「まあ、世界を見てみるのも悪かねぇさ」
「せかい?」
「そうだよ、馬鹿。お前もずーーっとここにいるつもりはねーだろ?」
「ここにいなきゃいけないんじゃないの?」
「んなわけあるか。俺と違ってまだ若ぇんだから、どこにでも行けるしその権利はある」
「ふーん…」
「気の抜けた返事だなあお前。どっか行くってんなら、それを止める権利は俺にはねえし。兄さん…お前の父親と母親の遺産持って、世界一周でもしてこいや」
「でも、だって、おはなしできないよ?」
「おっ、乗り気だな? まあ、なんとかなるさ。お前豪運持ち出しな」
「ごう…?」
「とんでもなくラッキーってことだ。どんなことがあっても持ち前も運でなんとかするだろ」
「なんか、テキトーだね…おじさま…」
「そりゃあ関係ないですしおすし。お前の行く道なんが知らねえよ、自分で決めろど阿呆」
「…」
「はいはいぶちゃくれるなブスになるぞ。まあ、そうさな。あとのことは何とかしとくから…お前はそとに逃げ出しちまえ」
「…そと、か」
「こんなしみったれたとこよりも、余程大きいものがこの世界に広がってるんだ。見ないと損だろ?」
「楽しい?」
「もちろんだ」
「行けるかなあ…」
「お前は…頭はちょっとあれだが、まあ根性あるしうん……」
「えっ」
「我が義娘だがらあれだな、お前。いいところ幸運ぐらいしかない…?」
「ええっ」
「まあほら、適当に頑張ってこい」
「えええー!」
「──俺がお前を守るから、お前は自由に、幼いままに、羽ばたいていけばいいんだよ」
────────
あ、やばい。
怒ってる。
意識が覚醒して、頭がずきりと痛んだ。懐かしい、夢を見ていた気がする。叔父と春の縁側で語らった、幼いあの日。あの日以降、殆ど話すことはなかったのだけれど。
私をだき抱えている人は、まあ言わずもがなライダーで。薄目を開けて見ると前方を睨み据えていて怖い───あ、バレた。
「おはようございます、吉備津 陽鞠さん」
「…おはよーございまぁす…?」
ピリピリしている中でも、私に声をかけてきた人物は恐ろしいほど穏やかだ。
微笑を浮かべるシロウに、ライダーが睨んで牽制する。その──マスターである私が思わず震える威圧感にも──困ったように首を竦めて見せる彼はなんなのだろうか。
「…立てるか」
「うん」
ライダーの手を借りて立ち上がれば、そこは爆発間近の戦場で。思わず硬直してライダーの後ろに素早く隠れた。
なにこの一触即発の状況。
少し腰が引けるが────だめだ。この場は、この場だけは、私は毅然と立っていなければならない。そうしなければ飲み込まれる…。
「怪我は?」
「大丈夫」
「目眩や嘔吐感は?」
「今は、平気。ごめんなさい、ライダー」
「アンタを責める気は無い…“敵”はあっちだ、マスター」
倒れる前の微かな記憶。「殺しはしない」というのは本当だったらしい。未だ命があることに震えるほど感謝しつつ、酩酊感を押し殺して自分の足で立った。
場は混沌と言っていい状況、サーヴァント同士が言い争い、武器を持つまでに至っている。
「シロウさん!! あの人達は、あの部屋にいた方達は、誰…!!」
「それはもう、お分かりなのでは? ライダーのマスターになる方だった魔術師に、なぜ貴方が狙われなかったのか。いくら世俗に触れなかったとは言え、察しが悪いにも程があります」
「う…なら、あの人達は、やっぱり…」
「ええ。“赤”の側で戦うはずだった5人のマスターです…ふふ、そんな顔をしないでください。心配しなくとも、生きていますよ。彼らには平和的にマスターの権利を譲っていただきました。夢現のまま、聖杯大戦に勝利したと信じているのです。可哀想ですから起こさないであげてください」
その瞬間、ぐい、と襟首が引っ張られて「えう」と喉の鳴る声がした。ものすごい勢いで引っ張られたから1秒間息が止まり混乱する。後方に放り出され、そのままどこかに激突するかと思いきや───誰かに抱き留められていた。
