※お知らせ:《
《
それでは本編をどうぞ!
□<大白宮・南門> 【陰陽師】ジーニアス
この<Infinite Dendrogram>において、<マスター>が最も利用する率が高い施設……各ジョブの専門ギルドを分けて考えるとするならば、それは<冒険者ギルド>となる。
飯屋、雑貨屋、薬屋、武器屋防具屋に神殿と言った各種施設を凌ぐ利用率を誇るその施設の役割と言えば……汎用的な依頼の斡旋が主な仕事となる。
魔物の討伐、道中の護衛、物資や手紙の輸送配達、街を離れた狩場での素材の採集、特定のアイテムの納品、その他様々な雑事を含んだ仕事が<マスター>、ティアン問わずに斡旋される事となる。
その冒険者ギルドの運営には冒険者ギルドに寄せられた依頼を自動的に追加、削減させていく魔法カタログや登録すれば依頼斡旋数や成功数等を記録し、各登録者のクエスト成功数に応じて前述したカタログの制限を解放する機能まであるギルドカードと言った最先端魔法技術が用いられている。
更には、朝早くから夜遅くまで活動時間が不規則なマスターや他冒険者達の為に交代で働き続ける冒険者ギルドの職員やカタログ内の検索を生業としている【書記】や類似系統のジョブに就いている者達、そして日夜各種機関からの依頼や要請、徘徊している〈UBM〉の情報等と言った重大事に対処すべく様々な特権を持ったギルドの幹部達の働きにより運営されているのだが――それ以上はあまり<マスター>には関係のない余談である。
<マスター>にとって重要なのは、汎用的な、特別なジョブや技能の必要ない
街にある各種専門ギルドでは街次第では規模が小さかったり、今の自分に見合った依頼がなかったり、そもそもジョブがピーキー過ぎて大本の依頼数が少なかったりと常に依頼が受けられる訳ではない。
その上、当然ながら各種専門ギルドが斡旋するジョブクエストは冒険者ギルドで斡旋されるギルドクエストと違ってジョブに沿った特殊な技能、スキルを要求される物ばかりでジョブの違う
勿論、その分経験値を得る事が出来たり特殊なコネを得る事もあるというメリットはあるが……比較的難易度も高く、それでいてある程度依頼の傾向も同じで種類も少ないのは事実である。
そして、この世界を
<マスター>増加前は一部のティアンの武芸者や食うに困っているが、野盗に落ちぶれたくはない食い詰め者が利用する程度だったが……ここ最近は<マスター>増加直後の想定を上回る稼働振りで関係者は嬉しい悲鳴を上げている最中だ。……やつれてきている職員も多いが、きっと早い内に人員が補充される事だろうと願っている。
さて、そんな<マスター>達に大人気の冒険者ギルドではあるが、数ある
そのモンスターが増え過ぎた為に、危険すぎるモンスターであるが為に、希少で討伐しにくいモンスターである為に、有用な素材を
エンブリオの固有スキルやステータスの増強、そして不死身である事も重なり、なるほど如何にもマスター向けの仕事である事は詳しく語るまでもない。
故に、そんな依頼を僕、ジーニアスが受けるのも至極当然ではあるのだけど、今回の依頼は通常の討伐依頼とは少し趣が違う。
難易度:三、【討伐依頼―【ホワイト・フォーチュンラビット】】の対象となる【ホワイト・フォーチュンラビット】は大白宮の街の南側、<群白森林>に僅かに生息している妖兎のモンスターだ。
最下級の呪術と精神系統の魔法を駆使するかのモンスターは生息数も少なく、非常に憶病な性質をしているらしく、
高レベルになればそれまでの経験から気配を察知する事が出来たり、逃げられても容易く追いつけるAGIを手に入れられる……というのはティアンの人の談だが、正直その頃には既に見合ってない依頼なんじゃないかな? と、思わないでもない。
ならばどうするのかと言うと……そう、僕には【陰陽師】の索敵用魔法スキル、《生体探査陣》がある。
索敵用のこのスキルを併用すれば容易く、とは言わないまでも他のマスターと比べれば比較的楽に達成できると見込んでこの依頼を請ける事にした。
したのだけど――――
◇
「…………」
「…………」
前方から歩いてきたのは――カシミヤ。
先日の武闘大会で知り合ったマスターで、決勝戦の相手だった
僕を上回る圧倒的な剣の腕前を持つ達人の武芸者。
そして、数瞬目と目で通じ合い――
――やりませんか?
