今回で天才性の一端が……見せられると良いな。
それでは、本編をどうぞ!
□<白庭街道> 【退魔師】ジーニアス
『GIGIGIIIIIIII!!』
数を頼りに、【餓鬼】が唸り声をあげながら僕たちに襲い掛かってくる。
手には短剣、小剣、棍棒、手斧など、各々武器を携え、必死の表情でこちらに向かって来ている。
ここ、慶都の周辺でも最も
その中でも【小鬼】と並んで
しかし、そんな低いステータスでも今まで存続し続けた繁殖力、人型の利点を生かした武具の利用、そして――種に刻まれた消えぬ飢餓感から常日頃から全力で獲物を狙う嚇怒の表情に威圧され、命を落とす駆け出しの武芸者が未だに存在する。
故に、武芸者として、
「――うん、隙だらけだね」
馬鹿みたいに武器を振り上げて突出していた一匹の首を刎ねる。
一歩踏み込み、仲間が殺された事に動揺したのか、動きが止まった二匹を順に斬り捨てる。
果敢に突撃して来た少し大柄の【餓鬼】の棍棒の振り下ろしを躱し、眼窩から頭部を貫き殺す。
今のが群れのボス格だったのか、周囲に残った【餓鬼】と、勝――コテツを囲っていた【餓鬼】達はパニック状態に陥っていった。
そんな状態となった最弱のモンスターの群れがどうなったかは――言うまでもない事だと思う。
◇◇◇
7月17日(金):前
今日は昨日の夕方からログインしっぱなしだった為、まず昨日からの分も併せて登校前に記述しておこうと思う。
昨日の日記を書き終えた直後、僕と勝はInfinite Dendrogram……長いからデンドロでいいか。デンドロにログインした。
事前情報と違って管理AI二人に出迎えられたのは驚いたけど、キャラクターメイクについては問題なく完了した。
ただ、管理AIとの会話では失敗した部分が多い……猛省しなきゃ。
彼らの起源、目的、能力、知りたい事は多かったのだけど、殆ど分からないままだった。それは勝の方も同じだったらしい。
……気を取り直して、キャラクターメイクを終えた僕達はデンドロの世界に降り立った。空中から落とされたのは流石に初めてだったから驚いたけど、結構面白い体験だった。
そして、大地に着陸してからようやく気付いたけど――本当に驚いた。
己の足で地面を踏みしめる感触、風が頬を叩く感覚、草木の自然な香り、スタート地点周辺に屯していた<マスター>の歓迎の声――まるで五感に違和感を感じない。
キャラクターメイクを行っていた空間は室内(?)だったからあまり意識していなかったけれど、ダイブ型VRMMOがここまで五感を再現するリアリティ溢れる物だったとは聞いたことがない。
そう、まるでここが物語に聞く異世界、という物である、なんて言われたらうっかり信じてしまえるほどこの世界は完璧だった。
合流した後で勝にもそう言ったら難しい顔をして、
「その感覚を大事にしていてくれ」と、言われた。
勝は僕みたいに驚いた様子は見せていなかったから事前にこの感覚を知っていたのかもしれない。その勝がああ言うという事は……まさかね?
