家出娘と美形お兄さんの珍道中〜   作:藤涙

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Part.10:もう二度と乗らない

「おやめ下さい兄者!! 実の娘を贄に捧げるとは正気の沙汰か!!」

 

引き摺られて足が痛かった。

頭上で交わされるやりとりは私のことを顧みてくれない。着物は着崩れ、髪はぼさぼさ、大人の歩みには小さな足はついていけなくて血が滲んでいる。

 

ここは京都のとある神社だ。

“わたし”が生まれた家で、これから数十年閉じ込められる檻。古を尊び、いるのかも定かではない神を祭り、そして日の本に古来から通じる法を研鑽している者の大家。

 

「できやしない? そんなものやってみなければわからないだろう。私の娘は私を超える魔力量の持ち主だぞ、やってみる価値はある」

「狂うている、貴方は狂うている…!!」

 

この人は何をやろうとしているのだろう。ギラついた瞳が恐ろしくて恐ろしくて身が竦む。いつもの父は優しくて、なかなか跡継ぎが産まれなかったから私には優しかったのに。いつもの父の面影がまったくなくて、ただ私はされるがままにされるしかなかった。

 

「平安の世に首を落としたのには理由があります、封じられたのには理由があります、何故それをおわかりになってくれないのですか…!!」

「…」

 

部屋の中で一人、鞠で遊んでいた私を無理矢理引きずり出して向かった先は祠だ。絶対に入ってはいけないし、近づいてもいけないよ、と父自身が言っていた場所。

滲み出るような禍々しい気配に、自覚せずとも涙が溢れた。それはだめなものだ、と本能が警鐘を鳴らす。

 

はじめて嫌だ、と抵抗した。父の足を蹴って力の限り暴れ回る。それでも父は離してくれなくて、こちらを見下ろす目はどこまでも冷酷だ。

“魅せられている”、と感じた。もうこのひとには誰の声も、叔父の、母の、そして私の声でさえ聞こえないのだ。私にはわからない、なにかの声に従って動いているような…。

たしかに狂っている───でも自分の欲望のままに行動するさまはどこまでも人間だった。

 

「ああ、陽鞠。どうか私の願いを叶えてくれるだろう」

「い…」

「だって私がいなければお前は生まれなかったのだから、お前の命は私のものだ。ならばどう使っても私の勝手だろう?」

 

おおよそ常軌を逸した発言に、私の顔は引き攣り叔父が怒った。狂っている、狂っている。母がそう嘆いて崩れ落ちた。

昨夜までの貴方はどこへ行ってしまったの、胸が死にそうなくらい締め付けられる。父の足は制止を振り切り祠の中央へと進み、私の体は祭壇へと乗せられる。何が始まるのだろうと怯え身を竦ませる私に、父は人間味がない笑顔で笑いかけた。

 

大きく“封”と書かれた札がついた壺だった。小さいものだ、私でも抱えられるくらいの。父は札を躊躇なく剥ぎ取って、壺を私の口に押し付けてくる。ちゃぷん、となにか液体状のものが入っている壺を私はいやいやと拒絶した。暗闇で黒く見える液体───かすかに腐臭がしてえずきそう。

抵抗するものの大人の力には抗えず、口を強引にこじ開けられて液体を流し込まれた。何がなんでも飲み込みたくない故に溢れてこぼれた液体は服にかかり、その色は赤黒い。

 

口から溢れて、溢れて、溢れて。襟元と髪を濡らしていく赤が気持ち悪い。壺の中身全てを流しきると、父は私の口を塞いできた。息が苦しい、辛い、助けて───誰でもない誰かに祈っても救いは現れない、じたばたと抵抗しても無駄だ。とうとう私はその液体を呑み込んでしまう。

その刹那

 

───地獄を、見ました。

 

食べられてしまうのだ、と思った。目の前の朧気だった、すぐにも掻き消えそうだった“存在”がぐっと鎌首をもたげたのを感じ取った。

たべる? どうして? わたしはひとなのに、ひとであるはずなのに。まるで、そうだ、たいしてはらもすいていないにくしょくのけものが、たわむれでかったえものをすこしだけたべて、まだぜつめいしていないそれをいたぶるような。

