無限の世界のプレイ日記   作:黒矢

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4月末に~とか言っておいて一週間も遅刻した愚かな作者がここに……
はい、遅れました。申し訳ありません……! プロットがぁ。

それでは、早速ですが本編をどうぞ!


第一章 友誼交流編 ~夏のデンドロ漬け祭り~
第十二話 プロローグと・世知辛い転職


■とある未来の師弟の会話・閑話

 

「師匠、質問があります。よろしいでしょうか?」

「聞こう」

「以前、師匠は超級職の事を才能の外付けの器だ、と表現しました。一種一器の移譲才能。才能の足りない者でも条件をクリアして獲得すれば上限を超えられると世界に設定された手段である、と」

「そうだ。人間が人間のまま、限界を超える数少ない手段だ。最も、かつての先々期文明時代では今と比べて私や他の者が作成した装備品の性能が非常に高かったが、それでもなお超級職というのは一つの到達点として人々に追い求められていた物だ」

「はい。それで私が疑問に思ったのは――【神】(ザ・ワン)シリーズです。獲得に能力でも経験でも制約でもなく、余人に計り知れぬ才能を条件とするこの超級職の存在は以前の説明との差異を感じました」

「ああ、その件に気付いたか。その通り、【神】シリーズは他の超級職と明確に違い、不明瞭な“才能”を要求する。歴代の【神】シリーズの獲得者を見ても、限界レベルが500に届いていなかった者は存在しない故、確かにこれだけは才能の足りない者には基本的にどう足掻いても手に入れる事は出来ないだろう」

「やはり……基本的には、という事は例外があるのでしょうか?」

「……それを話すには多少長くなるな。良いか?」

「はい、勿論です」

「よろしい。ではまず【神】(ザ・ワン)シリーズとそれを判定する<アーキタイプ・システム>についてだが――実は、それは未だに詳細が判明していないというのが一先ずの答えとなる」

「!? ……師匠や、先々期文明時代の者達でも、ですか?」

「そうだ。私も、そしてかつての時代の研究者達だって全能と言う訳ではない。むしろ、かつての“化身”達との戦いの顛末やこの世界を創った者に見放されてしまった事を考えると、出来が悪かったと言えるのかもしれない」

「そんな事は……」

「良いのだ。それで、当時の研究者達や考古学者達は躍起になってジョブを管理する<アーキタイプ・システム>の解析に乗り出したが、結局成果が実るのは大分先の事となってしまった。……ああ、彼らの貢献があってこその私達なのだ、確かに、先の言葉は撤回しなければな」

「…………」

「話を戻そう。結局あの時代の者達でも<アーキタイプ・システム>と【神】シリーズの条件の多くは謎に包まれたままだった。それ故に【神】シリーズがあのシステムの骨幹にして無限(インフィニット)に至る為の足掛かりなのではないか、という説が流行っていたが、結局今に至ってすら証明できていない。これは同じ無限(インフィニット)に至っている筈の“化身”ですらもそれは例外ではない。かの“冒涜の化身”が作成した劣化“化身”、あらゆるジョブに対する適性と例外なく上限の500レベルまで達せられる才能を再現しながらも【神】シリーズに必要な才能を付与できていない点から見ても間違いないだろう」

「……そうなのですか? しかし、度々現れる【猫神】が居ます。あの存在を考えれば、限定的ながらも付与できるという可能性もあるのではないでしょうか?」

「……ああ、まだ教えていなかったか。先々期文明時代のジョブリストを参照すれば分かるのだが、あれは2000年前にはなかった物だ。しかし、だからと言って、【龍帝】とも全く違う物だ。あれはただ特殊な劣化“化身”の身にあるリソースの()をそう表示(・・)させているだけなのだ。外側から見れば一見ジョブと変わりはしないが、多少でも<アーキタイプ・システム>を知っている者ならあれがジョブではないと気付けるだろう」

「そうだったんですか。すみません……」

「いや、良いさ。むしろ、着眼点として考えるなら先の返答は満点と言ってもいいだろう」

「どういう意味でしょうか?」

 

