「ちょっとカズマ!!いい加減それ返しなさいよ!!」
アクアが声を震わせながらカズマの持つ自身の薄紫色の羽衣を指差し叫ぶ。
「ん~、どうしようかなぁ……」
先程の仕返しと言わんばかりにカズマは意地悪そうな顔をしながら考えるようなポーズをとる。
「このぉ!!」
そこからカズマとアクアの鬼ごっこが始まった。
徐々に人も増え始めてきたギルド内でよく恥ずかし気もなく出来るものだ。
それにしても、カズマが覚えたのは人の装備を奪うスキルなのだろうか?またすごいスキルを教わってきたものだな。
俺は少し感心しながらめぐみんと共にその様子を眺めていた。
俺達の前に現れた銀髪の軽装少女クリスと金髪の騎士風の女性ダクネス。彼女達と色々と話をすることになった。
主に身の上話であったが、クリスは先程アクアが勝手に使った俺の装備が気になったようで詳しく聞いてきたが、詳細に話しても通じないと思い適当に説明しておいた。
そんな話の中で先程のいざこざに至った経緯などを少し説明した所、クリスが格安でカズマに盗賊のスキルを教えてくれると言ったのだ。
なのでカズマとクリス、ダクネスは少しの間ギルドを離れていた。
少しして意気揚々とカズマが戻ってきたかと思えば突然アクアの近くへ行き、スティール!という掛け声と同時に、いつの間にかアクアの羽衣を奪い取ったのだ。
羽衣が奪えたのが意外だったのか、ラッキー!と奪った羽衣を天に掲げ振り回していた。
「はぁ、早速やってるよ……」
「流石!容赦がないな!!んっ……」
ギルドの戸を開け、このスキルを教えたであろうクリスとダクネスも帰ってきた。
心なしかクリスは涙目で落ち込んでおり、ダクネスは息を荒くしている。
2人はそのまま俺とめぐみんのいるテーブルまでやって来た。
「ぐすっ……バカズマ!!それはあんたの手には余る代物なのよ!!さっさと返しなさいよぉ!!」
鬼ごっこを繰り広げる2人も白熱してきたようだ。
アクアは半分ベソをかきながら未だにカズマを追い回している。
あの羽衣ってそんなに大切な物なのか?
「バカズマ?返しなさい?それが人に物を頼むときの言い方か?」
「う、うぅ……か、カズマ様。先程は私が悪かったです許してください。お願いします、ど、どうかそれを返してくださいぃ……」
悔しそうな表情をしながら土下座をして懇願するアクアを見てカズマは大変ご機嫌そうだ。
傍から見れば彼は完全に悪党だろうが、また何かの見せ物と思われているのだろうか?他のギルドにいる者達は何も言わず2人のやり取りを見ている。
カズマはよしよし、と頷きながらギルドの入口まで移動した。
「いいぜ!返してほしけりゃ返してやるよ!!そぉら!」
と、カズマは大声で言うと同時に羽衣を外へ投げ捨てた。
羽衣は風に乗ってひらひらと何処かへ舞っていくのが少しだけ確認できた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!待ってぇぇぇぇぇ!!!」
絶叫の後、アクアは物凄いスピードで羽衣を追いかけて外へ出て行った。
その姿を見てカズマはざまぁみろ、とほほ笑む。
「あーすっきりした!」
そう言うとカズマは俺達の方へ戻ってきた。
「ふむ、爆裂魔法には遠く及びませんが中々凄いスキルですね。驚きました」
「はは……窃盗スキルの成功率は使用者の幸運値に依存するから、彼は相当運が良いんだろうね」
めぐみんに褒められたクリスは苦笑いをした後、力無くそう答える。
「なぁどうしたんだ?君、大分さっきと調子が違うようだが……」
俺がクリスの様子を不思議に思い尋ねると、横にいるダクネスが口を開いた。
「うむ、クリスはカズマにパンツを剥がれた挙句、有り金を全て毟られて落ち込んでいるだけだ」
「何っ!?」
おいおいカズマ、君ってやつは。
流石にそれは色々と度が過ぎているんじゃ……。
「ちょっ!?あんた何口走ってんだ!?まぁ間違ってないけども、待ってくれ話を聞いてくれ、ストーム1!めぐみん!」
