無限の世界のプレイ日記   作:黒矢

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前回のあらすじ:大敗北と、反攻作戦

特に詳しく描写される予定のないモブ<マスター>のエンブリオと背景考えるのたーのしー!
それでは本編をどうぞ!


第四十六話 ――開戦

12月18日(金)

 どうも若干上の空だったのか、学校で桑木さんに心配されてしまった。

 昨日ちょっと寝つきが悪かったからねー……だって明日にはもう決戦だよ、そりゃテンションも変わるって物だよね!?

 根性で授業中を乗り切って、休み時間を気力の充電時間に充ててた最中だったから……大丈夫、僕は全然だいじょーぶ!

 むしろやる気が有り余っている様な具合だったよ!

 ……学校じゃやる気出してもできる事なんてないけどもね!

 

 そういえば、学校でもう一つ、放課後の短い時間だけど敷島君が来て激励していってくれた。

 僕があの作戦に参加するのも御見通しなんだそうだ。僕ってそんなに分かりやすいかな!?

 まぁ、そうでなくとも公式で発表された様なイベントを除けば、今回の物は天地でのデンドロが始まって以来の大事件だから、そりゃ分かるか。

 可能な限り全領地から戦力を集めているからね……遠方の領地の人が集まれるかどうかはともかく。

 しかし、それにしても……まさかその作戦に敷島君、ヤマトも参加予定だったとは。

 ……む、無理では? 精神耐性全くないガッチガチの脳筋ビルドだったし。

 何とかする宛てがあるのかな。どーなんだろ……

 

 

 学校から帰って支度を整えた後は早速デンドロへログイン!

 コテツから預かって手直しして貰っていた武具達を受け取った後は、密かに待ち合わせしていた烏丸達と合流する。

 烏丸達も僕と同じ、前回の奪還作戦には参加出来なかったのだけど……今回の作戦を見逃す気はないらしいからね。

 イグニスに乗って飛んで行っても良かったんだけど折角誘われたんだしっ。

 そういう訳で皆で【タラスク】に乗って将都へ……なのだけど、すっごく早い!

 陸を行っているのに、多分イグニスよりもはやーい! これはAGIにして三倍以上差がついている気がするね。

 第五形態に進化した【タラスク】のステータスはもはや暴力だね……LUC以外の全ステ―タスが五桁を越えているみたいだし、しかも大白宮から将都まで休憩なしで走破できる体力もあるのも凄い。

 背中の広さも五人乗ってもまだ余裕があるくらいだし、固有スキルとして防御スキルも万全だし、これはもう小型の要塞と言っても過言ではないんじゃないかな!

 ……まぁ、攻撃能力はないからやっぱり過言かもしれないけど。

 

 道中は【タラスク】の背でのんびりエリーシアと【符】の交換会とかしてたくらいで特に問題なく将都に到着ー!

 将都ではやはりと言うべきか、<マスター>、ティアンを問わずに多くの人達が集まっている。

 武芸者だけじゃなく、少ないながらも術師も、そして戦闘用の物資を売り付けに来た商人達も数多く集まっているのが見て取れた。

 ……そして、その中でも強烈なのがやっぱりあの戦に餓えた強烈な気配。というか喧噪。

 血の気の多い武芸者達が集まって野試合に発展しそうな雰囲気……!

 カシミヤっぽい気配もその中にあった様な気がしたけど多分気のせいだね!

 僕らは万が一にもデスペナルティになりたくないし、そこらへんで大乱闘に巻き込まれる前に将都の講堂にした。

 

 

 烏丸達や他の多くの<マスター>達と一緒に講堂で少し待っていると、大勢のティアンが――【征夷大将軍】と沢山の大名達が入ってきて作戦の説明をしてくれた。

 作戦の説明だけど……そこそこ、というか結構長かったから下記に箇条書きにして記したいと思う。

 <マスター>に、というよりは僕に関係のある部分だけね。……本当に長かったしね!

