家出娘と美形お兄さんの珍道中〜   作:藤涙

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Part.11:ステュクスに誓おう!

どうやら、どこもかしこも魔術だらけらしい。

先程の洗面器もそうだが、開けるのに苦労しそうな大きなドアは、目の前に立つだけでひとりでに開いた。

見た目はクラシカルなのに、性能は最新式で、なんだかチグハグだ。

 

ひとしきりウロウロして、案の定迷ったので、内側から外に出ようとするのを諦める。

わたしはひとまず出てきた自室(仮)に戻ると、ベッドにもう一度腰掛けた。

 

拘束もされていない、令呪も失われていない(なんか1画なくなっているが)⎯⎯⎯アキレウス(ライダー)がいないのは気になるが⎯⎯⎯それなら、特段焦る必要はないだろう。

それはそれとして、断続的に記憶が抜け落ちているのが気になる。

 

 

「昨日は、なにが、あったんだっけ……」

 

 

空虚なつぶやきが空気を震わせた。

一度強く心臓が高鳴って、わたしはそれを落ち着かせるように腹を撫でた。頭が痛い、一度衝撃を与えれば、治るか……? とブラウン管のテレビよろしく、頭を触って、⎯⎯⎯ふと、その存在に気づく。

 

 

「は? は? え? ⎯⎯⎯なにこの、でっかいたんこぶ………記憶ないのは頭ぶつけたせい??? いや、たんこぶにしてはでっかいな……?!」

 

 

側頭部に二対、髪の隙間から指にあたるソレ。

もしかしてアサシンのサーヴァントに均等に2回殴りつけられたのか……?! と戦慄しつつ、もう一度洗面所に駆け込んだ。

 

乙女の頭に傷がついたなんて! こんなんじゃお嫁にいけないよ〜〜! と内心で泣きつつ、そっと髪を掻き分けると、なんとそこには小さな突起のような真っ赤な角が生えていたのでした。

めでたし、めでたし。

 

 

「くぁwせdrftgyふじこlp〜〜〜〜〜〜〜!?!?!☆☆★」

 

大絶叫。

 

 

◆◆◆

 

 

マスターの悲鳴を聞きつけて、瞬足でやってきたアキレウスが見たのは、芋虫だった。

否、帽子付きの上着(パーカーというらしい)の紐を、ぎゅっと引き結んでのたうち回る、マスターの姿だった。

 

頭を覆ったフード(ソレ)の下には、用意された古代ギリシア風のワンピースを身にまとっているらしく、着方が分からなかったのか暴れた拍子にあられもない姿になっている。

 

よもや黒か赤のキャスター(一応味方側だが、アキレウスは一切信用していない。)の精神的な攻撃かと、 探ってみたものの、魔術の痕跡はなく安心する。

 

まあ、元気があるのは、いいこと……だよな? と、できるだけ遠くのほうを見るようにしつつ、アキレウスは陸上に乗り上げたイルカのごとく暴れるマスターに声をかけた。

 

 

「……よォ、マスター。具合はどうだ?」

「⎯⎯⎯はッ!? アキレウス!! おはようッ?!」

 

 

“たった今来ました”、といった調子で声をかけたアキレウスは、妙にテンションが高いヒマリの様子に面食らう。

彼女は上半身だけ起こし、絡まる布に苦労しながら、声のするほうに身体を向けた。

 

断りをいれて彼女の服を直してやりつつ、それとなく腹の傷をチェックする。

薄い包帯が巻かれているものの、血は滲んでいない、綺麗な処置だった。

 

 

「あー……その、昨日の傷、どうだ?

まだ痛むか?無理してねえよな?」

「エッ、キズ……?! エエト、エーーット、イタクナイヨ!! ゼーンゼン、ダイジョウブ!!」

 

 

そんなことを聞けば、妙に慌てた様子で答えるヒマリ。相変わらず顔は見せてくれないが、怯えている様子やトラウマになっている様子はない。

 

一際強く引かれたフードの紐と、巾着袋のように締まったソレに、「尻の穴みてえだな」と感想が浮かぶも、口にはしないアキレウスだった。

 

 

 

 

「おい……覚えてないのか?