「それは、限定的ながらも付与できる――干渉できる、という可能性についてだ」

「確かに、先々期文明時代に現れた化身達は<アーキタイプ・システム>にろくに干渉する事はできなかったのかもしれない。多少の模倣程度しか出来なかったのかもしれない」

「だが、ジョブを管理する<アーキタイプ・システム>の限定的な解析と干渉は今までにも成功例があるのだよ」

「……はい。それが――私達、そしてクリスタル、ですね?」

「そうだ。そして先に話した古の時代の龍達と【龍帝】も同じ様に干渉に成功してると言えよう。それが解析の結果なのか、それとも元々知っていたのかは今となっては分からないが。彼らは最期のその時まで口を閉ざしてしまっていたからな」

「その点で考えれば、私達はあの“化身”に先んじている、という訳ですね」

「そうとも言える。だが――そうではないとも言える」

「それは……?」

「確かに、“化身”達の圧倒的な能力を以てしても、“万死の化身”の数多の能力を以てしてもあれに干渉する事は出来ていなかった。だが――以前より出現していた【猫神】などではない、つい最近現れ始めたあの劣化“化身”は違う。そういう事だ」

「……【犯罪王】ですね?」

「そうだ。<アーキタイプ・システム>をすら欺き、特殊超級職を奪った劣化“化身”……そしてそれだけではない。他にも劣化“化身”の(エンブリオ)で<アーキタイプ・システム>の与えるジョブスキルを改竄する者、後付けする者、模倣する者等もいる……さらには劣化“化身”の中には【神】シリーズを獲得した者も多く、既にその数は二桁を越えていた程だ」

「はい。しかし、あれは数を増やして運と偶然に頼り、純粋に“才能”を持つ劣化“化身”を生み出したのではないのですか?」

「勿論、定められたジョブの才能に依らぬ己の才能のみで【神】となった者も確かに存在はしている。だが、多くはエンブリオ(異物)の力による、ある種偶発的な取得者が多いようだ。そして、あの数の劣化“化身”とそれぞれが持つエンブリオの多様性は――先々期文明時代に現れた“万死の化身”をすら凌駕している」

「…………!」

「故に忘れるな。今のこの世に絶対と断言できるモノなどそうありはしない。あのエンブリオ(異物)はあらゆる常識の埒外に居る者と考えよ。特に“化身”と――<超級>は間違いなく今後のこの世界の趨勢を動かす存在となる。或いは、【犯罪王】の其れ以上に<アーキタイプ・システム>に干渉し得る存在すら出現するやもしれぬ」

「はい。ありがとうございます、師匠」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

7月27日(月)

 今日は久しぶりにデンドロをプレイせずに過ごす一日だった。

 とは言うのも、ここ暫くはデンドロ内のイベント――武闘大会までの自分の強化に熱中してずっとログインしていた為、少しクールダウンした方が良いだろうという自己判断の結果だ。

 では、その間何をやっているかというと……うん、夏休みの宿題だね。

 デンドロの休憩時間に本当に少しずつ手を入れていたけど、ここは一気に攻略してやろうと思った。

 量こそそれなりにあったけど、内容自体は学校の授業と同様に僕にとっては簡単なので机に向かい順に始末していく。

 

 ……当然の事だけど、デンドロにログインしてた時には全く気にしていなかったけど、集中して長時間宿題と格闘していると夏の気温と蒸し暑さについ気を取られてしまう。

 そんな時分に丁度明日香が冷えた麦茶とおやつにと小さくカットしたフルーツを持ってきてくれた。あのタイミングは完璧だった……火照った身体に冷えた麦茶が染み渡るあの感覚は何とも言えないね!

 ……それは良かったんだけど、勉強が一段落した途端に今もデンドロにログインしている勝の愚痴を言うのは僕にも効くから勘弁願いたい。勝も(一応僕も?)仕事なので……!

 ふと思ったのだけど、ゲームをプレイする仕事って休みはどう取るんだろう? ……まぁ、適当に休みが取れるのかな?

