無限の世界のプレイ日記   作:黒矢

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前回のあらすじ:従魔師は金になる(暴論

やけに長くなってしまった……はい、前半が原因ですね分かってますすみません。
それでは本編をどうぞ!


第二十五話 全主恩寵・忍者の里

 □<犀合山岳地帯・上空> 【火炎亜竜】ヘルファイスト・ガーネイト・フラムス

 

 

 

 我の名前はヘルファイスト・ガーネイト・フラムス。

 天竜の系譜を継ぎ、強力強大たる竜の中の竜、【炎竜】の一族に連なる者也。

 

 

 ――否。

 正確にはこう言うべきかもしれないな。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()、と。

 

 そして――我がマスター(ジーニアス)の従属モンスター、【火炎亜竜(フレイム・デミドラゴン)】のイグニスである、と。

 

 

 

 事は、そう複雑な問題でも、長い話でもない。

 それは、我の血族だった炎竜種が……いや、ドラゴンという種族そのものの嗜好でもある、一つの考え方だった。

 

 我ら(ドラゴン)は強きモノ(モンスター)

 強く、気高く、誇り高い、この世界の頂点に座する種族也。

 努々それを忘れるべからず。それを忘れず、驕らず、自らの生命(いのち)に宿る力に相応しき生を送るべし。

 

 然り。何とも世のドラゴンの自尊心を満たす言なれど、ドラゴンという種を正確に表している言葉か。

 種族の単体としての力は人間(人間範疇生物)を含めてもどの種族よりも優れており、更に各々に特徴的な、そして強力無比なスキルを保有する存在。

 それでいて高い魔力(MP)も兼ね備え、知能も高く個体差はあれど魔法も使用する。

 自然の生態系の頂点であり、並び立つ者なき強者であると自他共に認められるのも分かろうという物だ。

 

 ……最も、不死身にして異能の力を持つ<マスター>や、固有(ユニーク)にして純竜すらも容易く上回る〈UBM〉など、例外は居るには居るのだが。

 その例外だって絶対数からすれば殆ど気にする必要がないと言える程度の数しかいなかったのだが――数ヶ月前までは、だが。

 

 

 それはともかく。

 我は、そんなドラゴンという種の中で生まれながらにして殊更身体能力(ステ―タス)が低かったのが始まりだった。

 生まれに特別な事はなく、生まれ落ちてから食べてきた餌にも特に問題はなかった筈だ。

 まだ若造と言える年齢の我だが、少ないながらもいた同種(炎竜)の友竜にも話を聞いてみた事はあるが、自分の行動に何らかの不備があったという訳でもなかった。

 

 ――そう、ただ単に運が悪かっただけだ。

 運が悪かったせいで、ドラゴンとして得られる高い身体能力を得られず――同種の中でも侮られ、蔑まれる立場になってしまった。

 その代わりとでも言う様にドラゴン特有の高い魔力は同年代の他の者の倍以上に高かったのだが、身体能力が他の者と比べて六割程度しかないのでは、もはや同じ程度の位階(レベル)の他種のモンスターと同程度か、もしかすると劣ってしまう程だ。

 勿論、自分でもそんな状況を打破せんと悪戦苦闘していた時期もあったが、未だ進化もしていない幼竜の時分には結局何も成す事が出来ずに人間達に捕らえられ(テイムされ)てしまった。

 あの時程自分の無力さに憤った事はない――だが、しかし。

 

 今思えばあれは、我に与えられた数少ない、そして最大の幸運だったのかもしれない――

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりイグニスの背は最高だねぇ。ひゃっはー!」

「ジーニアス、無駄にテンションを上げても学校からは逃げられないと思いますよ?」

 

 

 さて、そんな我が今何をしているのかと言うと――我がマスター、ジーニアスとその友人であるカシミヤを背に乗せて優雅に天地――人間が付けたこの島国の名前だ――の上空を飛んでいる。

 天竜種の竜である我は当然の様に大空に颯爽と飛び立ち、風を切り中空を進む事が出来るのだが、それも我個人だからこそ出来る事。

 誰かを……自分が主と仰ぐ相手を乗せて飛ぶ訓練などした事もなかった為、マスターと契約してすぐの頃は我の鈍臭さもあってマスターには苦労を掛けてしまった。

 今もマスターの《ウィンドガード(防風壁)》のお陰で大過なくマスター達を乗せて飛べているが、我が【風竜】の類であればその様な手間も掛けずに快適に行けるのだが、やはり無い物ねだりはすべきではないか……

 

 

「デンドロにログインしていれば相対的にそれだけ夏休み明けは遠のくから……」

「……凄く本末転倒じゃないですか? それは」

『マスターは割と自身の興味と勢いだけで行動する節がある。親御殿に心配は掛けぬ方が良いと我は思う』

「……ぐぬぅ」

 

 

 思わず会話の流れに参加してしまう。

 マスターはその見た目通り、人間の慣習で言うならば未だ親の保護下にあるべき年齢の幼子だ。

 何の因果か<マスター>としてこの世界に訪れているマスターは……うぅむ。紛らわしい。呼び名を変えるべきだろうか?