冗談じゃねえよな」

「面目な〜い……令呪が減ってると思ったら、そんなことがあったんだね。まッッたく覚えてない……」

 

 

口先ではそう言いつつ、なるほどね〜〜と納得する。

頭に生えた角も、記憶の欠落も、それによる混乱も或程度呑み込めた。

 

わたし自身の経験上、角は安静にしておけば引っ込むが⎯⎯⎯現状、安静とは程遠いのがネックだ。

頭を抱えるフリをしながら、ちらっとアキレウスを見やる。指の隙間から見る彼は心配そうにしているものだから、罪悪感が芽生えた。

 

自分の正体は、自分がいちばん知っている。

フードの裾を引っ張って布の影に逃げ込むようにして視線を断ち切る。

 

どうにもこうにも、相応しくない。

知れば知るほど、彼は英雄だというのに。

こんなわたしを、助けてくれようとしてくれたのに。

 

⎯⎯⎯卑怯者め、そこまでして弱者を気取りたいのか?

 

呼吸が浅くなる、頭が、頭に生えた角が、痛む。

 

忘れるなと笑っている。

 

⎯⎯⎯後ろの正面、だあれ?

 

 

「ヒマリさん、」

 

 

色彩の奥に赤紫が滲んだ瞳に、柔らかく微笑む神父の影が覆った。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「……なあ、本当にひとりで大丈夫か?

ここに残すのは、正直気が進まねえ。危なくなってからじゃ遅いんだ。

……いいから来いよ。守れる位置に居てくれ。」

「いやいやいや、お馬さんも盾も大丈夫……っていうかそれ、宝具じゃ……あの、まあ、他のマスターさんもいるっていうし……。最速(あなた)と一緒にいたら足を引っ張っちゃうよ。」

 

「ご安心を、お嬢さん。我が主の戦車は少々、命知らず向けですので。

……あなたは、私が穏やかにお運びします」

「……昔はお馬さん喋ったんだねえ」

「はいはい、そこまでにしとけクサントス。今は口を挟まなくていいぞ〜。

……ほら、轡でも噛んで大人しくしてろ」

 

 

⎯⎯⎯夜、“赤”のアサシンの宝具である城塞は、轟音をたてながら飛び立ち、ミレニア城塞へと進軍をはじめた。

“赤”のアサシンの真名は知らないけれど、たぶん昔の英霊なんだろうなって思う。もう戦争のスケールが違う。

 

アキレウスとの再会のあと、シロウ神父に呼び出されて参加した会議で、先陣を切ることが決まったアキレウスはどこか不安げだ。

会議のあとから複数回、あの手この手と変えて、戦車に乗ることを打診されているので、赤殺主従がいるここに残していくことが、相当嫌なんだろう。

 

とはいえ、戦場についていくのも不安は大きい。彼にとってわたしは第二の剥き出しのアキレス腱だ。

まあ、アキレウス的にはアキレス腱は()元にあったほうが安心できるんだろう。

 

 

「⎯⎯⎯ライダー、あなたの願いは、“英雄として振る舞うこと”でしょう?

なら、マスター(わたし)に気を割いているひまなんてない。それに、呼んだらすぐに来てくれるんだよね?」

「…………ああ、もちろんだ。我が栄光に⎯⎯⎯ステュクスに誓おう! 念話で話しかけたらすぐに応えろよ、応えなかったらすぐに行くからな。」

 

 

英雄が少女の手を取る。

 

『ご武運を、アキレウス様』

 

声が重なって反響する。

姿が重なって溶けあう。

 

勘が、おかしいと囁いている。

巨大な蛇の巣の中を歩いているような感覚、流れてくる魔力が、「こいつは()すべき()だ」と主張している。

暗闇から怪物(なにか)が見ている、少女の姿をまとって、解き放たれる瞬間を待っている。

醜い牙を剥き出しにしながら。

 

それが、もう間もなくだ。と笑っている。

英雄としての勘が、気をつけろと言っている───

 

 

稲妻のような、流れ星のような閃が、真っ直ぐ運命の戦場へとかけて行った。

それを追うようにして、幾千幾万の矢が天から降り注ぐ。

 

英雄は、少女(かいぶつ)を殺さなかった。

 

偉大なる叙事詩をここに、現代で紡がれる英雄譚を。

 

夜はまだ、はじまったばかりだ。

 

 

 

 




軌道修正しながら書き直しているので
ところどころ変なところありそう。
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