 

参加資格:<マスター>は最低でも合計レベルが300以上であり、更にエンブリオが第四形態以降に進化している事。

 また、前線を希望する場合は一定以上の精神系状態異常耐性を有している事。

 

募集人数:参加資格を有し、戦う意思を持つ者が居る限り、無制限にて。

 今此処に来れていない者も、明日の飛び入りの参加は認める。ただし、足並みを乱した奴は殺す。

 

 報酬 :成果に依らず、正規の参加者全員に【修羅の奈落探索許可証】を与える。既に所持している者は最低でも一人当たり100万リルを与える。

 また、可能な限りデスペナルティした際のドロップアイテムは回収される様に手配するが、貴重品を喪失した場合は応相談。

 作戦の貢献により別当報酬を用意。

 

 ・今回の作戦は最大で四集団に分かれての行動する。

 

 ・最前線――直接【傾城九尾 ウォルヤファ】を叩く<マスター>陣本隊。

 十分に距離を取って戦闘前等に本隊を支援する<マスター>後続部隊。

 功刀領の全周を包囲するティアンの武芸者達。

 そして最後に、大名等ティアンの超級職で構成された、最終防衛線である。

 

 ・長距離転移は<マスター>後続部隊に属するとある<マスター>のエンブリオによって封じられている……筈である。

 可能であれば、万が一の為、封じられていない場合も考慮して転移させる隙もなく討伐できる手段を用いる事が望ましい。

 

 ・要注意対象は【傾城九尾 ウォルヤファ】は勿論の事、おそらく敵戦力として【魂捧】を受けた超級職である【武士王】【大剣豪】【鬼神武者】の三名が存在すると思われる。

 【ウォルヤファ】を含むこの四つの対象に関しては既にエンブリオによる“マーキング”を施してある為、真っすぐ向かう事。

 勿論、功刀領の武芸者、約二百名も同様だ。

 

 ・その他<マスター>陣本隊の細かい【ウォルヤファ】との戦闘の詳細は<マスター>達が最もやり易い様にやって構わない。

 必要であれば現場におけるあらゆる物的・人的被害をも承認する。

 

 ・<マスター>達の詳しい作戦については明日、作戦決行までの時間を用いて参加者達の間で最終調整を行う事。

 また、その際確認されている【傾城九尾 ウォルヤファ】の能力についても把握しておく様に。

 

 ・<マスター>陣本体が敗北した場合は――迅速に残る三隊で足並みを揃え協調して包囲を縮め、戦闘による消耗の隙を突き同時攻撃を慣行する。

 その隙を突いた同時攻撃すらも失敗した場合は、一度全員自由行動とする。

 

 ……が、当然我こそはと勇み沸き立ちこの作戦への参加を表明した強者共が、勝機が少ないからと逃げ腰になる訳がないという事を信じている(意訳)。

 

 ・この将都から功刀領への移動はとある志願者(<マスター>)のTYPE:チャリオッツ系統のエンブリオによって安全迅速に行われる。

 

 ・誰が討伐MVPになっても恨みっこなし。

 

 

 とまぁ、最大限簡略化してもこんな所かな?

 包囲の配置とか後続部隊の距離とか他にも色々細かい所はあったけど、僕にはそこまで関係ない。

 僕は勿論最前線の<マスター>陣本隊だからね!

 細かい作戦は明日だけど、時間になったら支援を受けて真っすぐ行って戦う、というのは変わらないからね。

 明日は午前から<マスター>の参加者での詳細な作戦会議だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12月19日(土)

 作戦会議終了ー!

 この後、夜7時半迄に集合、そして移動。

 そして夜10時からいよいよ作戦開始!

 

 ……それにしても、<マスター>の作戦会議は予想以上に凄く凄く大雑把だった。

 いや、お互いのエンブリオの事も考えれば仕方のない事なんだけどね?

