ソロモン・ムツキガタ・インフェルノ   作:喜来ミント

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Epilogue

 皐月が目を覚ますと、響はすでにデッキの隅に腰かけて一杯やり始めていた。それもウィスキーを瓶から直接だ。また吐く気か。

 『長月』がどこにいるのかを聞くと、無言で船室を指さした。窓から覗くと、ブランケットにくるまれて眠る姿が見えた。とりあえず大丈夫らしい。

 

「あいつの手当てしてくれたみたいだね。ありがとう」

「それより剣を手放したらどうだい?」

 

 響にそういわれて、皐月は自分がいまだに刀を握ったままだったことに気が付いた。苦笑しつつ鞘に納め、わざと雑に船室の荷物置き場に放り込んだ。そしてデッキに戻って響の隣に崩れ落ちるようにして座る。

 

「まさかあのまま寝ちゃうとは……情けないや」

「仕方ないさ。龍田相手によくやったよ。正直、キミと同じことをやれと言われたら私は裸足で逃げるよ」

「そこまで言うか」

 

 とはいえ、言いたくなる気持ちもわかる。今も逃げ切れたのが信じられないくらいだ。船の後ろの水平線を見れば、その向こうにGARDENが――地獄があるのをひしひしと感じる。

 

「逃げ切れたんだよね? もしかして第二第三の龍田が――」

「やめてくれ、縁起でもない。……ついでにいうと、ショートランドのほかの艦娘も私たちには手を出せない。この船は民間の船だから」

「どーせモグリの運び屋だろ」

「わかってるじゃないか。ずいぶんとGARDENに馴染めたようだね」

「馬鹿言うなよ。ボクはあんな地獄みたいな町はもうこりごりさ。それに……」

 

 船室で眠る『長月』の方を見る。彼女が気絶する前に言い残した言葉。ゴミみたいに死ぬのは嫌だという、それが示す今までの境遇。

 

「……あの子にも、日本が一番だよ」

「どうだろうね。あいつの生きてきた世界と、これから行くところは違いすぎる。馴染めるとは思えないよ。そういう世界で生きてきたんだ」

「ボクがいる。殺し合いしかない世界なんてクソだって言えるボクが、どうにかしてやるさ。君とは違う」

「……まあ、期待しておくよ」

 

 響がビールを一本投げてよこしてきた。振ってないだろうな、と聞くと知らん顔をされたので慎重に開ける。

 

「キミこそどうするのさ。ボクはもともと余所者だからいいとして、ショートランドに戻れるとは思えないけど。というか、うちの司令官といつからグルだったんだい?」

「一度ショートランドに戻った時に連絡を取ったんだ。私も自分の人脈で情報を集めていて、今回の件に裏があることは分かっていた。だから手を組んだんだよ」

「ボクに内緒で?」

「怒るだろう?」

「そりゃもう」

「……まあ、しばらくは佐世保にお世話になるよ。形としては命令違反のせいで本土へと送られたってことになるだろうね。龍田にはともかく、日向さんには悪いことしちゃったな」

 

 都合のいい話だ。皐月はため息をつき、半目で響を見た。

 

「帰ってもキミと一緒か」

「嫌かい?」

「そりゃもう、最高に」

 

 二人はどちらともなく酒の瓶と缶を軽くぶつけあった。

 

  *

 

「ええ。ええ。皐月の派遣へのお礼は、そちらが『長月』と響を引き受けるということで帳消し、ということでよろしいですね?」

『問題児を押し付けといてよく言うぜ』

「そう言わないでくださいよ。響は確かに過激なところはありましたが、同時に優秀で替えの効かない人材でもありました。そちらに渡すのは惜しいくらいですよ」

『ふん。確かに優秀だよ。だいぶ足元を見られた。せいぜい歓迎してやるさ』

「彼女は暑いところは苦手なようでしたから、折を見てガングートのいる幌筵(ぱらむしる)にでも飛ばしてあげてください」

『そうするよ。それと……お前、これからもこんなことを続けるつもりか? バレたら上がなんて言うか――』

「あなたからそんな殊勝な言葉が出るとは。明日は雨が降りますね」

『今お前のところ雨季だろうが。……もう知らん。勝手にやれ』

「司令官~。お手紙よ~」

「ああ、龍田。ご苦労様です。では、これにて」

 

 ショートランドの執務室。佐世保との通信を切った司令官は、龍田から受け取った封筒を開け、中の鑑定結果に目を通した。

 

「どうだった?」

「やはり、外れのようです。君が仕留めたのは替え玉だったようですね」

「あら~残念ね~」

 

 そういう龍田は全く残念そうではない。

 

「そこそこ因縁のある相手なんでしょう~? 楽しみが増えたんじゃないかしら~」

「馬鹿言っちゃいけませんよ」

 

 司令官は遠く、顔も知らない男へと思いをはせた。

 

「あんなやつはこの世にいない方がいいんです。次こそ頼みますよ、龍田」

「了解よ~」

 

 ショートランドに日が落ちる。

 二人の睦月型(ムツキガタ)が地獄から脱しても、無法者(ギャングスタ)の楽園は今日もそこにある。

 日はまた昇る。

 

 




ひとまずこれでおしまいです。『狙撃手襲来』と聞いてピンと来る人はどれくらいいるのやら。
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