家出娘と美形お兄さんの珍道中〜   作:藤涙

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Part.3:あっそういえば、携帯持ってる?

わたしこと、ヒマリは日本の、本州のどこかの、山奥の村で生まれた。

実家は神社で、細々〜〜っと魔術を扱うような家だった。

 

「だから、小さい頃から学校⎯⎯⎯わかるかな、聖杯の知識にあるかな⎯⎯⎯通ってなくて。ブレザーっていう日本の、学校に通う女の子が着る服装で憧れだったの。本当はもうこういうの着る年齢じゃないんだけど、海外ならいいかな〜って…」

「(お前、少しは警戒しろよ…)」

 

一応神社だったから、一人娘である私は巫女服で闊歩していたものの、僻地すぎて誰もこないため巫女も神主もへったくれもない。寂れた場所だった。

大昔は忍者の里だった! という伝説がのこっているくらいといえば、その山奥具合がわかるだろうか。

人は少ない、村も滅びかけ、そして我が家の魔術は形骸化し、実質わたしが末代なのは目に見えていた。

 

「だから、魔術師としては役たたずだと思う。ごめん、ライダー。養父がいろいろ教えてくれたけど、なかなか芽が出なくて……」

「(養父?)」

「実の父親とはいろいろあったのよね、母は私を守ろうとして亡くなったし、父はわたしを生贄に───殺そうとして死んだから」

 

魔術において生贄を使うことはそう珍しいことじゃない。

本来のライダーのマスター……あの部屋の借主だって、目的はワンナイトラブではなく、私という生贄を捧げることによる一種のブーストだったろうし。ただ、父にとって、わたしを生贄にする本来の価値は⎯⎯⎯と、考えかけて首を振る。考えなくないし、理解したくない。

 

頭が痛い⎯⎯⎯。

 

沈黙に引いちゃったかな? と少し、悲しくなる。あの精悍な顔が悲しげに歪むのは見ていられない。

 

「まあ、つまりね。言いたいことは、生贄に選ばれる()()がわたしにはあるってこと。ある程度は絞られたって平気だし、胸を張れるほどじゃないけど、護身はできるから。できるだけ、足を引っ張らないように努力するね」

 

それしか習ってこなかった、というのが正しいのだが。

アキレウスはその後黙ってしまった。想定以上に頼りないマスターで開いた口が塞がらなくなってしまったのだろうか。もうしわけない。

彼は今霊体化しているので、一人でトコトコ歩きながら独り言を言っている不審者になっている。周りの歩行者の視線が痛い。念話にどうしても慣れない。実体化させると魔力を消費するというが、私の今後の職質回数が増えないためにも、現代の服を買ってあげるべきかも……。

 

そんなことをつらつら考えながら、図書館で借りたアキレウスに関する本を眺めた。全部ルーマニア語だ、全然読めない。歩きながら本を読むのは危険? 大丈夫大丈夫、障害物があってもアキレウスが────

 

ゴンッ

 

「あいだ…」

「(あ、そこ柱があったぞマスター)」

「知ってる…今当たった…鼻痛い…」

 

強かに打ち付けた鼻頭を押さえつつ、キッと霊体化した彼がいるであろう方向を睨んだ。

そんなことをしているうちに、目的の場所についたようだ。

 

「ここだねー。立派な教会だ…」

 

リュックを担ぎ直して、空を仰げば白十字。青い空に映えるそれに、私は眩しくて目を細める。

黒の側はわからないが、赤の陣営であるアキレウスは他の赤のサーヴァントが召喚されているかどうかを知覚できるらしい。ライダーを含む赤のサーヴァント全て、召喚されている。

ということはこの静かな教会のなかに、全てがいるのだろう。

 

武者震いしつつ、ヒマリはドアをノックした。

 

 

◆◆◆

 

 

日本の学生のようだ、と朧気な記憶に当てはめた。

 

緩くカールした柔らかそうな黒髪は腰ほどまで。ブレザー服に短い紺スカート、手元を隠すカーディガン、愛嬌のある幼い顔立ち。担いでいる、というよりはぶら下がっていると形容していい、だらしがない担ぎ方をしたリュック。

好奇心を隠しきれない瞳をドアから覗かせている、想定したよりは若い見た目に獅子劫界離は目を剥いた。

見た目だけなら観光に来た子供だ、彼女。

 

「こんちは。ここであってます?」

「ええ、ようこそ。ライダーのマスター、ヒマリさん…であっていますか?」

「そうです。ヒマリです。あなたがシロウさん?」

「はい」

 

目の前でなごやかに行われる少年少女のやりとりに寒気がした。

 

