無限の世界のプレイ日記   作:黒矢

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前回のあらすじ:ヤバい〈UBM〉から逃げ切った! ……リベンジの機会、あるかな?

なんとか土曜更新です! ……何故か前半がめっちゃ長いですが許してください!
それでは本編をどうぞ!


第三十三話 闖入者と・贈り物

□■<死界の森・深部>

 

 

 

(クソッ! 出遅れた!!!)

 

 

 

 ここは<死界の森>。

 背の高い木々と生い茂る枝葉によって陽の光の入らぬこの森は――“死界”と、そう名付けられた通りの危険地帯である。

 そこかしこにアンデッドモンスターが徘徊し、毒々しい色合いの花が、血を吸う真っ赤な植物が誰に命じられずとも侵入者の命を狙う、帰らずの森だ。

 

 勿論、それらだけではない。光が差さず数多の植物によって視界が遮られ、足場は悪く、空気も澱んでいて瘴気が漂い、何の対策も講じていなければそう長くはない時間で多くの状態異常に罹患してしまうだろう。

 モンスターだってアンデッドモンスターだけではない。

 この国のモンスターの種としても特に強力なモンスター達がこの人の寄り付かぬ、それでいて自然魔力が極めて豊富なこの森に誘われる様にして集まっているのだ。

 それも深部であれば純竜級モンスターが当然の様に闊歩し、噂では複数の〈UBM〉が住み着いているとの話だ。

 

 当然とでも言う様に、そんな特殊な環境だからこそ生じる希少な素材なモンスターからの戦利品(ドロップアイテム)も期待できると言えばできるのだが……

 

 ティアンの命は、一つしかないのだ。

 そんな語るまでもない理由によって、この森に立ち入る者は千年以上の時を経ても稀に居る己の分を弁えない様な愚か者しかいなかった。

 モンスターとかち合わない様に隠れ潜んで進むにしても、この森は条件が悪すぎる。

 視覚、聴覚、嗅覚、触覚……モンスターと言えど殆どの種は己の五感を使って得物を察知する。

 しかし、多くのアンデッドモンスターは違う。

 身体や血肉に含まれる生命力を察知し、襲い掛かる負の生命による存在。

 そんな相手を欺ける様なスキルは非常に限られる。

 それでなくとも非常に強力なモンスター達が数多く住んでいるのだ。

 余程に超越した実力を持った存在でない限り、この森を進んでいく事は出来ないだろう。

 

 

 

 

 ――だが。

 今、この森は戦場になっていた。

 それも、この森に棲むモンスターとモンスターによる戦闘ではない。

 人間と人間の――否、()()()()()()()()()()()()()()()戦場になっていたのだ――

 

 

 

(やっぱりアイツらの“層”の厚さは不味い。二手以上遅れを取ってやがる。早くしねぇと――!)

 

 

 各地で戦闘音が聞こえるその森を、一人の()()が高速で飛翔していた。

 

 体長は約20センチメテル、大きなリュックサックを背負った少年にも見える小人――妖精は<死界の森>の奥深くへ向けて飛んでいる。

 あまりにも命知らずなその行軍だが――それは少し様相がおかしかった。

 

 

 森を飛ぶ、愚かな侵入者に対して【亜竜群狼】が20を越える群れで襲い掛かろうとする。

 極彩色の花粉が乱れ飛ぶ。

 アンデッドモンスターが呪詛の弾丸(闇属性魔法)を飛ばして来る。

 

 それらを――ある時は土属性魔法による拘束魔法で足止めし、またある時は風属性魔法で自身の身体の周りを保護し、またある時はモンスターの魔法を反射させて自滅させる。

 その様な妙技を、飛翔する速度も緩めずに行使する彼は――間違いなく、卓越した実力を持った実力者なのだろう。

 

 然もありなん。

 目を凝らしてみればそれも理解できるだろう。

 彼の――妖精の左手の甲には、確かに独特な形の、“血を流す神”の紋章が刻まれている。そして、彼が持つ大きな力を秘めた短槍。

 それこそは、彼がティアンではない証。不死にして理外の力を行使する<マスター>と、その〈エンブリオ〉である証左。

 

 だが、その卓越した力を持った妖精の身体(アバター)をした彼の表情は曇っている。

 絶えず飛行の為に、それ以外にも複数の魔法を並列行使しつつ――

 

 

 

「ッシャオラアァァァァァッ!!」

「通さないよ! 僕達の誇りに掛けて!」

「ふふふ……幹部さん一人、ごあんなーい……」

 

「……チッ!」

 

 

 しかし、その彼が今、飛翔による進撃を止める。

 前を遮るのは、六人……パーティ一つ分の人数の人間、当然ながら全員が<マスター>だ。

 