――やろうか!
つまり、そういう事になった。
この後滅茶苦茶
◇◇◇
7月31日(金)
七月のラストもデンドロ漬け。……だったのだけど、今日はちょっと趣が違った。
今日はまず【陰陽師】ギルドに通い、泰央氏から《詠唱》について色々聞きたかったんだけど、残念ながら何か用事があったのかギルド内の人数も少なく、不在の様子だった。
ジョブクエストの数も少なく、短期間で受けられる物も無かったので冒険者ギルドへ移動する事に……本場の【陰陽師】の格好良い詠唱を知りたかったんだけど、仕方ないね。
冒険者ギルドでは希少モンスターである【ホワイト・フォーチュンラビット】の討伐依頼を受注。先日コテツと一緒に<群白森林>に狩りに向かった時は一度も出会わなかった程に珍しい獲物だけど、《生体探査陣》や下級の占術を駆使すれば達成できると踏んで請ける事に。
下級職の【陰陽師】のみで特化職もない状態の占術だと的中率が2割を下回るらしいのだけど、まぁスキルレベル上げにはなるかな? 本命は《生体探査陣》の方だし。
……と、そういう予定だったんだけど、大白宮を出た所でカシミヤと遭遇した。
歩いてきた方角からすれば<群白森林>からの帰りだとは思うけど、その身体に傷や汚れはないし息も切らしておらず、何処か不完全燃焼な様子が垣間見える。彼の実力と<群白森林>のモンスターの実力を考えればそれも当然かもしれない。
…………僕は
つまりはそれだけなんだけどー、うん。やっぱりそれじゃ勝、許してくれないよね……
以前の約束もあり、南門から離れた場所で決闘を始めて――負けてデスペナルティになっちゃった。
初デスペナだけど、カシミヤが相手なら仕方ないね……
【武士】か【戦士】、あるいは【剣士】か知らないけど、カシミヤも二つ目のジョブを得て、かなりステータスが上がっている様子だった。
その相手が【陰陽師】で物理ステータスがあまり上がってない僕じゃ……うん、こうなるのも仕方なかったね。【陰陽師】の魔法は一対一で使える様なのは習得していなかったし。
それでも僕の方も《魔弾》で反応装甲の真似事をしてダメージを重ねていたんだけど、流石の実力だったとしか言い様がないね。
デスペナルティでログインできなくなっちゃったから、勝と明日香の二人にはその経緯を説明したんだけど……凄く怒られた。
やっぱり依頼を放置しちゃったのは不味かったね……反省しなきゃ。
その後はログインできない為、明日香と一緒に買い出しの手伝いに行く事に。
デスペナルティになって心配してたみたいだったから、特にリアルに問題はない事を示すように手伝いに精を出す事にする。そもそも僅かでも何らかの異常が出る様なゲームだったら僕もやれてないだろうと思うんだけどね。
夕食を食べた後は暇を持て余しながら掲示板をハシゴしていく。
……デンドロの事調べてたらログインしたくなるんだけど、できないんだよねぇ。こんな事なら宿題、少し残しておいた方が良かったかな……?
◇
8月1日(土)
デスペナルティが明ける時間を見計らってデンドロにログイン。
ログインした僕が降り立った場所は大白宮の【陰陽師】ギルドの傍にある仏像……仏像? うん、仏像の前だった。
仏像の前がセーブポイントなのは何とも分かりやすい。ログインして一番初めに見るのが仏像の何とも言えない顔なのはコメントに困る所だけど。
とりあえず、ログインして最初にしたのは――簡単な体操をしてアバターの身体に異常がないのか調べる事だった。
初めてのデスペナルティ、初めての戦闘不能であるのだし、調べておくに越した事はない。
そう思って全身を動かしてると……何となく身体の動きがぎこちない様な、気がする?