 <マスター>の参加者だけで二百人を越えていて、勿論エンブリオの数もそれと同じ数だけあるんだから。

 そんな数の、千差万別な固有スキルを有するエンブリオと、種類が多過ぎて未だに毎日の様に新たなビルドの組み合わせが発見される数多のジョブ。

 更に装備の質に装備スキル、各々のリアルスキルの違い等も勘定すれば……まぁ、現実の様な画一的な作戦なんて到底立てられる訳がないよね。

 そうでなくとも、特にこんな作戦に参加する上級の<マスター>なら誰しも切り札の一つや二つ隠していたり、エンブリオの固有スキルすら晒したくない様な人だっているだろうし。

 ……うん、今回の作戦で幾つかはそういうのが見れるといいな。なんともう超級職を取った<マスター>の人とかも居るらしいし。

 

 まぁ、そんな感じで今回の作戦会議では判明している分の【ウォルヤファ】の能力説明とある程度事前に決定されていた一連の作戦の流れの説明。

 それと、その作戦において適した固有スキルを持った人が居ないかの呼びかけとか、後は最大DPSを決めたりしたぐらいで他は流れで、っていう具合だったね。

 

 ……やっぱり今思い返してみても討伐対象である【ウォルヤファ】の能力説明が一番主だった気がするね!

 驚愕できるその能力については――今回も一応話された分はメモしておこうかな。

 後でコテツとかにも教えてあげたいしね。

 

 ・【傾城九尾 ウォルヤファ】は九本の尾を持った幼い狐獣人に見える、種族:妖怪の〈UBM〉である。

 

 ・その固有スキルは非常に多彩でありながら強力。

 一つ一つが上級エンブリオの固有スキル以上の出力を持つ複数……というには余りにも多くの固有スキルを持つ多重技巧型の神話級〈UBM〉だと思われる。

 

 ・一つ目の固有スキルは、おそらく【ウォルヤファ】の代名詞たる固有スキル、《傾城魂抜》。

 いわゆる魅了スキルであり、これのせいで精神耐性系統のスキルがないと本隊には参加不可能。

 ちなみに、距離も人数も関係なく、動作も詠唱も必要ない瞬時に発動する凶悪な固有スキル。

 ……と、思われていたが一人の<マスター>によって視覚による認識が発動条件らしいという事が判明した。魔眼かな?

 霧影領では戦闘開始時、家屋の影に居た人には効果が無かったらしい(その後戦闘に参加した時に掛かったりしていたけど)。

 出力も非常に高く、更に直接触れる事で桁違いの出力を発揮する事が確認されているので接近する際は注意されたし。

 

 ・二つ目の固有スキルは、詳細は不明だが配下の強化スキルを所有していると思われる。

 魅了、いや【魂捧】状態になった人々を意のままに使役し、その上で配下のステータスを強化する、ある意味一般的なスキル。

 だが、その強化率は非常に大きく、霧影領の時の戦いでは操られた武芸者全員のステータスが純竜級を越えた物になっていたらしい。

 そして、勿論作戦時には既に【魂捧】状態になっている功刀領や前の作戦で連れ去られた者達を強化し、操って尖兵にしてくると思われる。

 対処は、先日の説明でもあった通り、各々の裁量に任せるものとする。

 

 ・三つ目の固有スキルは、長距離転移能力。

 どの様な方法でかはともかく、“マーキング”しておいた場所に転移する固有スキルを行使できる。

 発動には若干の隙や動作が必要な様だが……相手のステータスを考えれば、その程度の隙は簡単に作らされてしまうだろうと思われる。

 一応これは参加者のエンブリオによって封じられている筈だが、仮に封じれていなかった場合は……割とどうしようもない。

 使われた回数が少ない為判断に困るが、逃走に使われない事を祈ってタコ殴りにするしかない。

 呼びかけもあったけど、スキル封印系の固有スキルを持ったエンブリオは居ないみたいだし。

 