 それも、只の<マスター>ではない。

 彼らも、揃って埒外の実力を持つ猛者達。

 <死界の森>を突破しつつも、相手を待ち伏せできる程度の余裕を持った実力者。

 各々が合計レベルにして300を優に越え、〈上級エンブリオ〉を保有する上級マスター達。

 

 そして、彼――妖精の<マスター>の所属しているクランの()()()()()の者達でもある。

 

 

 そう、これは歴史に残らぬ戦争。

 <死界の森>を舞台にした、この国のクランランキング……否。

 ニュースサイト等で知られている限りは、()()()()()()()()()()()()の戦争と言っても過言ではない。

 互いのクランの構成人数は共に四桁を数え、クランの合計ポイントも七大国中でトップを維持しているクランだ。

 今、その二つのクランは此処に――互いの譲れぬモノの為に、相手クランメンバーのPKすら辞さずにぶつかり合っている!

 

 

 

(防御(END)型前衛が二、魔術師が一、支援型が一、そして……【弓手】か、【狩人】、どちらにしろ物理型後衛が二。逃がさないし通さないって思惑が見え見えだ)

 

 一対六という、一見絶望的な戦力差の中にあっても、妖精の<マスター>は思考を止めずに敵手の戦力を分析する。

 相手の装備と、事前に見聞きしていた相手方の巨大クランの構成員を調べ上げた情報からある程度の当たりを付け、そして。

 

 

 

「《大神の叡智》――来たれよ撃てよ、《彗星(シューティング・スター)》」

 

 

 

 ――加減も容赦もなく、即座に超級の衝撃波と神風による攻撃魔法を解き放った。

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

「ぐあっ……《シールド・スクラム》!」

「《遥かなる真白の城壁》!」

「《プロテクション》!」

「《ハイ・ウィンド・レジスト・ウォール》!!」

 

 

 しかし、相手もさる者。

 超級職の魔法スキルに匹敵する攻撃魔法。それを各々のジョブスキルやエンブリオによる固有スキルを組み合わせて見事に無効化してみせる。

 残る二人の後衛が、弓を引き絞り、妖精の<マスター>を射抜かんとする。

 

 が。

 

 

 

「後は任せたぞ、カイン!」

 

 

 

 妖精の<マスター>がそう声を上げるのと同時に。

 パーティの<マスター>の背後の空間が揺らぎ――そして、後衛二人の<マスター>の胴体が横一文字に()()()()()

 

 

「なっ!?」

「嘘!? 感知には誰も……!」

 

 いつの間にか。

 そう、いつの間にか、彼らの背後には一人の男が立っていた。

 何処か不釣り合いな老練な雰囲気を漂わせた、黒髪黒目の青年。

 長槍を携えたその青年は、その不意打ちの一撃でできた意識の空白を逃さずに。

 

 

「《ストーム・スティンガー》」

 

 

 【疾風槍士】の奥義、超加速による刺突の一撃を以て追撃した。

 正確に片方の防御(END)型の前衛の頭部を穿ち貫き、そのまま筋力(STR)任せに槍を薙ぎ払い、もう片方の前衛の露出の少ない頸部を槍の刃の部分で精確に斬り裂き――瞬く間に後衛二人と前衛二人をデスペナルティに追い込む。

 まるで()()()()E()N()D()()()()()()()()な無双っぷりに、漸く残る魔術師や支援型の<マスター>が迎撃に動き出す。

 しかし。

 

 

「おいおい――俺を忘れて貰っても、まぁ困らないか」

 

 

 迎撃せんとカインの方を振り向いたその直後に、後頭部に《ストーンブラスト》の直撃を受けてそのまま昏倒し、敢え無くデスペナルティとなった。

 

 

 

 

 そう、妖精の<マスター>――プレイヤー名、イーズは別に一人でこの森を進んでいた訳ではなかったのだ。

 そもそも、彼が動く前から既に相手のクランが先に動いている事は情報として掴んでいた。

 ならば、我等と彼等は相容れないとも。そして、必ずや戦闘になるとも――

 故に、頼りになる仲間(フレンド)を一人呼んでいたのだ。

 とある縁によってフレンドとなった戦友。この国でも有数の実力者である青年の<マスター>、カインを。

 

 それから先はそう詳しく語る程の事ではない。

 飛翔用の風属性魔法を行使するのと並列してカインの姿を隠す光学迷彩用の魔法を行使。

 更に、その上でカインのエンブリオの固有スキル――《神詐く誑惑(ギュルヴィ)》、欺瞞用のスキルを用い、感知用のスキルから逃れたのだ。

 

 

 

 