少し距離が離れた俺とめぐみんの軽蔑の視線を受けカズマはぶんぶんと手を振って弁解しようとする。
「はぁ、公の場でパンツ脱がされたくらいでめそめそしてちゃだめだよね!有り金も失っちゃったし、ちょっと私は稼ぎのいいクエストにでも出てくるよ!!」
気持ちを切り替えたらしいクリスが声を大きくしてそう言うとカズマは俺達だけではなく、周囲の冒険者達の鋭い視線も一身に浴びることになった。
宣言通り、クリスがクエストを行う仲間を探しに行った後。
「カズマ、何故ダクネスをパーティに加えないんだ?」
俺は同じテーブルに着いているダクネスをちらっと見た後カズマに尋ねる。
ダクネスはクリスと一緒には行かず、このテーブルに1人残った。
そして是非ともパーティに入れて欲しいと言ったのだ。
そういえば先程もパーティに入りたがっているとか何とか言っていた。
しかし、カズマは何故かいらない、と一言で切り捨てたのだ。
「本当に何でですか?クルセイダー何て断る理由がないです」
めぐみん曰くダクネスは上級職らしいし、加わってくれれば戦力の上昇は間違いないだろう。
カズマはしばらく何か考えるように下を向いた後、再び顔を上げた。
「いいか?この際だからめぐみんにも言っとくが、俺とアクアとストーム1は本気で魔王討伐を目標にしている。当然これからの冒険は過酷なものになるだろう。この世で最強の存在に喧嘩売ろうとしてるんだぜ?特にダクネス、お前はもし捕まりでもしたらどんな目に会うか……」
「望むところだ!!昔から魔王にエロい目に会わされるのは女騎士の役目と相場は決まっているからな!!任せてくれ!!」
バンッとテーブルを強く叩き立ち上がると、たくましくやる気を見せるダクネス。ちょっと発言がおかしい気もするがめぐみんも大概だ。気にはならない。
続けてめぐみんも椅子を蹴って立ち上がる。
「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操りし者!我を差し置き最強を名乗る魔王など恐るるに足りません!爆裂魔法で木っ端微塵に消し飛ばして見せましょう!!」
そう言うなり、いつも通りの謎のポーズを決めるめぐみん。
2人とも良いじゃないか、やる気があるのは何よりだ。
「カズマ、加入を認めてやろう。彼女は必ず俺達の力になってくれる」
何故か肩を落としているカズマに俺は提案した。
その時。
『緊急クエスト!緊急クエスト!!街の中にいる冒険者各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!!繰り返します……』
突然大声で鳴り響いたアナウンスに、俺はすかさず反応し席を立ち上がった。
この警報、明らかにただ事ではない。
この感覚はEDFでも幾度となく経験した。間違いないだろう。ついにこの街にも攻めて来たのか……魔王軍!!
「え?ちょっ、ストーム1?どこへ……」
めぐみんの話も聞かず俺はギルドの外を目指す。
「カァズゥマァァァァァァ……!!!あんたよくも、ぎゃっ!?」
ギルドを出る際、出入り口で羽衣を持ったアクアにぶつかった気がするがそれどころではない。
街中には慌てふためく一般市民が何処かへ避難しようとしているのが見える。
レーダーを起動すると大量の敵反応を検知した。
凄まじい大群だ。その数、200は優に超えているだろう。
「あっちか!!」
俺は逃げ惑う人々をローリングで躱しながらすぐさま反応のある方へと走り出す。
俺は誰よりも早く街の正門を抜け、その少し先で立ち止まった。
どうやら敵の大群はかなり遠方から向かってきているようだ。
「しかもこの反応、飛行型か!!」
経験上、蜂や飛ぶカエル、ドローンなど飛行型は決まって群れで行動し、危険な奴が多い。どんな敵が来るか分からないがこの数が一斉に街を襲うとなれば大惨事だ。
この世界にはロックオンできる武器や銃なんて物は存在しない為、地上からの攻撃は困難を極める事だろう。
……ならば俺がやるしかない!!