 ・四つ目の固有スキルは、自身の全ステ―タス強化の固有スキル。

 もしかしたら配下強化の固有スキルと同種かもしれないが、強化率がまさに桁違い。

 素のステータスは割と典型的な魔法系後衛の〈UBM〉と言った所なのだが、この強化スキルによってLUCを除く全ステ―タスが五万を越える異常事態である。

 普通のモンスターだと純竜級ですらHPやMP、SP以外は一万すら越えないのにねー。

 ちなみに、強化されたステータスで最も強化されているのは何故かSTR()。最終的なSTRは優に十万を越えるキチガイ腕力。

 後衛魔法職っぽいのに。避けれないEND型は攻撃されない様に祈ってろ。

 

 ・五つ目の固有スキル。……と言っていいのかはともかく、あの九尾の先から多彩に過ぎる魔法スキルの発動が確認されている。

 最低でも火、風、土、金属操作、結界を含む防御魔法、闇、呪術、幻術の種類の魔法の行使が確認された。

 後述する固有スキルの影響か、その魔法の種類も出力も超級職の魔法職を越える物を持っている。直撃すると一発でアウト。当たるな危険。

 霧影領の戦いにおいて特に使用頻度が高かったのは防御系統の術と火属性と闇属性、呪術だった為、対策をするならそれらの属性を主に対策した方がいい。

 

 ・六つ目の固有スキルは、自身の魔法強化スキルと思われるモノ。

 Wikiの魔法出力計算(仮)で確認された相手のMP等で計算しても明らかにあり得ない程高過ぎる威力の魔法を連発してきていた。

 おそらく、魔法の出力を超強化するか、あるいは超高速のMPの自動回復による物だと考えられる。

 また、これのせいかどうかは分からないが、自身が受ける魔法スキルの効果を軽減or無効化する事も可能らしい。

 ただし、軽減できるのは直接攻撃魔法や弱体化、状態異常魔法として発動した攻撃のみで地属性による物理的な物や魔法で推進力を増す魔法式銃器や魔法によって強化された武器防具等は通常通りの効果を発揮する模様。

 まぁ、魔法職は補助に徹するべし。

 

 

 …………盛り過ぎでは!? と思うんだけど、事実なんだろうなって。

 神話級〈UBM〉が皆こんな化け物、という事はないと思いたいんだけどね!

 武者震いしてきた……!

 <マスター>の……<マスター>を運用した、本格的な()()

 ふふ、<マスター>の戦い方という奴を見せてやるー!

 

 さて、そんな訳でとりあえずの流れは確認できたけどどうなる事か。

 何にしても、決戦はこの後――鋭気を養って、頑張ろうー!

 

 

 

 メモ:そういえば、景気付けに今日の《易占》をやってみたらなんと成功!

 実に二度目の成功だね。

 

『天から逆さまに■■■■■

 手折られた花は■■■■■■■■■

 ■■■■■■■残らず去っていく

 止められるのは■■■■■■』

 

 勉強もしたし、前回よりは読み取れているんだけど……

 ……内容はどう見ても今夜の戦いの事じゃないよね? 天とか花とか。

 どういう占いしてんのっ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆ 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

■功刀領・街中

 

 

『~♪~~♪~』

 

 人気の失せた街中を……最早殆どの人が消え失せた功刀領を、“それ”は気分良く散歩していた。

 狐の耳と尾を生やした獣人の幼女()()()()〈UBM〉……【傾城九尾 ウォルヤファ】は見てわかる通り、非常に上機嫌だったのだ。

 

 数週間前に制圧したこの功刀領。

 その領に住まう多くの者達(ティアン)を従え、意のままに操る事は、その見た目通りの幼い〈UBM〉である彼女の自尊心を大いに満足させるものであったが……それでも、問題は多かった。

 