 

 宿題を粗方終わらせた後は夕食の支度をしていた明日香のお手伝いをする。デンドロを始めてからは余りお手伝いできていなかったから、こういう機会には積極的に手伝いを続けたいなぁ。

 夕食では明日香と一緒に勝をからかって遊んだ。orzみたいな姿勢になってたけど、まぁ自業自得?という事にしておこうと思う。

 そういえば、僕以上に勝はデンドロにログインしているけど、基本的に生産職の筈なのに長時間何をやっているのだろう……?

 

 

 

 

7月28日(火)

 今日は一日(三日)ぶりにデンドロにログイン。

 コテツとの待ち合わせしている場所まで大白宮の街中を歩いていくと、僅かに祭りの空気の名残りの様な物を感じられる。……武闘大会と祭りは別物であると思うんだけど、どうだろう。

 デンドロ内では既に三日経っている筈なのだけど、通常のティアンには娯楽が少ないんだろうか? 確か、現実世界での娯楽はある程度こちらでもある筈なのだけど。

 とりあえず、コテツと待ち合わせしていた小屋に辿り着き、合流してまず行ったのは――優勝賞金の内の少しを心付けとして多少のリルを渡す事だった。

 

 ……最初は50万リルくらいこっそり渡そうとしたんだけど、いつの間にか返されてたんだよねぇ。侮りがたし。

 そんな訳で、適正価格として(掲示板とか情報サイトで調べておいて)追加で20万リル渡す事で決着する事になった。

 逸話級金属(ミスリル)なんて未だ殆どの<マスター>が持っていない代物なんだから、その事を踏まえればもっと積んでも良いとは思うんだけど多分、これ以上は受け取ってくれそうにないからね…………

 

 お金を渡して少し近況報告をし合った後は折角二人共ちょっとした小金持ちであるという事で大白宮の街並みに繰り出し、バザーや商店を見て回って買い物を楽しむ事にした。

 術の都というだけはあり、霊紙や錫杖や数珠、魔力が籠っている宝石にジェムに曰くありげな人形に五寸釘に何に使うのかも分からないような触媒や所謂マジックアイテムが沢山見つけられる。

 他のジョブが使う物だって、ジョブクリスタルや各種ポーション、各種ジュエルやアイテムボックスが並び揃っている光景はやはり好奇心を刺激させられる。

 

 ……しかし、【退魔師】に合う良さそうな武器防具には装備レベル制限の壁が立ち塞がり、装備レベル制限のないアクセサリーならばとお勧めを聞いてみた所、【救命のブローチ】という、致死ダメージを受けても最低でも一度は確実に防いでくれる代物を勧められたのだけど……

 市場相場価格、約500万リル也……咄嗟に他の武器防具の値段も確認してみるけど、装備レベル制限が高く、良い性能をしている物は皆数百万や数千万リルはするようだ……新人戦の優勝程度じゃ買えないって訳だね…………!

 そんな訳で、今日の所はそこそこの容量があるアイテムボックスを四つと【MP回復ポーションLv2】を十点購入するだけで留めておく。……まぁ、武器防具はこれからもコテツに頼めば良い事だからね! ね!

 そんなコテツは小さな火を発生させられる火属性魔法の初歩の初歩、《ティンダー》が使用できる様になるマジックアイテムを50万リルで買っていた。僕も少し使わせて貰ったらちょっとした小型花火みたいで楽しい……そのままでは戦闘には使えそうになかったけど。

 

 買い物を終えた後にはアイテムボックスの整理を行ないつつも久しぶりにと二人で低レベルの狩場でモンスター狩りを行う事にする。

 今日の狩場は大白宮の南側、<群白森林>の浅部。同じ森林の狩場でも<黒藤森林>と違い、モンスターよりもモンスターではない通常の動植物の方が目に付く低レベルの狩場だ。多分モンスターの平均レベルやステータスも<黒藤森林>よりも低かった様に感じる。

 この森林での採取依頼を請けた僕達は……って言っても特にトラブルや事件なく依頼も狩りも終える事が出来た。

 <黒藤森林>でもある程度は以前の僕がソロで狩れてたんだから当然なのではあるけど。

 それでも、そこそこの時間狩りと採取を続けていた事もあって僕の【退魔師】のレベルが50まで上がり切り、カンストする事ができた。漸く仕上がった……!

