無限の世界のプレイ日記   作:黒矢

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前回のあらすじ:大体【陰陽頭】のせい(娘視点

特典武具がなければジョブも一つ目、エンブリオだってまだ第三形態でしかないんだ。
きっとすぐに書き終わってエピローグを掛けるさ! そんな風に考えていた時期が(略
申し訳ない、前回ラストとか言っておいて分割する羽目に……
そ、それでは本編をどうぞ!


第十話 武闘大会・出会いと決着

□<大白宮・闘技場>決闘場 【退魔師】ジーニアス

 

『――それでは、これより“若葉の乱”大白宮の部、決勝戦を始めたいと思います!』

 

『未だ熟さぬ若き武芸者によるこの大会でしたが、まさかその決勝戦に残った二人が、揃って参加者の中でも幼い二人だったとは誰が予想できたでしょう?』

 

『しかし、双方その実力は今までの試合の中で如実に示されている、真の武士(もののふ)であると断言できるでしょう!』

 

『そして、今その強者たる二人の戦いが始まろうとしています。これが新たなる時代の幕開けとなるのでしょうか――!』

 

『観客の皆様方はどうかその決着を見逃さない様、お願いしたい所です。それでは、“若葉の乱”大白宮の部、決勝戦!』

 

『東の門! 【退魔師】ジーニアス、対、西の門! 【剣武者】カシミヤです!』

 

 

 

 司会のその声に入場口から決闘場に入ると同時に、闘技場の観客席と言う観客席から歓声が巻き起こる。

 常日頃からこの闘技場で鎬を削っている猛者達に比べると圧倒的に実力(レベル)が低いであろう自分達の戦いにこれ程盛り上がってくれるのは何処か面映ゆい気持ちになってしまう。

 この歓声の理由は自分の容姿か、それとも物珍しい<マスター>だからか、もし今まで戦ってきた実力からだったならば嬉しいのだけど。

 試合開始位置まで歩いていく途中、そんな事を考えながら――対戦相手の少年と対峙する。

 

 

 

 ――その立ち姿、一切の淀みや揺らぎなし。

 ――大歓声を受けて尚、研ぎ澄まされ続けている視線は無関心故……ではなく、極限の精神集中による賜物。

 ――腰に三本差された鞘から未だ剣を抜かず、此方を見やっているだけだというのに突き刺さる程に感じられる鋭い剣気。

 ――その左手にはエンブリオの紋章が煌めいており、少年の傍には二本の異質な存在感を放つ鎖が侍っている。

 

 

 対峙しているだけで感じられるこの威圧感。

 位階(レベル)能力値(ステータス)技術(スキル)による物ではないこれは、恐らくはただの相手の気迫の表れなのだろうと思う。

 相手の容姿を……僕と同じ程度の年齢の少年である事を感じさせぬ程卓越されたそれはまさしく希代の剣士のもの。

 

 ……キャラメイクが可能なこの<Infinite Dendrogram>で相手の容姿から本来(リアル)の年齢を計る事はできないから、本当に少年かどうかは分からないけれど。

 直前の試合の少女の並外れた技量を思えば、実際にそれくらいの少年の可能性だって十分あるかもしれない。

 リアルとは離れたキャラメイクをするほどに感覚はずれて戦い辛くなる(と、烏丸達が言ってた)らしいので、そこまでかけ離れてはいないかもしれない、と思う事にした。

 

 

「まさか、このゲームの大会でこれほどの達人に見えるとは思わなかったよ。その鎖がエンブリオかな?」

「その答えはすぐにでも分かる事です。それに――その台詞は此方の物なのです」

「うん……?」

 

 軽口に鸚鵡返しされ、はてと考える。

 自分は目の前の少年相手に達人、と言われる程の物かというと……

 

 

「具体的に言葉にできる訳ではないのです。しかし――ひしひしと伝わってきてますよ。この大会を勝ち抜いてきた自負が」

「それに、僕の“直感”が。貴方は強いだろうと。今までの相手と比較しても間違いなく強いと」

 

 

「……それは嬉しいね。これは恥ずかしい戦いができなくなっちゃうね?」

「ええ、勿論です。だから――」

 

 ――互いに全力で、すべてを出し切って戦い合いましょう。

 

 

 そう言い、僕と同じ様に(・・・・・・)不敵な笑みを浮かべながら――互いに構える。

 

