家出娘と美形お兄さんの珍道中〜   作:藤涙

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お久しぶりです


Part.25:ふわふわしてるし

知らない男の人に「これは君の夢の中で私は君の御先祖様、おーけー?」と言われても信用は普通にできない。肩に回されようとした手を避け、ちょっと離れると苦笑いされた。

 

「そんなに違和感があるのか? 君の脳に負担をかけないために、いめーじは君の中にある“桃太郎像”にあわせているし、顔だって君に寄せてるし…」

「本当に桃太郎? 本当に御先祖さま? 信じられない…なんかふわふわしてるし…」

 

改めて顔を伺えば…………まあ似てるっちゃ似てるかもしれない。黒髪もそうだし、全体的な雰囲気的にも、血縁を感じさせるところもあるのかも?

 

「たびたび、体を操ってたのはあなた?」

「…すまないな」

「あなた、サーヴァント?」

「とはたぶん違う」

「ふーん…」

 

現在、私達は日本家屋っぽい部屋の中でぱちぱちと爆ぜる囲炉裏を囲んでいる。

 

「之は、まあ一種の夢だ。今君の前にいる私はさーばんと、でも、英霊でもない。ただの残滓、そなたの中の残り香、目覚めた名残、泡沫の夢…」

「ほう…」

「あーこれわかってないね!」

 

私とよく似ているその人は、これまた私とよく似た笑顔でからりと笑った。気持ちがいい笑い方をする人だ。ライダーっぽい、というか、英雄っぽい。その点ヒマリのふにゃふにゃした感じとは真逆。自信満々そうで、胡座をかいた背が真っ直ぐ伸びていて、太めの眉の力強さと笑った顔のアンバランスさ、頬に出来たえくぼが可愛らしい。人々に愛される人、というのはこんな感じなのだろう。

 

「サーヴァントのあなたと、ここにいるあなたはちがうって話だよね…? なんでちがうの?」

「んー、んー、んー。まあ、ここで話すほど重要なことではないよ。夢とは覚めるものだから、そなたが寝ていてくれる間は、違う話をしなくては」

 

そう言ってその人は────吉備津彦命は、困ったように首を傾げる。まるでぐちゃぐちゃになったパズルを眺めているような視線だった。

 

「大方、私達の後輩くん………あーーー、天草四郎時貞だったか? が、言ったことは合っている。そなたは私の子孫で、私の血を脈絡と継いでいる。おそらくはもう唯一の存在だろうな」

 

その手は躊躇うように前髪を撫でた。その瞳の色が寂しげな色を映し、唇がきゅっと結ばれる。

 

「本来ならば目覚めぬはずの力だった。現代では無用の長物。鬼は絶えた。神秘ももう小指の一欠片程度。争いもほとんどない、こんな平和な人の世に、鬼退治の力なんぞ目覚めないはずだった」

 

西洋の鬼め…、と吉備津彦命が口汚く罵った。

ああ確かに、確かに私の身に異変が起こったのはあの時が初めてだ。自分の体に、自分のものでは無い力が宿る感覚。振りおろした刀が肉を切り骨を断つあの────恐怖感。

 

「そうなってしまったものはしょうがない…であればこそ、そなたは選ばなければならぬ。その身が車裂きになる前に。人であることを迷う前に」

「…?」

「“彼女”のように、なる前に」

 

しっかりと目を見て言われた言葉に、ヒマリは首を傾げるしかなかった。

難しい話は苦手だ。居心地が悪くなって、もじもじしてしまう。

 

「…彼女って?」

 

一応、そう問いかけてみたら、少し気まずそうに微笑んだ。嘘は苦手そうだ。でもそれに突っ込むほどヒマリも子供ではないし、察しが悪くもなかった。

 

「じゃあなんで車裂きなの?」

「それには答えられる。」

 

ほっとしたように少し顔を明るくした吉備──もういいや、桃太郎で──。ヒマリの好感度が上がる。

 

「私は、なんというか、神性を持っていてな。逸話のために鬼殺しの業を持っている」

「…ジークフリートの竜殺しみたいなものかな?」

「そうだな、その御仁は知らないが、似たようなものだと思ってくれていい。

 

君には、そんな私の血と、何故かは言えぬが鬼の血が混ざっている」

 

その何故か、はなんとなくわかった気がするがそれはそれ。

思わずまた、はあ、と声が出る。それとこれになんの関係があるのかはわからなかった。

 

「つまり、ううむ。なんというかだな、説明が難しい…!

