前回のわちき。
「どうしたの成琉?なにか聞こえてきたのだけれど」
「何でもないふに。ちょっと叫びたかっただけふに」
情報を箇条書きしよう。
・幼馴染の弦巻こころの家に置き去り
・幼馴染と勝手に婚約を結ばれた
・幼馴染の家で暮らせと命令される
「そう。それより、あたしと結婚する事についてはどう思う?」
わちきより先に知ってたんだ…ますます理不尽感というか、敗北感というか、なんというか。
「どう、と言われると、理不尽だなあの一言ふに……こころんは?」
「嬉しいわ!結婚って、ずーっと一緒にいられるんでしょう?あたしと成琉が毎日一緒だなんて、夢みたい!」
確かに前は月イチ間隔で遊びに来てたのに、最近は会えてすらいなかった…が、結婚してまでする必要はあるのか?わちきも嬉しいけど、やりすぎ感あるふに。
「これはこころんから持ちかけた事ふに?」
「いいえ、あたしも最初聞いた時はビックリしたわ?誰が決めたのか分からないけど、あたし、とーってもハッピーよ!」
ホントに父さんが決めたらしいな。こんな事する人とは思えないのに…
「さあ、夕食まで部屋へどうぞ。館の中なら外出は多少可能ですが、迷子になる可能性もあります。是非部屋でこころ様と大人しく…」
「どうぞと言われても、ふに。ピンと来ないふに」
「そのうち来ますから、大丈夫です」
「それはそれで大丈夫じゃない気がするふに!」
戻ってきました、この部屋。
「あらっ?どうしたの、露骨に野良猫に避けられて唖然とするしかない…みたいな顔しちゃって?」
間違っては、ない。状況は真逆だけど。だって毎日ここで暮らせって言われても…ねえ。そりゃあ四畳半マンションなんかよりも遥かにいい物件だとは思うよ、嫁のオプション付きだし。無垢な目をしたドレス姿の許嫁は首を傾げる。
別にこころと結婚するのは…まあ、可愛いし。わちきとて女に興味が無い訳じゃあないし。いいと言えばいいんだけど、させられてる感が否めないんだ。政略結婚的な、藤原氏の摂関政治的な。光明子ってこんなキブンだったんだな、と痛感する。
「ふんふふ〜ん…♪」
もう1人の本人は乗り気らしい。
「……どうするふに?」
「何が?」
「晩御飯までここにいるんでしょ、なら暇があるふに。今は午後の3時ふに」
「そうね、確かに暇だわ!じゃあ遊びましょ!」
「何して遊ぶふに。体力使うのは避けたいんだけど?今のわちきは疲れてるふに」
「じゃあ縄跳びね!」
「ノックしてふにふにー。耳、付いてるふにかー?」
「2つ付いてるわよ!」
それは何より…。
久しぶりだな、縄跳びなんて。小4の頃にやった以来か…?
「つか、室内で縄跳びふに?確かに部屋は広いけど、大丈夫ふに?」
「1つ隣の部屋が、スポーツ用に作られてるの!行きましょ!」
来ちゃった。
で、これまたこっちのスポーツ用ルームも広いこと広いこと。両手の親指と人差し指を直角にして、枠を作って見積もってみると、新体操と相撲とテニスと卓球が同時にできるくらいの広さ。楽しかったサマーキャンプで、こうやって距離を測ったっけなあ。
「ここなら縄跳び以外にも色々出来るふにね。スポーツ器具も揃ってるみたいだし」
「じゃあ何しましょっか!」
「キャッチボールで、手合わせ願おうかッ!ふに」
「のぞむ所よッ」
グローブをこちらに投げ渡し、やる気満々に構えるこころ。赤いドレス姿には、とても似合わない。
「えいっ!」
「ふに!」
「ソイヤっ!」
「ふ〜…にッ!」
ボールを投げあい、わちきはこころに問う。至極単純明快、シンプルな疑問だ。
「こころは!わちきと、結婚したいふにっ?」
「ええ!もちろん!だって結婚すれば……ッ!ずっとずーっと一緒にいられるんだもの!」
手の打ちようがないらしい。思わずボールを一度はキャッチしたものの、グローブからぽとんと落とし、もう一度拾おうとするもテンパってしまう。
「そ、そっかー…わちきもこころと暮らせるのは嬉しいふによ?でも…ねっ!この世のあらゆる物事には『限度』っていう大事なモラルがあるふに、だから」
「…成琉は、あたしのこと嫌いなの?」
ギギギギ……どうしたものか。答え方によっては7年間がとても辛いものになってしまう。こんな展開、ラブコメ漫画で見た。ソースは月刊デザート。ラブコメの波動を感じる。
「…………?」
やめて。後生だからそんな目で見ないで!無垢な疑問はナイフにもなるんだよ!
