家出娘と美形お兄さんの珍道中〜   作:藤涙

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Part.2:じゃぱにーずぴーぽーやんぐやんぐ

混乱する頭のまま、どうにかこうにか自分が泊まっていたホテルに戻り、ベッドに座って一息ついた。

突然現れた()は、突然消えたと思ったら、部屋に入ってドア閉めた瞬間に現れた。

……心臓が止まりそうになったのでやめてほしい。

 

手の甲を見て、息を吐く。

()()()()、突然現れたこの模様は、半ば夜逃げのように部屋を飛び出した道中、何度擦っても消えてくれなかった。

 

「召喚されてすぐベッドとは。此度のマスターは随分と積極的だねえ」

「……もしかして、その、マスターってわたしのこと?」

 

ヒュウ、と見事な口笛を吹く彼を、私はジト目で見上げる。

海外のメロドラマに()ていそうな、ハンサムな顔立ちに相応しい、プレイボーイのようだ。

 

召喚(アレ)があってから、確かになにかが変わった。

心臓に巣食う焦燥感。キャリーケースにあり物をぶち込みながら、つるつるの脳みそで考える。

目の前に突然現れた彼とは違う、彼だけじゃない⎯⎯⎯

のどかな空気があの瞬間、針のむしろのようになったかのような、わたしの頭が確かに発する第六感。

 

「ああ、もう……なんか変、なんか嫌、このままじゃだめな気がする……。なんで、どうして?」

「そうだな、マスター。ここは敵地だ⎯⎯⎯共にこの()()()()の初陣を飾ろうじゃないか!!」

「ごめん、ちょっと静かに⎯⎯⎯え? なに? ()()()()?」

 

耳に飛び込んできた物騒な⎯⎯⎯そして聞き慣れない、知っているような単語に体を止める。

 

「待って待って、聖杯戦争? これが?!」

「よーしよし、まずはマスター、落ち着けよ。」

 

彼は慌てる私の様子を片眉を上げながら眺め、幼子をなだめるようにどうどうとジェスチャーをした。

 

聖杯、戦争といえば⎯⎯⎯

日本のどこかで行われる、あやしい魔術儀式だったはずだ。

確か、“その勝者はあらゆる願望を叶えられる”という⎯⎯⎯

 

「都市伝説レベルの眉唾な儀式じゃないの?!」

「おー。その様子だとズブの素人ってワケじゃなさそうだな。安心したぜ!」

「そりゃ、わたしは⎯⎯⎯っ、」

「?」

 

不自然に言葉を止めたわたしに、彼は小首を傾げる。

軽率な言動に内省する。混乱しているときこそ冷静を装うことをやめてはならない。

 

「ということは、あなたは英霊ってやつだよね。ちなみに、なにというか、だれというか、さわりがなかったら聞かせてもらうことって…?」

「なんだ、俺を意図して呼んだわけじゃないのか……。まあ、いいだろう。俺は()()()()、アキレウス!! アカイアのアキレウスだ、驚いただろ?」

 

ライダーは手を差し出してくる、その手に応じて少し考えた。

ニカッと笑った顔は少し幼い、英霊は全盛期で召喚されるというから、もしかしたら外見年齢は同じくらいなのかも。

 

聖杯戦争、極東の、眉唾の、御伽噺だと思っていた。

だが、この右手に宿る令呪は本物だ。否応のない現実だ。

あの社を出てから、ひと月。我が人生は予想もつかない方向に進んでいるらしい。

 

「ごめんなさい、世情の知識は疎くて……確か、ギリシャのすごいひとだったよね……? ほら、名前の響きがギリシャ……」

「……」

 

アキレウスと名乗る、騎兵の英霊の眼差しがだんだん生暖かくなっていくのを感じて、いたたまれなくなる。

 

「…………ごめんなさい、アキレウスって聞いてアキレス腱しか思い浮かばない私を許して…許して…」

「あーー、うん。まあ、見るからに頭弱そうだもんな、しょうがねえ」

「ぐう…」

「真面目にそれ言う奴初めて見たぞ」

 

床に突っ伏すわたしに、肩をぽんと叩いてくれる⎯⎯⎯アキレウス。

よかった、気難しい英雄ではなかったらしい。

聖杯戦争では真名判明は御法度……だから、これからはライダーと呼ぶことにする。

 

一呼吸置いて、アキレウスに向き直る。

 

避けられない話題はできるだけはやく、

私が参戦権を得てしまった。

 

「えっと、それで、ライダー?」

「なんだ」

「わたしがマスターでいいんでしょうか…?」

 

こちらをまっすぐ射抜いてくる視線に耐えきれなくて目をそらした。

いや、だって、そうでしょう?