この街は、この世界は俺が守って見せる!!
俺は迎え撃つ準備を始めた。
カズマ視点
「何?って、言ってなかった?キャベツよキャベツ」
多くの冒険者達と正門へ向かう途中、何が起こったのか尋ねた俺に対しアクアはそう答えた。
「は?キャベツってなんだ?モンスターの名前か?」
「知らないのですか?緑で丸くて食べられるものです」
「あぁ、シャキシャキの歯ごたえがあって炒めたりするとおいしい野菜のことだ」
めぐみんとダクネスが丁寧に説明してくれたが、んなことは知っている。
ギルドは俺達に農作業でもやらせようってのか?
考えている内に正門の外へと到着した。
すると、少し先にさっき1人で飛び出していったストーム1の姿があった。
彼の足元には1メートル程の黒い箱のような物が置いてあり、その少し前方には発煙筒だろうか?赤い煙が上っているのが見える。
「ん?おぉ、皆来たか」
静かに平原の先を見据えていたストーム1はこちらに気付くと、そう言って俺の方へ駆け寄ってきた。
「ストーム1、俺達これからキャベツの収穫をするらしいんだけど……」
俺が良く分からないままアクア達に聞いた通りのことを説明するとストーム1は首を傾げた。
「混乱しているのか?心配するな、大多数は俺が片付ける……む、来るか!」
「皆、私の後ろに隠れろ!来るぞ!!」
ストーム1とダクネスが同時に前に出る。
一体何が来るんだ……?ていうかストーム1は何が来るのか知っているのだろうか?
と、平原の遥か彼方から緑色の何かが空を覆いつくさんばかりの大群で飛んでくるのが見えた。
……あれは、キャベツだ。間違いない。飛んでいるがまごうことなきキャベツだ。
「この世界のキャベツは飛ぶわ。収穫の時期になると食われて溜まるかと言わんばかりに海や草原を疾走するのよ!」
そのままどこかで息絶えるともったいないから収穫して食べてあげようって?本当にこの世界は訳が分からんな!
アクアの説明を受けた直後、冒険者達の後ろに待機しているギルドの受付が大声で説明を始めた。
「皆さん!今年もキャベツの収穫時期が」
『マーカー確認!!機銃掃射、開始!!!』
そんな受付の説明を遮るように、聞こえた見知らぬ男の声。
それはストーム1の無線機器から発せられていた。
え?何?機銃?
驚く暇もなく、上空に轟音を立てて高速で現れたのは世界観完全無視の戦闘機。
しかも2機が横一列になって、俺達の方へ向かってくるキャベツの群れの側面を横切るような進路で向かってきている。
おい、この光景何か見覚えあるぞ……。だけど前見たフォボスとかいうのとは形が違うような……。
と思ったのも束の間、突然地上に向けて機銃をぶっ放し始めた。
大口径の機銃から放たれる弾丸は地面を抉りとり、土埃を天高く巻き上げながら進路上にいるキャベツの群れを横切るとその大多数をバラバラに吹き飛ばした。
そのまま戦闘機2機はどこかへと飛び去って行った。
『攻撃完了だ。後は自分で何とかしろ!』
ストーム1の無線機から声が聞こえる。
「やるじゃないストーム1!!」
「おぉ……!あの召喚獣も凄い!かっこいい!!」
「な、何だあれは?魔獣か?見たこともないが……」
アクアとめぐみんが囃し立てる中、ダクネスを含めた他の冒険者たちは皆、口を開いて呆然と立ち尽くしている。
そりゃ初めて見ればこうなるだろうよ……。それにしてもなぁ。
俺はすぐにストーム1に小声で話しかける。
「な、なぁ。キャベツ獲るだけの為にわざわざ戦闘機呼ぶ必要あったのか?」
「カズマ、油断するな!まだ来るぞ!!」
俺の問いを華麗にスルーしたストーム1は残っているキャベツ達を指さす。
残ったキャベツ達、数は少なくなったといってもまだ100匹近くは居るだろうか?