極僅かではあるのだけど、身体が固いというか、若干不自然に節々の筋に違和感がある。のだけど……その様に身体を動かしていく内にそれは少しずつ解消されて行くような感覚を覚えた。
まさか、デスペナルティでリアルで丸一日、デンドロ内では三日動かしてないから身体が固まってるとか……そんな訳はないよねぇ。以前一日空けた時だって別に違和感なんて覚えなかったし。
とりあえずコテツに報告する用にメモウィンドゥに書いておく事に。
……そういえば、余談ではあるけど地味にこのメモウィンドウって便利だよね。日記書く時用にも色々書き残しているんだけど。
確認が終わった後はまず、依頼の失敗を謝る為に冒険者ギルドへ直行する。
流石にああいうのは依頼を終わらせてからにしなきゃいけなかったよね、と思う。やっぱり僕も武闘大会から結構経って戦いに飢えてたのかな。
そう思って冒険者ギルドへ行ったんだけど、カウンターへ行く前にギルドのテーブルで唸りながら魔法カタログと睨めっこしているカシミヤを発見した。
カウンターのお姉さんに数言謝った後にカシミヤのいるテーブルまで行って軽く事情を聴いてみると、丁度良い依頼を探すのに苦労しているらしい。
この大白宮にある冒険者ギルドにあるカタログでは大白宮周辺での依頼しか表示してないけど、それでもカタログは200頁を越える厚さとなっている。その中から目当ての依頼を探すのはそれは難しいだろうと思う。
折角なので僕もカシミヤと一緒の依頼を請ける事にして依頼を探す。すると、僕とカシミヤに丁度良い依頼が見つかった。
それは――
内容としては特定の種類のモンスターを討伐するだけのごく普通の討伐クエストなのだけど、その数が尋常ではなく、今回の鬼族では最低でも100体単位での討伐を求められる長期戦を求められそうなクエストだ。
しかも、間引きクエストは魔物の戦闘数と比べると金銭効率は余り良くない部類らしい……のだけど、掲示板で見たら何も考えずにただ長時間狩るだけで良いからと戦闘型のマスターからはそこそこ人気な部類のクエストらしい。
その間引きクエストの成り立ちは、冒険者ギルドで定めてある一定の範囲での特定種類の魔物が増え過ぎてしまった時、周辺の生態系に与える影響やモンスターの
一つの間引きクエストを出すのにも冒険者ギルド内での緻密な計算と検証、そして幹部達の会議の末斡旋される珍しいクエストなんですよ、とはカウンターのお姉さんの言葉だった。
……ざっと考えてもモンスターの生息数の把握に依頼を出している各地域の詳細な生態系の深い知識と予測が求められる筈だけど、そういうスキルでもあるのか、それとも……
ちなみに、そんな緻密な計算をして間引きクエストを出している冒険者ギルドだけれど、その予定を生態系など知った事ではないと言わんばかりの戦闘力と固有能力を持ったモンスター――
とにかく、そんな僕らが受けたのは<犀合山岳地帯>浅部付近に生息している鬼族の間引きクエストだ。
僕らは共にお金にはそこまで困ってないし、むしろ戦闘を重視しているこの依頼は渡りに船というもの。
以前はパーティを組んで戦った狩場。亜竜級の【小鬼英雄】は避けるにしても、それ以外ならば一人でも十分に戦えるだろうと思う。
そう、一人でも。
――折角の間引きクエストだからね。こんな仕様の依頼なら、
直接の決闘では負けたけど、うん。腕が鳴る……!
◇
8月3日(月)
うっかりカシミヤとの狩りの競い合いに夢中になってしまい、昼夜も考えずに食事や排泄、入浴の時間以外はずっとログインして間引きクエストに励んでしまった……
今日も日記を書く前に明日香に小言で叱られてしまった。……責任転嫁するつもりではないけど、カシミヤとの戦いになるとつい張り切ってしまうね。
ちなみに、そんな夢中になって競った間引きクエストだけど、討伐数では僕に分があったみたいだ。やったね。
双方共に“手”が多く、更に索敵に適したスキルも持ってたから目当ての鬼族のみに注力して、それ以外のモンスターは避けて随分効率良く狩り続けられたのは……僕らもあの世界での戦いに慣れたという事なのかな?
