無限の世界のプレイ日記   作:黒矢

50 / 88
前回のあらすじ:ぅゎょぅι゛ょっょぃ

それでは本編をどうぞ!


第四十九話 その才、その力

□■?????

 

 <マスター>達が宿す、千差万別にして、多種多様なエンブリオ。

 <マスター>個々のパーソナリティから生まれる、まさに無限の可能性を秘めた、この世界における自分だけの絶対に信頼できる無二の相棒。

 それは<Infinite Dendrogram>が始まって以来、<Infinite Dendrogram>内部で、掲示板で、攻略サイトで、リアルで、様々な場所でエンブリオについて活発な話し合いが行われていた。

 

 やれ自分のエンブリオの方が優れている、やれ自分のエンブリオの方が格好良い、やれあのエンブリオの方が有能だ。

 

 <Infinite Dendrogram>が始まってからそこそこ長い時間が経ち、自分のエンブリオだけではなく、誰かの、第三者のエンブリオを見る機会も増え、掲示板等での議論もより活発になっていき……そして、当然の如く議論の題材になるモノがある。

 

 それは――どのエンブリオが、どの様に成長したエンブリオが最も強いのか? という事だ。

 殆どの者は自身のエンブリオだと考えるが、だが待ってほしい。

 議論の場において必要なのは客観性において他ならないから自身のエンブリオの事は一先ず置いておこう。

 

 一言にエンブリオの成長、と言ってもそれはまさしく謳い文句通りに千差万別なのだ。

 

 形状、サイズ、耐久性、ガードナーとしてのステータスやチャリオッツの乗騎としての性能等の基礎性能以外にも、ステータス補正の傾向やエンブリオそれぞれの固有スキルの成長だけでもまさに無限ではないかと言われる程だ。

 <マスター>達は架空のエンブリオを想像し、どう成長するのが一番なのかと日夜を問わず語り明かしていた。

 

 基礎性能こそ全てであり、固定値は裏切らないと主張する者がいれば、固有スキルのみに特化した超出力固有スキルを持つのが最強だと言う者が現れた。

 単一機能特化型でただ一つで最強であればそれに勝るモノはないと断言する者がいれば、汎用性がなければ最強とは全く言えないのだから、複数機能型の方が明らかに優れていると反論されていた。

 こんなガードナーが一番可愛い!!! と燃える女性がいればメイデンに彼女になって貰う方が万倍良いだろいい加減にしろ!!! と萌える男性も居た。

 

 幾度幾日議論を続けようとも結論が出る事はない。

 まだ<Infinite Dendrogram>の世界において“最強”と称される絶対者は表れていなかったのだから。

 

 だが、議論のとりあえずの妥協点――“どの様なエンブリオが強いか”という指標は、そこに常駐していた<マスター>達によって考えられていた。

 

 それは――“他の要素とシナジーできるエンブリオとその組み合わせ”だ。

 

 シナジー、相乗効果の意。

 ステータスで、装備で――そして、それ以上に、ジョブスキルで。

 あるいは、レアな装備スキルや特典武具。もしくは……仲間のエンブリオとの相乗効果を発揮できるエンブリオ。

 組み合わせるそれらによって、通常のそれらよりも何倍も、何十倍にも実質的な効果を膨れ上がらせられるエンブリオ――そういう物が強いだろう、と結論付けられた。

 

 奇しくもそれはこの数か月後に大流行する“ガードナー獣戦士理論”を予言する物であり、その正統性は証明された様な物だ。

 ただエンブリオが単体で効果を発揮するよりも――他の要素と組み合わせてシナジーを発揮できるのであれば、それは時に運営(管理AI)が予想だにしない強力な物になるのも当然だろう。

 

 或いは、今でも、もしくは未来において――そんな、シナジーを持った組み合わせをしたエンブリオが現れるかもしれない。

 そして、それらはきっと――どれもこれも、()の時点であれば及びもつかない代物になる筈だ。

 

 

