今話にして、ようやく決着……!
それでは本編をどうぞ!
□■功刀領・街中 【大魔闘士】ヒース・セイバー
固有スキル。
それは、その名前の通り、“その者”しか使用する事のできない、固有のスキルの事である。
基本的に超級職、〈UBM〉、特典武具、そして……エンブリオを持った<マスター>が使用できる、特有のスキルの分類の一つだ。
その力は他の通常のスキルと比較して特異で稀有な物が多く、非常に強力な出力を持っている物も多い。
主にそれらが持っているものの特徴や能力特性に強く関連して発現する、通常のスキルの枠組みから外れている物。
場合によっては固有スキル一つで戦局をひっくり返す事すらもそう珍しい事ではないという程に――この世界において、固有スキルという物の力は強い。
……それを持っているのが、超級職や〈UBM〉と言った実力という面では頂点に立つ者達なのだから、それも当然なのだが。
そして、その所持する固有スキルの個数等は、本人やエンブリオの総リソースやリソース配分によって異なっている為一概には語る事は出来ない。
当然ながら、固有スキルの数を絞る程に一つの固有スキルとしての出力は上昇していく訳なのだし、自らの能力特性に特化している者であればたった一種の最高の固有スキルにのみリソースを費やしている〈UBM〉やエンブリオなども珍しくはない。
世界中に居る<マスター>のエンブリオであれば、平均して3個から4個。6個や7個以上あるならば多機能型、あるいは、もしくは併せて固有スキル特化型と称される程だ(固有スキルの数が少なくても固有スキル特化型と呼ばれるエンブリオも少なくはないが)。
――故に。
いくら神話級の〈UBM〉だとしても……全く違う能力特性から発現したと思われる固有スキルを十数個、それもどれもが神話級の固有スキルに相応しい出力をしているだなんて――
その思いはその相手、【傾城九尾 ウォルヤファ】が本来【竜王】しか持ち得ない筈の《竜王気》を使用した時点で、確信に変わっていた。
多機能に特化した多重技巧型の〈UBM〉であろうと、これほどの化け物になる訳がない――――
と、いう事も、推測だけなら
(そもそも事前情報の時点でそれは
そう内心で述懐し、【ウォルヤファ】の能力のちぐはぐさを再確認しつつも……且つてヒース自身と多くの知識を有する<マスター>達、そして大名達で行われた“会議”の記憶を振り返る。
事前の情報の中では、確かにその片鱗は空間転移の固有スキルだけであった。
それでも――明らかにかの〈UBM〉が持つ固有スキルとしてはそぐわないその絡繰りについても、その会議では話し合われていたのだ。
……他の一般参加<マスター>の与り知らぬ所で。
事前に知っていたとしても作戦に変更はないし、一応説明された以上の実力を持つ可能性についても会議の中では言及していたし――〈UBM〉が予想外の固有スキルを持っているかもしれないという事は
事前の会議にも参加していた、<マスター>陣本隊の前線指揮官であるヒースは当然の様にそれも承知しており、それも含めて《詳細検索》で見抜く予定であったが――
――これは、【征夷大将軍】様の想定が正解っぽいか!