勝のアバター――名前はコテツ――と合流した後、僕達は天地のスタート地点、慶都に入っていった。
慶都ではマスター、ティアンを問わない人々の活気にも驚きつつ、まず僕達が目指したのは……ジョブクリスタルだ。
この世界の人類……人間範疇生物の戦闘力というのはジョブで決まる、と言っても過言ではない。ジョブに就かなければ
僕達の目的――この世界で力を得て、この世界に根付き、この世界を探る。その為にはまず力を得る――ジョブを得る必要があるからだ。
……マスターである僕達は、<エンブリオ>という特例があるのだけれど、だからと言ってジョブに就かないという縛りプレイをする必要はないしね。
僕達は暫く自分が選択するジョブについて考えていたけれど、僕が最終的に選んだのは―― 【退魔師】だった。
……最近読んだ
【退魔師】は天地特有の専用ジョブで、その特性は天地版の魔法戦士、と言う表現が一番合っていると思う。
【退魔師】に転職した後退魔師ギルドで受けた説明についてギルドの職員曰く
――武器戦闘と魔法戦闘、両方をこなす万能型であり、更に他の【魔戦士】などのジョブとは違う特徴として、悪魔・アンデッド・エレメンタル・妖怪、と言った魔性のモンスターに有効なスキルも取得可能な特化職としての面も持つジョブであり――
――上級職まで極めていけば遠・中・近距離の全距離で活躍できるオールラウンダーな万能職として活躍できるジョブである――
と、説明してくれた。
……勿論、そんな良い事だらけな訳はない。説明は更に続いていく。
ステータスは
ステータスと同じようにスキルも物理型、魔法型がそれぞれ分かれており、こちらもそれぞれのジョブと比べれば劣ってしまう事。
特定の種族以外を相手する時は他の【魔戦士】などにも大幅に遅れを取る事。
そして、何よりも――仮に最後まで極め、鍛え上げたとしても、恐らくは物理特化型ジョブを極めた者にも、魔法特化型ジョブを極めた者にも勝てないだろう、という事を。
……それはある意味、
物理も魔法もできる
この世界にはレベル制限のない超級職、という例外も存在するらしいが……それは他のジョブも同様だ。
それでも僕がこのジョブを選んだ理由は……実はそんなに深い理由は存在しない。
ただ、茨の道なのは理解していたけれど、この世界で色々やってみたかったのだ。
何が僕に合っているのか、まだ決めかねていたから、だから白兵戦も魔法もどちらもこなせる【退魔師】を選んだだけだったりする。
……そう正直に言ったら職員のおじさんに大笑いされたけれど。
気をよくしたのか、おじさんはジョブに就いたばかりの新米用の安価な装備を売っている店と初心者狩場について書かれた紙を渡してくれた。
激励の言葉を背にして退魔師ギルドを後にした僕達はまずは素直に教えられた店に赴き、管理AIから渡された5000リルで買える内で最も質の良い直剣を購入した。
初期武器である模擬剣でも造りはしっかりしているのだろうけど、命を預ける武器であるならば、これだけでは心許なかったからだ。
……僕自身も中々の物だと思っていたけれど、剣の目利きではコテツに負けてしまった。【鍛冶師】を選ぶだけの事はあるらしい。
そして準備を終えた僕達は早速力を付ける為に――初心者狩場へモンスターを狩りに行く事にした。
レベルを上げる為にはモンスターを狩る以外にも、各々が就いたジョブのクエストを請け、クリアする事でも経験値を得る事ができるらしい。が、【退魔師】の基本的なジョブクエストである『悪魔・アンデッド・エレメンタル・妖怪の一定数の討伐』はそもそもがモンスターを狩る事であるし(それ以前に初心者狩場近辺ではこれらの種族は数が多くない為、あまり効率的ではないらしい)、コテツの【鍛冶師】のジョブクエストを行うのにも鍛冶を行う為の設備と素材が必要となる。
設備については多少の
……と、コテツは説明していたが、僕は知っている。本当に何の用意もコネもない非戦闘職だと言っても、いきなり戦闘に駆り出されなければならない程緊迫している筈がないのだと。
故に、そんな新米の非戦闘職の為に各非戦闘職のギルドには多少の労苦を対価としたスキルもステータスも殆ど必要としない雑用のジョブクエストが用意されている、という事を。
本当に勝は、コテツは心配性だよ……
そんな訳で、僕達が向かったのは慶都西門を出た先、西白寺領に繋がる街道である<白庭街道>だ。
ここは慶都直近の東西南北四つの初心者狩場の中で最もモンスターのレベルが低い為、特にジョブに就きたての新米にはオススメなんだって。
出現するモンスターは下級の鬼である【小鬼】【餓鬼】と下級の魔獣である【大鼠】【小闇狐】の四種類。