「ここは上手く行ったが、目標の【生冠の苗草】とやらはそろそろかい? 今ので結構消耗しているだろう?」

 

 戦闘が終了し、行軍を再開しようとするイーズに、カインはそう声を掛ける。

 

 ――そう、今ここに彼、イーズのクランと、相手のクランが集って争っている理由。

 それが【生冠の苗草】だった。

 

 この<死界の森>に薄く流れる瘴気。

 それを物ともせずに深部に生えるというその生命力溢れる若草は、とある特殊な病気の特効薬となる。

 今現在、国の各地でその特殊な病気が流行しており、その早急な解決が望まれている……のだが。

 

 ……つまり。

 今回の戦争は、一言で言えばクエストのダブルブッキング(重複請負)が原因だった。

 

 ただのダブルブッキングだと侮るなかれ。

 そのクエストの達成には、両トップクランが己の誇りと面子を掛けて執り行う最大規模の超高難易度クエスト。

 そもそもがティアンでは踏破不可能と断じられてもおかしくない<死界の森>のその深部へ行く必要があるのだから、それも仕方ない事ではあるのだが。

 

 

魔力(MP)については問題ない。だが、戦闘音が聞こえない。恐らくはもう――」

 

「――おや、遅い御着きですね?」

 

 

 声がした。直後、イーズとカインの二人は飛び退く。

 

 

 

 ――森の奥から、二人の美少女の<マスター>が現れていた。

 

 一人は、齢十歳程度の童子の様な少女の<マスター>。

 所謂ゴシック風の赤色のドレスの様な防具を身に着けているが――そのドレスには仄かに返り血が付いているのが見て取れる。

 煌びやかな装飾の付いた剣を構え、二人の<マスター>を視線で射抜いている。

 

 もう一人は、二十歳程度に見える妖艶な美女の<マスター>だ。

 露出度の高い服を着て優雅に歩いてきている。そんな服装をしていると言うのに、この森の中で……その肌に傷一つないのは、果たして耐久性(END)が原因なのか、それとも。

 

 だが、一先ずイーズとカインの二人にも分かっている事は、ある。

 

 

 ――この二人が、敵対クランの幹部的な存在であり……先を行っていたこの二人が既に【生冠の苗草】を根こそぎ持って行っているであろうという事。

 

 探査魔法でその裏付けを取り、内心で舌打ちをする。

 ……状況は、明らかに不利だった。

 

 

 

 

「……やってくれるじゃねぇか。俺達は国家元首から直々に依頼(クエスト)を受けてるんだぞ。それを掠め取って、只で済むとは思ってないだろうな?」

 

「ふ、私達だって民草と、それを束ねるギルドから依頼(クエスト)を受けているのですよ? それに恐喝なんて、ああコワイ……」

 

 

 互いの間に、目には見えない、しかし確かに火花が散る幻視が見える。

 イーズと、少女の<マスター>が睨み合いながらもそう言葉を交わし――そして、双方が戦意を露わにする。

 

 イーズとカインは依頼(クエスト)の達成の為にどうしても【生冠の苗草】を手に入れなければならない。その為には、当然ながら目の前の二人のPKすらも辞さない。

 ――眼前の二人は、数は少なくとも先の一パーティ六人よりも、尚強敵だろう、というのは理解している。

 彼等は同じ国のトップクラン同士の誼で、クランの実力者である彼女達の〈エンブリオ〉の固有スキルの概要も知っている。

 確実に、【生冠の苗草】を持っているのは後ろの方に居る美女の<マスター>の方だと――そして、彼女の〈エンブリオ〉によって、盗難系スキルによる奪取は不可能である事も。

 元より()()用のマジックアイテムを用意していただけで得手としていた訳ではないが、それはつまり彼女達をデスペナルティにし、その上で【生冠の苗草】がドロップする幸運に恵まれなければならないという事も。

 そんな、非常にか細い希望の上にしか成功は訪れない事も。

 

 

 ――だが、且つて今も友が言ってくれた様に。

 どんなにか細い光の先であろうと、可能性はあるのだ。

 それならば、諦めずに、己の全力で成功を掴みに行く――それしかないだろう――!