その異常な能力の絡繰りの根幹、予想されていた4つ……いや、5つの中に正解があった事を察し、得心する。
おそらく、残る未だ未判明の固有スキルも
あの非実体の何本もの刃も、あるいは自己強化の固有スキルや魔法強化、超広範囲の索敵に用いていた物も。
そして、それを確認したならば――
◇◆
「それで、指揮官!? そろそろ次の策を教えてくれるとォォッ!?」
数瞬の思考の間にも事態は進んでいく。
その極短時間の間にも変わらず魔法の弾幕が彼ら<マスター>達を襲い来る。
相手の隠されていた能力を詳らかにしたと言うのは――むしろ、相手の防御を盤石な物とせしめた。
ヒースは《竜王気》についてそこまで詳しくはないが……ある程度の能力や仕様ならば彼のエンブリオの力もあって知っていた。
その上で――
「――
「いぇーいクソゲーだこれ! やってやりゃいいんだろぉぉ!?」
そう言って隣を並走する痩身の<マスター>を鼓舞するが、それも仕方のない事だ。
何せ、この場に居る残りの<マスター>九人の中で、攻撃能力と言う面では間違いなく彼とそのエンブリオは首位争いをする実力を持っている。
……あの【ウォルヤファ】の《傾城魂抜》を耐えられるエンブリオの固有スキルと言う面で見ればそれも仕方のない事だろう。
攻撃能力にリソースを振っている物ならば、それを耐えられる可能性が限りなく低くなると言うのも当然の話だったからだ。
あの【ダーインスレイフ】や【トツカノツルギ】の様な攻撃能力を併せ持つ物と言うのは……多くはないのだから。
生き残りの<マスター>の内四人は防御性に特化されたエンブリオ持ち、言わずもがなヒース自身のエンブリオは耐性こそ付与できてもそれ単体で攻略できる物ではなく。
もう一人は精神系統に特化されたエンブリオ。《傾城魂抜》にこそ耐えられたものの相手の精神耐性を抜ける可能性は低い。
故に、まともな攻撃能力を期待できる<マスター>は、残り三人しか居ないのだ。
「何、安心しろ……そろそろ、援軍が来るからな」
「援軍ー? 後続部隊の奴らじゃ操られるだけで戦力になんてならんだろって――」
痩身の<マスター>はそう、当然の疑問を口にする。
その為に今彼らはこの様な寡兵での戦いを強いられているのだから。
ならば。援軍とは…………
「――そう、僕達が今見参ッ!!」
――その声と共に。
【ウォルヤファ】から放たれていた数百の魔法の弾幕が――彼方より放たれた幾百の光線と剣圧によって迎撃され、数を激減させる。
<マスター>陣本隊の面々が視線を向けると……三方から、確かに三人の<マスター>が
他の<マスター>達に近寄って行く二人の少年と、一人の男の<マスター>。共に<マスター>陣本隊で《傾城魂抜》を耐えられ、そして、この戦線を離れていた者達。
即ち――
「おいおい……あいつら、マジで
――ティアンに、否、
本来は足止めのみを期待されていた者達が今――援軍としてここの参戦したのだッ!!
「勝ったな風呂入ってくる」
「っしゃぁ! これなら行けるね!」
「くっ! 流石はカシミヤと言った所か……っ!」
「おっと、見せ場は」「私達にも残して貰わないと困るわー!」
思わぬ援軍の登場に、残っていた数少ない<マスター>達の士気がぐんぐん上がっていくのも当然だろう。
……当然だろう。
だが、だからこそヒースは冷静に……前線指揮官として、確りと聞かなければならないのだ。
「……で、三人は
ある程度の三人の能力を察していながらも……
《竜王気》に非実体の刃の雨の展開、そして魔法の弾幕を作り続けている【傾城九尾 ウォルヤファ】を指差し、 聞かなければならないのだ!
「……えっ。何あれ《竜王気》とか使ってない? ……一発くらいなら抜いて多少はダメージ徹せると思うよ!」
「へぇ、あれが《竜王気》ですか。初めて見ました。三日ほど時間を頂ければ……」
「いやぁ、【武士王】――功刀さんは
「遠回しにするなよつまり戦力にならないんだろやっぱマジきついっすわー!!」
「落ち着け―、落ち着けー! そもそも元々は
痩身の<マスター>を宥めながらも――状況は変わらない。
戦力は確かにこの援軍で
まぁ、この三人に関してはまだ戦える余力を残してくれているだけで十分に御の字というものだ。
何せ、当然の事だが
その作戦も、戦力を嵩増しすればそれだけ成功率が上がるのは確実だろう……
だから――
時間。戦闘開始から既に10分は経過している。良し。
状況。相手の《竜王気》及び詳細不明の攻性固有スキルの発動を確認。だが――間違いなくまだ幾つか
条件を満たしていないのか、まだ本気でないのかは定かではないが……これ以上本気を出させる訳にもいかない。
そしてこちらの戦力と能力――確認した。
「……よし、うだうだするのはここまでだ。
「「「「「――了解!!」」」」」
さぁ――これで大詰めだ。
◆◆
■功刀領・街中 【傾城九尾 ウォルヤファ】
――……来ますかっ!