初心者狩場というだけの事はあり、モンスター達のステータスも低く、有力な特殊能力も持っていないようだった。買っておいた武器と初期防具だけで苦も無く狩りを続ける事が出来た。
また、モンスターとの戦闘中に気付いたのだけど、どうやらモンスター達は(おそらく、僕達マスターやティアンも)現実と同様、首や頭、心臓などの致命部位を破壊されればゲーム的な残りHPを無視して即死してしまうようだ。
これは人型のモンスターが特に顕著で、動物系のモンスターであっても確認する事ができた。
そうと知れた後はコテツと共に積極的にモンスターの致命部位を狙い、良い調子で狩り進める。他のマスター達と比べてデンドロ内では三日以上の遅れを取っている為、狩りのペースを上げて遅れを取り戻していきたいと思う。
最も、不定形のスライムやエレメンタルなど、致命部位自体存在しないか分かり辛かったり、僕達の持つ現実の知識とモンスターの実際の致命部位が異なってくる事もあると思うので、致命部位を狙う相手は今後はよく考えた方が良いと思うけれど。
結局二日弱の狩りの甲斐もあり、【退魔師】はレベル10に、更にスキルは初期スキルである《退魔の教え》の他に《斬魔剣》と《透魔閃》を習得する事が出来た。
日記の下段にスキルの説明を列記しておく事にする。
想像以上のリアリティについ仮眠のみで遊び倒してしまった為、ログアウトした今も若干眠気が残っている。朝食時に明日香に怒られないように注意しなきゃ。
……今日は終業式。学校から帰ったら、夏休みの始まりだ。
多分、僕の夏休みはデンドロ漬けになるんだろうな、と考えてしまう僕は既にあの世界に魅了されているんだと思う。
《退魔の教え》Lv1:パッシブスキル。
種族:妖怪、種族:アンデッド、種族:エレメンタル、種族:悪魔に対して与える物理攻撃・魔法攻撃によるダメージ、効果をスキルレベル×20%増加させる。退魔に携わるジョブ以外に転職すると効果がなくなる。
《斬魔剣》Lv3:アクティブスキル。
武器に魔力を纏わせ、魔を断つ一撃を放つ。種族:妖怪、種族:アンデッド、種族:エレメンタル、種族:悪魔に対して攻撃力がスキルレベル×50%増加し、物理攻撃耐性を無視して攻撃を当てる事ができる。
また、
《透魔閃》Lv2:アクティブスキル。
武器を振ると同時に斬撃と共に魔力を放ち、遠距離の敵を攻撃する。
種族:妖怪、種族:アンデッド、種族:エレメンタル、種族:悪魔に対して物理攻撃耐性を無視して攻撃を当てる事ができる。
また、
◇
7月17日(金):後
終業式が終わった!
これから長い夏休みが始まる……結局クラスメイトの誰からも何も誘われなかったし、予定を聞かれもしなかったけれど。
暫くはデンドロを仕事にして遊び尽くすから良いや……と、思っていたのだけれど、勝の“組織”での任務が正式にデンドロをプレイする事になったらしい。
羨ましいやら、何と言っていいやら分からない。明日香が一緒に居る時間が減る、と愚痴っていたのが印象に残る。やはり“組織”は早く三つ目のゲーム機を確保するべきだと思う。
三人で夕食を食べた後、デンドロに再度ログインする。
コテツと合流した後、一旦慶都まで戻り、今までモンスターを狩って入手した
先日は先に鍛冶師ギルドと退魔師ギルドに行ってから冒険者ギルドに寄らずにそのまま初心者狩場に行った為、冒険者ギルドに入るのは初めてだった。
……受付のお姉さんに初心者狩場に行く前に登録するように、と怒られてしまった。流石に初心者狩場のモンスターの討伐依頼はなかったけれど、その付近で採れる薬草等の採取依頼ならば受けられる物があったらしい。失念していた……
冒険者ギルドでは討伐・護衛・採取・その他雑事と言った専門的な技能を必要としない依頼を大量に斡旋している為、お金稼ぎにはうってつけ……なのだけれど、冒険者ギルドで請ける依頼はジョブクエストと違い、経験値を得る事ができない為、やはり暫くはあまり縁がないと思う。
ドロップアイテムの査定は一人当たり約5000リルとなった。二日間の狩りで初期資金と大体同じ、というのはどうなのだろうか?とりあえずは購入した武器の元が取り戻せたので良しとしたい。
この後はまた二人で初心者狩場に赴き、モンスター狩り――とはならなかった。
と、言うのも折角のVRMMOなのだから、常に一緒に居る必要はないから、保護者抜きで自由に遊んでみたい、と僕が言ったからだ。
この世界について説明を受け、クエストの請け方も教えて貰い、危なげなくモンスターを狩る事だってできたのだから、心配する事はないのだ、と。