 

 

「……カイン」

「分かっているとも。任せておきたまえよ」

 

 

 

 

 しかし、相対する美少女達二人の<マスター>もまた、そんなに余裕がある訳ではなかった。

 

 彼等のクランに先行する形でこの<死界の森>に突入し、首尾よく【生冠の苗草】を手に入れたのは良い物の――それに支払った代償は決して小さくない。

 彼女達が所属しているクランはその規模や所属人数に関しては紛れもなく七大国すべてを合わせてもトップであるが、しかしそのメンバーには非常に偏りがある。

 偏った<マスター>のエンブリオは偏った成長が付き物で、非常に特徴的(・・・)な〈エンブリオ〉が多いのは事実であるが、そのすべてが使いやすい物だという訳でもない。

 戦闘における実力も上と下の格差は激しく、今回の様な大規模クエストに対しても<死界の森>の様な高難易度フィールドで戦い抜ける人材はそこまで多くは無かった。

 せめて、クランオーナーが居ればそれももう少しマシだったのだが、(オーナー)は依頼を請けた後現実(リアル)で厠に行った後かなり時間が掛かりそうだったので時間を惜しんで放置したのが悔やまれる。

 

 その上で、彼等が所属するクランに先行する為に、彼等以上のモンスター達との戦闘を繰り広げなければならなくなり、その結果としてメンバーの多くや消耗品アイテムの損耗と言った被害が出ている。

 ……勿論、彼女達も依頼(クエスト)の達成を悲願としている為、その損耗に後悔は全くないのだが。

 

 だが、今回は相手が悪かった。

 今回の依頼(クエスト)におけるライバルクランに所属する、国中の<マスター>を見回しても間違いなく三指の中に入るであろう術師である、イーズ。

 ()()()の<マスター>としては異様な程に高い戦闘技術を有する野良<マスター>であるカイン。

 片方ならばまだ勝利を確信できても、それが組んでの戦いになると……勝敗は分からない。

 森の内部を遠回りしようとしても、彼等は共に<マスター>としては異端なる魔法の達人。

 探査魔法や迷彩等の魔法によって奇襲されるよりは、とこうして姿を現したが……

 相手はデスペナルティによるアイテムドロップ以外で【生冠の苗草】を奪う方法はないが、彼女達の方はデスペナルティによる三日間のロスを許容出来る筈もない。

 

 そもそもが、彼女達の誇りと目的の為に依頼(クエスト)を請けたのだから――彼女達の手で、一分一秒でも早く【生冠の苗草】を届けて病気の流行を終息させる。それが彼女達にとっての“最上”に他ならないから。

 

 

「ハート、いざとなったら――」

「勿論、承知しております。私達の本気を見せて差し上げましょう?」

 

 そう言い合い、少女の<マスター>――プレイヤー名、若葉萌と、美女の<マスター>――プレイヤー名、ハートは互いに〈エンブリオ〉の固有スキルを発動しようとする。

 

 

 

 

 そして、ここに両雄は激突する。

 男二人と女二人。なれど此処に集うのは互いに<マスター>の実力者。

 

 自分達の依頼と、実力と、願いと、誇りと、欲を懸けて――――!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ううウウウウアアアア■■■■■■■■■、《健やかに、健やかに伸び伸びよ(ヴィルーダカ)》アァァ!!!」

 

 

 一番最初に動いたのは少女の<マスター>、若葉萌だった。

 剣を――剣のエンブリオを掲げ、狂った様な咆哮を上げながらその固有スキルを――必殺スキルを発動する。

 

 するとどうした事か。

 130センチメテルにも満たなかった女児の伸長が見る見る内に膨れ上がり――四肢は堅く太く、全身の筋肉が隆起したその姿は……まさにマッシヴ。

 その成長に合わせて共に成長したとでも言いたげな鉄塊――剣のエンブリオだった物を振り、二人へ迫り来る!

 

 

「《喚起》、トーくん、リーくん。――《私の愛は総てを包む(ラァブ・イン・エロース)》」

 

 少し遅れて動いたのは、萌の仲間である美女のハート。

 右手の【ジュエル】から《喚起》したるは、筋骨隆々な【流血戦鬼(ブラッド・トロール)】、鬼族の純竜級モンスターと非常に危険な純竜級モンスターである【キング・バジリスク】。

 そして、彼女は呼び出した【流血戦鬼】と【キング・バジリスク】の胸部に手を触れ――そのまま溶け合う様に融合(・・)した。

 出来上がるのは、鬼族の様な角や筋骨隆々な様子と爬虫類の如き鱗が要所に見え、そして若干赤紫色に染まった肌、それでいて美女の面影を残したままの<マスター>、ハートだ。

 それこそが彼女のエンブリオ、【愛欲転身 エロース】――総てを受け止め、受け入れ、溶け合い融合する異端のエンブリオの力。

 

 

 

「《大神の叡智》――《狂える贄の魔法(オーディン)》――《恒星(フィックスド・スター)》!」

 

 しかし、そんな暴力的な気配に対しても、彼等――イーズとカインも負けてはいない。

 必殺スキルの宣言と共に全身から鮮血を滴らせ、それにより――減った生命力(HP)とは比べ物にならない程膨大な魔力(MP)によって、超級の攻撃魔法を発動させる。

 生み出されるは、まるで何時爆発して周囲を焼き尽くしてもおかしくないと思える程の熱量を秘めたプラズマ火球。

 現時点での魔法スキル最大火力を誇る超級魔法。それが遍く全てを溶解せしめんと灼熱の暴威が少女(?)達に牙を剥く――!

