そんな訳で分割分後編!
それでは本編をどうぞ!
7月26日(日)
今日の一日、武闘大会が本当に濃くって、久しぶりに日記を書いている気分になってしまうかの様だ。
武闘大会については……うん、詳しく記載すると感動が薄れそうだから今日は簡潔にでも良いかな。
結果として、僕はこの大白宮での武闘大会に優勝した。予想以上の戦果に僕もコテツもにっこり。
どの対戦相手も本当に強くて勝利と言う結果以上に得られた物がある気がする。……コテツに作ってもらった武具がなければ確実に負けていた、と言えるくらいに活躍したから優勝賞金の内幾らかは後でこっそりコテツに渡しておこうと思う。
ちなみに、この大会で得られた賞金は優勝賞金である300万リルと……参加賞である【若葉】シリーズの防具一式だった。
【若葉】シリーズはこの天地において低レベル帯で重宝されている防具で、軽く防御力もそこそこ高く、動きやすい上に丈夫に出来ている。更にその上一式で装備する事でHPとSPとMPを固定値で増加させるスキルも付与される優秀な装備で、一式で揃えれば市場価格も約10万リルとなる代物、らしいんだけど……
……うん、コテツが作ってくれた防具ほどではなかったね。
確かに部分部分では片方が勝っていたり、互換できる程度ではあったんだけど、わざわざ変える程ではないという本当に微妙なラインは運命の悪戯を感じたよ……
多分使わないから素材か参考かにでも使えそうなコテツに後で一緒に渡しておこうと思う。他の人はこれも凄い嬉しいのだろうから複雑な気分だ……
賞金と言えばこの武闘大会の予選敗退の人は参加賞の他に闘技場利用の為のチケットを貰っていたけれど、本戦出場組は参加賞とは別に――その夜の宴に招かれる事になった。
まさか何か挨拶とかさせられるのでは……と考えたけど、特にそういう事はなく夕餉と歓談を楽しんで本戦出場者を労わう為だけの物だった。ちょっと安心した。
宴の席には僕を含めて本戦出場の八人全員が出席していた。知り合いと言えるのは烏丸と直接試合をした仲の人だけだったので少し緊張したけど、本当に何らかの催しとかなくて良かったと思う。
大白宮大名の人のお抱えのシェフの自慢の料理に舌鼓を打って、試合をした人達と軽く歓談をした後武闘大会の責任者……つまり、大名その人に個人的に軽く挨拶をして、本当にそれで宴は終了した。
本戦出場組の唯一のティアンにして、宴の主催者の娘でもある西白寺春香さんは最初は少し睨みながら絡んで来たけど、宴が終わる頃には僕とも、他の<マスター>の人とも打ち解けていた。
ギルドに居る様な常日頃から<マスター>と関わる業務を請け負っているティアン以外、<マスター>に対してある種の偏見を持っている人が多いのだけど、どうやら彼女は比較的偏見がない方で(もしかしたら大会の影響かもしれないけど)物怖じせずに接してくれて嬉しかった。
宴での出来事は本当にそれだけだったけど――なんと、本戦出場組で最年長(多分)だった明さんに言われて全員でフレンドリストに登録し合う事になった。
ここ数日でこんなに増える事になるとは思わなかったよ……!
あと、決勝戦で戦った子、カシミヤは試合中に予想していた通り、リアルでの年齢も凡そ僕と同程度であったらしい。
今度また決闘をする約束をして別れる事になった。……個人的に再戦は楽しみでもあるんだけど、今回勝利出来たのだって運の要素が大きかった様に思う。……精進しなきゃ。
兎も角、今回の大会は本当に実りが多い物となった。けれど、これに弛まずにまずは――次のジョブに就いて、もっと強くならないとなぁ。
追記:
ふと気付いたら、もしかしたらカシミヤと春香さんは初めての同年代の友達って奴なんじゃないかな!?
こんな形で友達が出来るなんて思わなかったよ……!あ、いやインターネット上での友達ってどう言えばいいんだろう!?