 数日前まではまるで生気のない者達が唯々生きる為だけに徘徊する、彼女にとっても非常に煩わしいゴミゴミとした都であったのだ。

 見目麗しい者達を集めて傅かせるのも心が擽られて面白かったし、数多くいた武芸者達の手足を捥ぐ遊び等も初めの内は無邪気に楽しんでいたけども……どれも反応が一緒で、繰り返すほどに楽しみは薄れていった。

 また、一部の最上位の武芸者達等はちゃんと毎日定期的に顔を見せて《傾城魂抜》で【魂捧】を重ね掛けにしないと自身の精神力で状態異常を打ち破ってくる為、その繰り返しにも若干辟易としていたのだ。

 

 未だ経験が浅く、我慢というものを知らない彼女にとって、それは非常に強いストレスになった。

 この数週間の間に、苛々してモノ(ティアン)に当たって相手を殺害してしまう事多数。

 遊ぶつもりがつい力加減を間違えて殺してしまう事多数。

 【魂捧】が解けた武芸者に奇襲されてビックリして()()()()()にしてしまう事少数。

 偵察に来た<マスター>(変な人間)を超遠距離攻撃魔法で瞬殺する事少数。

 ついでにそれの射線上に居て巻き込まれたティアンも少数。

 

 そして、霧影領の戦いから戻り、また暫く遊んだ後……当然の帰結として彼女はこう思ったのだ。

 

 

 ――この町、めんどぉいです。

 

 

 だから。

 

 

 

 

 ()()()

 

 

 

 ██████――!!

 

 

 

 ぐちゃぐちゃ。 

 

 

 

 ██████――ッ! ██ッ!

 

 

 

 ばりばり。

 

 

 

 むしゃむしゃ。

 

 

 

 ごっくん。

 

 

 

 美味しい! 

 

 

 

 もう一体!

 

 

 

 

 

 

 そうして、彼女は都中に居た人間を、ほぼすべてを喰らい尽くしたのだ。

 残ったのは、戦力として価値がある三人の超級職だけ。

 まぁ、護衛としてはこの三人だけで残りすべて以上の戦力になるし問題ないでしょう?

 

 実際、戦闘において……彼女が戦う様な戦闘であるならば、超級職ですらない有象無象(ゴミども)なんて、まるで戦力の足しにならないのだから。

 弄り、甚振り、無様さを演出する為の舞台装置でしかない。

 それならば――私の(経験値)になった方が、何倍もマシという物でしょう?

 

 ……奇しくも、それが真実であるかどうかはさておき、功刀領に居た多くの人達は大量の(経験値)を彼女に明け渡す羽目になった。

 武士の都、武芸者の町。力を、武力を何よりも大事にしていた功刀領の、数多のカンスト武芸者が……彼女の腹の中に収まる事になってしまったのだから。

 

 

 最も、流石に一人ではこの都中の人間を食べるのは苦労するからと、()()にもお裾分けしたのだけども――

 嗚呼、それにしても楽しかった! これなら時間を掛けてでも一人で全部食べてしまえば良かった!

 食べられた皆も、()()()()の反応も……彼女にとって、凄く満足のいく物だったのだから!

 

 喰って殺すのは、嗜虐心を満たすのと同時にその身体に含まれる(リソース)をすべてを自身に取り込む為。

 そして――喰う直前に、【魂捧】を解除するのも、同じく自身が喜悦に浸る為と……その恐怖と絶望によって放出されるとても濃い怨念を味わう為。

 STRに十万以上も差が合って、ピクリとも動かせないのに、凄い必死なんだから……♪

 ……武芸者達は全く命乞いをしてくれないから、途中で少し詰まらなくなってしまったけど、それも今のこの高揚に比べれば些細な事だろう。

 

 余計な人間達(ゴミども)が居なくなった、広々とした都。

 多くの破壊された建物が並ぶ、その街中を、通りを、広場を、今までと違い直接接触による非常に強固な【魂捧】を掛けた三人の超級職を連れて歩く。

 ただそれだけで……自分で、自分の力でこの都を()()()()()()と強く想起できるのだ。

 