 例えば――あらゆるダメージを金銭に変換するエンブリオと、金銭の消費量に応じて無際限に破壊力を伸ばすジョブスキル。

 例えば――ステータスのみに特化したエンブリオと、従属モンスターのステータスを得られるジョブスキル。

 例えば――絶対に相手に気付かれないエンブリオと、一撃で致命の攻撃を行える攻撃スキル。

 例えば――死んでさえいなければ超速で自動回復し続けるエンブリオと、死んでも一定時間死なないジョブスキル。

 そして、例えば――装備数に反比例して装備品を強化するエンブリオと、装備可能数を最大に引き上げる超級職と……数多の特典武具だとか。

 

 

 数千を越えるジョブとそのジョブスキルを思えば、すべてのエンブリオは何らかのシナジーを為せるとすら言える。

 その中でもより良いシナジーを、より強くシナジーする物を求めて<マスター>達はジョブ構成(ビルド)を組み立てるのだ。

 

 

 

 

 

 故に。

 仮に――()()()()()()()()に特化されたエンブリオ、固有スキルがあるとしたら。

 自身のリソースをすべてそれだけに振り分けたエンブリオがあったとしたら。

 

 例えば……この世界の人間範疇生物の持つ力の中で最も大きな物である“ジョブ”システム。

 そのジョブやジョブスキルそのものに完全にシナジーしたエンブリオがあったとしたら――おそらくは、そのエンブリオこそが、“最強のエンブリオ”と呼ばれる事となるだろう。

 

 ……最も、そのエンブリオを適切に運用していたら、の話なのだが。

 

 

 

 そして。

 【至光天 アダムカドモン】は――――

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

□ 力

 

 天地の上級<マスター>の一人、ジーニアス。

 傍から見れば詳細不明のエンブリオを持つ、多くのスキルや技術を駆使する、珍しい子供の武芸者<マスター>である。

 

 子供の武芸者の<マスター>という物は……自分の身体(アバター)をどの様な姿にでもできる<マスター>に置いてすら、そう多くはない。

 

 その理由として、まず形作られたアバターと現実(リアル)での身体の感覚の差異がある。

 どの様な身体のアバターでも作れるとは言え、操作するのは自分自身なのだ。

 ならば、現実の自分とアバターの自分の差異が多ければ多い程、大きければ大きい程……その身体を動かす際に著しい違和感を感じる事となる。

 その違和感は、ともなれば<Infinite Dendrogram>を引退する理由として挙げられる事も少なくない程に、<マスター>本人を責め苛む。

 そして……直接自身と相手で命の取り合いをする武芸者において、その感覚の差異が、違和感が致命的な物になるという事は言うまでもないだろう。

 故に、武芸者をする者の場合はそういった違和感を排除する為に可能な限りアバターのメイキングは現実の自分に寄せるというのは最早常識であった。

 

 で、あるならば……子供の武芸者<マスター>という物が殆ど居ないのも当然と言えた。

 酔狂な違和感を乗り越えて子供のアバターにした<マスター>ならともかく、現実で子供な<マスター>が――戦闘技術で、戦闘経験で、大人に敵う訳がないのだから。

 身体性能こそ現実とは違い対等ではあっても、それを動かす者の差は全く縮まっていないのだ……

 

 

 当然ながら、ジーニアスの現実(リアル)の姿――天野理も、<Infinite Dendrogram>を始める前はそうだった。

 特殊な事情こそあったが、どちらにしろ彼は他の子供達と同様に戦闘経験も技術もない、保護者の庇護下に置かれて日々をぬくぬくと過ごしていた一人の少年でしかなかった。

 人並みに架空の空想(ファンタジー)に興味を持ち、娯楽書籍やアニメーションやゲームを好むだけのただの子供だったのだ。

 

 そんな彼が天地でも有数――とは言わないまでも、上から数えた方が早い程度には実力を持った武芸者の<マスター>となった理由、力の源泉は、大きく分けて三つあった。

 

 一つ目は彼の才を持つ者(ハイエンド)としての基礎スペックと、身体(アバター)……いや、身体(ボディ)である【アダムカドモン】の基礎スペックのお陰だ。

 先述した通り、この世界、この身体であれば真実子供である彼も能力(ステータス)の上では他の<マスター>と対等になれるから。

 いや、それどころか……【アダムカドモン】のステータス補正と《全主相応(オールド・アヴァター)》と《全主恩寵(オールド・グレイス)》の影響で他の平均的な<マスター>よりも総合的に一回り以上高いステータスすら持っているのだから。