何が起こったのかわからないといった風に慌てた様子ではあるが、相変わらずこちらへ向かってきている。
するとストーム1は持っていた小型装置のスイッチを押した。
ピッという起動音がすると、ストーム1の足元にあった箱が変形し始める。
三脚のような足が生えたかと思えば側面には銃身が姿を見せた。
変形が完了した箱は、すぐさま自動で飛んでくるキャベツ達に狙いをつけると弾丸を連射し始めた。
あぁ……これは俺もゲームで見たことがある。自動で目標を攻撃するセントリーガンという奴だ。
よく見れば左右少し離れた場所にも1つずつ、計3つのセントリーガンがあった。
次々とキャベツ達を撃ち落としていくセントリーガンを見て何だこりゃと冒険者の何人かが恐る恐る近付こうとする。
「それに近づくな!怪我をするぞ!!」
ストーム1の注意を受け、近づこうとしたものは一斉に下がった。
いや、絶対怪我じゃすまないだろ。
『ビークル、投下!!』
再びストーム1の無線機から声がする。
今度は何だ!?そう思ったとき、ストーム1の目の前に巨大な鉄のコンテナが降ってきた。
「うおっ!?」
俺は思わず後ずさりする。
上を見上げるとコンテナを持ってきたと思われる輸送機がどこかへ飛んでいくのが見えた。
コンテナには大きな白い文字で「EDF」と印字されている。……確かストーム1が所属してたとかいう軍の名前だったか?
するとどういうわけかコンテナが跡形もなく消え去ったと思えば、これまた物騒な発射装置のような物を付けた車両が姿を現した。
これも見たことがある。自走ミサイル砲という奴だ。
……流石にやりすぎだろ。
「カズマ!本隊は俺が引き受ける!!撃ち漏らしは頼んだぞ!!」
俺の肩をポンと軽く叩いた後、グッと親指を立てサムズアップしたストーム1は素早く車両に乗り込んだ。
「ネグリング自走ミサイル、発進する!!うおおぉぉぉ!!!」
雄叫びを上げた後、迫りくるキャベツ達の方へ発進したストーム1はキャベツを追尾するミサイルを撃ちまくっていた。
取り残された冒険者たちは依然、案山子の如く立ち尽くしていた。
「え、えっと……今年のキャベツは出来が良いので、1玉1万エリスで買い取りまーす……」
誰も声を発さない中、ハッと思い出したかのように受付が全員に告げた。
それを聞くと他の冒険者達も生気が戻ったように一斉に動き出した。
「くそっ!あいつの魔術か?見たこともねぇのに驚いて固まっちまった!!」
「ちょっと!それあたしが狙ってたやつ!!」
「全部あいつに獲られちまう!!急げ!!」
冒険達は皆、ストーム1に負けじとキャベツへ向かっていく。
少々出遅れて俺もキャベツを集め始めた。
ストーム1は何故かキャベツを倒してもほとんど拾っていない。
つまり!落ちているキャベツを拾えば俺は飛んでいるキャベツを倒さずとも報酬を受け取れるというわけだ!!我ながら何というナイスアイデア!!
「あらー?カズマさん?ようやく集め始めたの?遅すぎじゃない?」
すると前から背負った籠をキャベツで一杯にしたアクアとめぐみんがやってきた。
え、こいつらまさか……。
「皆さん何故か動かないのでストーム1が倒してくれたキャベツを拾いたい放題でした」
めぐみんはこちらに笑顔でピースしてくる。
すると2人は頑張ってねー、と手を振り受付のいる方へ歩いて行った。
くそっ!!あいつらにはぜってー負けたくねぇ!!
俺は闘志を燃やし……
ん?あれ?そういえば、ダクネスはどうした?さっき向かっていった冒険者達の中にもいなかったと思うが。
「ぐっ!ふぅ……す、すごい!これは確かに、怪我を……あぁっ!!」
ふと声のする方を向けばセントリーガンの前で恍惚の表情を浮かべながら弾丸を浴び、身をよじらせているダクネスを見つけた。
よし、キャベツを集めよう。
一瞬目を疑ったが何も見なかったことにして俺は必死にキャベツを集め始めた。