「……ここが異世界か」
転送された後、気付けば俺は異世界に到着していた。
中世ヨーロッパを思わせる石造りの街並み、行き交う人々を見れば人間以外にも獣人やエルフなど物語の中でしか見たことがない種族も多々見られた。
話に合った通り、RPGのような異世界だ。街並みだけ見ればEDFのヨーロッパ支部にも同じようなところがあったな……。
「っと、そうだ。俺は魔王を倒しに行くんだったな」
俺は目的を思い出し、再びあたりを見回す。
活気ある街並みを見た限りどうやらこの街はまだ魔王軍とやらの襲撃を受けていないようだ。
ふむ、ならここを活動拠点とするのもありかも知れない。
そしてもう一つ確認したいのが……。
「確か、あの女神は念じれば装備の出し入れが自由と言っていたな……うおっ!?」
俺は持っていたビーコンガンをしまうと念じて見た所一瞬でビーコンガンがどこかへと消えた。
「こ、これは凄い!それじゃあスプライトフォールの誘導装置を……おぉ!出たぞ!!」
念じると、今度は別の武器が現れた。問題なく機能するようだ。
ただ見た所、貢献度が必要な武器は敵を倒し貢献度を溜めなければ使用できないようだ。その辺まで元の世界と同じ仕様だ。
……そもそも、空爆や衛星兵器が使えるのか疑問だったが女神アクアが使えるようにする、と言っていたのだから大丈夫だろう。
「さて、そしたら情報収集が先決か」
俺は魔王軍に関する情報を集めるため、人が多く集まりそうな場所を探すことにした。
「ここは、何だ?」
街を歩いている最中、ふと目に留まった建物の看板を見ると冒険者ギルド、と書かれている。
丁度よさそうな場所があるじゃないか。
ここなら間違いなく魔王軍に関する情報をくれるだろう。
俺はすぐさまドアを開け中へ入った。
「いらっしゃいませー!お仕事のご案内でしたら奥のカウンターへ、お食事なら空いているテーブルへどうぞ!!」
気前のいい赤毛のウエイトレスに迎えられた中は酒場のようになっており、剣や杖を装備した多くの如何にも冒険者といった出で立ちの者が多く集まっていた。
「ふむ、ありがとう」
俺は軽く礼を言い、奥のカウンターへ向かい話を聞いてみることにした。
……一つ、街を歩いている最中も気になっていたのだが。やたらと視線を感じる。
現に周りを見回せば全員と視線が合う。そして視線が合ったものはすぐに目を逸らす。
うーむ、確かにこのヘルメットや装備はファンタジー世界にしては珍しいかもしれないな……。
しかし、これも魔王から世界を救うため。俺は視線を気にしないように心掛けた。
そして奥のカウンターへと到着した。
「はい、どうされましたか?」
金髪ウェーブの受付がおっとりした口調で尋ねてくる。
「すまないが、魔王軍に関する情報が欲しい。これから討伐作戦を組むのでな」
俺がそういうと、受付はポカンと口を開けてフリーズしてしまった。
気のせいか活気あった酒場全体がシンと静まり返ったような気もした。
「……どうした?何か情報は無いのか?」
俺がそういうと受付はハッと我に返った。
「え、えっと、失礼ですが冒険者の方でしょうか?」
ん?どういうことだ?
「冒険者?いや、俺はここに来たばかりでな……だが装備は十分」
「ギャハハハハ!!聞いたかおい!!」
突如、背後の席から笑い声が響いた。
振り返ると、そこには金髪の戦士風の男が腹を抱えて笑っていた。
「ちょ、ちょっとダスト。やめなって、あの人見てるよ……何か怖いって」
ダストと呼ばれた男の座るテーブルには他に仲間と思われる人間が3人座っていた。
その内の魔法使い風の装備をした女性に注意される。
「はっ、構うかよ!これが笑わずにいられるか!?この街でいきなり魔王なんてよ!!しかも冒険者登録もしてねぇ奴がだぜ!?笑っちまうよ!!」
ジョッキに入った飲み物を飲み干し、再び笑いだす男。心なしか男の顔が赤く見える。あれは酒か?
