無限の世界のプレイ日記   作:黒矢

53 / 88
前回のあらすじ:ジーニアスも(多分)頑張ってました

平成最後の更新にして今章のエピローグです。
それでは本編をどうぞ!


第五十二話 “祭り”の準備と・エピローグ

■??????

 

 それは、何処とも知れぬ空洞。

 

 天地の地下深くに存在する、とある地下大空洞の事だ。

 人間の手では、ここまで掘り進むだけでも数か月は掛かるであろうという程の深さと規模を持つ、地中に住まうモンスター(非人間範疇生物)達の安らぎの場にして楽園の地。

 

 大地に染み込んだ魔力も栄養も豊富で、他のレベルを持つモンスター達とも一種の非戦協定の様な物があり手を出してくる外敵も居ない。

 身体を休めるのにも良し、ここで冬を越すのも良し、卵を孵すのにも良しと絶好の安全地帯だったのだ。

 この場所を知っているのは、それこそ相応に高位な地中に住まうモンスター等、モンスターという界隈を見てもごく一部しか居ない筈であった。

 

 

 しかし、現実として――今そこは、その空洞は、余所者のモンスターに、ここに在るべきではない――〈UBM〉達に支配されていた。

 

 どの様にこの場所を知ったのか。

 

 どうやって地中を潜る様な能力もないのに、汚れもなくこの場に現れているのか。

 

 そして、()()()()()()を持ちながら、何故ここで隠れる様にしているのか――

 

 

 それは、本来そこを縄張りにしていた彼らでは知り得ない事だった。

 元々、魔獣や魔蟲、特殊なエレメントなど知性が著しく低い者達だった事もある。

 

 しかし……仮に、そこに居た者達が知能の高い部類のモンスターだったとしても……きっと正解には辿り着けはしないだろう。

 

 〈UBM〉ではない彼らに、■■■■■を、その主を見た事も聞いた事もない彼らに――神の如き力を持つ怪物との“契約”など、推し量れる訳がないのだから――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――残念ですが、【ウォルヤファ】さんはやられてしまった様です』

 

 空洞に、声が響く。

 それは、その地下空洞には似付かわしくない少女であった。

 白過ぎる肌と小柄な体躯に、長い黒髪、そして、所々が破けてはいるものの動きやすい様に工夫された着物姿の上から、要所を赤色の金属で――神話級金属(ヒヒイロカネ)で防護しているその姿は、華奢な身体に似合わぬ威圧感を醸し出している。

 

 彼女は憂いていた。

 ()()()()()()()()()()()同胞が一人、その命を喪ってしまったからだ。

 

 

『すまない、【クオン】。俺が軽率な真似をしなければアイツもこんな事には……』

『私は遊びなど辞めて、早く痕跡を隠して撤退しろと言ったのだがな。馬鹿な奴だ』

『しょうがない事じゃ。あの娘は才能こそあった物の、〈UBM〉として過ごした歳月はここに居る者達の中では下じゃったろう? 好奇心に身を滅ぼされるのも、予見しておかねばならんかったな……』

 

『ギャッハハハハ! おいおいお前さん方本気で言ってんのかァ? 死んだのはアイツが弱かったからに決まってんじゃねぇかよ!』

『然り、よな。未熟者が調子に乗るからああなる』

『嗚呼。ダガ、羨マシイナァ…………』

 

 喧々諤々。

 

 そして、予想通りとは言え……仲間を一人失った事による、他の仲間達の悪態等も、彼女にとっては憂い事の種だった。

 

 死んだ仲間は――【傾城九尾 ウォルヤファ】は決して弱者ではなかった。

 むしろ、他の仲間達と比べても尚……間違いなく上位に位置する実力者だったと言っても良い。

 特に、大軍を――それこそ、彼女達の目的の通り、()()()を相手にするとしたら、これ以上ないという程の固有スキルを保有していたのだ。

 

 ……それが、死んだ。殺されたのだ。予定された時よりも前に。

 

 ――()()()()()()()()()()()()!!!

