まるで暗闇のなかを落ちていくような感覚だ。走っても走ってもどこにもつかずに、ふわふわと宙に浮いている。
「…はぁ!!」
襲いかかってくるモノを、片っ端から斬って薙ぎ払う。生命力が強いのかなんなのか、半端な攻撃じゃ通用しないこれはなんなのだろうか。というか、一度も扱ったこともない刀をまるで自分の体の一部のように動かす“私”こそなんなのだろう。
辺りは血の海で、私は「この体では脆すぎる」と感じた。技術に体が追いついていない、力強い剣に体は悲鳴をあげている。刀が、重い。通常の刀より長く反りが深いこれは所謂野太刀、女の私が扱うには少々大きすぎるものだ。
殺気と嘆きと絶望と───それが思い出されて泣きたくなった。変質したヴラド三世と、変化した私の中身。頭は相変わらずずきずきと痛んでいる。
「わ た し は だ あ れ ?」
そう問いかけてもその人からは返答がなかった。俯瞰的な視点はまだ続いていて、“彼”は…(なんとなくわかることだがこの人は男性である)、まだ解放してくれないらしい。
竜牙兵数体と遭遇して身構えるが、竜牙兵は私をスルーしてカチャカチャと駆けていった。その姿を不思議そうに見送り、首を傾げると刀を鞘に納めた。キンッ、とどこか澄んだ音を立てば髪を結っていた紐が切れて、私は体の自由を得る。
「……!! …ッ」
体が痛くて痛くて仕方がない。彼の技術に対して、私の体はあまりにも脆すぎた。彼が彼の動きを最大限に発揮しようとしても、私は私でしかなくて筋肉も骨も追いつかない。どうにか治癒魔術をかけて、立ち上がる。
ここはどこだろう、随分と遠くまで来てしまった。思いっきり返り血を浴びたから、体中が生暖かくて気持ちが悪い。一般人のように震えて泣き出すことはもうできない…本当は泣きたいけど、ね。
暗い、暗い、暗い廊下。感触を頼りにして壁伝いに移動する。
「ここどこだろう…はえー…」
ヒマリは知りました。知らないところで全力闇雲ダッシュすると普通に迷子になるということに。自分でもよくわからない力による暴走のためこの迷子はわたしのせいではない。
肩を落としてがっくり。どこからか私は悲しいと合いの手が入った。
廊下の向こうにはぼんやりと光っている扉があって、とりあえずそこまで進むことにした。
なぜか───すごく甘ったるい匂いがする。年頃の女の人が付けるような香水みたいな…いい匂いなのだけど胸焼けがするような。眉をしかめて、ドアノブに手をかける。
…はて、こんなこと。前にもあったような、なかったような。
まあ、いい。中に人がいるのなら、どこに行けばいいのか聞けばいいだけ。いなかったらしょうがない、どこかに着くまでは彷徨おう。
「しつ、れい、しまーす…」
扉が軋んだ音を立てるのが、すごく嫌な既視感だ。桃色の霧が開いた隙間から漏れている。吸い込んで一瞬、気が遠くなったのを自分の頬をぶっ叩くことで保つ。なんだこれ。
だらだらと冷や汗が出る。これはまさか私、また地雷踏み抜いたかな?
こんな部屋から話し声が聞こえるのがより一層不気味だ。
「聖杯戦争は終わった…」
「この資金で…新しい…」
「……」
「──…」
「この紅茶…」
「早く…」
バタン。
開けたドアを素早く閉めて、束の間の現実逃避に浸る。なんなんだ、あれ。まあるい部屋に座っている5人の人間。1人は何故か知っているような…、具体的に言うとライダーを召喚してしまった日に酒場で奢ってもらった人のような…。
あ、やばい。魔術師っぽい人達が、アサシンの宝具であるここであきらかに正気ではない様子で閉じ込められている。アーチャーは──なんと言っていたっけ。
一度も会っていない、とそのようなことを言ってはいなかったか。
扉からじりじりと遠ざかって、踵を返して逃げようと駆け出そうとすれば顔にほよんっ、となにかひどく柔らかいものが当たった。マシュマロのようにほわほわしていて、全体的にひんやりとしているが、鼻先は温かい。顔全体を包み込まれているのでとても気持ちいいのだが、息がしづらくて「ぷはーーっ!!!」と離れる。
目の前には2つの柔らかそうな丘。首を傾げて見上げると、あまりにも美しい女性の顔があって───細められた金の瞳に「ぴゃっ」と思わず声が出る。
「ふむ。毒は即効性があるのだがなあ…?」
「…あわわ」
「毒耐性でも持っておるのか、ヒマリとやら」
機械的な音がして、紫色の魔法陣が展開される。先程から口からは「あ」と「わ」しかでない。声は面白いように震えて、もはや人語ですらなかった。
「──さて、どの毒が好みだ? 遊んでやろう」
「っ!!」
魔法陣から這い出てきた紫が霧散して、張り詰めるような危機感に本能的に身を引いた。途端眩暈と嘔吐感が込み上げ倒れ込みそうになるのを必死に堪える。
このまま意識を手放してしまえば、きっと楽になる。そう思わせるほどの苦痛。
「大丈夫だ、殺しはせぬよ…殺しはな。…まあこれも即効性が効くのだが…案外、堪える」
「ぅ…げほっ…」
「シロウの言っていた───ああ、血筋というものか。難儀なものよ、意識を手放せたほうが楽だろうに」
もう、立っていられない。膝をついた私の頬に、“赤”のアサシンは手を添えた。
「眠れ、───」
そんな声を聞きながら、体が脱力して、私は目を閉じる。ひんやりとした床が、未だ悲鳴を上げ続ける筋肉に心地よかった。
TwitterでAチームがどんな人理修復をするのか。というのを最近のTLでよく見ます。「きっとぐだよりも早い段階でどの特異点も攻略する」、というのがよく見る予想ですよね。
Twitterで呟いて誰も答えをくれなくてもやもやしているのですが、例えば第6の銀の腕さん。Aチームが早い段階で(それこそ獅子王が現れる前に)攻略していたのなら、彼はどうなっていたのでしょう。彷徨う嵐の王を、彼は───と思うとぐだにも救えたものはたしかにあって、第2部でマシュが言ってくれたことがとても力になります。
(ネタバレだったらごめんなさいね)
蒼銀のフラグメンツを触ってみました。太陽王が予想通り(というか覚悟通りの)性格でよかった…みんな素敵です…当方エリちゃん推しなので、EXTRAシリーズを読むにはさらなる覚悟が必要な気がしますが、LINKやるために頑張ろうと思います。
待っててね、エリちゃん。
ゴールデンウィークまだ来ないで……←