 カシミヤは鞘に手を添え、何時でもその剣閃を抜き放てるように。鎖は独りでに動き出し、残る鞘に絡みつく。

 此方は剣を抜き放ち、全身で魔力を励起し何時でもスキルを放つ準備も万全。

 

 

 

 ――本当にこの大会に出て良かった。今までの試合もそうだったけど、これほどの相手と戦い合えるだなんて。

 

 

 第一回戦、その圧力からしても明らかに能力値(ステータス)が格上だった<マスター>の相手。

 一撃にて勝敗は決まったけど、あの初撃に失敗していれば相手も1ヶ月モンスターとの戦闘を行ってきた猛者だ。そのまま決定打を与えられず負けていたかもしれない。

 

 第二回戦、現地人たるティアンの少女。その年齢に似付かわしくない剣の鋭さ。

 まだこの世界で剣を握り、一ヵ月しか経ってないとはいえ――あの年齢で自分と対等以上の技量を持つ彼女との戦いで得られた物は非常に多かった。

 不意にあちらのミスで試合が終わってなければ、まだ学べる事は沢山あっただろう。試したい事だって。

 

 そして、この決勝戦。先の彼女と比べても数段は上の実力を誇るであろう天性の剣聖……というのはジョブにあったか。

 血沸き肉躍る。そう、まるでこのゲームを始める前に公式サイトで天地のPVを見た時の様に――!!

 

 

 

『両者のルール確認――完了しました! 《封鎖結界》、展開されます!』

 

『それでは、尋常に――試合、始めェ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初手の《透魔閃》による牽制――動じる事なく回避される。

 それを囮に接近しようとするも、相手の剣速の鋭さ、隙の無さに数合撃ち合うのが限度という有様。

 慌てて首筋を狙った《閃》の一撃を防ぎ、距離を取るも相手は余裕を崩さず此方を待ち構える姿勢だ。

 

 

 (遠距離攻撃手段のない【剣武者】だって言うのに、こんなに隙がないなんて……)

 

 

 前述の様な剣戟を数度繰り返しながらも、活路が見出せなかった相手に途方に暮れてしまう。

 

 【剣武者(ソード・サムライ)】――パーティを組んで狩りをしていた烏丸が就いていたジョブなのでそのステータス、スキル等は殆ど予測がついているというのに。

 【武士(サムライ)】の派生下級職である、刀剣の扱いに特化したジョブの一つ。

 スキルは剣術、抜刀術に偏っており、パッシブスキルにも刀剣類を装備している際に攻撃力が上がる等の分かりやすい基本スキルや、変わった所では自分の刀剣による攻撃を防御できなかった時に相手のENDを減算して攻撃を行う《剣速徹し》という物もある。

 アクティブスキルでは納刀状態でのみ、範囲内に敵が入ってきた時に自身のAGIを2倍にする《居合い》やAGIを1.5倍にして攻撃を行うという攻撃スキル、《閃》と言ったAGIに特化した物がある。

 そのステータスも【武士】を若干AGI寄りにした程度の物理型ステータスをしているのだが――

 

 

 (つまり、そのジョブを完全に使いこなしたら“こう”なるって訳だね!)

 

 迂闊に踏み込めば《居合い》によってその鋭い剣閃が想像以上の速度を持って襲い掛かり。

 

 スキルとエンブリオにより、通常時のステータスはAGIすらもこちらが僅かに上回っている筈なのに、打ち合いとなればその剣筋に不意に《閃》を交えてペースを握ろうとしてくる。

 

 それだけではない。二人の間で殺陣を行う間にも、隙を見て鞘に収まったままの刀を引き抜き《居合い》で更に高まった速度を持って命を刈り取ろうとしてくる。

 手を離した剣であっても、その鎖がまるで第三第四の腕かの様に再び刀を鞘に納め、《居合い》の隙を最小限に留めていく。

 

 STRの差を活かし鍔迫り合いに持ち込もうとしても、互いにある技量の差がそれを許さない。……直前の少女との試合がなければ、既にこの首を断たれていたかもしれない程だ。

 

 遠距離攻撃が不可能だという弱点を突こうとしたって、音速には程遠い《透魔閃》も《魔弾》も容易く回避されてしまう。これ以上繰り返したってこちらのMPが無駄に減っていくだけ。

  

 ――本当に、強い。

 

 生まれ持った才だけではない。リアルで長い時間積み重ねられた研鑽。この世界における能力値(ステータス)もスキルも利用し、モンスター相手であっても剣のみで戦い適応させてきたのだろう。

 

 対して自分は、才はあるだろう、技だって、この一ヵ月モンスターと、【小鬼英雄】等の人型のモンスターとだって戦ってきたその力は大した知性のないモンスターや素人と変わらぬ程度の<マスター>であれば容易く首を狙える程度には習熟している。

 ――当然の様に存在する技量の差。むしろ、たった一ヵ月で自分の前に立つあの剣豪を相手して、未だに直撃を貰っていない己を褒めてもいいのでは?