先程までの、魔法を避け、防いでいた、時間を稼ぐ様な動きとは全く違う。
それは、そう……先程の決死の一撃の時の様な、此方に致命の一撃を与える為に動こうとしているという事が直ぐに分かる殺気。
しかし、先のバラけながら接近していたのとは違う。
11人を、二つのグループに分けて両斜め前方から同時に突撃してくる様だ。
――一点を集中突破してこの《竜王気》を破るつもりか。なんと愚かな――
どうやら、敵の<マスター>共はそんな小細工とも言えぬ力押しで自分を殺そうとしているらしい。むしろ笑いすら出てくる程だ。
《竜王気》について詳しくないのだろう、あるいは、この【傾城九尾 ウォルヤファ】を侮っているのやもしれぬ。
だが、それもどちらでも良い事だ。
何せ、そんな拙いやり方でこの私を倒せると思っているなんて……むしろ、それは、その隊列は。
『――一網打尽にされたい、という事ですよねえぇっ!!』
二手に分かれて、多少蛇行などはしながらも共にこちらに突っ込んでくる集団。
今までと違って……
ならば、その二方向に全力で魔法を連射するだけで――殆どの戦力を潰せるだろう!
『――《
教わった通りに、魔法を……かつて誰かが開発した、
MPの消費は軽減されないし、チャージ時間やクールタイムのない、即座に発動できる様な魔法しか発動できない魔法であるが――こと戦闘に限っては、この魔法の有用度は語るまでもないだろう。
特に、魔法の威力を極限まで強化する固有スキルを持つ【ウォルヤファ】が行使するこれは――直撃すれば、耐久特化型の超級職でもない限り、例外なく無残な挽肉へと変える程の凶悪性を誇るのだから。
単一の魔法を《魔法多重発動》するのとは違い、複数種の魔法が発動される為、属性耐性による軽減も効き辛い。
上級魔法をこれで放てば、即ち広域殲滅を可能とする程の非常に凶悪な代物。
最も、《傾城魂抜》がある【ウォルヤファ】であれば面制圧として下級魔法を連射するだけでも十二分。
流石に上級魔法をあの勢いで連射すると、高速自動回復の固有スキル《永休の安らぎ》があったとしても、そう遠くない内にMPを使い切ってしまう。
これを作った者、そしてそれを教えてくれた
火球が飛び、岩槍が隆起し、呪弾が発射され、闇刃が走る。
固有スキルの力を付与され魔力が迸り増幅され、それらの威力は――ダメージの数字にして、一発5000を優に超える程。
超級職も一人しか居ないあの<マスター>共では……本来なら受け切るなんて不可能な物だ。
――そう、本来ならば。
二手に分かれた<マスター>のグループから、それぞれ一人ずつ女性の<マスター>が先行し、同じ様に二手に分かれた《幾百の魔法》の弾幕に立ち向かう。
それはあたかも後ろにいる他の<マスター>達を守る様に――否、守るつもりで、だ。
一発一発が超級職の魔法に匹敵する威力の魔法が数百。
なるほど、ティアンであれば余程に特化した特典武具か超級職でもない限り防ぐ事は不可能だろう。
だが……<マスター>ならば、エンブリオならば、その不可能は不可能ではない――
「《
「――《
無数の分身を生み出すエンブリオが、城壁の如き大盾のエンブリオが。
その秘奥、必殺スキルを開帳し、《幾百の魔法》を――受け止める。
方や、毎秒の様に数十と生み出される分身体のその身体で魔法を受け止め、方や身の丈程もある大盾を真正面に構えて真っ向から魔法を受け止め続け、後続の<マスター>達の道を作る。
しかし、それも
能力は低けれど非常に多数の分身を生む夢幻のエンブリオもこの数を生み出し続けるのはSPが足りず、その防御能力を<マスター>自身の精神力次第で無制限に高める大盾のエンブリオを以てしても数多の魔法の余波と衝撃だけで<マスター>本人を傷つける。
強力な上級エンブリオの、その必殺スキルであったとしても……リソースの、出力の限界はある。
