今回は微妙に時間ギリギリでした。危ない危ない……
それでは本編をどうぞ!
□【陰陽師】ジーニアス
この世界には、
<Infinite Dendrogram>の公式ホームページ曰く、現在過去未来すべて含んでもたった一体しか存在しない、まさしく
強大な力を持つそのボスモンスターを倒す事が出来れば、通常のボスモンスターがドロップする【宝櫃】ではなく、まさしく“固有”な力を持った“特典武具”が、そのボスモンスターとの戦いにおける
その特典武具は討伐された〈UBM〉の能力に準じた性能を秘め、素材やコストとして使用しない限りは完全に失われる事はなく、そしてMVPとして入手したその当人しか使用できない、この世界におけるアイテムの頂点に位置する物だ。
勿論、それだけではなく〈UBM〉の能力を再現する事も多いその特典武具の性能はそれ以外の武具と比べ隔絶された力を持つ事も言うまでもない。
そして――そんなゲーマー垂涎である特典武具を守ると言っても良いであろう〈UBM〉が秘める実力もまた、他のモンスターと比べ隔絶された力を誇るのも当然であると言える。
〈UBM〉のランクとして最下級の
同種のモンスターと比較しても間違いなく高くなっているその知性。
そして、〈UBM〉を〈UBM〉足らしめる最大の特徴である――それぞれが持つ特異にして強力無比な固有スキル。
特に、〈UBM〉の芯とも言える固有スキルの力は凄まじく、掲示板でちょくちょく噂になっている第四形態、上位エンブリオとなったエンブリオの固有スキルすら軽く凌駕する物も珍しくはないらしい。
<Infinite Dendrogram>が始まり、ゲーム内時間で……約二ヵ月が経過した現在。
未だにそんな〈UBM〉を倒したという報告は……殆ど存在しない。
それも当然だ。他のゲームならエンドコンテンツと呼称されるであろう最上位のボスモンスターとの戦闘に、まだ始まってそんなに時間が経っていない現時点で勝つのは非常に難しいのだから。
勿論、掲示板などでは毎日の様に討伐したと言う人物が現れたりするが、その内の九割以上が騙りのようだ。
実際、第三者からの証言や特典武具の証拠映像等を考えた信憑性を考慮すれば、討伐者はデンドロ全体で見ても両手で数えられる程度しか存在しないと思われる。
……まぁ、仮に僕が討伐したとしてもその固有な特典武具を秘匿する為に口外はしないとも思うけど。
ともかく、そんな〈UBM〉より手に入る特典武具と言うのは、そんな極一部の限られた<マスター>が持つ物か……あるいは、在野の有力ティアンが所持する物しか存在しない。
そんな特典武具を奪う為に馬鹿な事をする<マスター>なんかが時折掲示板で話題になったりもするけど、まぁ
……大分思考が逸れている気がするけど、何故そんな事を考えているのかと言えば。
――そう、僕が今必死に戦っているのが、件の
◇
「★▽×、∴◎∠☆? 〇Σ≪■Л%――――!?」
「だから、何言ってるのか分からないってー――《簡易結界》」
閃光が走る。
――避け得ぬ光速の魔法。しかしながら予測も容易く、予め射線上に多重に展開した結界で減衰させる。それでもたったの一発で最大HPの三割が削れる。
剣閃が煌めく。
――速度は
しかし、十分に目で追える速度だし反応ができない速度でもない。
光弾が迫る。
――取り巻き、いや眷族? である十数体の【ライトエレメンタル】の飽和攻撃。《護符》と耐性に任せて無視。
……でも、避けられないと流石に少しずつHPが減っていく。そう遠くない内に削り切れられそう。
剣先に、極光が……あ、アレはヤバいかな。
「――《魔弾》」
咄嗟に自らの身体を威力を調節した《魔弾》で数
――直後、数瞬前まで自分が立っていた空間を、迸る極光を纏った長剣が亜音速を越える速度で貫いていた。
周囲の【ライトエレメンタル】も数体巻き込まれ……いや、全くダメージを負ってなさげだね、《光無効》……ではない。
むしろ、秘密は極光を纏ったあの長剣が――
「おっと」
Uターンをする様に再びこちらを向いた長剣が纏っていた光を失い、
――剣の形をしていても剣の技量がある訳ではなし。自然攻撃方法はその
相手の攻撃に合わせてMPを大量に込めた《斬魔剣》で迎撃する――金属と金属がぶつかる甲高い音と火花。
ダメージは――ある。
それでも、相手の様子からダメージによる動揺は全く伺えないけれど……おそらくは、一割どころか5%も削れてなさそう、かな?
