「俺のスキルを教えてほしい?」
カエル討伐の翌日、ギルド内でメンバー3人と合流するなり俺はカズマにいきなり頼みこまれた。
「あぁ!どうか、この通りだ!頼む!!」
カズマは俺に手を合わせて頭を下げる。
今日のギルドは珍しいことに冒険者がほとんどいなくガラガラだ。しかし他人が居ない中と言っても、こう深く頭を下げられると少々恥ずかしい。
どうしたんだ急に……?俺は何があったのか説明を求めた。
話を聞いたところ、俺より先にギルドへ集まっていたカズマ、アクア、めぐみんはスキルについての話をしていたようだ。
この世界でのスキルはレベルを上げてカードから習得可能なスキルを選択して覚えていくようだが、カズマの職業である冒険者は誰かにスキルを教えてもらうことが可能だという。
しかもすべてのスキルが習得可能と言っていた。かなり選択の幅が広くて良いことだと俺は思った。
が、身近にはまともなスキルを教えられる人間はいない。めぐみんは爆裂魔法しか無いし、アクアは宴会芸スキルとかいう謎のスキルを教えてくるし、もう当てになるのは俺だけらしい。
うーむ、しかし当てにされてもなぁ……。俺は自分のカードを取り出し確認する。
「ストーム1の職業は確か……ボマーでしたっけ?どんなスキルがあるんですか?」
「あ、それ私もちょっと気になるわ。カード見せなさい」
めぐみんとアクアが俺の手からカードを取るとじっくり見始めた。
「ふーん、『爆破範囲拡大』『殺傷能力上昇』……全部爆発物を強化するスキルね!ププッ」
アクアの言葉を聞き、カズマは絶望の表情を見せる。
そう、この職業は常に爆発物が扱えないとまるで意味をなさない。
なのでカズマにとってはまるで役に立たないスキルだ。
「はぁ……」
カズマは膝をつきガックリと項垂れてしまった。
期待させていたようで、何か申し訳ないな……。
「でも1個もスキル覚えてないですね。何でですか?」
と、めぐみんが不思議そうに聞いてくる。
「あぁ……装備の関係上、迂闊にとるのはちょっと怖いんでな」
スキルの強化というのが実際どれくらいの物か分からない。
下手に上昇させて、ただでさえ強力な爆弾や空爆が取り返しのつかない物になるのが怖い為スキルはまだ上げていないのだ。
「ま、元気出しなさいよカズマ。宴会芸スキルなら授業料次第でいくらでも」
「装備……そうだ!!」
項垂れていたカズマが慰めようとしたアクアを弾き飛ばし、突然生き返ったように立ち上がると俺の方をキラキラした目で見つめてくる。
「ど、どうしたんだカズマ?」
「頼む、ストーム1!俺に武器を貸してくれ!!」
すると再び手を合わせ頭を下げてきた。
武器を貸せだと?また無茶なことを言う。第一素人には……。
いや、使えるかも知れない。
俺も元は民間人だ。射撃に関してはズブの素人の俺でさえ、初戦闘では軍曹から直前に渡されたリムペットガンで生き延びられた。
訓練さえすればカズマでも使えるようになるかもしれない。そうなればこのパーティの戦力は大幅に上昇するだろう。
要請兵器は危険な上、通信に関する専門知識がなければ扱えない為渡せないが……銃系統の武器なら渡しても良いかも知れない。
「あぁ、分かった。リムペットガンならいいだろう」
「本当に!?や、やった!!ありがとう!!」
子供のように飛び跳ねて喜ぶカズマ。
そこまで嬉しいか?
「カズマだけズルいです!!私にもふぉぼすとの契約をさせてください!!」
めぐみんが先日と同じように俺に飛びかかろうとしてくるが2度同じ手は喰わん。
すぐに両手でめぐみんの頭を抑え、こちらに近づけないようにした。
「……喜んでる所悪いけどカズマさん?あんたには絶対使えないと思うわよ?」
床に弾き飛ばされていたアクアが自身の頭をさすりながら立ち上がった。
その言葉に俺達3人の視線はアクアに集まった。
どういうことだ?