故に、その二つの防御特化のエンブリオとその<マスター>であっても埒外の魔力を誇る〈UBM〉の猛攻を前にしては数十秒以下の短い時間を持たせる事しか出来ない。
勿論、彼女達が一人ずつで防ぎ続けるのなら、だが。
「迎撃は……任せろー!」
「右に同じく!」
「こっちはもう十分だ! 行くぜ、《
後ろに守られていた<マスター>達も――これまでずっと戦い、そして生き残ってきた猛者達ばかり。
ならば、ただ守られている筈など、ない。
同じ様に《影分身の術》による分身を適宜身代わりとして出しながら魔法によって相手の魔法を迎撃する者。
特殊な防御特化型の自身で安全に
はたまた、自分の剣で技でスキルで迫る魔法を斬り捨てる者達。
そして、発動に若干の時間が必要だった物の、
『こい、つらぁ……!!』
全力で、《幾百の魔法》を行使し続けても……その守りは崩れない。
魔力を費やし、威力を上げても。
他の固有スキル、逆向きの超暴風や超出力の念動力により圧し潰そうとしても。
上級の<マスター>達の行軍を多少遅らせるのが精々で、その歩みを止める事が……出来ない。
偶然一発命中する事があっても……戦闘系の
――先程の攻撃の時ですら、今まで散らばり魔法を防いでいた時ですら、ここまでではなかった!
――――ならば、今この時を凌げば……最早相手に力は残っていない筈よ!
瞳を爛々と輝かせて迫ってくる<マスター>達に
最適だと考えた方法を。
――最悪の方法を。
即ち……
【傾城九尾 ウォルヤファ】のAGIは、数多の固有スキルの補正を受けた結果、実に七万を越える超速度を有している。
ステータスに特化した超級職の居ない<マスター>達では、追い付く事など到底不可能!
スキルのクールタイムや消費SP、MPの概念はモンスターである【ウォルヤファ】も当然知識として持っている。
ならば、当然距離を取ってもう一度仕切り直せば……負ける道理は何処にもない!
(フフッ! これで――)
【ウォルヤファ】がそう考え、手だけを<マスター>達に向けて魔法を放ち続けながらも踵を返し背を向けた。
――その直前、ギリギリ維持し続けていたその知覚内に、多くの反応を観測した。
『え、うそ。これって――』
それは、先程も見た攻撃の焼き直し。
……いや、違う。
空から襲い掛かる超遠距離攻撃。
先の物は今の物よりも、酷くバラけている様に見えていた。
それが、今の物は――何故か
――
<マスター>後続部隊達の、最後の一撃。
クールタイムが回復した者、先程は威力重視ではなかった為温存されていた者らが行う――全力の支援射撃。
それらを束ね、纏め、狙い、弾道加速に追尾や貫通、毒撃や追加ダメージ等、複数の効果を付与された物。
先程のプランBと違い、敵を撃滅する為の、数十ものエンブリオと<マスター>達の本気を出した全力攻撃が――牙を剥いた。
『ちィッ!?』
動こうとした瞬間、あの自身をも上回る速度に加速された天よりの矢の動きが変わったのを知覚し、追尾能力が付与されている事に気付く。
それでも、全力で逃げ続ければ、あるいは距離の問題で失速して威力が落ちたかもしれない。
しかし、ここは街中。
……彼女が、【ウォルヤファ】が妖狐の〈UBM〉でなければ、それこそ魔獣や魔蟲の〈UBM〉であれば、何の問題もなく生存本能に従って家屋も施設も何もかもぶち抜いて逃げ続けていたかもしれない。
しかし、彼女は人型を持ち、人の生活を知り模倣できる高い知恵のある妖狐の〈UBM〉だった。
何も考えずに全力で移動して壁などをぶち抜いていくなんて
ならば、どうすればいい?
それでも逃げの手を打って後ろから撃ち抜かれるのを座しているの?
――それも、ない。
――私は、【傾城九尾 ウォルヤファ】。
昔の弱かった私ではない、ただ媚びて生きていくだけだった貧弱な妖狐な私ではないから。
私は、私は――強くなったのだから……!