 ともかく、<マスター>としてこの世界に訪れているマスターは本来の保護者の一人と逸れてしまっているとの事だ。

 コテツ殿にも頼まれている事だし、我がマスターの事でもある。我自身がもっと頼られる様になれれば良いのだが、はてどうしたものか……

 

 ……それはそれとして、安全に物事が学べるという『学校』とやらをマスターは何故忌避しているのだろうか?

 対価()が要るとはいえ、安全に同年代の者達と同じ様に様々な知識を得られる機会がある、なぞまさに楽園が如し環境だと思うのだが。

 

 

「確かに多少退屈ではありますが……そんなに学校が嫌なのですか?」

「ぇー……だって学校に友達居ないし……」

「……はい?」

 

 

 マスターの声が尻すぼみに小さくなっていった。

 ……こういう時ばかりは仕事をする竜の身体能力(聴力)が恨めしい。

 しかし――しかしだ。

 マスターに御友人が居ないというのは確かに、あの剣士(カシミヤ)が聞き返すのもやむを得ない程信じがたいと言う物。

 何せ、このマスター(ジーニアス)は才があり力があり、我や同胞(従属モンスター)であるリンの世話も楽しそうにやってくれる善き主だ。

 容姿から見る人間としての魅力は……竜種である私では断言し辛いが、それでも醜いという事は決してなく、むしろ整っていると言える筈。

 個人的には異性から見れば十分魅力的な容姿をしているのではないかと思う。我は同性だが。

 我と初めて会った時――我を見初めて、我を選んでくれたあの時だってあの後には同じ人間の仲間達(パーティメンバー)と共に〈神造ダンジョン〉の攻略を張り切っていた程だ。

 その仲間達や今回行動を共にしているカシミヤやマスターの保護者であるコテツ殿、彼らの反応を見る限り、特に問題があるとは思えないが……?

 

 

「――まさかジーニアスの口からそんな言葉が出てくるとは正直思いませんでした。本当に」

「な、何さー!? 僕だって“あっち”だと色々事情があってだね……うん、まぁ孤立してる感じ」

『なんと……』

 

 

 マスターの憂鬱そうな声に我も若干胸が痛くなる。

 しかし……まさか、と思うと同時になるほど、という納得もあった。

 

 生物は――それは竜や人という種族の違いはあれど、()()()()所は変わらないのだ。

 自らと違うモノを排斥する本能の様な物がある――姿形が違う者、自分達よりも劣る者、そして――明らかに自分達と違う、優れた“天才”もまた、排斥される事があるのだと。

 そして、マスターは……マスターなら、確かにそれに当て嵌まるのだと、我は確信していたからだ。

 

 マスターの天才性は、()()()()()()()を見ても分かる通り明らかだからな。

 

 だが、それならば我には一体何が出来るだろうか?

 マスターがこの世界を、我らと共に居る事の方が楽しいと感じてくれるのは素直に嬉しいのだが、マスターは<マスター>なのだ。

 我らにはこの世界しかないから想像する事しかできないが、<マスター>が“もう一つの世界”を捨てられる様な存在ではないという事くらいは知っている。

 知っているが……故、どうすれば良いか、等と言う問題は流石に我には難し過ぎる!

 

 少しの時間剥れて黙ってしまったマスターを乗せて、我が黙ったまま唸っている所に。

 

 

「ふむ。ならば――学校でデンドロ友達など作ってみる……と言うのはどうでしょう?」

「……詳しく!」

 

 

 ぬ?