 

 その事実に腸が煮えくり返る思いを感じるが……それ以上に、敵の実力評価について上方修正しなければならない。

 正直に言って、あの子の固有スキルを考えれば、彼女が()()に出かけてしまった時点で、ただそれだけで私達の出る幕もなく、国が滅びるかもしれないとすら思っていたのだ。

 

 彼女の力によって、彼女と【ウォルヤファ】は繋がっていた。

 しかし、その繋がりも万能ではない。

 あれほどの距離があって正確に物事を伝え合える程の精度はなく、事前に定めておいた信号によって非常に簡単なやり取りをするか、感情を多少伝え合えるくらいだった。

 ……あの子(【ウォルヤファ】)が間際に考えた事は、驚愕。

 卑怯で卑劣な手段を以て殺されたのであろうと言う事を容易に想像できる。

 しかし、あの子の力は……多少卑劣な真似をしたくらいで突破できる代物ではないのは、私達はよく知っていた。

 

 

 ――相手は、強い。間違いなく。あの子に、そして私達に届き得る程に。

 

 ()()()()()を得ても尚、油断も慢心もせずに、心からそう思う。

 

 だから、彼女の頭の中では……それに打ち勝つ為の策を練り続ける。

 ()()()そうしていた様に。

 

 ……最も、流石の彼女も、未知の力(エンブリオ)の脅威は、想像する事しか出来ないのが難点だが。

 こういった事を、もっと相談できる仲間(〈仲間〉)がもっと増えれば良いのに――と思うが、それも贅沢な悩みだろう。

 いくら通常のモンスターよりは格別に知性が上がっているとは言え、モンスターはモンスター。

 むしろ、この数の中で2、3体は相談できる相手が居るだけ御の字かもしれない、と密かに彼女は考えている。

 

 

『――それで、どうする【クオン】。また俺が仲間(〈UBM〉)を探して来るか?』

 

 どうやら、思案している最中に喧噪はある程度収まっていたらしい。

 他の短気な者達も自分が話したい事をさっさと話し終えた様だ。

 気遣わしげに話しかけてきたのは……【無影隔絶 アンシィル】。

 ――――

 確かに、彼の言う通り、戦力を集めるのも一つの手だ。

 戦力を増やして悪い事など殆どなく、特に私達にとっては非常に有効な手段。

 彼や他の仲間の能力を駆使すればそれは難しくない。今までだって同じ様にやってきた事。

 

 だが。

 

『いいえ。今は危ないでしょうね。それに……契約の時は近いわ。今はその時に備えて、皆で力を蓄えておいて貰いましょう。勿論、最低限の情報収集は命じますが』

 

 そう結論を出す。

 あの子が、【ウォルヤファ】が外に出て遊び始めてもう一月は経つだろうか。

 それだけの期間衆目に晒され、討伐隊が派遣され、二度目の接敵に敗れる――

 

 それだけの時間と戦闘記録があれば、彼の、【アンシィル】の能力によって秘匿されてはいても、ある程度の絡繰りがバレてしまっているかもしれない。

 

 私達には此処という安全地帯があるのに、態々相手の罠の中に飛び込んでいくリスクを呑む必要はないでしょう。

 それでも、多少難しくなるが仲間の捜索と勧誘が全くできない訳でもないのだし。

 

 そして――

 

『それと――戦力については、問題ありません』

 

 はっきりとした声で、皆を見渡し、そう言い切る。

 そう言い切れるだけの根拠があるのだから。

 

『確かに、悲しい事ですが【ウォルヤファ】さんは死んでしまいました――しかし、()()()は私の中に、確かに残されています。予定していた作戦は多少変更しますが、全く問題はないでしょう』

 

 そして、自身の胸の――心臓の上を軽く撫でる。

 確かに自分の中に、あの子の力が……ただ視界に入れるだけで相手を魂まで魅了させる《傾城魂抜》と、触れた相手に全てを捧げさせる《華尽落命》の、二つの固有スキルが息衝いているのを知覚しているから。

 

 能力(固有スキル)の回収――これは、今まで試せてもいなかった事から他の仲間達にも秘していた事だが、事此処に至り、秘しておく事もない。

 これは何か別枠となるのか、私の固有スキル――《相護援儀》で共有できないけども……そもそも《傾城魂抜》は個人差があり過ぎた為、上手く使えそうだったのは数人しか居なかったから大きな問題では、ない。

 

 

 そして、その私の発言を聞いた、短気な方々は……既に勝利が決したかの様な熱気を以て歓声を上げていく。

 