ニンゲン如き、<マスター>如きぃ…………!
己の心を、そう鼓舞し――再度、<マスター>達へと向き直る。
そして、己の前方に全力の《竜王気》と防御魔法を展開しようとし……それを目撃する。
既に数十メテルという近距離まで近付いていた<マスター>達のグループ、とは別に。
逃げていた彼女にも匹敵する速度で
二人一組で動いていた、<マスター>達の中でも特に身体能力に秀でていたペアと……一人でこちらを狙いに来ている痩身の<マスター>だ。
一体、何時の間に他の<マスター>達から距離を離してここまで加速していたのか、それを考える余裕はないし……その必要もない。
やる事は何も変わらないから。
――前方に《竜王気》及び防御魔法、結界魔法による防壁を展開。
――左右の
――最低限の《竜王気》も忘れずに――下手に飛び掛かって来れば、飛び切りの《傾城魂抜》で今度こそ、仕留めてあげましょう!
事ここに至り、【傾城九尾 ウォルヤファ】に慢心は……ない。
自身の残りMPの事も気に掛けず、防御魔法と共に上級魔法による《幾百の魔法》を連射し、周囲を更地に変えながら<マスター>達を仕留めんと暴れ狂う。
しかし……やはり<マスター>達は、倒れない。
防御特化型の固有スキルで防ぐ者、類稀なる体術や剣術で避け、魔法を斬り裂く者、彼女に匹敵するか……あるいは上回る圧倒的な速度を以て回避する者。
数秒どころか、数十メテルという距離は一秒と経たずに詰められて「――《
―――――――――――――――――――――
距離を詰められる――その
<マスター>達のグループの最後尾にいた者、目立たずに自分に向かってくる魔法を避けていただけだった者。
その者が今――牙を剥く。
相手の精神耐性を極限まで落とし、その上で【放心】を始めとした幾つもの精神系状態異常をを与える必殺スキルだ。
――そして、それを
まさか、この私に精神操作で挑んで来るだなんて――!?
【ウォルヤファ】が【放心】していた時間は、まさに一瞬。
時間にして0.3秒にも満たない極々短時間だった。
――それだけあれば、AGIによって強化された彼らの体感時間において、攻撃動作を終えるのは十分なのだ。
「――《
「「せーの――《
「《
正面から、左右から、上空から。
全身を光らせながら魔力を漲らせ、光の剣で攻撃する<マスター>。
攻撃能力が低いながらも、己の成せる最も威力が高い攻撃で少しでも“削ろう”とする<マスター>。
互いのエンブリオを強化し合う双子の<マスター>の固有スキルによる、非実体の刃すら構わず砕かんとする同時攻撃。
極限の技巧を以て奪命の刃を振るう脅威の<マスター>。
まるで図ったかの様に精密に着弾する<マスター>後続部隊による超高威力狙撃。
精確に首を、致命部位を狙い長刀を振るう<マスター>。
そして、瞬間的に超々音速にまで加速し、《霊操刃》を容易く避けて攻撃を繰り返す<マスター>――
防ぐ、いなす、守る、弾く、耐える、耐える、耐える、耐える…………!
通常の伝説級の〈UBM〉程度であれば、10度は殺せる程の致命の攻撃の嵐。
――――それを、【傾城九尾 ウォルヤファ】は
防御魔法も結界魔法も《竜王気》も破られ。
綺麗であった肌は数多の傷と自身の流血で汚れ、豪奢だったが、動きを若干阻害していた着物はもう原形を留めない程にボロボロだ。
右腕は最後の一撃で千切れ掛けており、他にも幾つかの傷痍系状態異常が発生している。
――だが、生きている。生き残っている。
<マスター>達の最後の攻撃を……生き残っているのだ!