 早速明日はジョブを更新しに行きたいと思う。最初の無職からのを抜かせば初めてのジョブチェンジなので楽しみ。

 

 

 

 

7月29日(水)

 今日はほぼずっとデンドロ内で勉強の日々だったから日記に書く事があまり無い気がする……

 とりあえず、今日デンドロにログインした僕は早速新しいジョブに転職しに行く事にした。

 それは、この大白宮で最も栄えている専門ギルドにして、僕の一つ目のジョブでもある【退魔師】の専門ギルドの提携先でもある――【陰陽師】ギルド。

 そう、僕は今日無事に【陰陽師】に転職したのであった!

 

 

 ……まぁ、上級職にも憧れはあったのだけど、後述の理由で無理なので、やりたい事の多さを考えた結果なんだけどね。あまり進歩してないなぁ僕。

 

 ちなみに、気になってついさっき掲示板で聞いてみたのだけど、僕と同じ様に一つ目のジョブをカンストして二つ目のジョブを選んだマスターで上級職を取った人は、レベルをカンストさせられる程度の上位層の中でもおよそ一割程度しかいないんだとか。

 その理由はいくつかあり、まず一つ目、というか理由の大半として――転職条件の達成の困難さがある。

 上級職は転職条件に複数の条件が設定されているのが常ではあるのだけど、それでもいくつかパターンは決まっている。

 

 まずは系統の下級職のレベルをカンストの50まで上げる事。

 ……これはまぁ当然要求されるべき条件だし、一番簡単な条件だよね。

 

 次が、先の条件と似ているのだけど系統の下級職、もしくは派生したジョブのジョブクエスト関連。

 請負数や成功数や成功率、最大難易度や難易度毎にポイントに計算しての累計ポイントを求めるとか、ジョブによって所々違いはあるけれどこれも分かりやすいし、どちらかというと簡単な条件だと思う。

 

 次からが難しくなっていって、複雑。分類が大雑把だけど、各上級職毎に要求される行動、或いは実績。

 特定の行動を行う、或いは特定の能力を身に着ける事。千差万別だけど難しいのになるとステータスでは到底及ばない下級職で亜竜級モンスターの戦闘における一定以上の貢献や闘技場での戦闘回数、他には作成・販売した物の価値、性能が求められたり自身や率いているモンスターのステータスが求められたり(亜竜級のステータスのモンスターを下級職で従えるってどんな無茶?)

 上にも下にも振れ幅が大きいこの条件だけど、能力的にも期間的にも合計レベル50以下、一職目で達成するのは難しい物が多く散見される様に感じる。……エンブリオの力でその道理を引っ込ませて達成できる人も結構いるらしいけどね。

 ちなみに、僕が【退魔師】の上級職、【祓魔師】になれないのもここがアウトだったというのも理由の一つとして挙げられる。

 『悪魔・アンデッド・エレメンタル・妖怪の合計討伐カウント数が200以上』って、まだ50にも達していないよ……

 狩場次第ではすぐに達成できるのかもしれないけど、少なくとも街に程近い狩場では本当に種族が偏ってるからね。

 

 次が、ある種僕にはあまり関係ない事ではあるけど――お金の事だ。

 ……稼いだ金額だとか、費やした金額だとか、上納金だとか、寄付金だとか、色々と名目はあるのだけど、転職条件にそれらのリルが関与する上級職が幾らかあるらしい。

 その金額は戦闘型上級職で10万リル、非戦闘型上級職で100万リル。ジョブ次第ではその金額から半額~二倍程度まで変動する事はあるらしいけど、とにかく必要となる。

 今まで稼いできた金額だとか、クリアしたクエストの報酬の総額、という条件ならともかく、転職の為に別途お金を払わされるジョブに容易く就ける人は多くはない。

 10万やそこらなんて少額……と、考え掛けるが違う。武闘大会で泡銭を手にした僕らはともかく、他の<マスター>にとって10万(或いは100万)リルというのは貴重なのだ。

 