 

 

 

 

 この数秒後には、互いの暴力と暴力は衝突しようとしていた。

 この戦いの結末は、否、この戦争の結末は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【妖精女王(ティターニア)】様の為に、負けてたまるかあああぁぁぁぁあ!!」

 

「私達を待ってくれている、あの子供達(LS)を救う為に、私達は負けられないのよおぉぉぉ!!」

 

 

 ……そう。

 全国でも最大規模を誇るクラン同士の戦争。

 

 この場においては……()()()()()()()クランランキング第二位、<妖精女王FC>所属のイーズと、そのフレンドカインと。

 

 ()()()()()()()クランランキング第一位、<YLNT(いえすろりしょたのーたっち)倶楽部>所属の過激派、ハートとバ美肉派若葉萌の戦争。

 

 レジェンダリア中に蔓延した、若年層(ロリショタ)に集中して罹っている<流行病>の解決の為に、今ここに両雄は激突を果t

 

 

 

 

 

「――待て、イーズ! 何か様子がおかしいぞ!? これは――!」

 

 “それ”に一番早く気付いたのは、その中で最も冷静に戦闘を始めようとしていたカインだった。

 

 この自然魔力が特別濃い<死界の森>。

 モンスターも自然魔力の濃さや食糧の豊富さに比例して非常に多いこの森で――何故か、ここには全くモンスターが集まろうとしない。

 戦闘音や<マスター>達の気配に怯えた、という訳ではない。この森に棲むモンスター達はそんな物を恐れる様な弱者ではない。

 だが、そのモンスター達は――今はそれどころか、ここから、この近辺から逃げ出そうとしている始末だ。

 

 ――霧が、瘴気が、そして()()が漂っている。

 視界が悪く、今まで気付かなかったのだ。……一体、いつの間にこんなに魔力濃度が上がっていた!?

 

 

「う、うっそだろ……!?」

「ハート、今すぐゥ――」

 

 そう、短い言葉を発したかどうかと言う所で。

 その戦場は――鮮やかな色の光の靄が一層輝いた。

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

 そして、その一分後。

 その場には、<死界の森>に生息するモンスター達以外、誰も残っていなかった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

10月14日(水)

 今日も今日とてデンドロにログイン!

 転職したてはテンションが高くなるよね! ……僕は割といつも高い方だけどね!

 昨日は忍者の里でようやく【影】に転職して少し買い物とかしてログアウトしたから、今日はその続きとして、【影】のジョブレベル上げ!

 ……の、予定だったんだけど。

 また前みたいに【忍者】ギルドで訓練用のクエストでも請けようかな、と思って【忍者】ギルドに行ったんだけど、うん。渋い表情で断られたんだよね。

 向こうの言い分を意訳すると、「当然の様に上級職にまで成長しておきながら人に教えを乞いてるんじゃない」的な……つまり、その先の道は自分で切り開け! という事らしいよ!

 一応、前回の訓練の時の様子からして半ば予想はしていたのだけど……予想外だったのは、その先だった。

 

 「それでも訓練がしたいなら――上級職用の、訓練を受ける側ではなく、訓練をする側として参加したらどうだ?」って……

 まさか、訓練、指導をする側で参加できるなんて! 正直、すっごく興味深かったから一も二もなく参加表明したね!

 ……今まで“組織”に助けられて、病院でも今の家でも人から色々教わりっぱなしで、人に何かを教えた事なんて一度も無かったから、嬉しいなぁ。

 僕に教師の才能は……まぁ、そんなには無さそうだけど、それでも精一杯頑張らなきゃ!

 ――ところで、なんで娯楽書籍とかだと天才キャラって人に物を教えるのが苦手的な感じにされる事が多いんだろうね……?

 

 ちなみに、こうやって訓練、指導用の教官のクエストは請けたけど別に忍者の里も人手が足りないとか、里の人間の練度が足りないとかそんな理由がある訳ではないみたい。

 最近は僕みたいに【上忍】や【影】等の上級職に就いた<マスター>も増えてきたから、そんな僕らみたいなのにも後進を育てる機会を与える事で互いに今後の糧にしたり――あと、多分“万が一”の時の事も考えているのかな?

 まぁ、新米や後輩に技術を教える事で指導する側だって鍛錬になるというのは確かだし、ジョブクエストにもなるからどの道否はないのだけどね!