目の前に踊る金の髪、それが気にならないほど私は怯えている。放り出されるその刹那、私を後ろに下がらせたアキレウスの顔は───マスターである私が震え上がるほどの敵意と殺意に満ちていたから。
「…感謝する、ルーラー」
「平気ですか、貴女」
「…」
ルーラーの少女の言葉に、必死で頷く。少し首が締まった程度だ。なんともない…。
「…貴方はもちろんお怒りでしょうね、ライダー。あの時、あの教会でヒマリさんが獅子劫さんと共に行かなければ、彼女もあの部屋にいたでしょうから」
「…」
「セイバーもそうですが…貴方も、マスターとの相性が良かったのは予想外でした。生前の誰かに面影を重ねましたか? 貴方が悔恨するのは…ミュケナイの姫や親友でしょうか」
「…ッ!!」
“赤”のアーチャーとライダーの攻撃は、シロウの頭や喉、心の臓を狙うもの。歴戦の勇士が同時に放つそれを、“赤”のアサシンとランサーが同時に防いだ。
ランサーは音速にも達する矢を素手で掴み、アサシンは左で展開した鎧で槍を防ぐ。ライダーの槍はその装甲を木っ端微塵に叩き割ったものの、そこで押しとどめた。
「──ふむ。神魚の鱗を至極当然のように貫くか。さすがはアキレウス、つくづく神の子よな、お主は」
血の滴る左手を擦りながらアサシンは顔を顰める。
「…」
「今のは自殺行為ですよ、ライダー。あの時間で私達がヒマリさんになにもしていない…とは考えないでしょう?」
「…そうだな、毒やら呪いやら、姑息なモンでも仕込まれてたら敵いやしねえ」
自分の体に毒を仕込まれているかもしれない、それを聞いて一応探ってみるも──全然わからない、サーヴァントの技術には流石に勝てない。
アキレウスは殺意がこもった視線をシロウに投げて、こちらに来る。「すまない、痛かったろう」と声をかけてくれて、私は差し出された手を取った。大丈夫、痛くないよ。人より体は丈夫だから。
「(どうする?)」
「(静観、しかねえだろうな。現状アンタを人質に取られてる状態だ。はっきり言ってどちらにもつけねえ)」
「(うう…ごめんなさい…)」
「(マスターは悪かねえよ。人間がサーヴァント相手になんとかするのは難しいさ)」
不器用な手でガシガシと撫でられる。どうやら慰めてくれているらしい。途端に涙が溢れそうになるけど、我慢する。さすがに今日は死にかけすぎだと思う。この後の人生──無事にこの大戦を終えられるのかは分からないけれど──二度とないと思いたい。
アキレウスの後ろにいて聞こえてくる、サーヴァント同士の睨み合い。
“黒”のキャスターは“黒”の側を裏切り、“赤”へ。どよめき揺れる場に、何も出来ないことが歯がゆい。
シロウさんに呼びかけられてもアキレウスは動かないから、彼はシロウさんに従うつもりはないのだろう。彼はずっと私を背に庇っていて、情報は耳からしか入ってこない。
「下がるぞ」
「えっ」
突如、ピカリと赤い稲妻が轟いた。何かが崩れる騒音と雷──飛び散るそれをライダーが庇う。キーーーーンと耳鳴り、きゃあ! と思わず蹲った。
「“赤”のセイバーは貴女でしたか。栄光に輝くアーサー王伝説を終わらせる者───叛逆の騎士、モードレッド」
「ハッ!! 気安くオレの名を呼ぶんじゃねぇよ!」
「…セイバー?!」
呵呵大笑しながらゴーレムをぶった斬るセイバー…モードレッド───後で図書館に行きます───は思う存分大剣を振り回し暴れ回る。
───目が合った。
モードレッドは忌々しそうに舌打ちをする。彼女に声をかけようと叫ぼうとした瞬間、辺りに白煙が立ち込めた。
煙が目に染みて咳をしていれば、もうこの場に“黒”のサーヴァントとルーラーと“赤”のセイバーはいなかった。
「…ど、どうしましょう」
「…」
「さて…」
“黒”のキャスターが彼らを追って消え、場には私とライダーと───シロウさんとサーヴァント達。
ビクリ、と肩を震わせる私に対して、シロウさんは何事も無かったかのように微笑む。
「少しお話しましょうか、陽鞠さん」
Apocryphaコラボきた…来てしまった…
シロセミ引きたい…ひき…ひきた…
ア゛キ゛レ゛ウ゛ス゛ーーーーーーー!!!!!!