私は鬼を殺すのが役目、鬼は私を殺すのが役目」

「ほぉ」

「そのふたつが君の身体の中でドンパチ」

「はぁ!!!」

 

それ故に車裂き。と何故か彼は満足そうに笑った。(自分の中では)納得のいく説明ができたんだろう。それどころじゃないのはヒマリである。

 

「えっ、それってつまり、このまま放っておいたら私どうなるの?」

「どうなるってこう……………………………こうだな!」

 

桃太郎が己の首の前で首を絞めるような動きをする。

 

「死んじゃう……………?」

「結果的には。その前に苦しむだろうな。鬼を殺すのが役目だが、その前に自分が鬼(仮)なのだから、まあ…お互いの首を絞めるだろう」

 

刀で体を支えるようにして、桃太郎はそう言った。具体的にどうなるのか、を言わないところが怖い。問い詰めても言ってくれなさそうだから余計に怖い。

ただただ怯える少女に、桃太郎は眉を下げた。

 

「だから君は、できるだけ近いうちに決めなくてはならない」

「…?」

「“人”であるべきなのか、“鬼”であるべきなのか、そのふたつを」

 

空間が揺らぐ。目覚めが近いのだろう。ここ最近のヒマリはずっと満足に眠れない日々を過ごしている。できるだけ眠りが深い日を選んだのだが……現実は上手くいかない。

 

「人を選ぶのもいい。これまで通り、とは行かないだろうが…。

まあ、ここまで脅しといてなんだが。鬼を選んでもいいだろう。知り合いの鬼はそれはそれは愉しそうだったからな。もしかしたら鬼の目からしか見えぬものもあるのかも」

 

あと単純に強くなるし。とは桃太郎は言わなかった。

彼女の中から微かに、荒ぶる神の気配がする。何代も血が交わる中で混じったか、それとも。あの少女の姿をした鬼の気配だ。彼女が“鬼”を選ぶとすればどうなるんだろう。

こんな時代に小さな、だが強大な神秘の産声をあげてしまったこの子供は、これからどんな未来を歩むのか。

 

わからないな。わからない。

桃太郎はぎこちなく笑う。そうだ、わからないのだ。全てが彼女と一緒なわけじゃない。違う運命がある。この子自身が歩む、別の未来がある。

───瞼に焼き付く海に消えた妻を、今ばかりは無視をした。

 

「さて、そろそろ朝が来る。夢の終わり」

「えっ!! 私あなたにまだ具体的なこと聞いてな…!」

「起きたらちょっとうるさいかもだ、すまんな!!」

「ええっ…!!!」

 

不安そうな少女の頭を優しく掴み、軽く揺すった。黒髪に指を滑らせて、そっと微笑む。

 

「戦えヒマリ。君がどのような結末を選ぶにしても、君の未来は輝きに満ちていると、私はそう信じている」

「具体的になんの説明もないまま勝手に信じられた…! よくわからないけどありがとう!」

 

世界が崩れる。

夢を見る度にこうだなあ、と思い出しながら、とりあえずヒマリは目を閉じていた。

 

 

「マスター…!」

「…………おはよう? ライダー…」

 

起きるとライダーが眉間に皺を寄せてベッド脇に立っている。その事に変な予感をビンビンと感じながら、ヒマリは起き上がった。

───とりあえず説明は、自分の考えを咀嚼してからで。

 

 

 

 

 

 

 

 




去年のギル祭は「もう周回しねえ!!!」と涙目になるレベルには周回したんですけど……………(今年の礼装2枚目を凸った顔)
高難易度アキレウス来ましたね〜♪パリスくん(聖杯2個)でトドメを刺したいので目下調整中です♪

そろそろ終わりが…! 見え…見え…(?)みたいな時期なので、更新は引き続きゆっくりになるかと思います。今回は筆(指)のノリがよかった。
Pcrewでヒマリちゃん(黒髪ぱっつんストレート、紫目、かなり幼顔の女の子)作ったら我が子ながら可愛くて泣いたな…
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