 デンドロ友達……デンドロ、と言うのは確か<マスター>達の専門用語で“こちら側の世界”を指す言葉であった筈だ。

 で、あるならばそれは――

 

 

「デンドロは既に社会人、学生を問わず大ヒットして大流行真っ最中みたいです、ならば……」

「――学校の他の子達もデンドロにハマっている筈! そこでなら間違いなく話題が合う――そういう事だね!」

「ええ。僕も最近話題にできそうだな、と思ったくらいですけど」

「グッドだよカシミヤ! ふふふ、夏休み中大体ずっとデンドロをしていた僕に隙はないね……!」

いや、それは多分隙だらけだと思いますけど

 

 

 ふむ……半分くらい言葉の意味が良く分からなかったが、どうやらマスターの問題は解決した様だ。

 これもカシミヤの妙案があっての事。彼には言葉が伝わらないから心の中で感謝を捧げておかなければ。

 これでマスターも心穏やかにあちらの世界へ戻れるだろう。  ……?

 

 

『マスター、すまないが緊急事態だ』

「イグニス? 何があったの?」

 

 

 緊張感が多少抜けてたさっきまでとは違い、途端に真剣な気配を漂わせるマスター。

 そのマスターに向け、我は告げる。

 

 

『我から見て左後方だ――敵襲だ!』

 

 

 そう、それはドラゴンも怪鳥も、勿論人間だって変わらないこの世界の掟の一つ。

 隠れる場所も遮蔽物もなく見晴らしの良い空中は――我ら天竜種を含める飛行モンスターの狩猟場だと言う事――!

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

「――あれはかなり早そうですよ、どうします!?」

『ぬぅぅ! 我の翼がもっと速度を出せれば――!』

 

 

 ――QLUEEEEEEEE!!!

 

 全速力で左後方の相手――恐らくは怪鳥種――から離れる様に方向を転換するが、どうやら幾らか手遅れだったらしい。

 既に雷光で全身を光り輝かせている怪鳥は明らかにこちらを狙って(ターゲットして)来ていて逃がすつもりは全く無さそうだ。

 

 

「――【亜竜雷鳥(デミドラグサンダーバード)】!? 有名な位階(レベル)詐欺モンスターじゃない! なんて運の悪い……っ!」

『知っているのか、マスターよ!』

 

 【双眼鏡】で敵手の名前を視認していたマスターが驚愕の声を上げる。声音だけでも切羽詰まった雰囲気が犇々と感じられる。

 しかし、こうやって空を飛ぶのも二回目なのにもう空のモンスターも暗記しているとは、流石はマスターだ。

 

「亜竜級上位の怪鳥種だよ! 空中戦も得意だけど地上へも良くちょっかいを出すから有名なんだって! 厄介なのはまるで攻撃魔法の様な遠距離からの雷撃と身体を覆う雷の衣! 特に成体の紫電の衣は生半可な矢弾は雷で弾かれて、接近しようとすると雷をもろに受けて【麻痺】【硬直】するから鬼門!」

「どうしようもない様に聞こえますけど!?」

「それを今からどうにかするのさ!」

 

 早口に【亜竜雷鳥】の特徴を列挙すると、左手を【アイテムボックス】に突っ込み――

 

 

「――そぉい! ついでに!」

 

 

 ――風属性魔法、《ブリーズ(微風)》と共に【アイテムボックス】から掴みだした砂利を空中に投げ出す。

 オマケとばかりに右手を突き出し、短い《詠唱》と共に五本の《ライトランス》を生成し、【亜竜雷鳥】に射出した。

 

 しかし、風に乗って正確に【亜竜雷鳥】へと運ばれた砂利は無残にも【亜竜雷鳥】を覆う紫電に弾かれ、亜音速にも満たない速度の《ライトランス》は未だ距離もあった為、避けられてしまう。

 

 此方の攻撃魔法を躱して得意気になった【亜竜雷鳥】は一声甲高い声で鳴いて、速度を上げて更に距離を詰め――あ、マスターの《レイ》が直撃した。

 直撃した様だが……一瞬ふらついただけで負傷(ダメージ)はあまり無さそうだ。

 

 

「うーん。さっきの《ライトランス》で撤退してくれると嬉しかったんだけど、そうはいかないみたいだねぇ……」

「先程の攻撃魔法なら十分ダメージを与えられるのでは?」

「ああうん。今のも威力を強化してたんだけど……やっぱり位階(レベル)詐欺の通称は伊達じゃないのか、それと光とか熱にも耐性があった筈。ノーダメージではないけどそこまで有効じゃない感じだったね」

速度(AGI)の差も、これは厳しそうだぞマスター!』

 

 

 おそらくは、速度(AGI)を数値にして3000以上――筋力(STR)は低いのであろうが、やはり我と亜竜級上位とでは洒落にならない差だ!

 熱に耐性があるのなら我が出来る事は極端に少なくなる。更に纏っている紫電を考えると……幾度思い返しても己の無力さが煩わしい!