どの道、夏休みが終わったら学校だってあるし、生活習慣も違うのだから無理に一緒にいる必要はない、と。
勝は――コテツは少し逡巡した後にそれを了承した。
僕の熱意に根負けしたのか、思う所があったのか、それは分からない。
苦笑しつつも、僕の頭を撫でながら――
――但し、ちゃんと条件は守る事、と
……ちゃっかりあまり危なすぎる事はしない事とか、何か困った事、必要な事があれば何時でも頼る事とか、可能な限り毎日簡単にでも良いからどんな事をしたのか、聞かせてくれる事、といくつも約束させられてしまった。
前者二つはただ心配性なだけみたいだけど、後者は仕事の報告も兼ねている様なので、勝の為にもしっかりしたいな。
折角なので、この日記にもデンドロでの出来事を書き連ねて行きたいと思う。今日の日記は既にほぼデンドロ日記と化しているけれど……
コテツと別れた僕は前回と同じ<白庭街道>に向かった。
大丈夫だとは思っていたけれど、仮に別れた直後に無茶をしてコテツを心配させる訳にもいかないので、一人でも狩れるのだと再度確認する為に同じ狩場を選択する。
前回と比べてレベルが上がっているのもあり、【小鬼】や【餓鬼】が群れて襲い掛かってきても被弾する事なく狩り尽くす事が出来た。
暫く狩りを続けてレベルが12となり、試しにと、一匹だけ残した【餓鬼】の武器を弾き飛ばし、素手のモンスターの攻撃を食らってみたがダメージは一発2しか食らわなかった。
時間も夕刻近くなっていた為、慶都へ戻ってログアウトする――その帰り道での戦闘中、不意に僕の<エンブリオ>が孵化した。
正直、エンブリオなしでも普通に戦闘を続けられていたし、この世界に来てから結構な時間が経っていたから半ば忘れていたのは事実だ。
僕のエンブリオは戦闘中に孵化した後、一瞬だけ僕の身体を包んだ様に輝いた後……多少の違和感のみを残して何も現れずに、そのまま紋章として左手に格納された。この時点では実体がないカテゴリーであるテリトリーのエンブリオが生まれたと思っていた。
戦闘が終わった後に確認した僕のエンブリオは……【至光天 アダムカドモン】。
しかし、それは予想していたテリトリーのエンブリオではなく……いや、それどころかアームズでも、ガードナーでも、チャリオットでも、キャッスルでもなかった。
それは、恐らく前例の殆どないレアカテゴリー。
僕のエンブリオについて調べるのは時間が掛かりそうなので今日はここまでにしておく。とりあえず明日、勝に相談してみようと思う。
そういえば、コテツのエンブリオも僕と別れた時はまだ孵化していなかった。もし孵化していたら相談するついでに見せてもらって比べてみるのも良いかもしれない。
To Be Continued…………
ステータスが更新されました――――
【退魔師】:天地版の【魔戦士】。種族特攻を添えて。物理スキルでもMPを多く消費する特徴がある。
物理、魔法だけでなく種族特攻要素にまでリソースを割り振っている為、総合力こそあれど一つ一つの要素は悲しい事になっている典型的な器用貧乏型ジョブ。
その上に取得できる汎用スキルが最大レベルが低い《危険察知》のみであり、それ以外は魔法スキルも【忍者】【巫女】【陰陽師】に代表される天地特有の退魔に携わるジョブ以外では使用できないのに、特定種族相手以外では各々のジョブが持つ魔法が上位互換になっている事も多く有用性は低い。
しかし、だからといって全く人気がないという事ではない。数少ない種族特攻を持つジョブにして、その中で四種類という幅広い種族に対して特攻を持っているこのジョブは局地的に需要が存在する事や、魔法職では比較的上げ辛いHPやAGI、ENDといった防御ステータスを上げる為に就く者もいる。
また、天地の【武者】系統を始めとした戦士達もスピリットやゴーストを始めとしたアンデッド、そして物理現象そのものであるエレメンタルといった物理攻撃が通用しない相手に対して《斬魔剣》を欲してサブジョブに選ぶ者もいるようだ(もっとも、最上位のティアンは豊富な装備で対処できる為不要、とする者も多いのだが)。
エンブリオの詳細説明は次回となります。主人公をボディにするとかこやつは正気か……?
そしてここまで書いて地味に日記内に現実の名前とアバターネームが混在していると紛らわしい事に気付きました。
……以後は書き分けをしっかりしないとなぁ。デンドロ日記だから基本アバターネームのみでも良いかもしれない。
最初の書き溜めがここまでの為、連日投稿はここまでとなります。ですが、今後も週一程度の速度で更新していきたいと思いますので、どうかよろしくお願いします……!