 そんな力を持つ私の下に居ると言うのが、そんなにも誇らしいのだろうか。

 それとも、そんな私から与えられた力を好き勝手振るうのを想像していたのだろうか。

 あるいは……そんなに短気に歓声を上げる程に、勝利を、自分達の目的を果たす事を希っているのだろうか。

 

 

『――皆さん。もう少し……もう少しです。もう少ししたら――皆さんにも、全力で暴れて貰う事になるでしょう』

 

 ……そして。

 

『皆の力で持ってして――皆の、各々のやりたい事を、果たしたい事を好きに果たせるその時を、勝ち取る為に。……全力を尽くしましょう!』

 

 

 そう言い放ち、締める。

 

 ――そう、私達は〈UBM〉。モンスター……人に非ざる者(非人間範疇生物)

 故に、契約の許す限り――私達は好き勝手やらせて貰う。いや、そんな免罪符など無くとも……

 人間達を嘲弄し、蹂躙し、殺戮し――後悔させてやる。思い知らせてやるのだ。

 私を、私の民を、私達を裏切り殺したあいつら(天地の者)を――絶対に許さないのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強い……強過ぎる怨念を全身から発する少女――否、()()()()()()U()B()M()〉を前に、揃って彼女に傅く〈UBM〉達は勝利の確信を強くする。

 

 それは〈UBM〉になった時、■■■■■を得た時の全能感から来るような慢心ではなく――冷静に考えて、彼らの戦力がそれに相応しい代物であるからに他ならない。

 この戦力があれば、彼らが揃っていれば一国の戦力など容易く呑み込める……そう確信出来るほどの力を()()は持っているから。

 

 

 

 リーダーである少女の腹心たる隠密の青年、古代伝説級〈UBM〉である【無影隔絶 アンシィル】。

 彼の非常に強力な隠蔽と、触れた敵全てに強力な呪詛を与える固有スキルがあれば。

 

 身の丈5メテルを越える赤銅色の大鬼、逸話級〈UBM〉である【剛鬼坊 スートラヴァン】。

 彼の極限まで筋力(STR)を増強する剛腕を誇る固有スキルがあれば。

 

 大陸を渡ってきた群体型の小さな光を放つ小さな魔蟲、逸話級〈UBM〉である【夜蛍壁礫 リップルラップ】。

 彼女が操る多重に起動する念動力の固有スキルがあれば。

 

 天地では珍しい非常に巨大な西洋竜、古代伝説級〈UBM〉である【戦竜王 ドラグバトル】。

 彼が持つ《竜王気》と、全能力(ステータス)を極大強化する固有スキルがあれば。

 

 超能力を操る双子の鬼子の兄、伝説級〈UBM〉である【双天翻弄 エドラ・リンデル】。

 彼の重力と斥力を操り自在に障壁を形成する固有スキルがあれば。

 

 超能力を操る双子の鬼子の妹、伝説級〈UBM〉である【双天奔放 エメル・リンデル】。

 彼女の持つ長距離であろうと短距離であろうと構わず空間を渡る固有スキルがあれば。

 

 未だ仲間にも全てを明かさぬ魔導書に宿る悪魔、神話級〈UBM〉である【禁忌魔本 アル・マグナス】。

 彼の切り札を隠しながらも仲間に齎した魔法超強化と全識別の固有スキルがあれば。

 

 100年の間仕えた主を異邦人に殺された魂宿る妖刀、伝説級〈UBM〉である【霊亡刀 ノーゼルス】。

 人間に対する非常に高い殺意と共に非実体の刃を何本も形成し、振るえる固有スキルがあれば。

 

 埒外の脅威から生き延びる為に力を求めた古樹、伝説級〈UBM〉である【虚樹錆香 ホロゥラストル】。

 彼の持つ装備品も何もかもを腐り落とす固有スキルがあれば。

 

 群れの子分を殺された憎悪の念に燃える狼、逸話級〈UBM〉である【風牙剣狼 エイルヴァルフ】。

 暴風を剛風を使役し攻防一体を体現する固有スキルがあれば。

 

 永遠を生きると思っていた、彼らに捕まってしまったエレメンタル、逸話級〈UBM〉である【永泳夢球 クロゥス】。

 彼の分け与えた万全の自動自己回復能力の固有スキルがあれば。

 

 

 そして。

 彼らを、彼らの力を束ねる少女――神話級〈UBM〉である【征討魔将 クオン】。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□■???