イヤよ、見つめちゃイヤ。わちきのOTOGAMEハートがチュクチュクしちゃう。抉り取られてる。露骨な肋骨、いや空裂眼刺驚よりも痛い。このどうしようもない気持ちをボールにぶつけるも、こころはあっさりグローブで受ける。
でもここは素直に伝えるべきか。嘘つくのはいけないんだぞ成琉。自分に正直になれ。……正直、って…なんなんだ……?決して当たり障りのないように。いや、回答の方じゃなくって態度をだね。
「……きっ…嫌いじゃ、ないふに…」
「成琉ーっ!!♡」
わちきの名前を叫ぶと、キャッチボールを中断し、ボールとグローブを放り投げてわちきに抱きつく。
「抱きつくなふに!誰かに見られてるかもしれんふに!」
たぶんゴミ箱の下とかに小型監視カメラとか仕掛けてるから!あとここでドア開けられたら青木ケ原樹海に手ぶらで突進するからね!いやコンパス持ってても使い物にならないけど!
その後も色々と遊んだわちき達は、日が暮れるとパタリと電池が切れ、特大トランポリンの上で、深ーい眠りについてしまった。
「……ふに?」
ここはどこだ?そんな疑問が出た2秒後に今回の騒動を思い出し、ちょっと凹んだ。今年最悪の寝覚めかもしれない。
「すー……」
いや、今年最高だ。
隣に無防備で可愛いお嬢様が、幼馴染が、許嫁が、静かに寝息を立てている。
「不純異性交遊ッ!?」
「…んー……」
しまった、起きてしまう。
でも起こすべきなのか。しかしこの寝顔をもう少し見ていたい気もする。
「……………」
さらけ出した首筋に、ぴとり。右手の人差し指を当ててみる。……待って、なにやってんのわちき。案件だよ?下手すると。ヤバい、離れなきゃ…でも匂い良いし可愛いし離れたくない。
許嫁になるには、交遊、交友を深める事が重要だ。つまりこころとの距離を詰めるのが攻略の近道。
深めたい!!
「こころ……」
「……どうしたの…成琉…?」
「ふにゃぁぁっ!?」
起きた!?なんでこのタイミングに!覆いかぶさってるタイミングに!もうすぐでもみもみタイム突入だったのにーっ!!起きるのなんていつ何時でも出来るんだぞ!?なんで今起きたんだよ!
「ん…あたしの、上に…?」
「あ、えーとこれはそのなんてゆーかふにふにー…そ、そう!起こそうとしてたんだ!」
「…優しいのね、成琉♪」
は〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜???
かわいい。
「こころん。目覚めのキスはいかがふに?」
「ん。頂戴っ」
ごめん無理ほんと辛抱たまらん。
「夕飯です」
「あら、黒服さんね!」
「ノックしろしおばかっちょ!!」
「失礼しました。しかし夕飯が冷めてしまいます。深夜になさってください」
「起こしちょっただけだっつこん!このヌケサク、しゃらうるせえ!へえいつまでもほんなとこつったっちゃいんで、はーく行けし!」
クソッタレ……この相生家の子ともあろう者が、一時の気の迷いに左右されるなどとッ…!
「ご飯が出来たみたいね!早く行きましょ、成琉!」
「…ほーずらね。はんで行かだ」
「甲州弁のトリガーが壊れてますね。今日は中華料理フルコースです。お口に合えば幸いです…」
やかましいわ、びっくりするとこうなるんだよ。
「そりゃ、ここの従業員さんだもん、うめえさよお」
「甲州弁になると、『ふに』が取れるのね!やっぱり成琉は面白いわ!……あ、あと…」
わちきの近くに来て耳元にくすぐったいくらいに口を近づけると、こころはそっと囁く。
「キスは、今夜にお預けね☆」
「そりゃちゃくいずら、こころん…」
「チャック?何の事かしら?」
to be continued
短いでしょう、王道でしょう。驚くと甲州弁が止まらなくなる主人公以外は。