 そんな彼女が、昏い喜びに浸りながらゆっくりと歩を進めていた時に――()()を感じた。

 

 

 

 (――また来たんですか、あの<マスター>(変な人間)達)

 

 

 それは、彼女の固有スキルにより強化された、探知結界の魔法による反応だった。

 

 距離にして、まだ十数キロ以上の距離があってなお、彼女はそれを……そのほぼすべてを正確に把握していた。

 

 敵が今までにない大多数による戦力である事、何重にも包囲してこちらへ攻め入ろうとしている事、<マスター>の軍団がまず初めに自身の方へ吶喊しに来ている事。

 それだけではない。

 その時点で敵手すべてのレベル、ジョブ構成、装備品やアイテム……は一部読めない物もあったが、そのほぼすべてを、看破仕切っていた。

 それによって、もうこの後の展開すらも読み取れるほどに。

 ……最前衛の<マスター>の軍団は支援職の数も少なく、超級職も【神】系統の一人しか居らず――ほぼほぼ全員《傾城魂抜》で手駒にできるであろう事すらも。

 

 そう、それは彼女の力を持ってすればこの様に、いとも簡単に探知する事ができる物だった。

 “魔法最強”に匹敵する、二百万を越える最大MPを基準にした超出力。

 ――()()()()()()

 空間干渉に関連した()()()()()()()()、そしてそれ以上に強力な()()()()の固有スキル。

 その上で、相手の全てを看破・鑑定する識別の固有スキル。

 いずれも神話級〈UBM〉の固有スキルとして相応しい出力を持つそれらを組み合わせた探知結界を作れば――それは、最早人知の及ぶ代物ではなくなるのだから!

 

 

 (ああ、向こうから“餌”が来てくれるなんて嬉しいですねぇ!)

 

 そして、結果として彼女は自身に迫ってきている軍団も“楽勝”だと判を押した。

 それは当然だろう。

 <マスター>達のステータスは確かに多少は高いが……それで、何人【魂捧】から逃れられるというのか?

 ステータスに劣るティアンや、後方の支援部隊に至ってはそれ以前の問題だ。

 全く相手にならない。まだ霧影領で戦ったあの軍団の方が歯応えがあっただろう。

 

 ならば、彼女がする事は――そのすべてを【魂捧】に捕らえて、自らの餌にする事以外にないだろう。

 可能な限り逃げられない様に工夫しつつ、一人でも多くの贄を確保する。それが重要だと思った。

 <マスター>は死体が残らないのが面倒だけど……生きたまま食べれば何とかなる物ね!

 

 そう考え、彼女は優雅に、ゆったりと供の三人を連れて<マスター>の軍団の方へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 彼女の考えは、そう間違ってはいない。

 実際に彼女には圧倒的過ぎる程の力があったから。

 それも、今の様な対軍団に有益に働く広域制圧型の固有スキルを主とする〈UBM〉なのだから。

 彼女に特異な戦術眼があった訳ではないが、真実彼女が看破・鑑定した限りの戦力においては、間違いなく彼女の勝利は疑い様もない程確実な物であったから。

 小細工など弄する間もなく、会敵した瞬間に《傾城魂抜》を発動する、それだけで勝利への盤石の布陣が完成するのだから。

 

 

 だが、彼女は知らない。

 

 幾度となく超遠距離魔法によって殺された<マスター>達の偵察により、真の探知能力の広さを知られている事を。

 その探知範囲の外に、彼ら人間範疇生物の切り札たる、超級職による集団が控えている事を。

 

 彼女の識別スキル、《全知目録》を以てしても看破・鑑定できない存在――<エンブリオ>という存在の事を。

 

 そして何よりも――<マスター>の存在を。

 

 ……更に言うと。

 ()()()()()()()()()という物を、知らないのだ。

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 (――来たっ)

 