 

 

 

 時は暫し遡る。

 

 

 闇の中。

 天の彼方、或いは<マスター>に言わせれば……デバックスペース。

 世界から隔絶されたその場所、管理AI以外は何者であろうと立ち入る事ができないその場所に二人……いや、二体の獣が居た。

 

 ジャバウォック(〈UBM〉担当管理AI)チェシャ(雑用担当管理AI)である。

 その広大な空間に無数に表示されているウィンドウを操作し、()()に向けて準備作業をしているのだ。

 

 ……最も、雑用担当の名の通り、チェシャはジャバウォックに呼び出されて作業を手伝わされている身なのだが。

 得意分野が違うから仕方がないとはいえ、猫遣いが荒い。

 

 それにしても――

 

「ねぇねぇジャバウォック?」

「……ム、何だ?」

 

 話をし始める間にも、双方ウィンドウから目を離さず、手元のコンソールから鳴る音は止まらない。

 その作業効率は実に数倍以上違うが、そこは雑用担当の面目躍如だって違う違う。

 

「いや、特に問題無さそうだから最初に聞かなかった僕も悪いのだけど――これは一体何のための作業なのかなー?」

 

 彼らの目の前にあるウィンドウに表示されている、作業の内容。

 それは、“分布図”。

 各種モンスターの生息域生息数生態圏、亜種や特異個体の発生の有無の確認。

 

 ……だけではない。今彼らが確認し、記録しているのは何もモンスターの分布図に留まらない。

 天地に住んでいる実力者のティアンの分散状況、〈UBM〉の生息位置の把握に、主に天地をセーブポイントとしている<マスター>の実力者の把握までも含めて。

 それは、人型範疇生物に発見済み、未発見を問わない遺跡や神造ダンジョンの物までを網羅する――天地全体の勢力図とすら言える物だった。

 

 確かに、イベントの際や、予定している〈SUBM〉の投下の際、若しくは何らかの不確定事象に備えて定期的に似た様な記録は取る事になっているのだが――それだって、今回の物ほど詳しくやる事は多くないだろう。

 

 それも、〈UBM〉担当であるジャバウォックが態々チェシャに頼んでまで急いでやる意味はない筈だ。

 

 

 本来ならば。

 

「ああ、これは以前話した『ハーフアニバーサリー』イベントの為の前準備だ。本番はまだこちらの時間で約三ヵ月先だが――」

「――なるほど。そのメインの〈UBM〉が()()を選定し易い様にこうやって整えている、って事だね?」

 

 現在の作業、そして以前聞いた発言を合わせてそう推測する。

 だが。

 

「凡そはその通りだ。だが、あれの()()はそう簡単には増やせないから、この作業もその為の下準備、と言った所だ」

 

「……確か、かなりの自信作なんだよね? 嫌な予感がするんだけどそれって――」

 

 勿体ぶった様なジャバウォックのその言葉に、チェシャは以前の発言を再度思い返す。

 ジャバウォックは確か、なんと言っていたか。

 

 ――〈SUBM〉の()()、あるいは()()

 

 

「ああ、かの〈UBM〉――【征討魔将 クオン】は()()()()()()()()()だ。且つて私がデザインした〈SUBM〉の理想形の一つを体現した代物だ。……後百年も時間があれば間違いなくあれも〈SUBM〉になれた筈なのだが」

「えっ、もしかして昔の奴、まだ諦めてなかったの……!?」

 

 

 記憶は過去に遡る。

 彼ら(管理AI)が先々期文明を滅ぼした直後の……“暗黒期”。

 彼らが四苦八苦し、多くの失敗をしながらもいつかの――<マスター>を迎え入れ、彼らの最終目標を果たす為に試行錯誤していたその時代。

 

 神の如き力を持っていながらも実際に神ではない彼ら、全知全能には程遠い、無限の銘を持つ彼らであっても遅々とした歩みを行っていたその時代で――当然の様にジャバウォックも他の管理AI達と同様に幾つかの失敗をしていた。

 

 ジャバウォックの失敗――それは、〈SUBM〉を上手く作る事ができなかったという事だ。

 VRMMOとして<マスター>達に遊んで貰う予定の<Infinite Dendrogram>。ならばそれを鮮やかに彩る()()が必須だろう。

 