 そう思考の片隅で考えながらも、判断を下す。

 

 

 

 ――この相手に正道でやり合っても、勝ち目は万に一つ程度しかないだろう。

 ――だからこれからは……今まで秘していた、曲芸に付き合って貰おう、と。

 

 

 

 

「……行くよっ!」

「何時でもどうぞ」

 

 幾度もの剣劇の後……再度、ジーニアスから動き、カシミヤへ斬りかからんとする。

 それは予定調和の様にカシミヤに迎撃され、至近距離での乱戦へと移行した。

 形勢はジーニアス不利。双方この戦いを勝ち抜いてきた高い実力を見せているが……その剣の技量という一点を見れば、素人の観客であろうともどちらがより優れているかは明白だった。

 片方の一撃は容易に防がれ、もう片方の一撃は鋭く防ぐのみで精一杯。今は剣の打ち合いが成立しているが、疲労やダメージが蓄積して来たらその天秤は直ぐにカシミヤに傾く事になるだろう。

 だが――

 

 

『《透魔閃》』

「――な、くっ!?」

 

 

 剣戟の最中、意識の外から――その手に握った直剣ではなく、微細な移動の際に動かされた膝から放たれた(・・・・・・・)《透魔閃》が直撃してしまい、体勢を崩す。

 そのカシミヤを狙う追撃の一撃――は主を守るように動いた鎖が堰き止める。

 

 第三形態のアームズ(武装型エンブリオ)に相応しい硬度と耐久力を持ったその鎖を砕く事も出来ずに、この試合が始まって初めてカシミヤから距離を取る事になった。

 

 

「……今のは流石に効きました。エンブリオの力ですか?」

「企業秘密、だよ。僕が勝ったら教えても良いけど?」

「それは残念です……聞き出せないのなら、自分で暴くのみ、です」

 

 

 ――当然、今の摩訶不思議な一撃は彼の……ジーニアスのエンブリオ、【至光天 アダムカドモン】による物だった。

 いかなる絡繰りで不意の一撃を見舞ったのか? その答えは――第三形態の進化により習得した新たなスキル、《全主権限》である。

 

全主権限(オールド・オーダー)》:パッシブスキル。

 自身が所持、習得しているすべてのスキルの使用制限を無視して使用する事ができる。

 【スキル封印】とそれに類する状態異常に対する完全耐性を得る。

 

 

 一見すると、すべてのジョブ毎の系統別スキルを分け隔てなく汎用スキルの様にメインジョブに関わらず使用可能となるスキルであると読み取れる。

 実際に、様々なジョブの系統別スキルを別々に使用できる事で思わぬシナジーを発揮する事も、確かにあるのかもしれないと想像できる。

 しかし、様々なジョブの系統別スキルを習得するという事は自分が就くジョブの傾向が別れてしまう事になるだろう。

 それではスキルもステータスも一つの事柄に特化する事は難しく、所謂浅く広く、という器用貧乏になってしまう他ない。

 そうでなくてもこの世界に生きるティアンも<マスター>も、自分が就くジョブを確と熟考して無駄がないように就く者が多い。

 自分が最終的に目指すメインジョブ、そのジョブで使用可能な系統のスキルを習得できるジョブを重点的に目指し、他にも汎用スキルを多く取得する【斥候】や【冒険者】と言ったジョブも利用して、制限によって使用できないスキルの“無駄”を極力なくして自らの糧としているのだ。

 その“無駄”を組み合わせられる。確かに組み合わせ次第では強い力になるかもしれない……が、それではこのスキルはそんな直接的にはリソースの得られないスキルなのか? と言えば――そうではないのだ。

 

 所持、習得しているすべてのスキルの使用制限を無視して使用する。

 その使用制限とは即ち系統別スキルのメインジョブの制限、だけではなく(・・・・・・)