残っていた
弾き返した長剣が、勢いもそのままに高速で弧を描きながら迫る。
速度差はあるも――狙いは単純。通常攻撃なら現状でも回避は可能。
傍から見れば紙一重の回避。まともに与えられぬダメージ。取り巻きの対処もできずに、
《治療符》と《護符》で少しずつリカバリーはしていても、誰から見ても後十分も持たないだろうというのは良く分かる程の、
「――なるほど、これが今の僕との
長い様で、数分という短い時間での攻防の中で、その格差を実感し終えてそう呟く。
圧倒的なステータス差。種族特性の差、魔法の差、固有スキルの差、数の不利による差が示す事は――
「流石と言うべきか、お誂え向きというか……うん、これなら、
それでも、勝利を確実の物とする為に……更なる情報を得る為に、〈UBM〉、【極光剣精 ラスリルビウム】に向かい続ける。
口元に笑みを浮かべながら――
◇◇◇
8月4日(火)
今日は【陰陽師】ギルドの頭、西白寺泰央氏からのお呼び出しがあったから、掲示板等を閲覧して時間を潰しながら約束の時間を待つ事にした。
……世界中の<マスター>が集まる某大型掲示板では、極一部ではあるけどもう第四形態――上級エンブリオに進化したとの報告があげられていた。
プレイ時間が非常に多い廃人<マスター>達の中の更にほんの一握り、散発的にではあれど少しずつ上級エンブリオの情報が集まってきているみたい。
曰く、ステータス補正が凄く上がったとか、固有スキルが今までのと比べて格段と強化されているとか、必殺スキルなるスキルを手に入れたとか、エンブリオの
……ちょっと、未だにTYPE:ボディに関する情報が全く手に入らないんだけど……ぐぬぬ。
そ、それはともかく、時間になって泰央氏に会いに行って用事を聞く事になったのだけど……どうやら、僕に個人的な
その依頼の内容は、この大白宮から一般馬を駆って半日程の距離にある<遺跡>、その浅層に棲みついてしまった
……ちなみに、<遺跡>っていうのは約二千年前に滅んだという古代文明、先々期文明時代に作られた施設……普通のゲームや漫画なら“ダンジョン”とか言われる場所だ。
その内情は<遺跡>次第で様々だけど、お宝が見つかったり守護者や野生のモンスターが出たりと随分とらしい物だ。
件の<遺跡>は何らかの保管施設だったらしく、施設の中層までは担当――大名である西白寺家の事だ――の者達が探索し尽くし、ガードロボットも破壊し尽くしているのだが、何らかの特殊なロックが掛かっているらしくその先には進めていないらしい。
しかし、ロックされた先でガードロボットを再生産しているのか、定期的にガードロボットが現れている為、入り口にのみ簡単な監視を置いて許可した者のみに探索・戦闘をやらせる様にしていたらしい。
……そんなの自分からやりたがる人がいるのかな? とは思ったけど、ガードロボットはモンスター扱いとなっていて経験値も
仮に暫く誰も入らなかったとしても、ガードロボットが溢れる前に西白寺家の者が殲滅するから大丈夫、とは言うけれど――まぁ、だから今回の依頼なのだろうね。
そして、そんな遺跡に棲みついたのが(チート過ぎて勝ち目がないと)話題の〈UBM〉の一体である、光を操る
「先日の武闘大会でも見事な技の冴えを見せ付け、優勝してのけた君ならば大丈夫だ」とは泰央氏の言葉だけど……技だけならカシミヤの方が上だった気がするけどスルーする場面。
何せ、今回のこの依頼にはある
――それは、討伐には娘である春香さんもパーティに加えて行なう事、だという。道理で同席させていると思った。
春香さんも驚愕していたから、初耳だったんだろうなって……ご愁傷様、かな?
