家出娘と美形お兄さんの珍道中〜   作:藤涙

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Part.12:友であり親であり師であり、そして

「痛いの、いたいの、とんでけー…」

 

ぽう、と癒しの光が灯る。

打撲傷とか骨とかの痛みが消え去り、私はほっと息をつく。ドッと体から魔力が吸い取られていくのはライダーだろうか? どうやら元気に戦っているらしい。少しの倦怠感はあるがまだ平気、二三時間は大丈夫だ。

予想した以上の食われっぷりだ。これだけの魔力を食われて戦っているマスターすごい、獅子劫さんとか。

自分が使う魔力と、サーヴァントに流す魔力。調節を間違えるとぶっ倒れてしまいそう。流れの荒さ的にライダーものっぴきならない状況のようだから、私はあまり魔術を行使しないほうがいいだろう。

 

「…ふう」

 

その場に座り込んで、少し休憩する。ここも森だ、以前休んでいた霊脈のある森には劣るが、少しは魔力は回復だろう。数十分だけ休んでライダーのところへ向かおう───

 

「………………親方ぁ、空から女の子が」

 

見上げた夜空、月を影に落ちる人型らしきモノ。意識を失っているのか手足を投げ出して墜ちていくその姿にぽかんと口をあけた。

彼女は遠く、遠く、戦場の真っ只中に落ちていく。“黒”のサーヴァントだろうか…?

 

「…お腹空いた」

 

休憩する気が削がれた私は立ち上がると、ふたたび歩き始める。己がサーヴァントの元へ、ゆっくり、ゆっくりと。

 

 

英雄アキレウス。

知名度においておなじくギリシャ神話にて語り継がれる英雄ヘラクレスともども、世界に轟く名である。

それを偶然──と言っていいのかはわからないが──その場に居合わせ、触媒があったとはいえ召喚してみせた彼のマスターの幸運は高いのだろう。

 

アキレウスの人生は───それこそ駆け抜けるように刹那的だった。「父親よりも強い子を産む」と予言された女神と、人の英雄との間に生まれ、生誕から数多の神々に祝福された。

 

そんな輝くような彼には、ひとつ欠点がある──

 

「ヘクトール!!」

 

思考は憤怒に染まっているのに、技だけは冴えている。神々に祝福された傷つかない躰。父から与えられたあらゆる英雄を貫く槍。賜った神馬二頭と名馬一頭、三頭立ての戦車は誰にも追い縋ることも出来ず。

 

「トロイアのヘクトール!! 逃げ回るのはやめて潔く姿を見せよ!!!」

 

アキレウスの人生で、どうにも嫌というか嫌いというか無理。と言える人物は数人存在する。

 

一人はもちろん、アガメムノーン王。無理、クソ野郎。とりあえずタルタロスに墜ちればいい。

 

もう一人は───

 

「…ヘクトール!!」

「よっ。そんなに叫ばなくても聞こえてるよ、アキレウス」

 

自らの人生で後悔していることな、まあ、人並みにある。ないとは言えないのだ。

神への生贄に捧げられた姫君を救えなかったこと。そして──一時の怒りに身を任せ、親友を戦場において戦いから身を引いたこと。

 

自分はいつだってそうなのだ。『大切だとわかっているのに、いつもそれをないがしろにしてしまう』。

 

親友はアキレウスの代わりに鎧を纏い、戦場に赴いた。そこで───

 

「友の仇を討たせてもらう!!」

「…」

 

トロイアの智将、ヘクトールとの戦いでアキレウスは愚を犯した。その戦いに勝ち、復讐をとげた後に、ヘクトールの鎧を剥ぎ、彼を戦車の後ろにつなげて引きずりまわしたのだ。それにより怒り狂った太陽の神により命を落とすことになるのだが───まあ、それは別にいいことだ。

今さら気にしても変えられることはない、そして変える気もない、誇り高き過去なのだから。

 

 

青年が槍を構え、対する男が拳を構えた。

あの人は───知っている。夢に出てきたケンタウルスの人だ。つまりアキレウスを初め、数多の英雄の教育を担ってきたケイローンだ。

迷いのある様子のアキレウスとは対照的に、“黒”のアーチャーケイローンは厳しい顔だ。

 

生前の教師と生徒……とは戦いにくいにもほどがあろう。

戦うサーヴァント達が目を細めてようやく見えるところ。そこに私はいる。

相手がアーチャーなのでバレて殺される可能性があるのがすごく恐ろしいが、頑張ってアキレウス。ものすごく頼りにしてるよ…。

遠目で見る限りアキレウスは劣勢だ。信用していないわけではないが心配で令呪のある手をぎゅっと握りしめる。

 

拳が腹を抉るたび、矢が頭蓋を狙うたび、自分も痛めつけられているような感覚。心臓に悪い。

 

「(うう、しんどい…)」

 

ぎゅうっとバイオリンケースを抱きしめる。生前の関係者が相手なんて神様はなんて残酷なんだろう…

神々に祝福された不死の肉体も、同じ神性を持つものが相手では無意味だ。肉が切れる音に耳を塞ぎたくなったが、ぐっと堪える。私は彼のマスターなのだ、これから起きることをしっかり目を開けて見続けていなければならない。

 

私がハラハラと見つめる中、アキレウスの動きが変わった。ベーシックな技を使い、圧倒的速さで押し切るのではなく、トリッキーな動きで翻弄し始めた。

主武器である槍を放ったり、彼にとっては致命的な弱点である“踵”でアーチャーの顔を蹴り飛ばす───

 

何を言ってるのかは聞こえないが、何やら会話をしているようだ。ただ、弓と槍を交え、戦う彼らはとても楽しそうで───その戦いっぷりがあまりに見事で、見ているこちらも興奮する。

 

ライダーが笑い、アーチャーも笑った。そこには確かな絆がある。なにがあっても壊れない、師弟、友人、父と子のような温かなもの。

 

間合いをとった2人は主武器を構え直す、さらなるぶつかり合いが森の中にて火花を散らす───!!!




アキレウス「(なんでこんなに近くにいるんだ…)」

ずっとApocryphaのBGM流しながら書いてます。ランサーピックアップ…カルナさん…うっ(記憶喪失)

3月ももう終わりますね。桜が咲き始めました
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