 例えば、そう――武器の使用制限。

 武器を振るって魔力を乗せた斬撃を飛ばす《透魔閃》を始めとした攻撃用のアクティブスキルを――あらゆる攻撃動作を起点として使用できる様にしたり。

 攻撃動作――腕を、脚を動かす事は勿論、頭突き、体当たり、デコピンと言ったあらゆる動作に、だ。

 

 つまり、彼は……二人の剣戟の最中に行われた些細な足の動き、それだけでアクティブスキルを発動できる。

 勿論、攻撃動作として成立させる為に多少は意識的に膝を持ち上げて膝蹴りの様な形にはなっていたのだが、この程度の小細工(曲芸)なら幾らでも差し込む事が出来る。

 一対一での白兵戦を行う時、これがどれだけの手数を生み、どれだけ不意を打てるというのか――

 

 (彼女(春香)との戦いでは、試す前に試合が終わっちゃったけど――うん、これは使えるね)

 

 そう考えているジーニアスも、この曲芸を身に付けたのはデンドロ内時間で武闘大会の前日の事であった。

 そもそも、《全主権限》を習得したのだって狩りの途中。それから大会に向けての準備に忙しい彼に十分な練習の時間はなかったのだが……それでも危なげなくこの曲芸を成功させたのは彼の技術が為せる技か、それとも生まれ持った才能か。

 

 

「さて、次――!」

「……ッ!」

 

 

 戦闘技術で勝っていた状況からの、不意打ちによる一撃、そして形勢の逆転。

 観客の殆どは今の攻防の全貌は掴めなかったが、それは理解する事ができた。

 

 そして、再びジーニアスから、遠距離の相手には打つ手の無いカシミヤへ斬りかかっていく。

 既にそこからのやり取りは今まで何度も繰り返した通り。

 しかし、剣と剣の打ち合いの乱戦となった時、再びジーニアスの不意の一撃があるだろうし、だからと言ってここまで勝ち進んできた彼が今更油断慢心で手を緩める訳もなし。

 これは決まったかと、観客が口々に囁き合う中、またしても超至近距離から、それも相手の死角から放たれた不意の《透魔閃》の一撃が――

 

『《鮫兎無歩(コートムーブ)》』

 

 ずれる(・・・)

 不可避だった筈の一撃が、音もなく、足を動かす事もなくにゆらりとその位置だけを動かしたカシミヤに紙一重で回避される。

 その一撃を繰り出す為に、極小さくも確かな隙を生み出したジーニアスに、返す刃で刀が振り抜かれる。

 

「なッ!」

「……チッ」

 

 しかし、防具である軽鎧(プロテクター)の質が良かったのか致命打には程遠い。隙を突く事を重視していた為致命部位を狙えなかったのが痛かったか。

 その間にジーニアスはまたもや距離を取る事になる。

 その顔には僅かに驚愕と困惑の表情が浮かんでいるのが見て取れる。

 

 

「……避けられる様な一撃じゃなかった筈なんだけど、まさかその鎖のエンブリオで何かしたの?」

「ふふ……企業秘密、ですよ?」

「それはそうだよねっ!?」

 

 

 

 ――当然、その一幕を為した移動術も彼……カシミヤのエンブリオ、【自在抜刀 イナバ】の仕業だった。

 抜刀補助に特化されたスキル特化型エンブリオである【自在抜刀 イナバ】が第三形態である現時点で習得しているスキルは《思動操鎖》《鮫兎無歩(コートムーブ)》《刹刃圏(セーフゾーン)》の三つである。

 

 その種は最初から使用している、エンブリオ本体である鎖を操作するスキル《思動操鎖》、ではなく。

 残りのスキル……《鮫兎無歩(コートムーブ)》《刹刃圏(セーフゾーン)》の二つにあった。

 

 《鮫兎無歩(コートムーブ)》――それはテリトリー系列に属するアクティブスキルで、カシミヤの足元に特殊な魔法陣を配し、その魔法陣により自身のAGIと等速で移動できる、というものだ。

 加速も瞬間移動もせず、ただ自分のAGIと等速で移動する、とだけ聞くとスキル特化型エンブリオの固有スキルとしては控えめに思えるが――そのエンブリオのマスター(持ち主)がそうはさせない。

 体勢も、現在の自身の状態も、空気抵抗も、慣性も何もかも無視して移動するそのスキルをカシミヤは殊の外気に入っている。

 抜刀の姿勢を維持したまま接近する事にも、斬撃に合わせてこのスキルで“前進”する事で相手に深手を与える事もある。

 それだけではなく、奇襲にも即応して方向転換する事や至近距離での斬り合いの最中の微細な位置調整にも役立ち、体格や質量差から弾き飛ばされる、その際の慣性を無効化して即座に反撃した事だってある。