 <マスター>が簡単に勝てる相手ばかりでは、きっと楽しめない<マスター>だって少なくない筈だ。

 エンブリオも持っていないティアンでは決して敵わない様な、<マスター>が己の持てる全てを駆使し力を合わせて挑戦しなければ勝ち目のない様な――圧倒的な実力を持つ相手との戦いの中で起きる可能性が高い<超級>進化を誘発する為に。

 

 しかし……その強敵を務める筈の〈SUBM〉の作成については、全く芳しくなかった。

 

 出力の関係上、〈SUBM〉を作るには■■■■■を二つ以上使用するのがほぼ前提とすら言えた。

 

 しかし、二つ以上の■■■■■に適合する難易度は非常に……非常に、高い。

 先々期文明崩壊直後の、未だ古龍の血を強く引くドラゴン種の中でも特に力の強い者達をほぼ実験体として使い潰してすら、二つ以上の■■■■■に適合して生き残る事が出来たのが三体しか居なかった事でジャバウォックは漸くそれを悟った。

 ……その三体、【鍛竜王 ドラグフォージ】【魔竜王 ドラグマギア】【生竜王 ドラグサヴァイブ】の内どれか一体でもレベル100の壁を越え、〈SUBM〉に至ってさえいれば、あるいは以後の失敗ももっと少なくなっていたかもしれないが、それはさておき。

 

 それからジャバウォックは……実に多くの事を試した。

 

 一体に二つ以上の■■■■■を使えないのならと――様々な変則パターンを試してみた。

 同種で融合能力を持つモンスターを素体にし、〈UBM〉を複数作った後融合させようと試みた。

 機械型の〈UBM〉の部品を合体させた事も、単純に〈UBM〉同士のキメラを作ろうとした事もあった。

 しかし、何十にも及ぶ多くの実験は失敗に終わり、優秀な素体が多く失われ――漸く彼は冷静になる。

 

 以後は同じ失敗を繰り返さぬ様、通常の〈UBM〉のデザインを行いながらも、非常に素質の高い、成功する可能性が高いと思われる物のみ〈SUBM〉のデザインの実験を行っていたと思っていたが――

 

 

「あれー? 昔作っていたのに配下を多用する様なのって居たっけ?」

「成功した者は居なかったな。私が望んだデザインに適合する素質を持った者が居なかったのだ。私としては、そこまで特殊な素質を要求したつもりは無かったのだがな」

 

 その話を聞いている間に天地のとある場所に潜んでいる、今話題の〈UBM〉――【征討魔将 クオン】を見つける。

 ……見つけたは良い物の、これは――

 

「……ねぇ、ジャバウォック? この()()って――」

「十三号の想像の通りだろう」

 

 そこで、ジャバウォックは一拍置き、続ける。

 自身の“自信作”の、そのデザインを。

 

「【征討魔将 クオン】は私が考えた〈SUBM〉の雛型の一つ。〈UBM〉の頂点、〈UBM〉の王――即ち、〈U()B()M()()()()()()()()U()B()M()〉の成功例なのだよ。それも、〈UBM〉の〈UBM〉たる所以である戦闘力(ステータス)や固有スキルを強化する事に特化した、な」

「ああ、やっぱりかー。うーん、確かに〈SUBM〉らしい……のかな?」

 

 話を聞いて、尚更そう思う。らしいと言えばらしいし、個我を持ち完成する〈UBM〉としてはらしくないとも言えるけども……

 元々考えていた雛型の一つ、という事なら確かにそういうコンセプトの〈UBM〉、〈SUBM〉としては大いに()()だろう。

 本来はユニーク(唯一)の名の如く、単体で強力な力を振るい<マスター>やティアンを苦しめる〈UBM〉。それが然るべき長を得た上で統率されたとしたら――それは一体どれほどの脅威になる事か。

 ……最も、我が強い〈UBM〉達を従えるのも一筋縄では行かない様な気がするのはチェシャだけ……ではないかもしれないが。

 

「ちなみに聞いておくけど、どれくらい強化できる目算なのー?」

能力値(ステータス)の方は然程ではない。が、固有スキルの強化に関してはかなり高い効果がある様だな。配下の伝説級の〈UBM〉であれば、その固有スキルだけなら神話級の〈UBM〉に匹敵する物となっていた。……最も、ある意味ではその強化も()()()()()()()の余禄と言える物だが」