 そういう事でクエストを請けてから半日が過ぎる頃には訓練を受ける側もする側も集まって――訓練のジョブクエスト(平日の部)が始まった!

 

 今回僕が参加する訓練の陣容は講師陣が僕を含む<マスター>二人、ティアン一人に対して新人の下級の<マスター>が六人。

 僕が訓練を受けた時は一対一だったのだけど、やっぱり【忍者】系統は<マスター>に人気なのかどんどん忍者の里の<マスター>人口は増えているんだとか。

 大体がNINJAな【忍者】だけどね!

 ……それにしても。

 生徒側の<マスター>が個性的過ぎてうん、凄かった……

 総合的に見れば優秀ではあったから指導する側としては多分楽だったと思うんだけど、突撃脳だったり完全無口だったり変装が全く変装になってなかったり……

 明日からの訓練、大丈夫かなぁ……

 

 そして気が付いた事がもう一つ。もう一人の教師役のマスターの人の事。

 【上忍】にして【影】の根っからの忍者ビルドの植田瞳という人なんだけど……プレイヤーネームでもしやと思ったんだけど、なんとあの植田さんの娘さんらしい。

 世間はせま……くもないか。植田さんがいた大白宮と瞳さんがいた忍者の里はお隣なんだし普通に一緒に来てたりしたのかも。

 親子でデンドロは珍しい――って、僕達もそんな感じだからそこまで珍しくないのかも……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10月17日(土)

 一人で回る文化祭は……格別の味だよね……?

 

 そんな悲しい現実の話はさておいて。帰ってきたら早速デンドロにログイン!

 今日はすっごい変な事があったからそれについての事がメインなんだけど……まぁ、とりあえず順番通りに。

 

 訓練クエストは金曜日の昨日が最後だったので、ログイン後は訓練の時の仲間達とかるーく打ち上げに参加!

 現実での午後からの参加だった僕とかに合わせた時間だったけど、僕がログインした時には先に始めてたね……楽しそうなのは良い事だけども。あいつらめー。

 それにしても、訓練クエスト、今思い出してみても濃い日々だった……不動さんの指導の日々に勝るとも劣らなかったね。

 まさか誰が作ってもそんなに味の変わらない【兵糧丸】をあんな個性的な味に仕上げる子が居るなんて……という余談はさておき!

 ちなみに、訓練クエストの日程は土日の自由時間を増やす為に計画的に練られた物だったらしい。

 誰が計画したのかは知らないけど、僕としてもありがたい事だよね。忍者の里に居付いている<マスター>からの口添え……なのかな?

 

 【忍者】ギルドで解散した後は予定通り、大白宮への帰途につく事に。

 そろそろ春香が学園へ出立する時期の筈だから、ちょっと時間が押しているのもあってイグニスに乗って、空からばびゅーんとね!

 イグニスの速度ならデンドロ内時間でも半日も掛からずに大白宮まで移動できるからね!

 

 うん、順調に大白宮まで戻ってこれたのだけど……

 大白宮の門を上空から目視できる距離まで近付いて、イグニスから降りて歩こうとした矢先に――数十メテル先が虹色に光輝いたのだ!

 すわ敵襲か不意打ちかと、即座にイグニスを【ジュエル】に戻して臨戦態勢になって距離を取ってたんだけど――特に何事も起きず、そのまま光は収縮して消えていっただけだった。

 

 ※後から聞いた話だと別に僕のすぐ近くに()()のは偶然、完全なる無作為(ランダム)だったらしい。

 

 ……結局、警戒してても【符】による探査魔法にも何の反応もなかったから疑問に思いつつも近付いたら、光が収まった後の場所には二人の男……うん、男達が【気絶】して倒れていた。

 両方共に<マスター>で、片方は天地でも見掛ける様な普通の青年風だったけどもう片方は、天地では見た事がない様な……手のひらサイズより少し大きめの妖精? 小人? みたいな少年だった。

 天地ではお目に掛かれないメルヘン! ……なんでこんな所に? って普通は思うよね。

 正直、僕もあの時は割と途方にくれてた。いきなり目の前に気絶している男達が現れる経験なんてないよ……!

 まぁ、それでも流石に無視するというのも気が引けたから、なんとか苦労して二人共を大白宮の【陰陽師】ギルドに運び込む事に。

 冒険者ギルドも近くて僕も顔が利いて、それでいて熟練の術者が揃っている【陰陽師】ギルドならきっとなんとかしてくれると思って――ついでに僕もそのまま【陰陽師】ギルドの仕事をするつもりだった、というのもあるけども!

 

 

 ちなみに、僕が運び込んだ数時間後目を覚ました二人からはちゃんと感謝されました。えっへん。

 思えば純粋に人助けなんて殆どしてな……いや、普通にいつもクエストは請けてたから人は助けてたけどね!