 ……僕が一つ目のジョブをカンストするまでモンスターの狩りで稼いだ戦利品の金額は、パーティで分配したの等も含めれば凡そ20万リルと少し。

 【宝櫃】や振れ幅の事を考えれば稼いできた金額は20万~30万リルと言った所だ。

 最も、この金額は冒険者ギルドでのクエストの受注が少なく、レベル上げを重視した数字だから、レベルをカンストするまでギルドクエスト重視で歩んできていれば50万リル前後は手に入るんじゃないかなって思う。

 なるほど、稼ぎの内2割から5割程度というのは確かに大金だろうと……いう考えもまだ甘い。

 何故なら――デンドロ内では何をするにもとかくお金がかかるから、という有る意味当然とも言える正論が理由だった。

 装備品の更新は勿論、【飢餓】がある為食費は必要不可欠。ファンタジーらしい心惹かれる個性的な雑貨や小物、マジックアイテムに書物に見惚れる者だって少なくはない。

 モンスターと戦うならポーションや各種状態異常に対応した薬品類といった消耗品が必要だし、そもそもこのゲームでは(特典武具やアームズ系統のエンブリオと言った極一部を除き)装備品だって摩耗損耗消耗していく。手入れを怠っていなくても、使い方が悪くなくても限界は来るし、それ以前に強敵と戦えば武器や防具が破壊されるなんてのもよくある事。

 そもそも、上位最上位の装備品に掛かる値段はまさしく“桁が違う”。むしろ値段が付けられないのすら多いらしい。

 【指揮官】系統や【従魔師】系統では雇用費飼育費が嵩み生産職は【レシピ】に素材に作成に必要な器具にと莫大なお金が必要となる。【商人】系統だと仕入れ費以外にも場所代に相場の情報料に妨害してくるライバル店に対抗する為の護衛費傭兵雇用費に……というのはカルディナだけの話らしいけれど。

 故に、お金は幾らあっても足りないからこの時期に上級職を得る為に費やすべきではない――というのが大多数の<マスター>の結論らしい。

 

 ……まぁ、確かに分からなくはないけどうん。少なくとも今は僕にはあまり当てはまらないよね。

 ちなみに、余談ではあるけど【退魔師】を始めとした天地固有のジョブの上級職にはお金を条件とするジョブは比較的少ないらしい。これもお国柄、というのかな?

 

 最後の条件のパターンは最難関、これに該当する条件があったら暫くはその上級職は諦めろとまで言われている程の条件――そう、コネだね!

 具体的にはそのジョブの専門ギルドや関連施設に属する主要人物の推薦を請ける――というのが条件となっている。

 ……コネ、信頼、実績、友誼、恩義。

 この世界(・・・)に来て最大でもまだ一ヶ月と少し、現実時間なら二週間弱しか経っていないのにそれを求められて条件を満たせる<マスター>が一体どれだけいるのだろうか?

 かく言う僕も先日の武闘大会の後の宴以外ではティアンの人とまともに交流していないし、満たせているとは思えない。……僕はレベル上げの方を重視していたというのもあるけれど。

 誠実に、時間を掛けてクエストを繰り返し受け、実績を重ねればいつかは推薦を貰えるだろうとは僕だって、他の人だって考えているだろう。

 しかし、この世界を遊戯(ゲーム)として見ている人がこの条件を達せられるのは、はて一体何時になるのだろう…………

 

 

 ――まぁ、それはともかく。

 転職条件以外にも上級職への転職を見送る理由は他にも幾つかある。

 二つ目に挙げられているのが、自分の能力(スキル)の補完に一職目の直系の上級職ではなく派生系統の下級職や【斥候】【冒険者】系統を始めとした汎用スキルを多く取得できる下級職に就く人もいるらしい。

 《全主権限》を持っている僕でなくとも汎用スキルによる補強は十分な効果を発揮できるだろうし、納得できる理由だ。

 パーティを組んで各々苦手分野を補強し合える関係の相手が居るならばともかく、自分が対応できる事を増やすのはプラスに働く事だろう。

 

