無限の世界のプレイ日記   作:黒矢

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前回のあらすじ:実質準<超級>も公式用語と言っても過言では、ない……!

短めだと思ったら別にそんな事ありませんでした
それでは本編をどうぞ!


第五十六話 年末年始は・気の緩み?

12月31日(木)

【<Infinite Dendrogram>公式季節イベント開催中!】

【現在、『大晦日』イベント開催中! 年明けを前に、今年やり残した事はありませんか?】

【今日は今年を締め括る最後の日。厄を穢れを祓い落とし心身を清め、清々しい気持ちで新年を迎えましょう】

 

 そんな訳で、フライングあけましておめでとうな大晦日だやっほー!

 まぁ、この日記を書いている時点ではもう年は明けてるんだけどね!

 三倍時間加速があるデンドロをやっていると、時間間隔ってちょっと、どころかかーなーり狂うよね……

 僕が“組織”に助け出されたのが、えーとほぼ一年前だけど、僕の体感的にはもう二年前くらいな気分だもの。

 やっぱり三倍時間加速は凄いねっ。

 

 ……だから結構夜更かししちゃうのも仕方ないよね?

 デンドロ内で睡眠は取っているから、一応は問題ないしねっ。

 

 去年は、まぁ病院で過ごしていたけどこんな気持ちは全くなかったのに、年が明ける日というだけで、冬休みの何でもない日の筈なのにこんなにテンションが上がるのはなんでだろうね?

 悪い気分ではないんだけど、悪い気分ではないんだけどっ。

 と、そういうちょっとした吐露はともかく。

 今日はそんな今年最後の日、大晦日。

 僕も今日は一家揃って団欒かなー? ……って思っていたんだけど――

 

 うん、冒頭で書いた様に大晦日イベントが、やってきたのだったっ。

 半ば予想はされていた物だったけど、やっぱりこうしてクリスマスから連続してイベントがあると嬉しいね。

 掲示板を見た限りとか、勝とかは間違いなく明日以降の正月イベントの前振りも込みだろう、と言ってたけど、それはそれ。

 とりあえずこの大晦日イベントも存分に楽しんでいこう!

 

 今回のイベントは珍しくも期間がいつもの日程の半分……丸一日分しかないミニイベントの様な物。

 一番近いのは……うん、最初の『海の日』キャンペーンだろうね。

 簡単に言えば、期間中は全<マスター>に特殊スキルが付与される、という物だ。

 《禊ぐ聖別》。その効果は――イベント中限定の全状態異常に対する高い耐性付与と、一定時間毎の一部除く状態異常の回復だ。

 ――うん、正に今の僕達に打ってつけのとても嬉しい特殊スキルだよね!

 ちなみに、非戦闘型の人達にも配慮されているのか、期間中に作成した物品には一定確率(ステータスかレベル依存?)で聖属性が付与されるんだって。

 ……微妙にあっちの方が凄そうな気がするけど、それはさておき。

 

 そんなイベントだから――そんな特殊スキルが付与されるイベントだからこそ、輝く場所がいくらでもあるんだよね。

 そう、普段なら難易度が高くて挑戦する人も少ない状態異常の蔓延る各地の自然ダンジョンや神造ダンジョン。

 この特殊スキルのお陰でそれらの難易度が格段に落ちるという事――即ち<マスター>であればそれに群がらない訳はないのであった!

 昨日までに僕らが行った自然ダンジョンも――まぁ相応に難易度は落ちる事になるからね。

 とは言っても、基本はカシミヤが瞬殺したりしたし僕が装備もエンブリオも含めて結構状態異常耐性付けて何故か壁っぽい事したりするくらいだから、実際はあまり変わらないんだけど――それでも装備を変えたりして少しは快適になるんだよね。

 

 そんな訳で、翌日から始まるであろうイベントの肩慣らしも兼ねて今日は僕達は<妖の黒穴>の再攻略に向かうのであったっ!

 ……<不浄の虚>の方がモンスターが使う状態異常は多いけど、あそこで連日狩るのはちょっと……

 

 まぁそんな感じでイベント効果もあって意気込んで今日も昨日までと同じ様に一日狩りを頑張っていたのだけど。

 《禊ぐ聖別》が付与されるのは僕達<マスター>とそのエンブリオだけであって、リンやイグニスみたいな従属モンスターには全く恩恵がないというオチが着いたんだよね……

 それでも主戦力である僕らには確かな恩恵があったのは事実だし、後方からの援護だけでも十分だったんだけど、釈然としなーい。

 ……とりあえず、初日の出にも負けない(僕は見た事ないけど)すっごい光と豪勢なお肉を用意しようかなって。

 僕達だって内輪で記念を祝って労うのも良いよね、と。

 

 

 ――さて、本当に、本当に色々あった今年もこれで終わり。

 来年も良い年になります様にっ!