 

 《刹刃圏(セーフゾーン)》は前者二つのスキルと比べ、分かりやすく使い易く強力なスキルだとカシミヤは評する。

 純粋にテリトリー系列に属するそのスキルの効果は至って単純で、自分を中心とした一定の範囲内の存在を知覚する索敵・感知結界だ。

 特に優秀なのはその燃費。《居合い(半径2m)》圏内の展開であれば、自然回復速度以下の消費MPで展開し続けられる為、常時展開しておけば《鮫兎無歩(コートムーブ)》も併用する事で不意打ちやバックアタックに対して万全の体勢で迎撃する事も出来る。

 その精度・範囲を消費MP次第である程度変更する事も可能であり、狩りの時は範囲を広げてモンスターの索敵にも使用するのだが――今回の様に、精度を最大まで高める事で対戦相手(ジーニアス)のスキルの発動を瞬時に察知し、どの様な体勢であっても《鮫兎無歩(コートムーブ)》を使用して回避する事を可能ともしていた。

 

 ――互いの距離と、AGI次第ではあっても……回避、できましたね。

 

 華麗に回避し、反撃した様に見えたカシミヤだったが、その内心では冷や汗をかかされている。

 己の感覚では今の一幕の回避は本当に紙一重だった。後僅かにでも距離が近ければ、AGIに差があれば回避し切れず反撃もままならなかったかもしれない。

 それを加味して次撃からの太刀筋を頭の中で組み立てなければならない。……そもそも、感知結界を展開しているとは言え、スキルを放たれたのを感知してからそれが自身に命中するまでの極々短時間に超速で反応し、更にもう一つのスキルを使用して回避・反撃を行うなどそう簡単には為せぬ神業であるのだが、そんな事を思考している余裕はない。

 戦況はまだ五分と五分。曲芸には曲芸を以て対抗したが――対応できなければ一方的に敗北を喫したかもしれないのだ。

 当然、油断も慢心もできる筈がない。

 むしろ

 

 ――本当に、期待、以上です。まさか、ここまでとは…………!

 

 歓喜。

 自分と同格、いやもしくはそれ以上の強敵(とも)を、この大舞台の決勝戦で見つける事が出来ようとは。

 勝ちたい、と今まで以上にそう思う。

 

 互いにそう思っている(・・・・・・・・・・)のだ。

 

 ならば、決着は――――

 

 

 

 

 

 

 

 一進一退の互角の攻防が続く。

 

 わざと軽鎧(プロテクター)の厚い部位で一撃を受け止め、体勢を崩しながらも剣も振らずに再度至近距離で《透魔閃》も放つも、ギリギリで滑るように後退して薄皮一枚に留まる。

 

 《鮫兎無歩》で攻め気に吶喊するも、軽く足で地面を音を立てて蹴ったその《斬魔剣》の衝撃が闘技場の床を砕き無数の石礫となって迎撃される。

 

 即応できる距離を維持して剣戟となっても、魔法のスキルを呟いたかと思えば前足と腹部と逆手、三か所から僅かにタイミングをずらして《魔弾》が射出され、回避は不可能と悟り【イナバ】で撃ち落とし、一発直撃してしまったがついでとばかりに鎖を横薙ぎに叩きつける。

 

 

 双方少しずつ、確実にダメージを重ねながらも……勝負の行方は互角のままであった。

 

 エンブリオの特異性、共に他のエンブリオに見られるような派手で目立つ能力こそなくともそれらに劣らぬ優位性を見せ。

 

 ステータスはジーニアスが勝りはするが、戦闘用のスキルに置いて【剣武者】は【退魔師】のそれを凌駕する。

 

 白兵戦闘技術においてはカシミヤが上回っているが、装備の質と片方が持ち得ぬ遠距離攻撃によってそれを埋められる。

 

 気迫を以て気迫を制し、才を以て才を踏破する。

 

 もはや一般の観客だけではなく、熟練の武芸者ですら勝負の行方が分からなくなる程の熱戦。

 その勝敗を決する決め手となったのは――

 

 

 

 

 

 

「「――ふっ!」」

 

 

 剣戟のやり取りの後、またしても互いに距離を取る。

 若干の距離を保ちながらも、相手が何時どの様に行動しても対応出来る様に神経を研ぎ澄ます。

 

 汗が零れ落ちる程度の僅かな時間、見つめ合いながらも相手の隙を伺い――

 

 

 (――魔法! また《魔弾》ですかっ!)