◇◆◇
□■天地・慶都某所 高級料亭のとある一室にて
天地中を一時騒がした新人専門武闘大会、“若葉の乱”も終わり早数日。
既に天地の民の皆々はティアンも、勿論マスターも今まで通りの日常に戻りつつあった。
時たまに武闘大会での勝利や惜敗を肴に語らい合ったり、絆を深めたりする者がいたり、所々で話題に上る事もあるが、既にそれは過去の事。
それでなくても今この御時世は<マスター>の増加からまだ一ヵ月と少ししか経っていないのだ。
天地は勿論、七大国も、それ以外でだって毎日の様に新たな話題が生じては消えて行く、激動の時代。
そんな折に、天地随一の中立都市、慶都の某所、有数の料亭の一室に、彼らは居た。
妙齢の美女が。厳めしき雰囲気の老人が。全身黒づくめの隠密が。微笑を絶やさぬ少年が。
儚げな空気を纏う少女が。神経質そうな青年が。青き肌をした異形の亜人が。怪しげな壮年が。
他にも、他にも、他にも……総勢で十数名にもなる、様相も年齢も性別もバラバラなおかしげな集団が、その一室で所狭しと並び座っていた。
一見しただけではまるで共通点が見出させなさそうなその集団。しかし……料理を運び給仕に来た女中は青い顔をして料理を並べ最低限の仕事をした後、さっさと退散してしまう。
彼女も天地のこの高級料亭で働いてるだけあり、経験豊富で明るく物怖じしない人気者なのだが……それも仕方ないだろう。
「んん、こうして集まるのは久しぶりでござるなぁ!」
「おい、なんだその変てこな口調は……?」「<ますたぁ>に教えて貰ったのでござるよ! ウケが良いでござるからな!」
「ちょっと、それよりもこの横にいる奴の匂いどうにかならんの? 臭くてかなわんわ」
「あン? てめぇ種の特徴に文句付けるたぁいい度胸じゃねェかぶっ殺されてェのか!?」
「声が五月蠅いですよ。貴方から先に首を獲ってあげましょうか?」
「あ、あの皆さん。少し落ち着いて……」
「そうだそうだ。やるならルール決めてついでに客も呼んでド派手な場所でだなー」
「煽るな騒ぎを大きくするな争うなそこォ!」「むぅん…………」
喧々諤々と旧知の仲の様に騒ぐ彼らからはその様子に見合わぬ程の“圧”が放たれているのだから。
何故なら、この場にいる全員が――【
【
――そう。全員がこの世界における絶対なる超越者の証である超級職を戴く者だった。
それだけではない……この場にいる一人一人が、七大国に数えられる精強なる武の大国天地に覇を唱える、それぞれの民と領地を治める大名達であった。
――各々が持つ様々な理由から常に内乱を起こし、相争い合う数多の大名達と、【征夷大将軍】。
本来は敵対し合い、血で血を洗う凄惨な関係である筈の彼らが、この場に一堂に会して歓談し合う。
奇想天外、驚天動地、青天の霹靂とはまさにこの事だ。
いくらこの慶都が中立領土として栄えた都だとは言え、今まではそうだったからこれからもそうだという保証なんて何処にもありはしない。
この数秒後か、あるいは数分後にあの一室で彼らの全力の武威が発揮されてしまう事態になったら……とりあえずは、まず間違いなく一等近い位置に居る自分達は真っ先にその巻き添えとなってしまうだろう。
今回の会合は機密事項である、と料亭の責任者も、先程の給仕の女中も言われているが……合計レベルも高く、高級料亭を開く腕前を持つ彼らであってもその内容は想像もできない。
…………いや、一つだけ。
つい最近に起きた、天地中を、いや世界中を揺るがす大事件があったではないか。
それは――<マスター>の増加に他ならない――
◇◆
彼ら、この天地の大名達はその一室で極上の料理に舌鼓を打った後……【征夷大将軍】に渡された、とある資料に目を通していた。
その資料は、つい先日自分達が【征夷大将軍】に渡した資料をまとめ上げ複製した物であった。
つまりは……“若葉の乱”の結果と、その顛末。
超級職である彼らからして見れば、未だひよっことしか言えない程
その事実だけ抜き出せば微笑ましく見るか、一笑に付す程度の話題でしかない筈のそれを、彼らは一様に真剣な眼差しで見やっている。
開催日は、<マスター>の増加が始まったあの日から丁度31日後、つまり一ヶ月後。
慶都や将都、天都を含む計16の都市が保有する闘技場施設で行われたその大会。
総参加者数、544名…………
<マスター>の参加者数、
<マスター>の優勝者数、
《封鎖結界》の破壊――特別賞の総受賞者数、32名。
<マスター>の特別賞の受賞者数、