 

 

「うん。このままなら相手の雷撃の射程圏内に入っちゃいそう、かな」

 

「だから――頼めるかな? カシミヤ」

 

「――誰にモノを言っているんですか? あんなに柔らかそうで無防備な鳥なんて一振りで十分ですよ」

 

 

 …………

 確かカシミヤは剣士だった筈なのだが……凄い自信満々に言っているが何か策などあるのだろうか?

 そう思う我であったが、マスターが「そうこなくっちゃ!」と言うと早速懐より【符】を何枚も取り出し、掲げようとした。

 待て! 何の説明もないのか!? と言いたかったが、【亜竜雷鳥】との距離を縮めない事に全力を注いでいる状態では口に出して叫ぶ余裕もない。

 

 だが、マスターなら……と、そう頭の隅で考えていた時、それは唐突に始まった。

 

 

「道を啓け、開け、披け、拓け! 《簡易結界》!」

 

 マスターが《詠唱》と共に、そうスキルの発動を宣言するのと同時に――我から真っ直ぐ伸びる様に空に半透明の足場――結界が何十枚、いや何百枚も展開される。

 

 ――幾ら何でも無茶だ! 最下級の結界じゃこの風圧を耐えられる訳がない!

 

 しかし、我のその思いとは裏腹に――その結界は我が飛行を続けても、カシミヤが足を踏み出しても多少小動する程度で風圧でバラバラになったりはしない。

 ――《ウィンドガード》を同時に展開していたのか? 一体いつの間に……

 

 

 そして、マスターがマスターならそれに付き合うカシミヤもカシミヤだった。

 

 カシミヤは一度だけ《簡易結界》の上で足踏みすると、半透明の結界以外はまるで空の上だと言う状況にも関わらず――結界の上を沿って躊躇わず全速力で()()()()()ではないか!

 

 横殴りの風も、上下から襲い来る暴風もすべてまるでない物の様に《簡易結界》の上を高速で進むカシミヤ。その絡繰りは彼の足元に僅かに見える魔法陣だろうか?

 だが、だとしてもこの様な状況で迷わず前に進むなど正気の沙汰ではないぞ……!

 

 

「あれ。イグニス、カシミヤが心配? ――《簡易結界》! 大丈夫大丈夫、こと剣に限れば――《簡易結界》! 自信を持って僕よりも上だって言えるんだからね――《簡易結界》!」

 

 マスター! 会話しながら《詠唱》に繋げるのは凄く紛らわしいと思うが!?

 いや、それ以前に、マスターはいつの間にか再度【双眼鏡】を取り出してカシミヤの方を注視している様子だった。

 ……もしやそんな雰囲気を出していたのだろうか? 我もまだまだだな。

 

 マスターは《詠唱》を交えた《簡易結界》を――いや、まさか。

 

 そのまさかであった。視界の端で紫電の雷光が煌めく。

 カシミヤが【亜竜雷鳥】の雷撃の有効射程範囲に入ったらしい。

 

 ――やはりそうか。

 

 竜種の身体能力はひ弱な我の身体であってもこんな所(視力を含む感覚)ばかりは良く働く。

 目線を向けずに左方に意識のみを向けるとその様子が良く見て取れる。

 

 カシミヤを狙って放たれた【亜竜雷鳥】の雷撃が、新しく出現した《簡易結界》に防がれ、逸らされていく様が。

 知能が低いなりにそれが不味い物だと気付いたのか、自身の方へ伸びていた《簡易結界》の道を避けようと左右にずれようとした【亜竜雷鳥】を追って更に《簡易結界》の道が追加されていく様が。

 

 おそらくは、《魔法射程延長》《魔法範囲指定拡大》《魔法多重発動》は、確実に使用している筈。もしくはもっと複雑な物かもしれないが、自然を生きていた我には流石に即座に判別する事は出来ない。

 この遠距離からの精密な魔法構築。竜種の、その中でも魔力の強く魔法を頼って生きていた我から見ても精確で緻密な魔法行使。

 それも、《詠唱》によるタイムロスや事前に多少は知っていたとはいえ、初見のモンスターの行動を先読みして?

 

 ――全く、これだから我のマスターは素晴らしいと言うのだ。

 先程はカシミヤを誉めそやしてはいたが、マスターだって十分な、いや、我から見たらマスターの方がよっぽどだと思うのだが。

 

 だが、しかし――そのカシミヤは接近してどうするつもりなのだ?

 確かにこうして空中を接近するだけでも人間離れした絶技ではあるが――纏っている紫電は消えておらぬぞ!