 最も、多少のステータスの多寡など、状況やスキル、そして彼我の戦闘技術の差で簡単に覆される程度の物だが――彼はただの少年ではない。

 人造の天才(デザイナーベビー)才ある者(ハイエンド)である彼にとって、保護者から、そして周りの<マスター>やティアン達から、更には自分で触って技術を吸収し、磨いていくのは――むしろ楽しくもあった程だ。

 そこで己の天才性を思う存分に発散させた彼としては、少し使っている人を見て、自分でもある程度練習すれば扱いの難しい武器や流派であろうとも実戦で使える技術に昇華する事は難しい事ではなかったから。

 ……彼の才能では、そうやって簡単に得られた戦闘技術は“一流”が限度で、天地の上位のティアン達や最上位の<マスター>達の武威には全く届く物ではなかったが、それもまた良しとしていた。

 彼らがそうしていた様に、ジーニアス自身も彼らに追いつける様に少しずつ技術を磨いていけば良い。そう思っていたから。

 

 

 二つ目は――彼の才を持つ者(ハイエンド)としての本領。

 彼の人外の域にある才能の、根幹とも言える物。

 

 それは――()()()()()()、そして()()()である。

 詳細は省くが、それらはこの<Infinite Dendrogram>においては次の様に発揮される。

 ――自身の使用する()()()の力の理解、という形で。

 

 自分が今使ったアクティブスキルは、どの様な動きを自分に求めているのか。

 《治療符》が貼られた個所から込められた魔力(MP)が高速で身体全体に浸透していく様や、《変化の術》を使用した際にスキルが技力(SP)を通して身体を変形させていく様を知覚した。

 発動条件のある《居合い》や《剣修練》等は、その条件を満たしている時、スキルが発動できる事を、発動状態である事を肌で実感している様な気すらした。

 そして何より――魔法が、魔法スキルがどの様な術式で、どの様な構成で発動しているのかを自覚したのだ。

 特に彼はこの自身の才能と魔法スキルが()()と強く確信していた。

 魔法の術式を、出力を、制御を、指向性を、奥が深いそれらを細工し手を出すのは――とても楽しかった。

 高速思考の訓練の傍らで頭の中で術式を組み立てて遊んでみたり、時には並列思考でほぼ同時に魔法を発動させる実験なんかも試してみたりした。

 彼のその才能を持ってすれば、自身のジョブ、ジョブスキルの範疇の物であれば魔法の術式を精密に組み換えたり、スキルをある程度の組み合わせたり、そして――オリジナルスキルを作成するのも可能なのだから。

 実際に複数の【符】に魔法を組み込んで、下級職でありながら更に出力を跳ね上げた奥義の真似事をしてみたり、(風の振動)と光の小技を開発したり、魔法以外のオリジナルスキルを徐に開発してみたりもした。

 それらを考えれば、この才能も十分彼自身の()だと言い張っても良いのではないだろうか?

 

 それは、あるいはその才能だけでもこの世界で大成出来たかもしれない程の()だ。

 かつてのハイエンド、黄龍人外にも似たその才能を十全に使うだけで、魔法職として世界に有数の実力を得る事が出来た事だろう。

 しかし、この世界において、特に魔法スキルに対して格別の才能を持っていても……彼はその道を選ばなかった。

 その理由は一先ず置いておくが、ある意味それは正解だったのかもしれない。

 何故なら、彼のその選択、その道程の影響で――彼のエンブリオは、それらの力に匹敵するもう一つの力を発現させるに至ったのだから。

 

 それが、三つ目。【至光天 アダムカドモン】の下級エンブリオの際に習得した固有スキルの一つ、《全主権限(オールド・オーダー)》だ。

 詳しく説明するまでもなく、彼、ジーニアスが持つ力の中で――最も強烈で、最も凶悪な物だ。

 そもそもその才覚で開発したオリジナルスキルや他のスキルの応用だって《全主権限》の制限解除が前提の物も多く、彼の戦術の主軸となっているのは疑い様がない。

 数多のジョブスキルというジョブスキルをシナジー(相乗)させる、彼自身の才覚を活かす為に発現した【アダムカドモン】の固有スキル。

 

