戦場はカオスに満ちていた。
悲鳴、爆音、詠唱───逃げる“赤”のマスターとキャスター。それを追うルーラーと舞い戻ってきたホムンクルス。槍使い同士の戦いは苛烈を極め、弓使いは狂戦士と喜劇を踊る。騎士は騎士を嬲り、師弟対決は勢いを増す。
戦場に花開くは幾多の杭。
それを跡形もなく燃やすのは炎神の焔。
地から空へ、空から地へ。蒼白の光は大樹を象り、夜を朝に変えるほどの光を放った。
戦場で繰り広げるは新たな神話。それを目の当たりにしながら、ヒマリは走っている。森から森へ、木から木へ隠れながら。
先程襲いかかってきたホムンクルスを撒いたところだ───一瞬慄くような数人の隙、その瞳が悲しみを帯びていたのは気のせいだろうか…
「(ライダーったら…見に来いと言ったのはあなたでしょうに)」
さすがのアキレウスも自分達から数十メートルしか離れていないところで観戦されるとは思ってなかっただろう。あほっぷり、ぽんこつっぷりを存分に発揮する彼女は稀代の幸運も持っているらしい。
途切れ途切れの念話で怒られたヒマリは、その場から全力で離れることを選択した。
目指す先は……どこだろう。目的もなにもない、全てが行き当たりばったりなヒマリにとっては「どこかに行け」と言われてもピンと来ないのだ。
日本を飛び出す際にもその時間から一番早く出る飛行機に乗って、適当に乗り継いできたらここについたレベル。帰り方は分からないので旅には向いていないのだろう。
とりあえず戦場が広く見通せる、樹齢数百歳はありそうな木の上に彼女はいた。
枝に足を引っ掛けて、体を持ち上げるように引っ張りあげる。幼い頃から木登りはうまいのだ、とどこの誰とは知らぬ誰かに自慢するように胸を張る。
───そこで落ちかけたのはご愛嬌だが。
枝の葉に隠れて軍対軍の時代遅れの戦を見る。遠目だからよくわからないが、炎が舞ったり杭が湧き出てきたりヒマリの常識からしてみるといろいろとおかしい。
まあ、サーヴァント、という一言で解決できる事柄ではあるが。
そんな時、この戦場に参じる総てのサーヴァント、総てのマスターが知覚したことをヒマリも感じとった。
言いもしれぬ“なにか”。たとえば何も無かったそこに、突然強大なものが現れたかのような───
ぱちぱち、と瞬きをしてなんとなくその方向を見やる。
「赤いのはセイバーかな…? と、遠い…」
目を凝らしてみても見えるのは赤い人型。遠見の魔術、調べてみるべきかな…と眉根を寄せつつ頑張って見る。
黄昏色の光と、赤雷の激しい光。ふたつが満ちて、輝く光同士がぶつかり合い爆発する。竜巻のような風は周囲を巻き込み破壊を繰り返す。
「ひえ…宝具かな…?」
ただその暴力的なまでの力に恐ることしかできない。勝敗がどちらに決したのかまではここからは確認できないが…サーヴァントってすごいんだなあということを改めて確認する。
───突然、ヒマリの体がぐらついた。
自分が落ちたのではない、なにかに体ごと叩かれたような衝撃に顔が歪む。周りの木が根元から折れて軋んでいる。
咄嗟に、防御術式を組んだ。
「あわ、わ、わ、わ…!!!」
骨が軋んだ音がしたが気にしない。無様な声を上げながら、落ちていく。だって木ごと折れてるんだもの、これは自分のせいじゃない。
角度が変わって空が見える。満天の星空は大地と違って平和だ。こういう場面でなければうっとりと見つめていたことだろう。
「ら、ら、ライダー!!!」
「───ほいよ」
地面に叩きつけられる寸前、倒れる木の轟音が響いて耳が痛くなった。ライダーに抱きとめられたが目を回す。
「ったく、ばか」
「あいたぁ?!」
「阿呆」
「二度までも?!」
何が起こったのか理解ができず、腰を抜かしたマスターの姿に、ライダーは呆れ───少し怒っている様子だ。拳骨が2回飛んできた、アキレウスが呆れうすとか冗談を言えば3回目が飛んできそう。
「…誰かの宝具ですかねあれ。私、こんなに遠くにいたのに」
「そうだな。“赤”のバーサーカーの宝具だろう。まったく、悪質な…で、マスター。俺に何か言うことは?」