ティアンの参加者数、54名。
ティアンの優勝者数、
ティアンの特別賞の受賞者数、
――そこには、凄惨な事実しか記されていなかった。
たったの一ヶ月という、極々短期間で、熟練のティアンからの特別な施しや指導もなく、
幼い頃から英才教育されてきた天地の若者武芸者達の内一人たりとも優勝の誉れを得る事ができなかったという事も。
あのレベルで耐久型の亜竜級モンスターに匹敵する
どれも他の国の者では信じられぬ程の出来事であった。
各々の大名達でなければ、自分達の領地で行われたその戦いをその目で見ていない限り信じられないような事実が羅列されていた。
将来を嘱望されていた若き天才剣士が、<マスター>とのステータス差と理不尽な固有スキルによって敗北したと。
ある大名の秘蔵っ娘たる才媛が、<マスター>の計り切れぬ程の才知と技量によって敗れてしまったと。
才がなくも経験はあった老戦士が、ガードナー型エンブリオの訓練相手にしかならず善戦するも敗北を喫してしまったのだと。
《封鎖結界》の件だってそうだ。
結界その物の強度を下げたらしい、劣化させられ破壊された。結界にたった二撃の拳撃を見舞っただけで結界が爆砕した。不可思議な剣のエンブリオの一撃で結界が両断された。
わけもわからぬがいつの間にか結界が斬られていた。結界を“封印”され消滅してしまった。素手の攻撃力のみで打破された――
あるいは、合計レベルが50に満たぬ身で超級職を得る奇運であったり、特化された力を持った特典武具を持っているのならばそれも分かる。
しかし、参加した<マスター>の内、一人たりとも上級職にすら就いていなければ特典武具を持っている者だって居はしない。
彼らはその<マスター>としての
驚異的な事実だ。だが、それを
「修業が足りぬ……修業が足りぬのでは?」
「然り然りよ。彼奴等には全く経験が足りておらぬわ。あの位階ではそれも止む無しでもあるがな」
「皆も、ティアンの参加者も……約半数は本戦まで出てるわ。それを褒めても宜しいのでは?」
「そうでござるそうでござる! 拙者の領の者は一人も本戦まで行けてないから後で
「いいですねぇ。私の領の者も参加させて貰っても?」
「お前達、本題はそこではないであろうが……」
大名達の、超越者達の反応は様々だった。だが、内心でどの様に考えているかはともかく、この場では一人も悲壮な表情をしたり、驚愕して参加している者はいない。
それもそのはずだ。
彼ら、彼女らはあらゆる武芸者達の頂点に立つ超級職にして各領を治めし大任を果たす大名たる者。
常に武を、覇を競う彼らの力は他の七大国と言われる国々と比較しても確実に勝っている。
それは直接的な武力、戦闘力というだけではなく……数多の戦の中で磨き上げられた、直感、第六感とも言えるその感覚すらも。
故に、直接その戦いを見なくとも、未だ深く関わる様な関係でなかったとしても……分かるのだ。
<マスター>が、エンブリオが持つ埒外の能力を、その
それは大会を開催する前から、<マスター>達が思い思いに無軌道な行動をしていた時から……そして、
つまり、今回の大会はその確認を確かな物にするだけの事であり、ある種の試金石であり……不器用な、天地流の歓迎でもあった。
……その大会の開催には、<マスター>が急増する前から天地に居た、とある<マスター>による進言も大いに関係しているのだが、敢えてその事には今は触れないでおく。
……あの大会で得られた収穫は、一般の者達が想像しているよりも遥かに大きかった。
<マスター>とエンブリオのその実力の再確認と、国中の民への周知。
膠着していた天地に住まうティアンと<マスター>の大規模な交流。
敗北してしまったティアン達もこの程度で折れる者は居らず、再戦し勝利を得る為に奮起するだろう。
勝利した<マスター>達はその賞金と勝利の美酒に更に調子を高め――共にこの大イベントに参加した事で帰属意識も少しは付いただろうか。
大会の後に露骨にとはいかなくともその様な誘いを、友好的に接する事は定まらぬこの世界の未来において、この天地に間違いなく利する事となるだろう。
(まぁ、こんな事を企んでいると知られれば娘には暫く口を聞いて貰えなくなるかもしれないけど、仕方ないですね)
そう心の中で考えるのはその当の娘を武闘大会に参戦させた大名……【陰陽頭】西白寺泰央だった。