やはり自分の直感通り、蓋を開けてみれば確かに多少は痛かったけれど、結局HPは半分も割らない程度のダメージにしかならなかった。
その傷も、ダメージすらも……《永休の安らぎ》によって、数分と経たずに完治するだろう。
攻撃に際して、動きが遅かった一人を《傾城魂抜》で【魂捧】に墜とし(やはり即座に消えていった)、攻撃を受けた直後に自分をも巻き込む様に――自分を中心にして、特大の火属性魔法を発動させる。
爆炎と爆発、膨大な熱量によって周囲に居た数多の<マスター>達が一人残らず吹き飛ばされる様を見るのは……今となっては、非常に気分が良い物だ。
――『……くすくす、今の爆風で手足が私みたいに千切れ掛けている子も何人か居るわ。全く、なんて脆いのかしら』
自らの
相手の決死の攻撃を凌ぎ、僅かの余裕を得た【ウォルヤファ】は今までと同じ様に……いや、今まで以上に嗜虐的に<マスター>達を屠る方法を頭の中で巡らせた。
あるいは。
自身が放った超級の火属性魔法。
それによって発生した爆炎と煙炎を、油断せずに注意深く見ていれば。
「《
「え――」
直後。
【ウォルヤファ】の背後からマントを――気配も、音も、匂いも姿も全てを覆い隠す【夜隠外套 ニュクス】に羽織われた一組の男女の<マスター>が現れ。
勢い良く振り下ろされた
◇◆
□■功刀領・街中 【大魔闘士】ヒース・セイバー
【〈UBM〉【傾城九尾 ウォルヤファ】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【植田瞳】がMVPに選出されました】
【【植田瞳】にMVP特典【傾城艶布 ウォルヤファ】を贈与します】
「勝ったッ! 第三部完!」
「ふっる、ネタが古過ぎるでしょ……」
「というか全身大【火傷】状態なんだけど、大丈夫ー? 【治癒符】要る?」
「【気絶】してない中で一番重傷そうなのになんであいつはこんなにピンピンしてるんだ……?」
「うう、ロートさっきのでデスペナしちゃったよー……あ、私にも【治療符】欲しいなってー」
「死な安死な安。後で
「おっと、そうだったそうだった。《フラッシュグレネード》ー!」
アナウンスを……〈UBM〉討伐のアナウンスを聞き、戦闘が終わって尚元気な面々を傍目に見つつ作戦の完了を脳内で一通り噛み締め――漸く一息吐く。
HPは危険域だし、自分自身も他の幾人かの<マスター>同様に所々【火傷】も負っている。
しかし――勝ったのだ。
生きて……自分達で考えた作戦を見事成功させて――勝利したのだ!
幾つも不安な箇所はあった。失敗するのではないかと弱気になったりもした。想定外の、規格外の相手の力とそのリカバリーに何も思う所がなかったなどと口にできる訳がない。
結果が良ければ全て良し、という事ではないが……それでも、喜びも達成感も一入だった。
作戦自体は
そう、今回の作戦それ自体は非常に簡単な物だった。
【傾城九尾 ウォルヤファ】、そのメインウェポンは《傾城魂抜》による致命的な瞬間集団状態異常と魔法能力。
何度かの斥候によってそれらの詳細をある程度明らかにしていき……そして、とある一人の<マスター>の貢献により立案された作戦。
それは、彼女――ホームにしていた“忍者の里”を壊滅させられた事から志願して斥候を行っていた者の一人、植田瞳だった。
他の【忍者】系統の<マスター>達と同じ様に斥候業務を行っていた彼女だが、彼女は自身のエンブリオ、【夜隠外套 ニュクス】による斥候を行っていた時、“それ”に気が付いた。
もしかして、あの〈UBM〉、探知範囲は広くてもその
上級職レベルの《隠蔽》や《隠行の術》であれば探知範囲に入ってから一分と経たずに迎撃されていたのだが……
即座にその結果を会議を行っていた<マスター>達に知らせ、その後も何度かの追試が行われ……そして、作戦は決定された。
――即ち、視界を媒介とした《傾城魂抜》も、他の攻撃も全て隠密が行える上級エンブリオで、最低でも一人の火力特化型を同行させつつ狙いを付けさせずに回避。
同時に第二案である<マスター>の本隊と後続部隊による連携攻撃により、【ウォルヤファ】とその取り巻きの打倒と消耗を目指す。
第二案のみで倒せればそれで良いが――それが不可能であった時の為に、本隊の全滅時か合図を受けた際に、全力の攻撃を持って【ウォルヤファ】を斃す。
簡単に説明すればそれだけだが――それだけを達成するのが本当に、本当に難しかったのだ。
