夜が明けてからアキレウスが最初に見たのは、2人の女の姿だった。自分のマスターである少女、陽鞠はサーヴァントの運動能力に三半規管がついていけなかったのか顔を青くして蹲っている。そして同陣営のアタランテは───どこか陰のある表情で陽鞠の背を摩っている。子供好きのせいか以前から陽鞠を気にかけている様子はあったが……今回の哨戒で仲が深まったのか、逆に遠のいたのかわからない。明らかに何かはあったのだろうが───女と女の仲を詮索するのも野暮かと鍛錬に戻った。
◆◆◆
ノイズが走る。
音が嫌に遠い。
視界もどこかぼやけていて、時折焦点があったり合わなかったり。何やら気持ちが悪い。
嗅いだことのない新鮮な潮の香りを胸いっぱいに吸い込んで、眉根を寄せる。
自分の体がここにあるというのを確かめるように頬に触れた────濡れている。泣いていたようだった。
どうして、如何して。ただただ悲しいような、虚しいような。そんな言い様のない苦しさが胸を占めている。
目頭が熱くなり、また一筋涙が溢れたときに気づいた─────これは私じゃない、きっと“彼”だ。
気づいたら委ねてしまうのは簡単だった。前のように乗っ取られて、いいようにされてしまうっていう危険性もあるってライダーは言うのかもしれないけれど。そんなこと考えつかないほど、彼から感じられる感情はひたすら“哀”でそれはきっと愛ゆえだった。
「お、…………い、おーい、起きてる? ちゃんねる、合ってる?」
「…?」
「うーん私、ソッチ系は不得手でござるからな〜。難しい、難しい」
別離れる。彼と私が離れ、別の存在になる。コツコツ、と人差し指で額を叩かれる感覚があった。ぼやけた視界が一気に広がって、目の前に小麦色の肌と紅色の瞳が目の前にある。
「わ゛っ?!?!」
「お、起きた起きた♪ いや、この表現はおかしいか。現実のこの子は夢の中だろうし…うーん、まあ細かいことはどうでもいいか。重畳、重畳」
その彼は満足そうに目を垂れさせると、屈めた背を真っ直ぐ伸ばした。猫っ毛らしい柔らかそうな淡い黒髪を高いところで一結び、整った顔立ちは柔和そうで、さっきから意味もないのににこにこにこにこ、どこか可愛らしい印象を受ける。
恰好は────なんだろう、これ。赤漆の甲冑に、ヒマリの浅い知識でも江戸時代っぽいな、と感じる服装。それに、とチラと目線を上に上げた。
「ああ、これか? これはそなたの中の私のいめぇじに引っ張られて────うーん、現代っ子はむつかしい…」
「桃…………」
額に桃の絵が描かれている鉢巻をしている。しっくりくるような、しっくりこないような…。
「うむ。こういう時は、何と言うんだったか…」
「ええ…」
日本人であれば誰もが既視感を覚える、そんな姿で青年は目を細めて笑う。
「…吉備津彦命、という。まあそなたらに言わせれば、うん。
───桃太郎、というやつだ。宜しく頼む」
キアラさん、めちゃくちゃ頼りになる…