて何を言われるかと身構えていた響としては、えらく穏便に済みそうな司令官の提案にうっかり乗りそうになるが、それは避けなければいけない。たとえ断る余地がないとしても、聞いておかなければいけないことがある。
「どんな仕事だい?」
「なに、ちょっとした
なにやら算段を始めた司令官に響は聞いた。
「あの街、って、あそこだよね」
「当然、そこですね」
「……わかった、受けるよ。で、誰と組まされるんだい」
*
薄汚れた街にセーラー服の少女がいた。
派手な金髪を二つに分けて結び、白いセーラー服の上に紺色のジャケットを着ている。襟元には一際目立つ輝きを放つ三日月型のバッジがあった。
それに加えてリュックサック、ヘッドセットを身に着けた彼女は、日本の都会の片隅にならともかく、今この場にはふさわしくない。唯一手に持った釣り竿のケースだけが表向きは港町であるこの地になじんでいた。
代理戦争で国境が不明確になった隙に無法者たちが転がり込んだ、観光的にも資源的にも魅力の乏しい島。放っておくのが最適解であるがゆえに放置され続ける無法の庭。GARDENと呼ばれるこの街にセーラー服の少女など、客引きか迷い込んだよそ者しかいない。
『おい、嬢ちゃん。こんなところでどうした』
警察官がその少女に声をかけたのは、決して職務に忠実だからではなかった。そんな警官はこの街にいない。所長以下ヒラに至るまで汚職と形骸化にまみれ、現地マフィアと癒着した組織の末端には、もちろん腐った人間しかいない。その顔に浮かぶ下卑た笑みに少女は嘆息した。背後では、警官の仲間と思わしき男たちがこれまた同じような笑みをニタニタと浮かべている。どうせ自分に声をかけて得られた反応を賭けにでもしているのだろう。
「あー、英語か……。苦手なんだよな……」
『おい、何しゃべってんだ?』
『問題ないよ、オマワリサン。あっち行って』
それを聞いて警官は笑い出した。何かが愉快だったらしい。
『おいおい嬢ちゃん、親切に声かけてやったのに、あっち行けはないだろ? なあ?』
そういいながらなれなれしく手を伸ばしてくるので、少女はするりとよけて手にしたロッドケースで足を引っかけてやった。
『のわっ、お?』
地面とキスした同僚を見て、少し離れた場所にいる別の警官たちが爆笑する。見る光景すべてにうんざりしていた少女の耳に、今だけは救いに思える声が飛び込んできた。
『こちら響。エリアA3に急行してくれ』
「りょうかーい」
警官が身を起こしたとき、少女の姿はなかった。
『いてて……あのガキどこ行きやがった。おい、見てねえのか』
同僚に声をかけるが、彼らは口をぽかんと開けたままだ。
『何を馬鹿みてえに口開けてんだ』
『いや、さっきのガキ……見間違えじゃないなら、屋根まで跳んだんだよ』
『あ? 飛んだ? 頭が飛んでるのはお前だろ?』
『いや、そうじゃなくてよ……』
『昼間っから飲みすぎなんだよてめえら! ちっ……メシにでも行くぞ!』
少女の行方を警官たちは知らない。
タイトルは某クライムアクションの日本編より。この作品の舞台は実在のソロモン諸島およびロアナプラとは関係ありません。