本来はこの作戦の攻撃役も複数人、複数種の攻撃方法を選びたかったが、他の<マスター>の中にも他者を複数同時に隠密させられるエンブリオは居らず、結局【ニュクス】の必殺スキル、《
攻撃役の選定も、慎重に慎重を期す必要があった。
集まった<マスター>とそのエンブリオは本当に多かった。【ダーインスレイフ】を始めとした一撃死を与える類のエンブリオだって何種類と見つかる程に。
しかし、相手は戦乱の島国天地をして常識外と言われる程の〈UBM〉。……〈UBM〉には、時として理不尽な状態異常耐性を保有している者も少なくないのだ。
【ウォルヤファ】がそれらの耐性を持っていないなど……どうして言えようか。
その事から、選出されたのは、純粋攻撃力にのみ特化された<マスター>となったが――
はっきり言って、余程上手く致命部位に最大の一撃を狙っても、致命傷を与えられるかどうかは賭けと言わざるを得なかっただろう。
130万を超えるHPに、5万を超えるEND。ついでに7万を超えるAGIを、【ウォルヤファ】は持っているのだ。
更に実際は《竜王気》や幾つもの防御魔法、即座に使用可能な幾つもの強力な攻撃手段すらある。
流石に隠密特化型のエンブリオと言えど、攻撃を行う瞬間にはマントのエンブリオである【ニュクス】から出なければならない。
……攻撃に特化した<マスター>の一撃を、この作戦における切り札を、何の消耗もない【ウォルヤファ】に無為に放ち――暗殺に失敗する事が最悪の想定だった。
故に、ある意味最初に第二案が立案された時以上に彼ら<マスター>陣本隊と後続部隊の役割は重要となった。
そこからの流れは――今までの行動の通り。
可能な限り多くの戦力を【ウォルヤファ】へぶつけられる様に采配し、一つでも多くその異常な数の固有スキルの詳細を暴き、【ウォルヤファ】を消耗させ、可能なら【ウォルヤファ】討伐を目指すが、それが不可能でも出来る限りのダメージを与え、
しかも、暗殺を気取られない様に、魔法の流れ弾が行かない様に小細工も抜きに真っ向から挑んでそれを成すのだ。
……改めて考えてよく成功したもんだ、と思う。
それだけ相手が……【傾城九尾 ウォルヤファ】が難敵だったのだから仕方ない事でもあるが。
ともかく、作戦は完遂したのだ。今は喜びを皆と分かち合おう。
「あ、あのー……!」
――そうした時、ヒースに……いや、その場に居た<マスター>皆に声を掛ける者が居た。
小柄な体躯を忍び装束で隠している少女……今回の作戦に、文字通りMVPである<マスター>――【影】、植田瞳だった。
MVP特典として手に入れたであろう、非常に艶やかな
「あっ、MVPおめおめー! それが特典武具かしら?」
「おう、お疲れさん。どうしたー?」
「す、すいません。私だけでは判断に困りまして……少し、皆さんにも見て貰いたいのです」
そう言い、彼女は慌てながらも、それを――特典武具の性能を表示するウィンドウを見せた。
【傾城艶布 ウォルヤファ】
者共を魅入らせ従える魅惑の概念を具現化した至宝。
その見た目と手触りはまさに珠玉の逸品であり、身に着けた者の魅力を向上させる魔力を持っている。
持ち主の魔力を増大させるのと同時に相手を瞬時に魅了に墜とす力を持つ。
・装備補正
MP+70%
精神系状態異常耐性+100%
・装備スキル
・《傾城魂抜》
視線を合わせた対象に【魂捧】の状態異常を与える。相手の精神耐性が低いほど成功率が高い。
また、精神系状態異常を与える際の威力を強化する。
※譲渡・売却不可アイテム
※装備レベル制限なし
うん、固有スキルが酷く劣化しているのは割と酷いなと他人事に思う。
……いや、おそらく彼女が真に見て貰いたい所はそこではないだろう。
自分達が一応は予測していたモノ。それは――
「なんで――なんで、この特典武具は、
『――――――!』
そう。
今まで全員で死闘を演じていて、奇襲までして漸く勝利した相手が――神話級の〈UBM〉ですらなかったという現実。
【傾城九尾 ウォルヤファ】は確かに強敵だった。
神話級モンスターの基準を容易く越えるステータスに、神話級の〈UBM〉として遜色のない固有スキルの出力。
そんな物を十数個も持っていて、それらは偽装された偽の固有スキルという訳ではなく、本物の力で今まで自分達を苦しめていたのだ。
そんな、あり得ない程の力を持った〈UBM〉が……古代伝説級? 伝承に謳われる〈SUBM〉なる者ですらなく……!?