彼はある程度の未来を見通す【陰陽頭】の秘術、《天占》を用いて(最も、<マスター>が急増してからは途端に曖昧にしか未来を占えなくなったのだが)自身が治める領地と、愛する家族が最も利する未来とする為に、小細工を弄し娘を武闘大会へ送り込んだのであった。
想定通りのハプニングの後、それが原因かはさておき大会後の宴では試合で敗北した<マスター>の少年とも、他の有力者候補たる本戦出場<マスター>達とも打ち解け合う事が出来た様だから結果としては万々歳だろう。
自分、西白寺泰央はそう野心が強いタイプではないが――この先は間違いなく世界中が動乱の世と成り果てるだろう。
<マスター>という埒外の力を持つ者が急増した未来で自分が娘達にしてやれる事は多くはない。
ならばせめて、その<マスター>との多少の繋がりを作ってやる程度は尽力しなければならないだろう――そう考えているのだ。
他の領の大名達も、程度や手段の違いこそあれ、此度の大会で自領に利する為に何らかの策謀を働かせてもおかしくはないだろう。そんな言い訳を自分にしながらも。
「――それで、でござるが」
大名達の話がひと段落ついた頃、【超忍】霧影朧が声を上げる。
それは、彼ら、大名達がこの場に集まったその本題。
「我らが御大将は、かの<マスター>達に対する我等との関係を――なんとするのでござろう?」
――それは、一つの国の未来を左右する、重大な決断。
国家の頭としては避けては通れぬ分水嶺。
強大な、特異なる力を持つ<マスター>達。
不死不滅にして様々な理由でこの
彼らの力を頼りに国を繁栄させ、その中枢を明け渡して運命を共にするも、国の中央から切り離し、今までの伝統を守り独立独歩でやっていくのも。
ここにいる、国家運営の主要人物達がその意思を統一させれば為せぬ物などないだろうと、そう確信できるだけの力を彼らは持っている。
そう、その意思を統一させれば、であるのだが。
「
それが、【征夷大将軍】の答えであった。
「抱え込むも、排斥するも、引き抜くも、利用するのも、あの力に心酔するのも、彼らから学ぶのも戦に駆り出すのもむしろ彼らと戦い合うのだって、各々の判断に任せよう。此方も此方で彼等と接触するがね」
「そもそも、頭ごなしに命令した所で素直に聞いてくれるのはこの中でどれだけいるというのだ?」
それが、天地という国という有り方であった。
そも、体裁として、形式上は彼ら大名達は【征夷大将軍】の下についているが、【征夷大将軍】など相争い合う大名達の中で最も多くの領地を治めた大名だという事に過ぎない。
今回の武闘大会の開催の様に、【征夷大将軍】と大名達の利害が一致し、共に協力して事態に当たるなどレアケース中のレアケースと言う物であり、本来であれば【征夷大将軍】の命令を聞こうともしない者だって居る。
……<マスター>の増加、という一大事もあったのだから、今度はそのレアケース中のレアケースが増えるかもしれないが。
「流石我らの御大将は話が分かるでござるな!」
「結局最後までその口調なのかお前さん……」
「まぁ、そうなりますよねぇ」
「言質は取った! よし良い腕した<マスター>がいたんだよな……!」
「あ、参加賞の防具の事でウチの鍛冶師ギルドから陳情があったんやけどー」
「<マスター>、エンブリオの大量増殖……うっ頭が」
「少しは静かにできないのかお前達!」
侃々諤々。
【征夷大将軍】の発言を皮切りにその言葉の如何を是非を展望を、関係ない事まで口々に囃し立てる大名達。
ため息を付きながらもパンパン、と手を叩き彼らを黙らせ、【征夷大将軍】はこの会議を締め括る。
「何にせよ――これからは新しい時代の幕開けだ。波に乗り遅れた者から沈んでいくであろう。……今後もこの天地を支えてくれる事を、期待している」
大きな動乱が続いた【聖剣王】の時代が終わり、約500年。
世界中を巻き込んだ<マスター>達の時代の始まりだった――――
To be Next Episode…………
真の賞品:コネ(どちらにとっても)
……はい! ここまでお読み頂き、本当にありがとうございます!
そんな感じで天地上層部を描写しつつ、次の話、次の章へと続かせてもらいます……諸国漫遊編天地・■■編まだかなぁ(wktk
※原作で描写された後、こっそり修正されてたりするかもしれませんがご了承ください。ついでにイメージと違うと感じる方も多いと思うのでそこも申し訳ない……
次章、第一章友誼交流編は日常回日記回多め!多めです!(自己暗示
次章一話目投稿は……4月末にできればいいなぁという感じで、頑張っていきたいと思います。