 だけど、その二つ目の理由もある意味では三つ目の理由(・・・・・・)の前提の上での時間稼ぎと言う側面も持っている様に思う。

 その三つ目の理由は――情報不足。

 

 少し前にも書いたけど、まだ現実世界ではこのゲームが発表されてから二週間弱しか経っていない。

 上級職に転職した<マスター>は全体から見れば極僅か、ティアンの人達との交流もまだ親しい仲となれた人の数だってそれより少ないだろうし、何よりそれらの一握りの<マスター>達が電子の海に情報を残してくれる可能性は高くない。

 あまりにも現在の技術水準から逸脱したこのゲームの情報を取り扱った攻略サイトや情報サイトは乱立し、毎分毎秒の様に大型匿名掲示板にも様々な書き込みが綴られているが……正直に言ってまともな情報を提供しているサイトは片手で数えられる程度だ。

 情報に関しては大型匿名掲示板の有志達が作成した攻略Wikiとその掲示板がある種唯一の情報源ではあるが、やはりまだ上級職や、条件が厳しい下級職の情報は殆ど集まっていない。

 それどころか、転職条件は簡単な筈なのにマイナー(少数派)な下級職の詳細すら網羅できてはいない有様。

 まぁ、これは下級職だけで千種類を越えるこのゲームが異常なだけではあるのだけど……このゲームを、<Infinite Dendrogram>を遊ぶ場合更に複雑な事情がある。

 そう、<マスター>(プレイヤー)個々人の行動やパーソナリティからまさに無限の可能性を提供するこのゲームの最大の特徴、エンブリオの存在だ。

 エンブリオの存在によって各々の好みやプレイスタイルだけではなく、それぞれのエンブリオに合った構成(ビルド)を考える時にこの情報不足は非常に手痛い物だ。

 何せ上級職は二つしか獲得できないのだから。今転職しようとしているあのジョブは自分のエンブリオに合っているのか? もっと自分のエンブリオに合った良いジョブがあるのではないか? と、二の足を踏んでしまうのも仕方のない事だと思う。

 凡そ、下級職の一職目のレベルをカンストする頃にはエンブリオの形態も第三形態まで進化している者が多く、エンブリオの方向性は掴めている<マスター>が多いのもそれに拍車をかけている。

 更に、一職目はステータスの関係でレベルを上げるのに苦労していたというのも大きいかもしれない。ジョブをリセットして再度レベルを上げる事も、上級職の転職条件を達成する事も簡単ではないのだから。

 

 故に、この時期に上級職に転職する数少ない勇敢で有能なマスターは所謂、人柱として情報を期待されるのは……まぁ、オンラインゲームの常だろうと思う。

 とは言え、その人柱だって時を経る毎に次第に痺れを切らしたか、もしくは専門ギルドなどで情報収集をして転職を決めたマスター諸氏によって増えていく筈。

 リアルで一ヵ月か二ヵ月もすればある程度主要な情報は集まり切る筈……なのだけど、このデンドロだとそれも怪しいと思ってしまうのは考えすぎかな?

 

 

 ……ここまで書いてから思ったけど、物理も魔法もどちらもやれるから、って【退魔師】を選んだ時からあまり成長してないのかな僕って!?

 【アダムカドモン】の方向性は……掴めてると思うんだけど。

 そんな僕が選んだ【陰陽師】は【退魔師】と同じく天地特有のジョブだけれど、その特性を一言で言うならば“万能型の魔法職”だ。

 それを言うならば【魔術師】も幅広い様々な属性の術が使える万能型ではあるのだけど、【陰陽師】はそれに輪をかけてやれる事(・・・・)の幅が広いらしい。

 

 ――戦闘に使用可能な術は勿論、戦闘の補助もでき探査に優れ、治療術も、結界術に符術に占術、呪術、それだけではなく鬼族の使役(テイム)、霊体や各種妖怪の召喚(サモン)、式神の創造(クリエイション)も可能。

 勿論、【陰陽師】単体では深奥には程遠く、【魔術師】【司祭】【召喚師】と言った専門のジョブには到底及ばないし、特に戦闘中の火力では【魔術師】に大きく後れを取りますが、それでも【陰陽師】の派生ジョブまで取得して極めれば各々の専門ジョブに匹敵する術を行使できます。