一瞬の沈黙の後、はんっ、と鼻で笑ったカズマが口を開いた。
「宴会芸しかできない駄女神は黙ってろ。ストーム1、こんな役立たずの脳無しは無視して早速どこか練習できる場所へ行こう!!」
試し撃ちがしたくてたまらないのか、カズマはそう言うなり外へ出ようとする。
やれやれと俺もそれを追おうとした時だった。
「……ストーム1、あのへんてこな銃見せてくれる?」
少し黒い笑みを浮かべながらアクアが俺を呼び止めた。
「い、今か?まぁ、良いが……」
と、俺はリムペットガンを出して見せた。
「それって、爆弾を起爆させるときはどのボタン押してるの?」
ん?何でそんなことを聞くんだ……?少々不思議に思ったが気にせず教えることにした。
「このボタンだな。そしてリロードがこっちで」
その瞬間、アクアは俺からリムペットガンを素早く奪い取った。
「な!?」
そして躊躇なくカズマに向けて引き金を引いた。
ポンと軽い発射された赤く点滅する吸着爆弾は後ろを向いているカズマの背中の真ん中にピタリと張り付いた。
あまりに突然の事態に俺は言葉を失う。
「うおっ、何だ?……何かくっ着いてるぞ?何だこれ」
爆弾が張り付いた衝撃でカズマが少しよろめいたカズマは背中にくっ着いた爆弾をとろうとするが全く取れそうもない。
それはそうだ。吸着爆弾は一度くっ着いたらまず取れないように出来ている。くっ着けられた対象は装備に着くけば装備ごと、皮膚に着くけば皮膚ごと剥がさねばとる事は不可能だ。
「何をしてるんだ!!すぐにリロードボタンを押せ!!」
吸着爆弾が誤って味方などにくっ着いた場合、爆弾が発射された銃のリロードボタンを押せば自動的に爆弾は剥がれ落ちる。
逆を言えばそれしか安全に取り除く方法は無い。
俺はアクアから銃を取り上げようとするがアクアは素早く身を躱し俺から一歩距離を置いた。
「大丈夫だって!安心しなさい!さぁ、カズマ。覚悟はいい?」
何も大丈夫ではない。俺ならば耐えられるだろうが、仮にも一般人のカズマが背中に着いた吸着爆弾の爆発を受ければ間違いなく上半身と下半身がおさらばするだろう。
こちらのやり取りを聞いて何が起こったのかを察したカズマは顔を青くして慌て始めた。
「ちょっ、おい冗談よせって!ふざけんなクソ女神!!」
「やめろ?クソ女神?……ふーん、そっかぁ」
「いや、お願いしますやめて下さい!麗しの女神様!!アクア様!!た、助けてくれストーム1!!」
そんな言葉も空しく、アクアは起爆ボタンに指を伸ばす。
くそっ、人命には代えられん!こうなれば仕方がない……非常用装備のサプレスガンでアクアの腕ごと銃を弾き飛ばさねば……!!