 ……だが。

 その才覚に因った強力な固有スキルは、時に――彼の才覚にも関係ない、恐るべきシナジーを……彼自身ですら()()()と考え、保護者にすら秘密にする程の禁じ手を生み出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■功刀領・街中

 

 【魂捧】に墜ちた【鬼神武者】、不動藤十郎は未だ深く靄の掛かった鈍い思考の中で……迷っていた。

 【魂捧】で彼らに与えられた命令は二つ。

 それは主である【傾城九尾 ウォルヤファ】を全てを賭してでも守る事。

 そして、主である【傾城九尾 ウォルヤファ】の敵対者を戦闘不能にする事だ。

 それは彼らの元々の精神力によって、ある程度は抵抗できてはいる物の、やはりそれに反する事は全くできない。

 今も僅かに残る彼らの精神力で出来る事は……この好機に精神を奮い立たせ、【魂捧】に対する抵抗を強くして彼らの()()が動く判断を可能な限り遅らせる事だけだった。

 

 しかし、それも先程の痛撃により一瞬だけ集中が途切れ――彼の身体は、墜ちた【鬼神武者】が完全に操作する事に相成った。

 平時であれば、後進の成長を喜びこそした物の――今は、不味い。

 確かに、先の攻撃は見事だった。

 絡繰りは完全には分からないが、操られていたとはいえ自身にあそこまでのダメージを与えられた事は驚嘆に値する。

 だが、流石に傀儡の超級職と言えど、一度痛打を受けた攻撃を無防備に二度受ける事はもうないだろう。

 彼自身(ジーニアス)の速度も、先の弾丸の弾速も、通常のティアンであれば驚愕すべき速度であるが……

 それでも、既に警戒しているこの【鬼神武者】に……それも【ウォルヤファ】の強化を受けたそれに命中させるのは、至難の業の筈だ。

 

 ――しかし、彼奴ならば……あるいは、何らかの策でもあるのやもしれぬか。

 

 内心で彼が……身体を動かしているそれと同調しながらも警戒し、刹那の思考の後に――決める。

 

 ――ああ、やはりそうするかの。

 

 そうして発動したのは――《荒魂》。

 【鬼神武者】の奥義。

 数分という短い持続期間の間だけ、自身の攻撃性能を超強化する、まさしく鬼神の如く暴れ回る【狂戦士】もかくやの戦闘を行える様になる彼が持つ切り札の一つだった。

 肩を撃ち砕かれ、左手のみで長刀を保持し、威力も速度も万全の時よりは落ちてはいても――最早その程度が誤差になってしまう程に、ステータスの差は歴然の物となった。

 

 ――さて、坊よ。どうする――

 

 彼がそう思考し、その身体が《荒魂》のステータス任せの暴威を振りまこうとしたその時。

 

 敵手(ジーニアス)が――()()()()()()()

 

 《幻惑》や幻術――ではない、これは《影分身の術》!

 当然ながら、忍者の里を隣領に長年過ごしていた彼は《影分身の術》について詳細に知っているし――その対処を誤る筈もない。

 即ち、分身を無視して本体を討つ、という事だ。

 4体の分身体という事は、影分身のステータスは本体の1/5……いくら彼のステータスが高い物であったとはいえ、最早問題になるステータスではなくなる。

 先程の銃撃による攻撃でも……掠り傷を付けるのが精々と言った所だろう。

 いや、それ以前に、《影分身の術》で生み出された影分身は限られた一部以外のスキルが使用できないと言う()()があるのだから。

 

 それ故に、影分身でできる事など、圧倒的格下に対する手数の増加か、攪乱程度しかありはしない。

 そして、それを理解しているステータスにおいて上回る相手に対しては――その攪乱すらもろくに果たせはしないだろう。

 

 悪手を打ったか、と彼が内心唸った次の瞬間。

 

 

 影分身を含む5人のジーニアスから――()()()()()2()1()()()()()()()のだ。

 

 ――何じゃと!?

 

 《影分身の術》、【影】が習得するそのスキルのスキルレベルを最大まで上げたとしても――生成できる影分身は4体が限度だった筈だ。

 未だ見知らぬ超級職、【絶影】ならばその軛すらも越えるだろうが、彼奴は未だ上級職の筈……!