 どの様な道を考えているのかは分かりませんが、きっとその経験は貴方の糧になるでしょう――

 

 とは、【陰陽師】に転職する為に【陰陽師】ギルドで説明を受けていた僕に向けられた、陰陽師達の頭目、この街の長でもある西白寺泰央氏からの有難いお言葉だ。……確かにそういう思惑もないではなかったけど、以前組んだエリーシアが使用してたスキルを羨んでた側面の方が多いのは黙っていた方が良さそうだ。

 しかし、いざ転職してみると本当に【退魔師】と比べて魔法職はスキルの総数が多いらしい。

 ジョブに合った、用途に沿った魔法をレベル毎に取得できるのだからそれも当然かもしれないけど……これは学び甲斐がありそう。

 結局、デンドロ内で二日と半日は【陰陽師】ギルドで餞別に配られた【符】にMP(魔力)を込めつつも【陰陽師】とその派生職についての勉強に費やしてしまった。

 うん、事前にMPを込めておけるのは便利だね。これからもMPが余っている時は隙を見てMPを込めておかないとね。

 

 

 

 

 

7月30日(木)

 昨日は時間のある限りずっとギルド勉強してたから、身体を動かしたい気分になった。

 そんな訳で、コテツと一緒に冒険者ギルドで適当なクエストを受けて狩りに出掛ける事にした。【陰陽師】の魔法もレベルを上げて習得しないと全く勉強した意味がないからね。

 

 今日の狩場は大白宮の街の東の<桑川街道>。ここも街に近いだけあって生息しているモンスターはレベルが低い下級モンスターばかり。

 コテツが持つ【採掘師】のスキルで若干ではあるけど素材の探索が出来た為、早速襲ってくるモンスターを狩りつつもクエストの為の素材を集めていく。

 ……【陰陽師】でありながら【退魔師】の戦闘スキルも使える僕は勿論、以前ここを通った時から更に装備を強化しているコテツでも簡単に倒せるモンスターばかりだ。もう少し難度の高い狩場を選べば良かったかもしれない。

 

 そんな折にレベルアップで幾つかの魔法スキルと共に習得したのが――《生体探査陣》。

 十分にモンスターを狩れる実力と、狩場に生息しているモンスターの情報があるならばこれ程頼りになる物はないのではないかと思う。

 エリーシアや烏丸達とパーティを組んでた時に実感したけど、やっぱり闇雲にモンスターを求めて捜し歩く時と比べたら索敵能力の恩恵は本当に大きいと再確認させられる。

 

 ……とは言え、今日はスキルを覚えたばかり、索敵魔法を駆使してモンスターを付け狙うのはまたの機会で良い。

 クエストは恙なく終わり、多少の報酬を受け取って今日は解散した。明日からは陰陽師の魔法に合った狩場も探してみようかな?

 

 

 

To Be Continued…………

 

 




 なお、人柱を待ってたら超級職を先に取られる罠が待っている模様。

ステータスが更新されました――――

【陰陽師】:皆さんご存知天地特有のメジャー魔法職。
 その独特な術式は【魔術師】のそれとは随分と趣が異なる。その魔法スキルも属性毎に区切るのではなく魔法の様式や内容で区分しているようだ。
 その大本である【陰陽師】が使用可能な魔法の種類は非常に多く、そしてそれぞれの区分された魔法に対応した派生ジョブも非常に多い。デフォルトの【陰陽師】は上級職である【賢者】と同様にそれぞれちょっとずつできるのが特徴だとか。
 ちなみに原作と割烹での発言によると《詠唱》と【符】の両方が使用できるユニークさを持つようだ。ロマン溢れる。


 ……はい。お久しぶり(?)です。新章も見てくれて本当にありがとうございます! 宣言より更新遅れて申し訳ありませんでした……
 以後は週一ペースを可能な限り保ちながら更新していきたいと思います。今後もよろしくお願いします!
 新章、一章友誼交流編は予告通り日常回日記回多めとなる予定です。
 それでは、次話からもよろしくお願いします……!
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