「いやいや、いやいやいやいやいやいや、それはうっそだろ!? 俺だって古代伝説級倒した事あるけが本当に
「でも、《真偽判定》はあるけど瞳ちゃんは嘘ついていないわよ!?」
「……どういう事なのでしょうか?」
「わ、私にも分かりません……!」
と、そんな事が考えられていただろうという予想は外れていなかったらしい。
……流石にこういう形で騒ぎが起こるのは予想外だったが。
誰がMVPになるかまでは流石に分からなかったし、推測も……実際に《詳細検索》するまではヒース自身も
「――まずは落ち着け。今から説明する」
その言葉に、弾かれた様にヒースの方を見やる精鋭<マスター>達。
目力に若干圧せられるがそれはともかく――
その答えは、別に戒厳令を敷く程の事でもないのだから。
古代伝説級であった筈の【傾城九尾 ウォルヤファ】のあり得ない程の力の、その絡繰り。
数多の固有スキルを用い、本来なら使えないであろう《竜王気》すらも操っていた――その仕組み。
それは――――――――
To Be Continued…………
ステータスが更新されました――――
《
【極天覇道 ハジュン】の必殺スキル。
自身の力を極限まで強化する必殺スキル。
自身の元々のステータス一つを6倍にする。
発動時は自動で秒間66ポイントのSP消費が生じる。
非常にシンプルな自己強化型必殺スキル。
持続消費にしてはそこそこ高い消費SPに必殺スキルとしては標準的な効果。
ただし、高いステータス補正や《エクステンド・スマッシャー》によるステータス強化が合わさると――超級職ですらないのに、そのSTRは10万を優に超える事になる。
《メテオスマッシュ》:アクティブスキル
【大戦士】の奥義。
大型の重量級武器限定のスキルであり、単発攻撃型スキル。
渾身の力を込めた、大地毎砕かんとする大上段からの振り下ろし攻撃。
非常に高いSPの消費と長いクールタイム、武器への負担を強いる代わりにその威力は絶大。
周囲には攻撃の衝撃として威力が弱い範囲攻撃の様にもなるのだとか。
《
【至光天 アダムカドモン】の必殺スキル、ではない。
ジーニアスが作成したオリジナルスキル。
《気配操作》、《詠唱》や風属性魔法や光属性魔法をふんだんに使ってまるで〇ateの召喚シーンの様な光と風を自身を中心に発しながら非常に強い存在感を発する。
つまり
必殺スキルっぽい名前にすれば大体皆ビビる(二度目は通じない
※前話までで残存<マスター>数を間違えて表記していました。申し訳ございません。現在は修正済み……の筈です。
……はい、最後までご覧いただきありがとうございました!
進化&必殺スキル習得という自分調べデンドロ二次で盛り上がる場面トップ5に入る描写がされたのに次話では本文中に名前すら出ないモブ<マスター>になっていた主人公が居るらしい……
闇属性魔法怖いし相性が良くなかったからね、仕方ないね。
それはともかく、長かった決戦も漸く終わり、次話の短めのネタバラシのエピローグで今章を締めさせて頂きます。
次話は……一週間以内に投稿出来る筈! ですのでお待ちいただけると幸いです。
それでは、次話もよろしくお願いします!