 

 精神の奥底でそう思いながらも、身体は直感によってか、一刻も早く()()()を殲滅すべく動き出す。

 その脅威を推し量ったかの様に――

 

 だが、その直前に――更に視界一杯にいた21人のジーニアスは80人を越える、視界に収まり切らない数にまで増殖し。

 

 そして、次の瞬間にはもう300を確実に越える程の数のジーニアスが――影分身が出現していた。

 通りの中を所狭しと、屋根の上にも、家屋の中に潜んでいる気配すらあり……そのすべてが剣を、短剣を、棍を、杖を、銃を、手甲を――多種多様の武器を装備して、確かな闘気をこちらに向けて来ているのであった。

 

 ――これは幻術の類……では、ないようだの。

 

 その思考の直後に。

 

 四方八方から、数多の弾丸と光と風の攻撃魔法が雨あられと撃ち出された――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□■功刀領・街中 【剣鬼】ジーニアス

 

 

「これぞ僕流禁じ手その三、“多重影分身の術”……なんてね」

 

 総勢340体もの影分身に紛れながら、《隠行の術》を同時に行使。

 そして、影分身の内100体程に持たせた【ヘビィデリンジャー】(影分身)の銃撃の弾幕に紛れ込ませて速度を調整し、魔力を隠蔽して再度《ハイブリッド・バレット》を発射した。

 

 ――BANG!

 

 発射された弾丸は他の数多の弾丸と同様に真っ直ぐ不動さんの急所(胸部)を――あっ、寸前で気付かれた。

 それでも、動きが鈍っていた右腕に命中し貫通――する直前で炸裂し、不動さんの右腕の肉が途中で吹き飛ばされる。

 ……腕の太さの半分は吹き飛ばされ、罅が入った骨が見える程だ。肩の負傷も合わせてもう右腕は使い物にならないだろうと思う。

 

 そして当然、本命を受けたからには本体の居場所が割れる。

 《荒魂》で強化されたAGIによって僕の方へ向かって来ようとするけども――その眼前に、予め配置していた10体の影分身……の持っている()()が地面に突き刺さり道を塞ぐ。

 【スティールロッド・改】(影分身)と【ジャイアントバスター】(影分身)を持った影分身達によるフォロー。

 そしてその隙に再度僕は影分身達の中に溶け込む。

 その間にも背後から、左右から、屋根の上から――【符】によって行使される《ライトボール》や《ライトランス》が突き刺さる。

 カスダメージにもならないそれらだけれど、多少なりとも注意を引き、光輝くそれらの魔法により視界を遮る効果は中々の物。

 

 これらが起こっていた数秒間の間に、何体も何十体も、不動さんの長刀で、神通力で薙ぎ払われていたけども――本体である僕に命中していないのだから、僕にとっては全く痛痒はない。

 何故なら、それが本来敵の攪乱を目的とした《影分身の術》の特徴であり――

 僕の【アダムカドモン】の《全主権限》によって最早別物となった“多重影分身の術”においても変わらぬ利点であるからだ。

 

 

 

 ――“多重影分身の術”

 

 そう彼が嘯いてみせるその技の正体は、実際はただの《影分身の術》である。

 【忍者】系統や【隠密】系統の上級職で習得できる、実体を持つ術者の分身を作り出すジョブスキルだ。

 実質的に自分が増えるのだから、戦力的に非常に強力――だと思われたが、流石にそう美味い話はない。

 生成される分身体のステータスや所持している装備の性能は数を増やす程に分割され、同格以上の相手に対してはあまり戦力になりはしない。

 装備スキルやアイテムのスキルは一切使用できず、習得しているジョブスキルも同じ系統の中の一部しか使用できないという()()がある為スキルに頼った応用も使い辛い。

 しかし、それでも実体を持つ、しかも使い捨てにすらできる自分自身が増えるというのは攪乱の為以外でも非常に使い勝手の良いスキルである。

 ただ《隠蔽》して監視に使うだけでも良し、影分身で生成された物ではない、本物のアイテムを持たせて使わせる事に支障はないし、ある程度のステータスはあるのだから布石や肉盾にだってできるのだ。

 影分身がすべて倒されたとしても、MPとSPを消費すれば自身のスキルレベルで定められた人数までは即座に補充できる即効性もある。

 