 

 

 ジーニアスの身体に魔力(MP)が集う。

 腕や杖と言った魔法の発動体たる発射器官を起点としてしか魔法スキルを使用できない、という通常の【魔術師】にある様な制限(・・)を無視して全身の何処からでも魔法を発射できる彼の事だ。

 どの様な奇想天外な魔法の使い方をするか分からない。

 《鮫兎無歩》を展開し、警戒しながら即座に回避行動を行なえる様に用意を――

 

 

「――――《退魔、封印》ッ!!」

「なっ、これは……!」

 

 (不味い……ッ!?)

 

 身体が重くなるその感覚。

 

 此方を警戒してかそれまで使用してこなかったその魔法スキル……弱体化魔法(・・・・・)を無防備に受けてしまう。

 MPも低くレジストの手段もないカシミヤが抵抗できる筈がなく、その効果を受ける。

 ステータスの減少値は1割にも満たない程の僅かな弱体化――しかし、微妙なその違いに僅かながらも確実に己の感覚はずれ、反応も遅くなり力は落ちる。

 

 それはこの互角であった天秤を崩すのに十分な効果を発揮するだろう。

 

 

 (……失敗してしまいました。《魔弾》に気を取られず、接近し続けなければならなかったのですね)

 

 その想像を裏付ける様に、今までは若干ながらも優勢気味であった接近戦であっても、互角、いや劣勢となってしまう。

 このザマで彼の曲芸染みたアクティブスキルを回避できるだろうか。

 

 

 (……いえ、悔しいですけど、良かったです。この試合、楽しかったですから――)

 

 

 

 

 

 決着。

 

 

 

 勝者は、“若葉の乱”大白宮の部、優勝は……幼き【退魔師】のマスター。

 

 ジーニアスと決定した――――

 

 

 

To Be Continued…………

 

 




ステータスが更新されました――――

《思動操鎖》:
 手も触れずにエンブリオである本体、【イナバ】を自由自在に動かすスキルにして初期習得の基本スキル。
 その速度(AGI)精密性(DEX)はマスターのそれと同期しており、強度(STR)硬度(END)耐久力(HP)は到達形態のそれに準じる。
 鎖の本数だけ装備可能部位も増える。《意無刃》同様悪用できそうな仕様だがマスターがカシミヤなので……

刹刃圏(セーフゾーン)》:アクティブスキル
 ステ補正の低い抜刀補助スキル特化なんだから他にも複数固有スキル持ってる筈、という作者の妄想の産物。
 一言で言えば“円”。燃費が良かったり調節が容易だったりするが基本はそれだけ。
 背面奇襲(バックアタック)? 諦めた方がいいのでは。

全主権限(オールド・オーダー)》:
 【ネメシス】の《復讐》レベルで【アダムカドモン】のメインウェポン。
 応用すれば《レーザーブレード》がオーラタックルに、《五月雨矢羽》が百裂拳に、《斬魔剣》が破魔の矢になったりする。
 ……普通にそれが出来るスキルもある様な気がするけど気にしない。奇襲性能は高いし。
 また、魔法発射の制限もなくなる為、目からビームとか魔法を尻から出す事もできるとか。
 余談ではあるが、ここまで自由自在なスキルの行使を可能とするのは制限の無効化という効果だけではなく、TYPE:ボディとしての特性も関係しているらしい……


 ……すみませんすみません投石は一人一つまででお願いします(退避

 言い訳の様な物ではありますが……今回、勝敗を分けたのは“知識”の差です。
 ジーニアスに【剣武者】に対する知識がなければ、カシミヤに【退魔師】に関する知識があれば、あるいはこの直後に再戦した場合……十中八九カシミヤの勝利に終わるでしょう。
 SPの消費を度外視して《鮫兎無歩》を交えて距離を取るのを許さず接近戦を続ければ、戦闘技術の差によって押し切られていた事でしょう。
 時期的にまだ自分が習得しているジョブか一部の関連ジョブ、組んだ相手のジョブかもしくは超有名ジョブ(【戦士】【魔術師】等)以外の情報なんてろくに集められていないでしょうし。
 ……と、そんな言い訳をしつつもここまで。
 次回! エピローグ的な短いのを明日投稿予定です!
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