まぁいい。酔っぱらいは相手にしても仕方ない。EDFにも酔っぱらいはいた。酔っぱらって出撃して弾を忘れる何てとんでもない兵士も少なくはなかったからな。
男を無視して俺は受付の方へ向き直る。
「それで、冒険者とやらになっていないと魔王は討伐できないのか?」
尋ねると、受付は困ったような顔をして答える。
「え、えぇ。何せあの魔王ですからねぇ。よほど経験を積んで実績のある方でないと、とても危険で……」
「ふむ」
確かに言えてるな。突然現れた人間がいきなりマザーシップを撃墜してくるといっても信用はできない。
この世界ではまず、色々戦功を積むことから始めねばならないか。
「分かった。では冒険者になりたい。登録してくれるか?」
「はい、わかりました。では登録料として1000エリス頂きますが」
ん?今何といった?
「え、エリス?何だそれは、まさか……金か!?」
つい声が大きくなってしまった。
俺は必死に装備のポケットというポケットを漁ってみたが1円たりと、ましてやエリスなどという単位の金は入っていなかった。
くそっ。俺のいた地球ではエイリアンの襲撃で経済が崩壊していた為、完全に失念していた。どうするか……。
「おいおいおい、魔王倒す勇者様が1エリスも持ってねぇのかよぉー?」
突然、背後から肩にポンと、手を置かれる。
この声、先程の男だ。振り向けば先程のダストという男がニタニタと笑みを浮かべていた。
「ダスト、やめなって……」
「困ってるだろ。それくらいにしとけって」
「そうだぜ、くくっ」
先程の女性と、その他の仲間であろう剣と盾を持った男と弓を持った男も止めに入った。
うーむ、何か金を稼ぐ方法は……。そうだ!
「丁度いい。君達、俺の珍しい装備を1つ買わないか?」
「あぁ?」
突然の申し入れに4人は首をかしげる。
俺は受付から少し離れたギルドの隅へ4人を移動させる。
「紹介したいのはこいつだ」
と、俺は装備を切り替え円形の平たい30センチほどのメカを取り出した。
「な、何だこりゃ?」
「見たこともない魔道具だわ……」
「ふむ……」
「ははっ、何か面白れぇ形してんな!玩具か?こりゃ?」
まさか本当に珍しい装備を出してくるとは思っていなかったのだろう。
某お掃除ロボットにも似た車輪付きのメカを4人は少し驚きながら隅々までじっくりと見つめる。
「こいつはロボットボム。自走式の爆弾だ」
「爆……!?」
「う、嘘だろ?」
「へ、へぇー、面白れぇじゃんか」
爆弾と聞いて女性は口を押える。盾を持った男、弓を持った男は半信半疑といった感じだ。
「一度指定した相手をどこまでも追跡して接近すると爆発する。こいつはC型だが、威力は中々だぞ。そんじょそこらの巨大アリや蜘蛛なら一撃で粉々にできる」
それを聞いた、誰かのごくりと生唾を飲み込む音が聞こえた。
まだ、アピールが足りないか。
「モンスター何てのもいるんだろ?そういうのにも効果はあると思うが……どうだ?」
買ってくれるようアピールをしてみるが……仲間3人からの反応は薄い。こりゃ駄目か?
「ぎゃははは!!マジかよ!!お前本当に面白ぇ奴だな!!」
しかしダストにはなぜか大うけだった。
「いいぜ、買ってやるよ!!いくらだ?」
しかも買ってくれるという。これはまたとないチャンスだ。
「1個限定、2000エリスでどうだ?もちろん、不良品の場合は返品してもらって構わないぞ」
「安っ!!買いだ買い!!ほらよ!!」
と、ダストは金貨を4枚俺に差し出してきた。
なるほど、この金貨1枚で500エリスなのか。
俺はダストに軽く使い方を説明してからロボットボムを1つ渡した。
「毎度。一つ注意だが、決して遊び半分や街中では使うなよ?さっきも言ったが威力はあるからな。この辺の建物なんか軽く」
「あいよ!おい、お前ら!早速これ試しに行くぞ!!」
ダストは少しふらつきながらもロボットボムを抱えながらギルドの外へ出て行った。
「お、おいダスト!?」
それを追うようにすぐに仲間3人も外へ出ていった。
「ふぅ、さてと。金は集まった。早速登録を済ませるとするか」
俺は受付へと向かい、先程の受付嬢へと話しかける。
「すまない、金を持ってきた。これで1000エリスあるか?」