「はじめまして、セイバーのマスターとライダーのマスター。今回の聖杯戦争の監督役を務めさせていただく、シロウ・コトミネです」

「…獅子劫界離。自己紹介は省略、どうせ調べてるんだろ?」

「はい、その通りです───ですが、ヒマリさんにはしていただきたいですね、突然のことですから」

 

シロウと獅子劫の会話を眺めていたヒマリは、バツの悪そうな顔で首を竦めた。教師に怒られる生徒のようなしぐさに、より幼さが際立っている。

 

「怒ってない? ライダーのマスターになる予定だったひと…」

「怒っていませんよ、話はついています。団体戦ですからね、召喚されたサーヴァントとマスターの相性は良好であるほど望ましい————貴女が正式なマスターとして、よろしくお願いしますね、ヒマリさん」

「よかったぁ〜、昨日から怖かったんです…」

 

心底ほっとした表情をするヒマリに、なんとなく獅子劫界離は事情を察した。今回のイレギュラーなのだろう、彼女は。

 

「えっと、ヒマリっていいます。滋賀県出身です、あ、わかりますよね? 不束者ですが、よろしくお願いします…?」

「オイオイ、いつから戦争は子供の遊び場になったんだ?」

「子供じゃないし……っていうかおじさん顔が怖いね…」

 

怖いといいつつ、じっと顔を近づけてサングラスの奥の瞳を覗こうとするヒマリに、獅子劫は肩を押して座らせる。怖がられるのは慣れているが、こういうタイプは初めてで反応に困った。

 

「お二人共、お連れのサーヴァントは実体化させないのですか?」

「いや、俺は───」

「うん?」

 

断ろうと思ったが、セイバーからの念話で即座にラインを繋げる。不思議そうな顔をしているヒマリにもサーヴァントからの念話が入ったのか、彼女の横には金色の粒子とともに“赤”のライダー。獅子劫を護衛するように立つ“赤”のセイバーが出現する。

 

横の少女が「かぁ〜っこいい〜」と立ち上がりかけたのを見て、ライダーである青年が首根っこを突っかみ座り直させていた。

大丈夫だろうか、この主従。

 

「……では私のサーヴァントもお見せしましょう───実体化しなさい、アサシン」

「心得たぞ、我が主」

 

突如響いた声に、獅子劫はぎょっとして立ち上がる。二人のサーヴァントも眦を吊り上げた。獅子劫とヒマリが座る椅子のすぐ横に三人目のサーヴァントが実体化したのだ。緊張感が高まるこの場で、「うわーすごい美人、すごいおっぱ」と呟いている少女はむぐむぐとライダーに口を塞がれる。

 

「アサシンか…」

「むぐむぐもが」

「我は“赤”のアサシン。よろしく頼むぞ、獅子劫。ヒマリとやら」

 

いっそ清々しいほどに蠱惑的な微笑みに、獅子劫は彼女から離れ、ヒマリはライダーに口を塞がれたまま何かを喋る。

甘い香りを纏い、黒いドレスを纏った退廃的な女性。今まで見たどんな女性よりも美しいと言えるが……なんというか、信用しにくい人だ。アサシンというクラスだからだろうか。

 

「さて、早速ですが現状の確認をしましょうか」

 

コトミネ シロウは、そう言って年不相応の大人びた頬笑みを浮かべた。

 

 

◆◆◆

 

 

「ねぇ〜、なんで走るのおじさーん」

「なんでついてくるんだよお前…」

「ついて来いって言ったのおじさんじゃん、念話で」

 

獅子劫の全力の走りに難なくついてこれること見ると、若いなと感じる。

たしかに「こちらはこちらで共同戦線を張らないか」と提案したのは獅子劫だったが、この幼さが目立つ少女が自分に付いてきたのが違和感の塊だ。

この子なら、流され流れ、赤側につくとおもったのだが───

 

「ライダーがそういうの嫌だって言ったんだよ。できるだけ多くのサーヴァントと戦いたいーって」

「なるほど…」

 

教会が遠くに霞んで見える所まで走り、獅子劫は大きく息をついた。ヒマリは呼吸ひとつ乱れていない。体力があるらしい。

 

「なんで逃げたの?」

「…セイバーが“嫌な予感”がすると言ったからだ。あと、あのアサシンも信用しにくい。で、お前はどうするんだ。味方になるのか?」

「味方になって欲しいから呼んだんじゃないの?」

 

世界の黒い部分など何も知らないような無垢な瞳を見ていると、調子が狂う。そんな自分に苛立ってタバコを噛んだ。この子、本当に魔術師なのだろうか。

 

「俺達はこの先の墓場に拠点を置いてるが…」

「わかった、荷物もってくる…あっ、そういえば携帯もってる? そのほうが連絡楽でしょ~」

「…」

 

数時間後、迷子の連絡が舞い込んだ。

 




話はついています(物理)(毒)。

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