 

 

 我がそう思考するのと同時に――カシミヤは速度を緩めずに《簡易結界》で作られた道を走破して――我の懸念通りに紫電の洗礼を受けてしまう。

 紫色の閃光が一瞬弾け、嫌な音が僅かに聞こえた。

 

 確かに接近できたものの、周囲を覆う紫電に囚われて防ぎきれずに【麻痺】【硬直】の状態異常を受けてしまったのか【亜竜雷鳥】の眼前で停止してしまい動けないカシミヤを嘲りつつも【亜竜雷鳥】の鋭い嘴が――

 

 

 

 

 ――断ち切られた。

 

 

 

 

 

 否、それは一瞬の勘違いが見せた幻覚だった。

 正確には――嘴ではなく、【亜竜雷鳥】の首、胴体と頭部を繋ぐそこが、瞬時に斬り離されていた。

 動けないカシミヤ――の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、達人技を以て一撃の元に【亜竜雷鳥】の命脈を斬り落としていたのだ。

 

 

「――よし、《フォーリングコントロール(落下制御)》! イグニス、カシミヤとついでに【宝櫃】回収しに行くよー!」

 

 

 我と同じ様に【双眼鏡】でその光景を見ていた筈のマスターは、しかしそれを当然だとでも言う様に全く気にせず我に指示を出す。

 我もそれに素直に従い、中空で旋回して今も緩やかな速度で落下しているカシミヤを迎えに行く、行くが……本当にマスターは読めない物だ。

 一体何処からこの結末を想定していたのやら……

 

 まぁ、何はともあれ当座の危機は去ったのだ。

 警戒は緩められぬが、我も自然に居た時の癖で放つ機会も無かった()が身体の奥底に燻っているのを感じられる程だ。

 せめてこれから大白宮の街までは今まで以上に飛ば(加速)してマスター達に余暇を楽しんで貰わねば!

 

 

 

「それにしてもー……流石に覚えたばかりの《気配操作(・・・・)》じゃ野生のモンスターの嗅覚はそこまで騙せないねぇ……」

『まだ習得直後の雛の状態では普通はそんな物だぞマスター』

 

 

 ……マスターなら遮蔽物も何もない空の上でさえなければ逃げ切れそうだったな、と言うのは我の心の中だけに留めておくとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

8月27日(木)

 夏休みも終わりが近付いてきている今日この頃。

 カシミヤもそうだけど僕も勝や明日香に言われて生活習慣を直している最中――

 まぁ、それでもデンドロは毎日ガッツリやってるんだけどね!

 ……学校始まってからちゃんとやれるか、少し不安になってきた。大丈夫大丈夫。多分ね!

 

 今日はカシミヤと一緒に<犀合山岳地帯>を通って北の霧影領へ向かう旅路。

 ……旅路、なんだけど。移動手段の食い違いがちょっとあって結局行きは徒歩で向かう事に。

 道中のモンスターの討伐依頼もあったからね……流石に空路は不味かった。

 ちなみに、カシミヤは特に移動を楽にする従属モンスターも持っておらず、その身一つで天地を旅してきたらしい。

 カシミヤのエンブリオを考えれば納得は行くけど、カシミヤらしい凄い精神力だよね……

 

 大白宮の北に聳える<犀合山岳地帯>は今までにも何度も行った事があるし、何ならカシミヤと一緒に間引きクエストも受けた意外と縁のある場所。

 もう大量の【小鬼】や【黒鬼】が蔓延ってたのはちょっと倦厭とさせられるけど、僕達の実力はあの時と比べて遥かに強くなっている。

 鎧袖一触に襲い掛かってくるモンスターを討伐して特に苦戦する事もなく<犀合山岳地帯>を抜け……られたら良かったのだけど。

 

 何があったのかと言うと……うん、以前も将都へ向かう途中で遭遇した様な野盗と遭遇したのだ。

 そりゃ、僕とカシミヤ、子供二人だけの旅で従属モンスターも出していたのは小さくて一見あまり強そうには見えないリンだけだったからと言うのは分かるのだけど、問題はそこではない。

 何故なら、野盗――襲撃者は、<マスター>だったのだから。

 

 PK――プレイヤーキラー。MMO用語でもあるそれと遭遇するのは初めてだった。……と思ったけどそういえば以前カシミヤと戦った野試合もPKと言う事になるのかな?