 ……最も、【隠密】系統の超級職と言われている【絶影】であっても、三桁を越える影分身を生み出せはしないだろうが。

 

 その異常な数の影分身の絡繰りは――《全主権限》。

 これにより、生み出された影分身の使用可能スキルの制限が廃され――()()()()()()()()()()()()というバグ技染みた行為が可能になったのだ。

 

 勿論、その度にMPやSPは消費され、ステータスはどんどん分割されていってしまう。

 その為、彼が現在生み出せる最大数である340の影分身を生み出した際にはその過半数である256体の影分身は所持ステータスが本体の彼の1/625という、一般人レベルにまで落ち込んでしまうのだが。

 

 ……まぁ、その一般人レベルのステータスしか持たない影分身であっても【符】を介して本体と同等レベルの魔法を行使したり、本体や他の影分身達が持っている武器の分身を持って牽制する事程度は出来るのだが。

 

 

 

 ――もっとも。

 神話級に相当する四万を越えるENDを基にした魔法防御力を持ち、今は《荒魂》によってAGIすらも同水準に至っている敵手を相手にそれらがどれほど有効なのかというと疑問視せざるを得ない所はあるのもまた事実であるが。

 

 

 暴れる、暴れる。【魂捧】に墜ちた不動さんは数多の掠り傷を全く意に介さずに。

 一撫ででもすれば、そのステータスの貧弱さには気が付かれている筈だ。

 ならば――その通常の影分身にも劣る十把一絡げの雑兵が数百出た所で、やはりただの攪乱にしかなりはしないとその身を以て教えてくれているかの様に!

 

 

 

 (やっぱり、不動さん程の相手だと、こんなに出しても本体以外の攻撃は誤差にしかならない、か。まだそれ用の戦術詰めてなかったからなぁ)

 

 内心でそう思いながらも――この戦いの()()()を組み立てていく。

 相手は強大で、比べて自身の力は余りにも貧弱。

 ……それでも、勝機がない訳ではないのだから。

 

 こちらの攻撃は、僅かといえ、徹る。

 敵手の致命の攻撃だって、影分身を使えば幾らでも受けれる。

 ならば、それだけで……きっとどの様にだって戦える筈だ。

 

 確かに、不動さんはこれ以上ないと言う程の強敵ではあっても――突破する方法がない訳ではない。

 ……まぁ、どんな方法でも確実とは全く言えないし、結構賭けになりそう。

 それでも、不動さんに勝つ為なら、やっぱりあれしか――

 

 

 

『――ごしゅじん、ごしゅじん。……勝てる? リンたちも、たたかう?』

 

 うん? どうしたの。リンに……イグニスも。

 

『どうしたの、ではない! 我らを気遣うのは良いが……苦戦しているのだろう? 攻略するのに難儀しておるのだろう!?』

『びりょくながら、おてつだいできたらいいなーって』

 

 …………

 うーん、その言葉はすっごく嬉しいんだけど……やっぱりそれは難しいかなって。

 

 『何故!?』って、それは勿論――君達に降りかかる、多大な()()()の問題で、ね。

 当然だけど、<マスター>である僕と違って、君達の命は一つしかないんだから。

 

 【救命の首輪】も、《高位霊体》としての物理攻撃無効も当然考慮に入れた上で――やっぱり、あの攻撃性と神通力を操る不動さんの前に出せはしない、かな。

 ……【従魔師】の端くれとしては乗り越えるべき壁ではあるというのは理解しているんだけどね。

 

『しかし、マスターよ。それでは――』

 

 

 大丈夫、大丈夫だって。

 確かに、リンやイグニスが手伝ってくれるなら戦術の幅は広がるけども。

 

 本来のこの作戦目標は既に果たしているし、だから、仮にこの場では勝てなかったとしても……

 

 勝てなかったとしても…………

 

 

 

 

『……ごしゅじん?』

 

 

 ――――

 

 

 

 うん、やっぱり手伝って貰おうかなって。

 

 ちょっと……ちょーっと今の不動さんには絶対に負けたくないというか?

 ゲーマー的に部分的勝利には納得できないと言うか完全勝利してやりたいというか!?