勝因は……意外にも、つい先日習得した陰陽師のスキルの一つ、《治療符》だった。
陰陽師系統やその派生ジョブ、またその他天地や黄河の特定の魔法系ジョブで使用する予め《符作成》でMPを込めておき、そのジョブにおける魔法の発動を簡易化、高速化する術法、ではなく《護符》や上級職の【大陰陽師】で習得する《呪符》《霊符》等に代表される陰陽師では珍しい【符】の使用が前提となるスキルの一つ。
それは【陰陽師】には珍しい回復魔法に類する物で、【司祭】等で使用する回復魔法とは異なり、一定時間ある程度の速さで
そんな魔法で、何気に身体の疲労まである程度回復させられたのは嬉しい誤算だった。流石に長時間の狩りとなると疲労のパフォーマンスの低下が深刻だったから、しばしば休憩しないといけなかったからね……
とは言え、身体的な疲労は魔法でどうにかなっても同じ作業を続けていると精神的にも辛いから多少の休憩は取らざると得なかったのだけど。
そういう時間では折角だからとカシミヤと雑談に興じる事になった。目新しい話題と言えば……二つ目に選んだジョブ、だとか。
僕の【陰陽師】は取れる手段を増やす為に選んだ形なのだけど、カシミヤは物理系のステータスを満遍なく上げてある程度汎用的なスキルも習得できる【武士】を選んだらしい。
カシミヤ程の技量があれば素のステータスがある程度あれば接近戦で勝てる相手なんてそうはいないだろうからね……僕も、何か対策を考えないとなぁ。
ちなみに、以前就いていた【剣武者】の上級職、【剣鬼】も候補の一つで転職条件も既に満たしているらしいけど、ここは他の<マスター>達と同様、未だ様子見をしている段階らしい。然もありなん。
まぁ、ある程度接していれば分かる事だけど本当に剣一筋と言った感じだ……それだけ剣に特化していて、何故術師系統の街である大白宮にいるのだろう? とも思ったけど、これはただ単に気の向くまま進んでいたら大白宮で先日の武闘大会、“若葉の乱”に興味を惹かれ、足止めを食らっただけであるとの事。
もう暫くしたらまた気の向くまま天地を巡って強者と戦いに行くらしい。
僕もある程度ジョブを埋めたら、そうしてみようかな?
そんな話をしながら狩りを続け、デンドロ内で六日も過ぎてしまったので十分だろうと思い、大白宮の冒険者ギルドに戻って、今回は無事にクエストを達成する事が出来た。
六日間の狩りでの鬼族の討伐数は二人合わせて1500弱……改めて見ると、凄い数だね。
他の<マスター>やティアンだって居るのに、今更ながらこんなに討伐してしまって大丈夫なんだろうか? と、カウンターのお姉さんに聞いてみたんだけど、鬼族は繁殖力も強く多産な生態で、一部の地域で軽く絶滅し掛けたとしてもその空いた縄張りを自らの勢力で染め上げようと付近の地域から競争に負けたあぶれ者の鬼族が察知してどんどんやってくるだろうから問題はないとの事。
むしろ、僕らが狩っていた鬼族も後半はそうして他方から流れ込んできた鬼族である可能性が高いとか。確かにそう言われて思い返してみればそんな気もする……
ちなみに、間引きクエストにおけるモンスターの討伐数はギルドカードに自動的に記録されているらしい。これ、多分メニューウィンドゥの戦歴画面の種族別討伐カウントから連動させていると思うんだけど……本当に謎の技術だなぁ。
小さな疑問を解決した後、そこそこの報酬を受け取ってカシミヤとは別れ、【陰陽師】ギルドへ使用した【符】の補充をしに向かう事にした。
《符作成》に使用する霊紙を買ってその後は【符】に
【陰陽師】ギルドの職員にここの頭……つまり、【陰陽頭】西白寺泰央氏から直接指名されて何かの用事があるらしいと聞かされてしまった。
今はまだ忙しいらしく、明日指定した時間にとの話だけど、一体何の用事だろう……?
To Be Continued…………
ステータスが更新されました――――
《治療符》:
【符】を消費して発動する【陰陽師】の回復魔法スキル。
【符】を貼った相手のHPを持続的に回復させる。
下級職の【陰陽師】では最大でもHP100/秒程度しか回復しない。
《護符》:
【符】を消費して発動する【陰陽師】の補助魔法スキル。
【符】を貼った相手が受ける物理・魔法ダメージを減少させる。
減少量はスキルレベルや【符】に込められたMPに依存する。
《符作成》:
霊紙と
作成した【符】によって低燃費、高速の魔法スキルの発動を可能とする。
ジョブによってはただMPを込めるだけではなく、符に魔法を仕込む事で魔法を簡易に発動させる事も可能。
今話もご覧いただきありがとうございます!
最序盤の前置き殆ど意味がない? 御尤もですスイマセン。でもやりたったので後悔はしていない。
次回! 泰央氏から出される依頼とは……!?