 そもそも、この<Infinite Dendrogram>におけるPKはプレイヤー(<マスター>)を殺す者、の意ではなくてプレイヤー(<マスター>)が殺す者、の意であって殺傷する対象は<マスター>に限らずティアンである場合も該当するのでは、とか掲示板で議論されているのを見た事もあるけど、それは特に今回は関係ないね。

 

 今回僕達を襲ってきたのは十二人の<マスター>集団、相手のPKの頭っぽい人もレベルは多分僕やカシミヤよりも一回りくらい低い様に感じたのはPKの方法を吟味したり、得物を物色するのに時間を割いているのだろうか? ……普通にリアルの事情とかジョブの事情かもしれないけどね。

 相手の主力ジョブは【野伏(ダウン・サムライ)】。初手の奇襲攻撃で大ダメージを与える【武士】系統の派生職だった。

 なるほど、不意を撃って一撃で決めるのはPKとしてかなり理に適っている様に思う。

 ……<マスター>を主に狙うPKだと、何が出てくるか分からない〈エンブリオ〉があるからね。何もさせずに初撃で決着させられるのならそれが一番だと思う。

 

 ――まぁ、初手で奇襲する前に気付かれたら全く強味が無くなるジョブ構成(ビルド)なんだけどね!

 でも、《刹刃圏》があるカシミヤはともかく、《危険察知》Lv3しかない僕でも気付けたって……やっぱり<修羅の奈落>は凄い。

 結局、初撃を放とうと背後から襲い掛かろうとしてきた相手の頭領をカシミヤが一撃で首を刎ねて、残りも二人で流れる様に全滅させる事に成功した。

 後方支援はリンに任せて、僕も前衛でカシミヤをフォローしたけど、もしかしたら必要なかったかもしれない程だったからね……

 

 ちなみに、余談ではあるけど今回襲ってきた相手はどうやらカシミヤを狙っていたPK達であった様だ。

 先日天地を旅している最中に一度襲われて返り討ちにした相手らしい。で、今回のは恐らくリベンジマッチであったとの事……

 ……自分で言うのも何だけど、僕が一緒にいる時に襲ってくるなんて不幸だったね!

 

 PKの襲撃の後は雑多なモンスターの襲撃くらいで何事もなく山岳地帯を越えて、山の麓の霧影領……忍びの里に到着した!

 PK、というよりは<マスター>の野盗はティアンと違って首とかは残らないので一応入り口で報告だけしておく。戦利品(ドロップアイテム)は貰ったけどね!

 無事に忍びの里の冒険者ギルドに配達依頼の物品を渡して手続きを終えて一息つく。

……配達依頼は基本、アイテムボックスに入れて配達するだけだから苦労は少ないんだけどその分実入りもそんなに多くないんだよね。

 

 

 ……で、その後は。

 セーブポイントも更新して時間も丁度良い時間だったし、依頼も一応は完了したのもあったから……一度里の外まで出て、カシミヤとの野試合をする事にした。

 結果は……今回は勝った! やった。カシミヤにリベンジを成功させたのはPKではなくこの僕だったという訳だね!

 <修羅の奈落>で頑張った甲斐があったというもの。

 今回の勝因は回避できない光速の《レイ》と《極光剣》。

 やっぱり《極光剣》の威力増強は良いね……本当に良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8月28日(金)

 今日はカシミヤはまだデスペナルティ中なので一人で忍びの里を行く。

 用事もあったのでまずは【忍者】ギルドへ赴いた。……【忍者】ギルドだけど特に格好は忍者忍者していない、そこらを歩いていそうな服装をしている人が約半数。

 残りは黒装束に覆面まで被った古式ゆかしい忍者スタイル……をしている人の約七割くらいは<マスター>だった。ちぐはぐな雰囲気!

 

 とりあえずは【忍者】ギルドで用事を終わらせようと、受付の人に合言葉を言って朧さん――霧影領の大名である霧影朧さんに取り次いで貰い、泰央氏から渡されていた書簡を渡して依頼を完了させた。密かに依頼されるのはこれっきりにして貰いたい。

 それにしても……朧さんは何というか、非常に陽気で凄く“それっぽい”忍者言葉を扱う御仁だった。

 服装も相まって非常に親しみ易そうな感じがするのは既に忍者の術中に囚われている気がする……! お土産も渡してくれた面白い人だったのは確かだけれども。

 しかし、この世界のティアンなのに何故ござるとかの忍者言葉を知っているんだろう……? 誰か他の<マスター>が広めたのかな?