 カシミヤやヒース達が今も全力で戦っている中で手を抜きたくないというか全力でやりたいというかなんというか――

 

『マスター、マスターよ』

 

 何かなイグニス!

 大丈夫、安全については《幻惑》や幾つかストックしてあるとっておきの(【符】)で多重に確保しておくから!

 まぁ、ちょっとだけ難しい所を頼むかもしれないけど、大体は練習通りの――

 

『つまり、やっぱりいつもの負けず嫌いが発動したのだな?』

 

 ――そうとも言う!

 

 

 だって……

 

 

 

「――だって、その方が僕らしいと思わない?」

 

 

 相手が強いから、勝ち目が少ないから、勝たなくても問題ないから。

 だから余計なリスクを排除して、守りに入る?

 

 ――ないね!

 

『うむ、やっぱりマスターはマスターだな!』

『ひゃっはー、ごしゅじんのきょかが出たー!』

 

 

 

 リンとイグニスのその言葉を聞いて……自然と口角が吊り上がるのを感じた。

 

 本来は、自分一人で……それと、この影分身を使って作戦を組み立てるつもりだったのだけど――もう十分に戦闘も長引いている。

 リンとイグニスには……勿論不動さんにも、遠慮はなしにする。

 

 戦いは、ここからが終盤戦。

 

 

 

 

 

 

 ――勝つのは、僕だ。

 

 

 

To Be Continued…………

 




ステータスが更新されました――――

“多重影分身の術”:
 本編中にある通りオリジナルスキルでも固有スキルでも何でもないただの《影分身の術》。
 《影分身の術》で作られた影分身が《影分身の術》を使い影分身を作り出してその影分身もまた《影分身の術》を――を繰り返し、数百を数える埒外な数の影分身を生み出す事が出来る。

 本来【隠密】【影】のジョブを取ったのはジーニアスがWikiなどでジョブ・習得スキルを精査して自身の《全主権限》と()()()()()()()()と考えて取得したのだが……
 《影分身の術》を習得後、早速試してみた所想像以上の使い勝手の良さに切り札として封印。
 その後は決闘などの目立ちすぎる場面では使えず、強敵との戦いでも使う機会が限られていた為、一回実戦で使った時以外はずっと伏せたままの伏せ札状態だったそうな。

 身体(ボディ)である【アダムカドモン】の《全主権限》によって《影分身の術》に限らず、影分身達はジーニアスの習得しているスキルを基本的に制限なく使用可能。
 しかし、装備品やアイテムは影分身が複製した段階で装備補正だけの装備スキル等がない状態になるので流石に使用できない。
 その場合でも本体から本物のアイテムを渡されれば装備スキルだろうが消耗品だろうが【符】だろうが通常通り使用できる為、ステータス最小の影分身でも肉壁以外の戦力として使用できるのだとか。
 ちなみにジーニアスは今回の教訓を経てドライフに行く機会があれば【アサルトライフル】辺りを数百丁用意したいな……と考えているとかいないとか。

 ジーニアスが使用する影分身は基本的にマニュアル操作する為、技量等もジーニアスに準拠している。
 その為、やろうと思えばジーニアス自身の魔法の才能にティアンの上級魔法職に比肩するMPを持つ第一次影分身(最初に作った4体)と下級魔法職程度のMPを持つ第二次影分身(次の16体)に、残りを【符】で組み合わせて疑似《ユニゾン・マジック》じみた事もやれるしやったんだとか(【黒竜王】戦で)。

 対広域殲滅型に対しては不利だが、これを基に応用すれば個人戦闘・広域殲滅・広域制圧すべてが可能になる……と思っているが、まだそこまでの能力はないらしい。
 今後のスキルの開発・改良に乞うご期待!


 ……今話も最後までご覧いただきありがとうございます!

 一章から出していた相性の良いとしていた【影】の伏線を漸く消化です。
 まぁ大っぴらには使わないのでまだ無双は出来ませんがこれで少しは活躍を増やせたらなーっ!

 ……それはさておき、今話は分割編でした。本当は決着まで行く予定だったのに。
 間に合わなかった分割後編は早めにお届け出来たらいいなと思います。頑張ります!

 それでは、どうか次話以降もよろしくお願いします!
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。