 探知から、十数分。

 待ち遠しい時間を餌を貪り食う瞬間を夢想しながら歩いていた彼女は――都の入り口の開けた場所で<マスター>の軍団――<マスター>陣本隊と会敵する。

 

 

 距離にして、まだ三百メテル。

 相手の人数は、百人ちょっと。

 

 身体中に戦意を漲らせて、こちらへ吶喊して来ている。

 悪逆の〈UBM〉を打倒してこの都を解放するのだと、敵い様もない怪物()を恐れもせずに向かってくる。

 強敵を恐れず、死を恐れず、勝利を信じて。

 各々の武器を構え、魔力(MP)技力(SP)を満ちさせて!

 

 嗚呼、なんと健気で勇気ある者達なのでしょう!

 

 

 

 

 

 

 

 でも

 

 

 (そこは、()()()です♪)

 

 

 ()()()()()()の固有スキル。

 当然ながら神話級の〈UBM〉に相応しい出力を持つその固有スキルは、ステータスだけではなく――感覚すらも強化する。

 

 

 それはつまり。

 既に、<マスター>陣の本隊は一人残らず全員――《傾城魂抜》の有効範囲に足を踏み入れていたという事に他ならない!

 

 

 

 ――さぁ、無様な間抜け面を晒してくださいね♪

 

 

 ――――《傾城魂抜》

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

 ――――

 

 

 

 ――――

 

 

 

 絶対の魅了能力、《傾城魂抜》は当然ながら彼女の思惑通りに正常に発動し。

 

 <マスター>陣本隊の――実に8割以上の人数を【魂捧】に堕とした。

 

 

 

 (――やった!!)

 

 その光景に【ウォルヤファ】は勝利を確信し。

 

 

 

 

 

 次の瞬間、【魂捧】に墜ちていた全ての<マスター>が全員()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

『……はぁっ!?』

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

「――作戦成功、作戦成功! このまま吶喊だいぇーい!」

「ひゃっはー! 新鮮なょぅじょの〈UBM〉だ! 殺せぇー!」

「なるほど、これが推定神話級最上位。これなら鍛錬相手として不足はないだろう」

「呆けてるぞ。遠距離狙うか!?」

「「天誅ぅー!」」

「待て待て! 作戦通りに動けや貴様ら!?」

 

 仲間が多数、光の粒に――【魂捧】に墜ちて()()しても速度を落とさず、<マスター>陣本隊は振り返りもせずに進んでいく。

 

 ……それが、彼らが言う様に、作戦通りの事だったのだから。

 

 <自害>システム。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 <マスター>にのみ可能な、ハラスメントやログアウト不可能状態に対する救済策として用意されたシステムである。

 それは特に【凍結】や【石化】、【気絶】や【強制睡眠】といった、自身では全く行動できない状態からのログアウトの為などに用いられる事もあった。

 

 ならば。

 それを、自身が敵の味方となってしまう【魅了】やそれに類する精神系状態異常を受けた際に使用するのも――至極当然の事なのである!

 

 ……勿論、普通であれば話はそう簡単ではない。

 <自害>システムを使えば通常のデスペナルティ時よりも派手にアイテムをドロップしてしまうし、もしかしたら仲間に状態異常を解除して貰える可能性があっても、それを自分から潰す事になってしまうのだから。

 それを自分の意思で決断して行うという事は……そう軽々に出来る事ではない。

 

 

 だが。

 彼らは、天地の<マスター>達は、会議の場でこう言ったと伝えられている。

 

不甲斐ない自分が原因で敗北する可能性があると言うのなら――疾く潔く果てて見せようぞ!!』と……

 

 

 ……そして、作戦は決定された。

 宣言通りに、彼ら<マスター>で残った者に、【魂捧】に墜ちた者は、一人もいない。

 邪魔をする味方は居らず、純粋に戦力全てを【ウォルヤファ】にぶつける――総力戦。

 