 

 書き忘れる所だったけど、二人があの光で【気絶】して倒れていたのは、どうやらレジェンダリアの<アクシデントサークル>による物だったらしい。

 名前だけは聞いた事あるけど……レジェンダリアってほぼほぼ天地から一番遠い国じゃない!? ぶっちゃけ地図の反対側じゃない!?

 そんな距離を空間転移されるとか、規格外にも程があるよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10月18日(日)

 今日は成り行きで、昨日転移事故(アクシデントサークル)で遭遇した二人――カインと、妖精のイーズに大白宮を案内してあげる事になった。

 折角の縁だから、とか他の【陰陽師】ギルドの人は今日はかなり忙しいとか、責任とか理由は色々あるけど、何となく彼らとは気が合う予感がしたんだよねー。

 

 ……ところで、やっぱりセーブポイント上書きになっちゃったのは僕の責任なのかな?

 

 性格とかは全然違うはずなんだけど。あ、カインは少し雰囲気がコテツに似ている所があるからそれかも? コテツよりは少し大人びている感じだけどね!

 ……あと、二人共かなり()()()()

 

 しかも、二人共天地にはあまり居ない(大白宮にはそこそこ居るけど)魔法職の実力者! レジェンダリアらしいや。

 それぞれカインが【高位魔法槍士】を、イーズが【大魔術師】をメインジョブにする戦闘型らしい。

 ……いや、どちらかと言うと魔法ガチ勢と言った方がいいのかな? 僕が知っている限り【陰陽師】ギルドの上位ティアンの人に近いかも。戦闘力では……泰央氏以外勝てないかもしれないけど。

 そんな二人だからこそ、天地における数少ない魔法が盛んな都である大白宮での数々は非常に興味を惹かれるらしい。

 西方のレジェンダリアとは全く様式が違うみたいだから、然もありなん。

 ……あれ? 僕の【光術師】と【風術師】は一応西方式だったっけ。まぁいいか!

 

 ちなみに、案内がてら聞いてみたら二人共合計レベルは400を越えていて僕よりも高かった……そこそこの期間闘技場に釘付けになっていた事を含めてもトップ勢とこんなに差があるとは。

 まぁ、二人共ログイン時間が準廃人レベルらしいから仕方がない……かな?

 そんな二人が【符】とか【勾玉】とか【文殊】に興奮しているのは少し微笑ましかったけどね。

 

 

 

 

 さて。

 今日の夜……と言っても、現実(リアル)の時間帯が深夜というだけでデンドロ内では真昼だったんだけど。

 春香が慶都の学園寮に出発する日だった。西白寺家の紋様の入った竜車に乗って、不動さんと竜胆さんが護衛として学園までついていくらしい。凄いVIP待遇だ。

 ……いや、春香は紛れもなく西白寺家のお嬢様でVIPなんだけど。

 一応、あれでも跡取りである長女の愛華さんの時と比べたら控えめなんだとか。一体何があったのやら。

 少し見ただけでも泰央氏特製の【符】を何十枚も懐に入れて防御的には凄かったのにね。

 

 ――僕らは慶都で十分一緒に過ごしていたし、別れに言葉はいらない――って言ったら格好つけすぎかな?

 これから定期的に文通を始める予定だし、そもそも三年――現実世界の時間では一年の間だ。

 一年後の僕はどうしているかな? 諸国を旅してみたいと思っていたけど、それは何時からにしようか、まだ決まっていないんだよね。

 ……やっぱり少しは離れ難く思っていたのかな?

 

 ……とりあえず、感傷はそれくらいにして、この日記でくらいは素直に春香の今後の活躍を祈るとしよう。

 種族:天使の僕が祈ると言うのも、乙な物だよね?

 

 

 

 ――あと、少し恥ずかしいけどこれも書いておかなきゃ。

 大白宮を出る前に、最後に渡した餞別(プレゼント)は、うん、喜んで貰えて良かった。

 素材はコテツの【カナヤマヒコ】を頼った物だし、加工だって教わりながらだったけど……まぁ、それでも今までお世話になったから、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10月20日(火)

 まさか文化祭の話題に入れないのを気遣われるなんて……不覚っ。

 皆が文化祭で盛り上がってた頃? 忍者の里の打ち上げで僕も盛り上がってたよ!

 

 ……うん、これは自虐ネタとしても流石に無いかなぁ。

 

 今日もデンドロにログイン、したのは良いのだけど――

 なんと、昨日ログアウトした【陰陽師】ギルドでログインしたら、コテツがカインと何か仲良さげに話をしていたのだ!