「ご、ごめんなさい…?」
正直先程の衝撃よりも痛かった拳骨に呻きつつ、理解もしていないものに謝罪する。
だってごめんなさいと言わないといけないくらい、ライダーの顔怖かったんだもの。
「よしマスター、確認しようか。俺が相手をしていたのは?」
「アーチャーですね…」
「アーチャーの攻撃範囲は?」
「広範囲だよね…?」
「あんたがいたのは?」
「ライダー達から10本目の木の後ろ」
「駄目だろ」
「いたぁ?!」
再度落とされた拳骨に涙目になる。たぶん、というか絶対手加減されてるんだろうが、すごく痛いのだ。
「だって遠見の魔術使えないんだもん〜!!」
「にしたってあんなに近づくと心配するだろう…」
「見に来いって言ったの、ライダーじゃん…」
「それとこれとは話が別だ。俺もまさかあんなに近づかれるとは思わなかった…まったく、手のかかるマスターだよ、あんたは」
最後にガシガシと頭を撫でられた。髪が乱れて嫌だったが、まあいい。拳骨落とされないのだったら万々歳………何度も言うが、あれめちゃくちゃ痛いのである。
話が終わって、二人揃って空を仰ぐ。
星が零れ落ちそうなほど輝くそらには、大きな庭園が浮かんでいる。
「この戦いが終わったらあそこに行けって言われたけど、どうやって行こう?」
「どうやってって…マスター、俺のクラスと宝具を忘れたか?」
「え、嫌」
「…なんでだ?」
「やだやだ、二度と乗らない…もうやだ、胃が浮く…」
「それ以外にいく方法はないと思うがねぇ…」
「ええ…」
「そろそろ“黒”のサーヴァント達も動き出しちまうぜ? 決断しねぇと…」
「えっ、ええっ」
「乗るか、乗るかだ」
「乗るしかないよねそれ。乗らないって選択肢ないよね…?」
「ほーら急ぐぞ〜、乗っちまえ〜」
「あっ、ちょっ、抱えるの禁止! 無理矢理乗せるの禁止! まだ心の準備がぁあ!! 待って待って本当に待ってあのねライ」
「大丈夫だ、すぐに慣れる」
その日、不気味な静けさの夜空の元。1人の少女の怨嗟の声が響いたのだった。
キビツ ヒマリ
身長:152cm
体重:50.8kg
年齢:???(ライダーからすれば13歳)
誕生日:???(双子座、とは覚えている)
血液型:O型
性別:女
イメージカラー:パステルカラー
特技:寝ること
好きな物:美味しいもの、新しいもの
苦手な物:地図
天敵:ジャック・ザ・リッパー
京都生まれ、京都育ち…だが特に方言言う訳でもない。
生まれつき魔力量が多く、ライダーの搾取に耐えきれるほど。彼の底が見えないのでちょっと怖くなりつつある。
生来からの実験ゆえか、それとも───ゆえか、耐久力には優れ多少の魔術の耐性もある。彼女の一族はそれを先祖返り(数代前の遺伝的特徴が現れること)と呼んだが…本人はあんまり気にしていない。
根っからの風来坊で、どこへ行くにも気まま。トゥリファスに訪れたもの全てが偶然。回り回って幸運値は高いのではないだろうか?
音楽魔術を扱うがド下手。かの楽聖が聞いたら自分の耳を引きちぎるであろうレベル。本人は伸び代があると信じているが、たぶんないだろう。
幼少期に受けた実験の一部、ナニカのナニカを体内に入れてしまったことにより彼女の人である部分が変質してしまっているが───特に気にしていない。だってあんまり支障ないもんね。
風来坊、根無し草、お人好し───そこら辺がライダーとは相性がいいのだろう。
アホの子で感情が顔に出やすい、トゥリファスの現地民とはほぼ表情でコミュニケーションをとっている。「次はどこへ行こうか?」もう家には戻れない、世話になった叔父へ思いを馳せながら、今日もヒマリは我が道を往く。
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キャスエリちゃん復刻しないかなあ………
⬆主人公のプロフィール的なもの。そういえば名字言ってなかったなって。父親とはいろいろあったので母方のものを使用している…という設定です。この子自身はあまり強くないです。