「は、はい確かに1000エリス頂きました。それでは冒険者の説明をさせて頂きますね」
受付の説明によれば、この世界の冒険者は自分の能力などが書かれたカードに経験値などを溜めて成長するらしい。レベルが上がると様々なスキルなども覚えられるようになるようだ。
まさしくRPGの世界だ。
自分の氏名や年齢などの記入を一通り終え、受付にカードを見せる。
「ありがとうございます。ストーム1様。それではカードに触れてください。これで貴方のステータスがわかります」
ステータスによって、就ける職業が異なるらしい。俺はなるべく良いステータスであることを祈りながらカードに触れた。
「おぉ、筋力、知能、幸運が平均よりも高いですね!魔力がちょっと低いですが他も平均的で悪く無いステータスですよ!」
まずまずといったところのようだ。これもEDFでの訓練や戦闘の賜物か。
「これであれば大体の職業には就けますね!何でしたらいきなり上級職なんかにもつけちゃいますよ!!」
上級職か……それも悪くないが。
俺としては自分の装備である爆破物や重火器、メカを生かせる職業に就きたいのだよなぁ。
その方がこの世界では戦いやすいし、スキルなども効果を発揮してくれるものがあるだろう。
「こう、何て言うんだ?銃、じゃない。火砲の様なものを使える職業は無いか?」
「火砲……?ですか?」
むぅ、やはりこの世界にはピンと来ないか……。
「あぁ。こう、ドカーンと、爆発するようなものを生かせる職業が良いんだが」
「ドカーン……爆発……うーん、そうですねぇ。それじゃあ上級職のボマー、何てどうでしょう?おすすめですよ?」
ボマー?爆弾魔か?まぁ、でも受付がおすすめするのだ。間違いはないだろう。
「よし、じゃあそれで頼む」
「はい、それでは登録完了です!冒険者ギルドへようこそストーム1様!!スタッフ一同今後の活躍を期待しています!!」
「あぁ」
ようやく俺は冒険者になれた。ようやく魔王討伐への第一歩が踏み出せたわけだ。
待っていろよ魔王!すぐに功績を集めお前を討伐してやるからな!!
その頃 ダスト視点
「よーし、んじゃあ試してみっか!!」
俺はアクセル近くの平原へやって来ていた。もちろんあのイかれた勇者様から買ったこの玩具を試すためだ。
一体どんなもんなのか……どうせ玩具だろうが、後でその分あの勇者様をからかえると思うと楽しみでしょうがねぇぜ!
「ちょっとダスト、本当に大丈夫なの?あの人凄い威力だって言ってたじゃん。やめといた方がいいんじゃない?」
リーンが心配そうな目で俺を見る。
「何だよリーン?ビビってんのかぁ?」
「い、いやそういうわけじゃ……」
「まぁ、そう心配すんなよリーン。どうせただの嘘っぱちだって。あいつ明らかにイかれてたしよ。さっさと試して金返してもらおうぜ。早くつけて見ろよダスト!」
キースはだいぶ乗り気なようで俺に早く試すように急かしてくる。
「ね、ねぇ。テイラーはどう思う?」
「うーん……一応気を付けた方が良いと思うがなぁ」
テイラーはあまり乗り気じゃねぇみたいだな。ったく、連れねぇ野郎だぜ。
「よし、んじゃあ動かすぜぇ!おりゃぁ!!」
言われた通り、車輪の脇にある赤い部分を軽く触ると玩具の前部分から赤い光の線が現れた。
「おー!よくできてんじゃねぇかよぉ!!これで相手を決めるって言ってたな!おいキース!ほれっ!!」
俺は驚かそうとキースへ赤い線を向けようとする。
「ぎゃはは!馬鹿!何すんだ!!お前!!」
するとキースが俺の手から玩具をはじき飛ばした
「あ……」
と、少し離れた地面に落ちた玩具の光の線は何と俺の方を向いていた。
『ピーッ……ターゲット、ロックオン。追跡開始』
すると、無機質な口調で不吉な言葉を発した玩具は結構なスピードで真っすぐ俺の方へ向かってきた。
俺の全身から一瞬で血の気が引き、酔いもさめた。
「お、おい……嘘だろ?なぁ、皆?」
隣にいたはずの3人はすでに俺から離れるように逃げ始めていた。
「ま、待ってくれよぉ!!助けてくれ!!俺を見捨てないでくれええええええ!!!」
「「「こっちへ来るなああああああ!!!!」」」
この後、しばらく俺達の死の鬼ごっこは続いた。