 

 漸く依頼を全て済ませた後は僕個人の用事を済ませる事にした。とは言ってもこれも【忍者】ギルドでの用事だったのだけど。

 

 ――という訳で新たに【()()】のジョブに就く事ができた。特に問題もなく転職できて良かったー。

 事前にインターネット上の掲示板や攻略Wikiなどでジョブを精査して、総合的に見ても【忍者】系統の派生職である【隠密】、そしてその上級職である【影】は非常に今の僕に合っているんじゃないかと思っていたんだよね。

 長じれば罠の感知、解除等のスキルがある他、実に僕好みの戦法も出来そうで楽しみだね!

 

 最も、流石に()()()()()()()であるのだから何かしら他と違う反応があるかもしれないと緊張していたけど……うん、初めてだけど《全主恩寵(・・・・)》はちゃんと効いているみたいで何よりだった。

 

 

全主恩寵(オールド・グレイス)》Lv1:パッシブスキル

 このスキルのスキルレベルと等しい数だけ、新しく下級職に就く事ができるようになる。

 

 

 【アダムカドモン】の上級進化と共に習得した固有スキルだけど、実質的にジョブを埋める前は何の意味もないスキルだったけど、やっぱり持つべきものは自分のエンブリオ、かな?

 僕の性分もあって早速役立ってくれたのは嬉しい限りだね。我ながら現金な事だと思うけども。

 

 無事に【隠密】に就けた後は時間を精一杯使って【忍者】ギルドで行っている忍者や隠密の為の訓練に参加。

 本当に多少の金銭を払う必要はあるが、これも立派なジョブクエストなのであるとか。特殊技能を扱うジョブなら確かにこういうのも必要だよね。

 最初の説明では「【忍者】や【隠密】にとって効率的で効果的な指導をするから覚悟していろ。ちなみにこの訓練は各ジョブが行動依存で覚えられるスキルを覚えるのに重要だから真面目にやらなかったら後で泣きを見るのは貴様らだ」的な事を凄く回りくどい言い回しで言われたので僕も忠告に従って全力で訓練に取り組む事にした。

 ……基本的に、最初のジョブに【忍者】か【隠密】を選んだ人用の訓練だったみたいで、僕の能力値(ステータス)では少し過剰だったけど、ご愛敬だねうん。

 まぁ、訓練の甲斐もあって二日も経つ頃には【隠密】のジョブレベルが5まで上がって、《隠蔽》《隠蔽感知》《気配操作》《軽業》をそれぞれLv1で習得出来たのだから万々歳!

 二日の訓練の成果と思えばこれで十分だね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8月29日(土)

 今日の所は勝が“組織”へ報告しに行くそうなので、デンドロにログイン!

 イベントも二週間前にやったばかりだし多分何事もないとは思うのだけど、一応ね。

 ……最初のイベントとの間隔が約一ヵ月だっただけで、運営(管理AI)は基本的にイベントの告知とかあまりしないしね……

 

 今日はとりあえず昨日に引き続き【忍者】ギルドで訓練をしながらカシミヤがログインするのを待つ事にした。

 訓練の費用が少し値上げされていたけれど! ……まぁ、合計レベル次第で取られるお金が変動するみたいなので仕方ないね。

 ちなみに、訓練中に教官に聞いてみたけど【忍者】ギルドの他のジョブクエストは僕が泰央氏から受けた様な密書、書簡の配達や簡単な情報収集と言った【隠密】向けのクエストと他のジョブと同じ様なモンスターの討伐依頼が主な【忍者】向けのクエストがあって、どちらを請けても問題ないんだとか。こういう時は万能型……うん、僕みたいな万能型の面目躍如だね!

 ……ちなみに、信用されれば破壊工作とか各都の深部の情報収集とかの重要な仕事も任される事があるとか。ニンジャショックを受けそうだね。

 

 リアルで午後になった辺りでカシミヤがログインしたのがフレンドリストを通じて知覚できた。

 訓練を切りの良いところで切り上げて迎えに行くと、「流石に光はまだ斬れませんね……」と残念そうに言ってた。

 流石に光速は普通はどうしようもないと思うんだけどね! ……僕は光はあまり効かないけども!

 その後は折角なのでカシミヤと一緒に忍者の里で少し買い物を楽しむ事にした。

 期待通りに表に出ている商店にも所謂“忍具”が沢山売っていた! テンション上がる。

 思わず二人して幾つも購入してしまう。……<マスター>が作った失敗作の【まきびし】とかもあったけどね!