残酷で、脅威で、でも苦しくなるほど純粋な。

 

内側から食べられてしまう。肺も、腎臓も、胃も、脳も、心臓も、血も。肉片残らず、したたる血の一滴まで。その目が私の瞳を捉えて、頬に手を当てて、うっそりと笑う。死の瞬間を受け入れた私の体は全てがスローモーションに見えてゆっくりだ。たいして生きてもいないのに走馬灯のようなものが駆け巡り、目の裏に浮かび上がる。

 

心臓が、痛い。今さら涙が出てきた。たすけて、たすけて、お願いだから、誰でもいいから助けてください。母上、叔父様、お世話係のおねえさん。

このままだと“死”ぬより苦しいことが起こる。

 

───身体が、作り替えられている。

あつい、あつい、あつい。ただひたすらに、あつい。ゆっくりと、わたしがわたしじゃなくなっていく。

ここで“わたし”は死んじゃうのだろう。ただ夢見るのは、願うならば、外の世界を───

 

 

「平気か?」

「…う?」

 

こつん、と小突かれた衝撃に、ぱちぱちとまばたきをする。アキレウスのきょとん、とした表情を目に収め周りを見れば、自分は三頭立ての戦車に座り込んでいたのがわかる。

そういえば───前々からの約束通り、戦車に乗って空を駆けたのだ。ベルトもなにもない、最速の英雄アキレウスの戦車に。“赤”のアサシンの宝具である浮遊する城を(見た時にはすごすぎてびっくりした)2回ほど大きく回り、そのままの速度で森へと着陸した。

 

はっきり言おう、もう二度と乗らない。

 

気絶したところを考えるに酔い止め以前の問題だったらしい。死ぬわ…。

 

「マスター、始まるぞ」

「うん…?」

 

戦場に選ばれた広大な平地。浮遊する城、“赤”の側から、一条の輝く矢が空に向けられて放たれた。矢は雲に紛れ、夜空は淡い光に満ちる。それは確かな災厄となって、敵方に降り注ぐ。

 

「すっご…」

「姐さんの宝具だろうな」

 

幾千もの光の矢はホムンクルスに、ゴーレムに突き刺さり倒れていく。さすがに“黒”のサーヴァント達はかわしたようだが、戦列は大いに乱れたようだ。

 

「さて、行ってくるとしようか」

「うん、ご武運を。ライダー」

「しっかりと俺の勇姿を見ていてくれよ、マスター」

「…遠見の魔術は苦手だなあ」

 

最後に私の頭をぐしゃりと撫でて、アキレウスは戦車に飛び乗って迸りだし───あっという間に見えなくなった。

まさに、ほとばしる、とは彼のためにあるような言葉だ。

 

「うーん…私がどうするべきかなんて、シロウさんにも言われてないし、とりあえず邪魔しない程度に見に行きますか」

 

バイオリンケースを手に持ち、私は歩き始める。夜空が綺麗だ。爆発音はものすごくするが。

 

彼が彼の望む相手と仕合えますように、私ができるのは祈ることのみである───




まだ原作の2巻の半分だなんて信じられない。
アニメだと半分なのに。

そういえば騎空士はじめました。スカーサハちゃん、可愛いです。どのゲームでも好きになるのは人外幼女。

ひとつぽろっと漏らしますと1年ほど続けているとあるソシャゲがありまして(FGOは半年ちょっとぐらい)、星五のキャラクターにはジャンヌ・ダルクがいます。ゲームのCMであまりにも可愛くて始めたのですが、現在5人ぐらい増えてても来てくれません…どのゲームにもジャンヌという存在には縁がないほど、自分がジャンヌを引いた記憶がないのです。
それを嘆きつつとてもおいしい蕎麦屋で贋作イベ10連を引いたところ、邪ンヌが来てくれました…私は嬉しい。
きっと彼女は「どうです、がっかりしましたか? 貴方が望んだお優しいジャンヌ・ダルクではありません、ただの贋作品です。残念でしたね」とツンケンしたことでしょう(大好きオルタという団扇を持って)
うちのサーヴァントとは召喚の際に一悶着ありましたがいい思い出。FGO楽しいです

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