「武闘大会の優勝者で、春香にも勝ったジーニアス君の指示にはちゃんと従うんだよ」とか、にこやかな顔で言っているけど春香さんまともに反応できてなかったからね。
そして僕には春香さんに自由に指示を出しても良いと言質まで貰ってしまった。……なるほど、これはこの時点でかなり大変なクエストだよね。
何せ、それは
…………報酬も魅力的だったからねぇ。
期限はデンドロ内で一ヵ月、三十日。【討伐――【極光剣精 ラスリルビウム】 難易度:八】
掲示板でも殆ど見る事のない、500レベルのカンストでも失敗する可能性が高いと言われる最上位の難易度。
既に何人もの犠牲者を出しているという凶悪な〈UBM〉との戦闘、だけど。
――うん、楽しみだね。
とりあえず、聞いてみた所春香さんは既に
それは好都合と、春香さんには自身のレベル上げを指示しておいた。
その間に僕は――期間はあるのだからと、直接威力偵察に<遺跡>へ赴く事にした。
さて、初めての〈UBM〉との戦いだけど、どれ程の化け物だろうか……?
◇
8月5日(水)
今日は早速だけど件の<遺跡>に出向き、討伐対象の〈UBM〉――【極光剣精 ラスリルビウム】と刃を交えて戦い、情報収集と共に感触を確かめてきた。
これは得られた情報とは別に、中々に得難い経験だったね……天地の街並みとは全く違った凄く近未来的な不思議な金属質の壁と通路をしていた<遺跡>も興味深かったけど、このゲーム――デンドロを始めて、初めて圧倒的な強者、というモノと相対した気がする。
なるほど、戦ってきたアレと同等、あるいはそれ以上だと言うなら他の<マスター>達が「勝てる気がしない」とか言うのも頷けるというもの。
……まぁ、泰央氏の方が底知れないと言うのはあるけど。明らかに件の〈UBM〉、僕と相性が良いの理解してたよね?
……その相性が良い敵手との戦闘ですら、敗走する羽目になったのも事実ではあるのだけど、ね。
――相手に背を向けて逃げ切れる余裕があった、って解釈もできなくはない、という事でもあるけど。
とにかく、折角だから【極光剣精 ラスリルビウム】と戦い、得られた情報や所感について列記していきたいと思う。
・【極光剣精 ラスリルビウム】は刃渡り約1メテル程の長剣型のモンスター。
常にその柄や刃を含む全身(?)に淡く燐光を纏って誰に手に取られるでもなく独りでに宙空に浮かび行動する、所謂
・攻撃手段は主にその纏っている光を操って行われている光属性魔法と自身の剣身による物理攻撃の二種に分けられる。
ただし、短時間全身から激しい光を迸らせて
・ステータスは純竜級と言われるモンスターより若干高い程度。
おそらく、
ステータス差が激しく、こちらの攻撃は《斬魔剣》でなければ碌に通らない模様。
・眷族? 配下? 取り巻き? ……みたいな何かと思われるエレメンタルの召集・召喚能力を所持。
戦闘を開始して30秒と経たずに十数体の【ライトエレメンタル】が周囲に出現した。
【ライトエレメンタル】はステータスも亜竜級よりも更に低く、主な攻撃手段は下級の光属性魔法のみだったけど、その全身から発する光と魔法の光が相まって視界が眩しく制限されてしまう。
・敵手が使用する光属性魔法はデンドロWikiで探してみた所、【光術師】系統で習得できる《ライトボール》《ライトランス》《レイ》《フラッシュ・バン》《デルタレイ》《名称不明:光の爆発?》によるものだと判明。
ちなみに、【ライトエレメンタル】はこの内《ライトボール》と《ライトランス》を行使してきた。
・上記の魔法の中では回避がほぼ不可能な《レイ》《デルタレイ》と視界制限と【盲目】効果を付与する《フラッシュ・バン》が厄介で要注意。
特に後者は【盲目】対策は必須だと思われる。
――うん、見返しても本当に相性差が酷い物だね。これなら
種族がエレメンタルだから《退魔封印》や《斬魔剣》といった【退魔師】のスキルが抜群に有効だし、相手の光属性魔法攻撃は僕の【アダムカドモン】の《光天使の身体》に含まれる属性耐性と【陰陽師】のスキルによる魔法防御のお陰で致命傷には程遠い。
物理攻撃だってあれを技量の差と言って良いのかは分からないけど、単純にステータスに任せた体当たりしかしない様な物では回避も容易い。
現状の――【退魔師】【陰陽師】の分のステータスしかない、つまり並の物理型下級職程度のステータスしかない今回の戦闘ですらこの結果だ。
今回の敗因――“ステータス不足”を解消し、多少でも相手に追いつける程度の物理ステータスを得られれば確実に勝利できると確信できる。
勿論、相手は世界に一体しかいない特別なボスモンスターだ。隠し玉くらい持ってはいるだろうしまだ見通せていない落とし穴なんかがあるかもしれない、とは思うけど……
とにかく、事前準備は万全にしなければならないだろうと考える。期間はまだまだ余裕があるからね。
――そんな訳で、僕は【陰陽師】のレベルも途中だけど、折角の機会だからと狙っていた物理戦闘職、
カシミヤが使っていたスキルが羨ましかったとか、そんなのじゃないけど……少なくとも、今回の相手には間違いなく嵌ると思う。
春香さんとの連携も練習しなきゃいけないし、明日からは一緒にレベル上げをする事になりそう……うん、それもいいなぁ。
◇
8月6日(木)
昨日の日記にも書いた通り、暫くは僕と春香さんのレベリングに費やす事に。
通信魔法の符で泰央氏に連絡を取り、早速春香さんと合流してクエストを受けてモンスター狩りに行く態勢を整える。
期限が
……他の国の者と比べて精強な天地の武芸者であっても、
「剣を携えるこの道を選んだ時から、覚悟は決めていました」と、悲壮さすら窺える気配を漂わせていた。
……想定している【ラスリルビウム】との戦いでは、確かにそこそこ危険な役目を背負って貰う手筈になっている。
でも、僕が勝算もなしにそんな危険な役割を背負わせる訳はないのにね?