 加工が非常に難しい癖に使用者のSTR(筋力)DEX(器用度)も関係ない物理ダメージだから、END(耐久)が1000以上ある相手には何の効果もないんだとか。

 他にも、【鉤梯】、【煙玉】、【水蜘蛛】に【兵糧丸】等実にバラエティに富んだ忍具を衝動買いしてしまった。

 カシミヤも楽しそうに忍刀とか仕込み刀を買っていた。……仕込み武器、いいよね。僕もいつかコテツに作ってもらおう。

 ついでにコテツと春香にもお土産に【蜂蜜兵糧丸】を幾つか買っておく。……【兵糧丸】シリーズで一番味が良かったからね。

 

 二人でショッピングを終えたら来た時と同じ様に二人で揃って大白宮まで戻る事にした。

 カシミヤの方は他に用事は良いのだろうか、と聞いてみたけどどうやら残念ながら忍者の里では野試合やってくれる人はいなかったらしい。

 マスターは結構な人数居たんだけどねー。

 流石は忍者の里と言うべきか、既に天地を旅して野試合三昧していたカシミヤの事も知っていたらしい。アイエエ……

 

 

 帰りは折角なので請ける依頼は配達依頼だけにして、二人でイグニスに乗って優雅に空の旅で無事に帰還――――と、行けば良かったのだけど。

 

 帰る途中、空の上で【亜竜雷鳥(デミドラグサンダーバード)】に襲われちゃったんだよね。

 ……やっぱりスキルレベルが1のままの《気配操作》じゃ限界があったらしい。がっでむ!

 

 空の上で襲われるのは春香や竜胆さんと居た時を含めても初めてだったけど、まぁなんとか勝てたから無問題(もーまんたい)

 ……とはいかなかったのがご愛敬。いや、僕にもカシミヤにもイグニスにも被害はなかったんだけど。

 まぁ、ちょっとその、カシミヤに怒られて……結局大白宮に戻ったら高級茶屋で一回奢る羽目になってしまった。とほほ。

 僕も説明してなかったのは悪いと思ってるし……天地を旅してたカシミヤが空中で襲われたら逃げるのは困難とか知らなかったとは思わなかったし……!

 

 ……まぁ、お金には余裕があるから、夏休み明け前にぱーっと宴会気分で使うのも悪くはない、かな?

 

 

 

 

To Be Continued…………




 昔の偉人(フラグマン)に曰く、ジョブという器をどれだけ自らの中に置けるか、どんな種類の器を置けるかは個々人によってまるで異なる。これがこの世界の才能の正体でもある……と。

ステータスが更新されました――――

亜竜雷鳥(デミドラグサンダーバード)】:
 亜竜級の中でも上位の実力を持つ種族:怪鳥のモンスター。
 紫電を纏った巨大な怪鳥で基本的に特定の縄張りを持たない性質で様々なフィールドで稀に出現するやべー奴。
 基本戦法は空中から得物に向かって雷撃を撃ち放つ。それだけだが、雷速の時点で普通の武芸者では回避もままならず、そのまま【麻痺】を受けて次撃も避けられず死ぬ。
 常に纏っている紫電の衣は下手な遠距離攻撃を無効化し、亜竜級上位に相応しい高いステータスによって非常に厄介な手合い。
 しかしENDは1000くらいしかなかったのでカシミヤの《剣速徹し》で瞬殺された。【イナバ】さえなければ……

《全主恩寵》:【アダムカドモン】の二つ目のメインウェポン。むしろメインウェポンを増やす為のスキル。
 しかし、上級エンブリオになって覚えた固有スキルの癖に即戦力にはならなかった。
 まぁ即戦力にしようとしたとしても下級職一つ分増えたってステータスそんなに増えないのだけど。
 それでも《全主相応》《全主権限》と連動する【アダムカドモン】の新たなる力には変わりないのであった。

 ――【アダムカドモン】の身体(ボディ)にスキルとして内蔵された自由形の過剰才能。
 最も、システム的には外付けの移譲才能である超級職と同じ場所に表示される(ジョブ欄のEX枠みたいな所だと考えて貰えれば)。
 天野理の、ジーニアスのパーソナリティを汲んで形作られた、今は僅かに人間の限界(合計Lv500)を超えるだけのスキル。



 ふぅ、今話も最後まで見ていただきありがとうございます!
 やっと【アダムカドモン】の新スキル出せた……エンブリオの新スキルと言うデンドロ小説の華は大々的に使いたいんだけど基本的にパッシブスキルだからちくしょう!
 ボディ(身体)らしいスキルです。ボディらしいスキルとして描写できていたなら幸いなのですが……

 次回はジーニアスの夏休み明け前最後のデンドロです!
 本当に一章のラストが見えてきましたね。長かった…… 
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