俺はすぐにサプレスガンを装備し、構える。
「ストーム1!どさくさに紛れて話を終わらせたつもりですか?そんな装備じゃなくて、ふぉぼすと契約させてください!」
この娘の存在を忘れていた。背後から思い出したかのように飛びついてきためぐみんに邪魔をされ狙いがつけられない。
「めぐみん!状況を考えろ!今それどころでは……」
「いくわよー、えいっ!」
アクアが起爆ボタンを押してしまった。
無情にもピッという起爆ボタンの音が鳴る。
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
カズマの叫び声が木霊する。
何てことだ……俺のせいで……すまない、カズマ。俺は目の前に繰り広げられるだろう凄惨な光景を思い浮かべた。
しかし、爆弾はパンと軽いクラッカーのような音を立てただけでカズマの体はおろか服にすら傷一つ付かなかった。
「え?」
カズマは力が抜けたようにその場へ尻もちをついた。
「プッ……アハハハハ!だから言ったでしょ?大丈夫だって!はい、これ返すわ」
笑いながら俺にリムペットガンを返してくるアクア。
「い、一体どういうことなんだ?これは確かに本物のはずだが」
俺が必死にリムペットガンを確かめているとアクアはチッチッと指を振った。
「ストーム1の装備は他人が使っても力は発揮しないのよ。まぁ所謂、専用装備って奴ね」
アクアは得意げな顔で説明を始める。
「たまにあるじゃない、使ったり装備自体はできるけど実際には能力値とか諸々が足りなくて大した力を発揮しないって奴。あれと一緒よ。ゲーム好きなカズマさんなら知ってるでしょ?」
「えっと?つまりどういうことですか?」
アクアの説明にめぐみんは全くついていけていないようで頭上にいくつものクエスチョンマークを浮かべている。
丁度いいと思い、俺はめぐみんに要約してやることにした。
「簡単に言えばめぐみんはフォボスを使えないということだ」
「えぇっ!?」
それを聞きめぐみんは俺にしがみ付くのをやめ、しゅーんと肩を落とした。これで諦めてくれると良いのだが。
それにしても……なるほどな。どういう原理かは知らんが俺の特典を決めたのはアクアだ。このシステムも初めから知っていたというわけか。
「だったら初めからそう説明してくれればいいじゃないか……」
俺は大きくため息をついてリムペットガンとサプレスガンをしまった。
危うくアクアに怪我をさせるところだった。
「だって、普通に説明しちゃったら人を散々馬鹿にしたカズマに仕返しできないじゃない!聞いたわよー?お願いしますぅアクア様ぁ~、助けてぇストーム1~、って!アハハハ!!!」
大爆笑するアクアに対し、カズマは怒りで顔を真っ赤にしてプルプルと震えながらゆっくり立ち上がった。
「こんの、クソ女神……!!あとで覚えて……」
「あはは、面白かった!良い見せ物だったよ!」
と、怒り狂うカズマを遮ってパチパチという軽い拍手の音と共に2人の女性が姿を現した。
俺含めた全員がその声の方を見る。
拍手の主は身軽そうな格好をした、銀髪の少女。その隣には金髪の騎士風の装備を着込んだ女性が何故かプルプルと小刻みに震えながらわくわくした表情でこちらを見ている。
金髪の女性は昨日カズマと話をしていた女性だ。2人ともギルドにいたのだろうか。
そもそも今の一連のやり取りがギルド内では見せ物扱いだったのか。まぁ、血の惨劇を披露することにならなくてよかったが。
「君がダクネスが入りたがっているパーティのリーダー?ねぇ、ちょっと話しようよ!」
そう言うと銀髪の少女はカズマに近付く。ダクネスというのは金髪の女性の事だろうか?
……待て、パーティに入りたがっているだと?
「あ、あぁ……いいけど」
カズマは一瞬戸惑ったようだが、すぐさま冷静さを取り戻し了承した。
クリス視点
はぁ、良かった。
私は先輩の放った弾が無力なものであると分かりほっと胸をなでおろした。
本当、先輩は悪ふざけが過ぎるんだから……。
隣に座って見ているダクネスは公開人質プレイだ!と身を震わせながら息を荒くしている。
全くこの子も相変わらずね。
それより、あの銃を取り出したヘルメットを被った男。彼が気がかりだった。
先輩が送って来た人みたいだけど……何でかしら?他にも色々と危険な装備を持っているようね。
彼以外には使えないとしても注意が必要ね。色々情報を集めておいた方がよさそう。
そう思い私はダクネスと共に彼らの方へ向かっていった。