 あれ、紹介したっけ!? と思ったら、元々知り合いだったらしい。現実(リアル)の方で。

 ……コテツの知り合いって、もしかしなくても“組織”関連じゃない? まぁ、あまり深く突っ込まなくて良い所だよね。

 コテツが他の人と仲良くするのは僕も嬉しいし良い事だからね! ……その内カインにコテツの事聞いちゃお。

 

 それで、折角だから【陰陽師】ギルドのジョブクエストで作業したりしながら色々と話に花を咲かせていたんだけど、なんとカインやイーズのエンブリオは僕のエンブリオの固有スキル――《全種権限》に似た固有スキルを持っているのだとか。

 なんと奇遇な! ……とは流石にならない。Wikiで調べたらそこそこ見られる類例でもあったしね。

 それに、似ていると言ってもかなり限定的で、二人の場合は共にアームズ系統である自身のエンブリオを媒介する事で特定のスキル――魔法スキルのみのメインジョブの制限解除や術式の構成の制限解除と言った方向らしい。

 武器の制限とか魔法スキルのみ、という制限とかもない僕の《全種権限》の方が上位互換では? と一瞬だけ考えたけど二人のエンブリオの方は更にそのスキルに最大MP増加とか魔法効果強化とかの強力な付加効果が付いているからそんな事は全然なかった。

 地味に、というか普通に羨ましい……

 

 ――なお、Wikiによるとこの類の固有スキルを手に入れる人はとても『面倒な人』なんじゃないかとか書かれていた。酷いよねー。

 まぁ、魔法スキルを強化するエンブリオなのに魔法系ジョブに就かない人とか、近距離用の固有スキルを持ったアームズタイプなのに遠距離ジョブばかり取る人とか、そういう例で習得するみたいだから仕方ないみたいだけども!

 ……僕らは多分違うタイプだよね?

 

 

 ちなみに、そんなカインとイーズ、二人のエンブリオは先に書いた通りに共にアームズ系統なんだけど、双方同じ槍のアームズで、しかもエンブリオの由来の出展も近かった事から意気投合して一緒に組む様になったんだとか。

 良いなぁ、そういう縁も格好良いよね!

 僕が知っているフレンドのエンブリオの出典はバラバラ……あ、確か明日香のデンドロでのエンブリオが天使関係だったっけ。

 もっと広がれ天使の輪! というのは、流石に無茶かー。

 

 

 

 

 

 

To Be Continued…………




ステータスが更新されました――――

名称:【天神突破 ヴィルーダカ】
<マスター>:若葉萌
TYPE:ルール・アームズ
能力特性:成長&限界突破
到達形態:Ⅴ
スキル:《経験値獲得量増加》LvEX 《オールマイト》《限界突破》等
必殺スキル:《健やかに、健やかに伸び伸びよ(ヴィルーダカ)
モチーフ:仏教における仏神の一柱、増長天、“ヴィルーダカ”
紋章:巨木の影が掛かった苗木
備考:悲しい現実の恵体過ぎる自身に嫌気が刺していた所にトドメを刺したエンブリオ。
 可愛い物大好きな女性マスターに訪れた悲劇。その傷はロリショタを愛でる事でしか癒す事はできない……
 しかしてその能力のお陰でレベルやステータスは凄い。必殺スキルの超成長姿はあまり人目に晒したくない……けど、実はマッシヴな身体にも誇りを持っているから強敵との戦いではホイホイ使う。
 固有スキルは一言で言うとそれぞれ“獲得経験値5倍”“物理ステータス強化&物理耐性強化”“ジョブレベルの限界突破”等。
 超級職でもないのに合計レベル500を越えている。……が、ジョブレベルが上がっているのは上級職なので同レベルの超級職持ちと比較するとステータスは劣る。

 なお、彼女が属しているバ美肉派とはつまり(バーチャル)(美少年少女)(受肉)派の意である。
 自分自身が……ロリショタになるんだ!


 【虹石の勾玉】
『アクセサリー』
 ジーニアスが主となって作成した後、様々な術が付与された勾玉。
 【アンモライト】の宝石言葉は『幸運』と『才能』。
 装備者の才能を引き出し、幸運の手助けをする。

・装備補正
 光属性耐性+5%

・装備スキル
 ・《オール・アビリティ》Lv1
  装備者の全ステータスを1%増加させる。
 ・《オール・レジスト》Lv1
  装備者に全状態異常耐性を3%増加させる。


 レジェンダリアンを書くのがとても楽しくて文字数が増え過ぎました。なんてこったい。
 久しぶりの土曜更新です。ようやく戻せましたね……この調子で更新していきたい所です。
 次話からは流石に前半部分をもっとコンパクトに! 頑張っていきます!

 それでは、次話もよろしくお願いします!
 
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