 〈UBM〉側は――【魂捧】に掛かった超級職が三人。そして本願である【傾城九尾 ウォルヤファ】。

 対する<マスター>陣本隊は――三桁も居た人数は一瞬で削れ、生き残った者の数は、三パーティにも満たぬ少人数。

 

 

 【ウォルヤファ】の《傾城魂抜》と、その直後の間隙の後に

 

 【ウォルヤファ】にとっても初めての未知なる敵との戦いが。

 <マスター>にとっても初めての大規模戦闘が。

 

 ――――開戦したのだった。

 

 

 

 

 

To Be Continued…………

 




「戦犯の誹りを受けるくらいなら素直に死ぬわ。普通に自害するわ」by天地の一般<マスター>

ステータスが更新されました――――

名称:【救世楔 ノア】
<マスター>:S693
TYPE:アポストルwithルール・ワールド・アドバンス
能力特性:不変
到達形態:Ⅴ
スキル:《対象固定》《事象固定》《表象固定》
モチーフ:旧約聖書における“ノアの方舟”の逸話、及びその逸話の主人公“ノア”
紋章:縫い留められた小舟
備考:緑色に発光する不思議な物質で出来た杭の様な形状をしたエンブリオ。器物型(アームズ)ではないので道具としての効果は全くない。
 アポストル時の姿は髪色も服装も上から下まで真っ白な少年。
 有する三つの固有スキルはそれぞれ不壊属性付与(対象固定)全エネルギー停止(事象固定)空間変容無効(表象固定)である。
 ……非常に強力な固有スキルを持ったエンブリオなのだが、通常のコストと『条件』が厳しすぎて第三形態に進化してスキルへ割いたリソースでそれらが軽減されるまで一度もスキルを発動できなかった。
 今回は《表象固定》を用いて空間転移を阻止していた。
 ……が、当然ながら《表象固定》はこのスキルと空間変容(空間転移、空間破壊、空間改変等)のスキルとの出力の比べ合いを行う為、完全に防げるかどうかは実は割と不明瞭だった。

名称:【軍巨神艦 ナグルファル】
<マスター>:ディートゥ・ナナ
TYPE:ギア
能力特性:輸送
到達形態:Ⅴ
スキル:《陸海自在》《空間拡張》《衝撃軽減》
モチーフ:北欧神話に登場する巨人や死者の軍勢を乗せた巨大な船“ナグルファル”
紋章:悪魔の顔と羽根を持った列車
備考:禍々しい外装の戦艦の姿をしたエンブリオ。
 戦艦の姿をしていても戦闘能力は全くない。戦闘用の固有スキルもない。むしろ()()スキルと言える物もない。
 その巨躯だけでも十分脅威に思えるが、【パンデモニウム】同様に超高HPに紙ENDである。
 その上で《衝撃軽減》のスキルのせいで巨躯を活かした体当たり攻撃も亜竜級のモンスターにすらまともにダメージを与えられない程度。
 しかし、その真価は能力特性にもある通りの輸送であり、超級時の【バルドル】と同程度のサイズを持ちながら内部を高レベルの《空間拡張》で拡張している為、万を越える人数や物資をも同時に輸送する事が出来る。
 その上で亜音速を越える速度で陸海を問わず移動する事が出来る、非常に高性能な輸送船なのであった。



 ――これが<マスター>の力だ!()

 今話もご覧いただきありがとうございます!
 クライマックスフェイズ! 以降数話は決戦・【傾城九尾 ウォルヤファ】編です。
 長く苦しい戦いになりそうだ……頑張ります!
 それでは、どうか次話以降もよろしくお願いします!


 そして、今話とは全く関係ない事ですが。
 原作の最新話更新を見て、決意した事が一つ。


 二章書き終えたら〈試練之蔵〉を〈修羅の奈落〉に改名します!!!!
 それ以上の事実が判明した時の改定についてはまたその時に考えます!
 どちらにしろ地下型だったからそこは多分良かった……と思いたいです。
 
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