あの召喚の準備を思い返す。この人を召喚しようとした人はかなりの努力をしたのだろう。こんな強そうな英雄を喚べるような、すごそうな聖遺物なんて簡単に集められるものじゃない。きっと一流の魔術師だったはずだ。

 

「わたしは、傍から見たら⎯⎯⎯というか、純然たる事実だけど、あなたを横取りした。聖杯戦争のことも何も知らない、魔術師と名乗っていいのかもわからない存在で……聖杯に祈る望みは持ち合わせていないし、あなたのこともよく知らないただの小娘で……今からでも遅くないよ…他の誰かにこの令呪を渡すことは」

「…」

 

召喚の際に右手に顕れた令呪を擦りながら言えば、アキレウスは考え込むように顎を撫でた。

訪れた久しぶりの沈黙に、いたたまれないわたしは俯く。きっと彼は、素晴らしい英雄なのだろう。100人に聞けば100人が知っているような、教科書をひらけば載っているような。知り合って数十分も経っていないけど、それでも私は“嫌われたくない”と思ってしまった。失望されたくない。アキレウス(かれ)の持つ英雄性、カリスマとも呼べるのか、そういうものに惹かれてしまっているのだろう。

 

「…マスター、ひとつ訂正しておこう。此度の戦争は通常の聖杯戦争とは違う⎯⎯⎯七騎vs七騎の()()だ。」

「はい?!」

「そして俺は“赤”として喚ばれた身。そのうち自分の陣営から声がかかるだろう」

「団体戦かあ…」

 

大戦。

その言葉に背筋が戦慄いだ。

それが恐怖なのか、興奮なのか、いまいち判断がつかない。

 

「…その顔は好ましいな」

「え?」

「俺はマスター替えなんて望んじゃあいない。アンタは好ましそうな人種らしいしな。俺の願いは“英雄として振る舞うこと”。だが…」

 

アキレウスはそこで切ると、少し躊躇って言葉を紡ぐ

 

「女が…しかも子供が戦争に参ずるというのは少し抵抗がある。もちろん共に来るなら喜ばしい他ないが…」

「いやいや、ちょっと待ってすごくうれしいことを言ってくれてる気がするけどちょっと待って…子供???」

「? 子供だろう? 10にもならないように見えるが……?」

「成人済み!! 私大人!」

「…は?」

 

いやいやいや、くだらないと言われるかもしれないが私にとってはゆゆしき自体であり許されざる言葉だ。

 

「幼い見目のまま……、もしかして女神か?」

「何言ってるの?! じゃぱにーずぴーぽーやんぐやんぐ!! なだけだから!!」

「間違ってるぞそれ」

「知ってるよ!!」

 

最後はやけくそっぽく叫ぶが、アキレウスの呆れたような視線は止まない。

いや、待てよ…?

 

「アキレウスが…呆れうす…」

「…………………………よし、アンタの性格はよーくわかった。それで? 来るのか?」

「…………………………そりゃああなたを召喚したのはわたしだし、出来うる限りは頑張るけど…」

「ならいい。俺も持てる力をもって守ってやるよ、“マスター”。

 

そういや、アンタの名前は?」

 

そう問われて、ああ、名前も名乗ってなかった。とやっと気がついた。

 

「⎯⎯⎯ヒマリ、ただのヒマリ。よろしく、ライダー」

「そうか、よろしくな“ヒマリ”⎯⎯⎯さっそくだが、お客さんだ」

 

きちんと、目と目を合わせて握手を。

私になにかを望む権利なんてない。ならばこんなわたしを、さっき会ったばかりの小娘に「守ってやる」だなんて笑いかけた彼の望みを少しでも叶える手助けになるように、頑張ろうとそう思った。

 

窓の外で、鳩が鳴いた。

 

 

 




じゃぱにーず(日本)、ぴーぽー(人)、やんぐやんぐ(幼い幼い!)

不仲は回避
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