「余禄――ああ、()()だね」

 

 彼らが見ているモニター。

 チェシャが意識を向けていたそのモニターの一つには、天地の地下深くに存在する大空洞の中を映し出していた。

 そこに存在するのは、今はなしに出ている【征討魔将 クオン】と、数体の側近の〈UBM〉のみ。

 

 しかし、【クオン】が自らが強化している繋がりから他の仲間を呼び出し、少しして……

 10体近くもの〈UBM〉が、()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()のである。

 

 魔法なんて欠片も使え無さそうな大鬼も、狼も、魔剣も、蟲達すらもが。

 そしてそれを当然の様に受け入れて彼らが集合していく様が……そのログが、モニターには映し出されていた。

 その力は――

 

()()()()の固有スキル。それも配下全員というのは……流石に驚いたね」

 

 能力共有。

 それは〈UBM〉としては非常に珍しい類の固有スキルではあるが……全く見ない物でも、ない。

 兄弟がほぼ同時に〈UBM〉になった際や、阿吽の呼吸の如く連携を得意とする二体のモンスターが〈UBM〉化した時等にはそれに類するスキルを持っている事がある。

 そのスキルの効果は、その能力共有を行う対象が自身が使用可能なスキルのいずれかを使用可能とする物、あるいはその逆で自身が対象が使用可能なスキルのいずれかを使用可能とする物だ。

 一種のラーニング系統と言っても良いかもしれない。エンブリオでも似た様な事をできる物はそこそこ居る。

 双方のスキル次第では非常に強力なスキルであろう。

 

 だが、その能力共有を配下全員に出来るのであれば、それもその配下が全員〈UBM〉であれば――強力という言葉ですら生温い物になるのではないだろうか?

 

 (というか、幾らなんでもこれほどの強化・共有スキルの上に更に空間転移が出来る可能性は低いだろうしー。もしかしてこれ、()()()すらも配下全員、って事だよねこれー)

 

 作業を続けながらも、片手間に他の周辺ログも確認し……それが正解だと知る。

 

「最も、今の【クオン】の《相護援儀》では、固有スキルの共有度は対象の適正に()()左右されるので、完全な能力共有とはならないがな」

「あの鬼や狼の〈UBM〉ですら空間転移が出来てる時点で、本当に多少なんだろうねぇ……これは凄い戦力だ」

 

 ジャバウォックの言う()()()に、殆ど本心から感心しつつそう言う。

 だってそうだろう。

 配下指揮スキルによるステータス強化と能力共有を合わせれば、それはつまり配下となっている〈UBM〉全員が、配下となっている他の〈UBM〉全員分の特典武具を持っているのと殆ど等しいのだ。

 しかも、その上で〈UBM〉最大の武器である固有スキルを大幅に強化しているのだ。……大半は、神話級〈UBM〉並の出力となる程に。

 

 その戦闘能力を推定するならば――最低でも、一体辺り神話級〈UBM〉でも上位クラスの実力に匹敵するだろう。

 それすらも現時点で、という但し書きが必要になる。何せ、配下の〈UBM〉が増えれば増える程……配下の〈UBM〉全員が強化されるのだから。

 

 

 そして、もう一つ。

 チェシャの思考は自らが持つ並行演算能力と【クオン】の特異なる異常な程の配下強化能力と――()()()()を結び付け、一つの答えを導き出す。

 それは……【征討魔将 クオン】を作り出す為の素体の正体。

 

「――ところで、()()()()()()()()】を〈UBM〉にするならちゃんと本人に許可は取ったのー?」

「勿論だ。最も、適合した上で我等の手先になってくれる者が現れるまで大分時間が掛かったがな」

「そっか……なら、僕から言う事は何もないかな」

 

 あくまで平静に言うジャバウォックに、そりゃそうだと苦笑しながら答える。

 遥か昔、バンダースナッチによって強制的に物理的に孤立させられた天地の口伝の伝承の中には未だにそれを成した僕達の片鱗が伝えられている。

 きっとジャバウォックは適性があるからと死した怨念に懇切丁寧に説明したのだろう。

 天地のトップである筈の【征夷大将軍】がそれに頷いてくれる確率は高くないと分かっていても。

 