そして、そもそも
そうでもなきゃ、春香さんの実家――つまり、この一帯を支配する大名である西白寺家――で死蔵していたという装備品を春香さんに多数譲り渡したりなんてしないだろうから。
死蔵していた、というのは多分本当だとしてもやけに高性能な装備に新調しているのが装備から発せられる圧力だけで察せられる。
羨ましい……けど、多分あのアクセサリー一つとっても今回の依頼料じゃ全く賄えないんだろうなぁ。
春香さんは天然なのかハッキリとは気付いていないみたいだけど、過保護なのかそうじゃないのか判断に困るよ、泰央氏!
それはそれとして、貰える物や使える物は有効に使わせてもらって損はない筈だと気持ちを入れ替える事にした。
……後で思えばそれが良くなかったのかもしれない。
そう、それは期限にも余裕があるから、と丁度大白宮の都内にいたコテツも狩りに一緒にどうかと誘ったのが発端だった。
パーティ狩りを快諾したコテツと春香さんと共にジョブクエストを受ける専門ギルド――【武士】ギルドへ向かった。
僕の新しいジョブである【剣武者】も、春香さんの【光華武者】も、方向性は違えど元を辿れば【武士】の派生ジョブである為、所属としてジョブクエストを受けるのが同じ【武士】ギルドで都合が良かったから、当然の判断だと思う。
……それで何が問題だったのかと言うと、その当の春香さんはさっきも書いた通り、この大白宮や周囲一帯を支配する西白寺家の御息女様であり、そして【武士】ギルドでジョブクエストを所望していた僕達はその西白寺家当主の大名本人でもある泰央氏直々に依頼を請けている真っ最中だと言う事だった。
結果的に、コテツや春香さんとギルド員との数十分の交渉の結果、僕らは非常に効率の良いジョブクエストを多数斡旋して貰う事になった。
うん、そりゃ助かる。助かるんだけど……コテツとは後でお話ししなきゃね。
To Be Continued…………
ステータスが更新されました――――
【ライトエレメンタル】:
レベル30程度の下級の種族:エレメンタルなモンスター。
見かけ上は十数㎝程度の小さな光球が浮かんでいる様な感じ。じっくり見ると中心に光を発する蛍の様な本体を見つける事が出来る(が、別に本体があるからと言って本体に物理攻撃が通じたりはしない)。
下級モンスターと言えど《高位霊体》として物理攻撃無効や浮遊能力、
本来はレジェンダリアの様な魔力が豊富な場所にしか出現しないし好戦的なモンスターでもない。
ちなみに【ライトエレメンタル】を始めとした精霊種はレベルが低い内は意思が希薄な事も多いが、育てば手のひらサイズの小人の様な姿に《人化》する事もできたり自分が司る属性の魔法を行使できたりするのでレジェンダリアの【従魔師】の間ではそこそこ人気らしい。
はい、今話もご覧いただきありがとうございます!
そんな訳で今作初の〈UBM〉戦な回でした!(なお、露骨な相性差
後は数話使ってレベルを上げて(退魔師の)物理で殴るだけですね!
そんなノリで次話に続かせていただきたいと思います……!
……ちなみに、お察しかもしれませんが【極光剣精 ラスリルビウム】は典型的にして極まったレベルの“条件特化型”です。