 だが、その甲斐もあり――こうして【征討魔将 クオン】という、非常に適した力を持った上でジャバウォックとの契約を尊守してくれる相手が現れた訳だ。

 

 

「それでは、疑問は解消出来たならば作業に再開しよう」

「おっけー。ありがとねー」

 

 

 作業を――【征討魔将 クオン】が仲間(配下)にしやすい〈UBM〉を投下する為の場所を探る分布図の記録と更新を続けながら……チェシャは想う。

 この戦いは、この『ハーフアニバーサリー』イベントの戦いは、<Infinite Dendrogram>が始まって以来有数の大規模な、大掛かりなものになるだろう、と。

 

 非常に強力な数多の固有スキルを自由に操る〈UBM〉の集団。

 ()()()()()既存の〈SUBM〉と同等以上の物を持つ軍勢。

 

 

 果たして、天地の<マスター>達は、勝機を掴めるだろうか。

 おそらくは、彼らならば“ヒント”までならばまず間違いなく自力で掴める筈だ。その先は――さて、どうなる事か。

 

 叶うならば。

 どうか、彼ら(<マスター>)彼ら(<マスター>)のあるがまま、思う様に戦い、そして進化していって欲しいと。

 

 ――その後に控える、真の“超級進化誘発干渉”の時の為にも、どうかしっかりとこの()()()()()を体感して欲しい、と。

 

 本心からそう想うのであった――――

 

 

 

 To be Next Episode…………

 




ステータスが更新されました――――

【征討魔将 クオン】
種族:アンデッド
主な能力:配下強化・能力共有
現在到達レベル:100
発生:デザイン型
作成者:ジャバウォック
備考:かつての天地の【征夷大将軍】だった少女のアンデッドの神話級〈UBM〉。
 天地の人間に対して強い恨みを持っている。
 本来持っていた復讐の怨念がアンデッドに、そして〈UBM〉となった事で増幅されているらしい。
 本人自身もそれを自覚しているがそれはそれで問題ない、とも考えている。

 現在、玉石混合で11体の〈UBM〉を配下にして力を蓄えている最中。
 これだけの戦力があれば間違いなく勝てる、と自分の時代(数百年くらい前)の戦力を基準に考えているが<マスター>に関してはかなり無知。【猫神】? そんなジョブの強者が居たらしいですね。

 〈UBM〉としての能力特性は将としての配下の指揮・強化。
 【征夷大将軍】として、数多の超級職を率いてきたのと同じ様に――〈UBM〉を強化する素養。
 ステータスと固有スキルを超強化するのがジャバウォックが考えていた初期案だったが、【クオン】本人の素質か何かでそれが変質する。
 変質によりステータス強化は控えめとなり、その代わりとなり新たに生まれ強化されたのが配下の能力……固有スキルを共有する固有スキルだった。
 結果として、配下の〈UBM〉全員が【ドラグバトル】のステータス強化の固有スキルも合わさり、神話級に相当するステータスに固有スキル、そしてそれ以外の配下全員の固有スキルすら併せ持つ怪物軍団となった。

 ちなみに、【クオン】本人は元々は純竜級以下のステータスしか持っていないが、将としての特性か配下全員の固有スキルを完全な形で使用する事と配下全員の強さに応じて【クオン】自身のステータスを強化する固有スキルを持っている。
 更に、生前に培った戦闘技術をある程度再現する事も出来る為、現時点では配下達よりは実力があるとも言えるだろう。

 ……元々はジャバウォックはその〈UBM〉を指揮する能力、つまり〈UBM〉を()()()力で配下の■■■■■を統合し〈SUBM〉にならないだろうか、と思索していたりしたのだがどうやらそれは未だ不可能らしい。



 ……はい、今章を最後までご覧いただきありがとうございました!
 短めとはなんだったのか(一万字超)。
 今章は次章に続く戦いの前編みたいな形でした。
 ジーニアスも第六形態に進化して、必殺スキルも習得した今後が本番です! ……本当ですよ?

 そんな訳で次章は決着編、第一部最終章的な位置づけになります。
 また暫く間が空くと思いますが、出来るだけ早く始められる様頑張りたいと思います。

 それでは、今話、今章はここまで。もしよろしければ次章以降も付き合っていただければ幸いです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。