 

 

 メモ:

 【ケセラン・パサラン】

 亜竜級。手のひらサイズの綿毛玉。浮いて動いて漂って跳ねる。

 ステータスは魔法特化の亜竜級相応という感じ。何もしてこないかと思ったら周りの妖怪にえげつないレベルの強化支援(バフ)振り舞いてた……

 速攻で潰すべし。

 

 【トケビ】

 亜竜級上位。まさかの小鬼の変種みたいなモンスター。金槌を装備した小型の鬼。

 非常に質が良い装備をしている。この世界にも居るらしいドワーフみたいな奴なんだろうか?

 ところで、鬼族が特に顕著だけどモンスターを倒した時モンスターが装備していた普通に人間でも使える様な装備まで一緒に消えるのはなんか納得いかないよね。

 まぁ、多分<マスター>と同じ感じで所有者に紐ついているんだろうなぁあれ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2044年1月1日(金)

【<Infinite Dendrogram>公式季節イベント開催中!】

【現在、『正月』イベント開催中! 新年、明けましておめでとうございます】

【このおめでたい新年の始まりの日に、<マスター>の皆様にお年玉を配布しました】

【こんなおめでたい日には、おめでたい物を沢山集めて今年をおめでたい一年にしましょう!】

 

 今日こそ、本物の、あけましておめでとうー!

 僕にとってはほぼ初めての、新たな一年の始まり。

 なんと表現した物か……兎も角、まずは祈願。来年も今年と同じ気持ちで居られると良いなって!

 予想されていた様に、デンドロでは今日から正月イベが始まっているのだけど…………

 まぁうん、午前くらいはと二人に甘えちゃってたね。何か新鮮。

 

 朝ゆっくり起きて、二人に改まって挨拶して、御節料理食べて、他愛もない雑談もして……

 あ、そういえばお年玉も貰ったんだよね。二人から一万円ずつ、二万円。

 ……僕ずっと好き勝手MMOしているとか割と悪い子な自覚あったんだけど貰ってもいいのかな!?

 戒めとして良い子に……でもやっぱりデンドロはしたい……ぐぬぬぬぬ。

 

 まぁ……それでも、良い子だと思ってくれていたなら、やっぱり今年も頑張ろう、って思えるよね!

 

 

 さて、そんな日のデンドロのイベント――『正月』イベントは昨日の『大晦日』イベントとは違いとても単純な物!

 各地に沸いたイベントにちなんだ特別なモンスターを倒してポイントをゲットしてポイントを景品と交換する、以上!

 実に単純明快だね!

 他のイベントと違う点としては、ジョブに就きたての新人<マスター>でも倒せる様なのから上位の<マスター>が立ち向かう様な強敵まで結構幅広いモンスターが取り揃えられている事。

 そして、今回のイベント期間が三が日終了まで……つまり実質4日間あるって事だね。デンドロ内時間だと12日もある。

 また、湧いているモンスターの経験値や戦利品も良い物を落とす傾向にあるんだとか。

 

 ……これは見逃せないね。うん、絶対見逃せない。

 当然の如くカシミヤも同意見だった。まぁそうなるよね。

 そんな訳で、レベル上げの為にも、イベントの為にも――全力でこのボーナスタイムを遊び尽くすのだ――!!

 【SP回復ポーション】と【MP回復ポーション】を子供なのに大人買いして、万全の準備を整えて、いざ!

 

 さて、明日も全力で狩るぞー!

 

 

 ……良い子になるのはいつの日になる事やら!

 

 

 お年玉:

 C 【快癒万能霊薬】

 C 【歯車】

 E 【HP回復ポーションLv9】

 F 【ゼロピー】

 D 【シルバーダガー】

 B 【ブラッドアックス】

 E 【野原の幸セット】

 D 【海の幸セット大盛り】

 E 【バックラー】

 F 【MP回復ポーションLv1】

 

 手抜き(ガチャ)だこれぇ!

 

 

 【ラッキー・ラビット】

 下級モンスター。毛並みの良いウサギ。

 特徴的なスキルとかもなかったからほぼ間違いなくジョブに就きたてとかの新人向けのイベントモンスターだろうね。

 それでも経験値は亜竜級モンスター並にはあるんだから凄いよね。

 

 【ラッキー・ブルーバード】

 下級モンスター。青い毛並みの小鳥。

 【ラッキー・ラビット】と同じく新人向けのモンスターだね。経験値効率よりもアイテムやポイント重視……なのかな?

 

 【ラッキー・レディバグ】

 亜竜級モンスター。不思議な色合いの天道虫。しかもでかい。

 何故か光線を撃ってくる。天道虫とは一体……? 状態異常も付与されるので早めに仕留める。

 

 【ラッキー・ホーク】

 亜竜級モンスター。普通の鷹型モンスターとの見分けが付かない。まぁ名前を見れば普通に分かるんだけど。

 純粋にステータスが高いイベントモンスター。あのステータスで飛行戦闘して割と上の方の狩り場ならそこそこ居るってだけで厄介だよね。

 

 【告死凶鳥】

 純竜級モンスター。黒い巨大な鳥。烏……かな?

 多分今イベントのメインモンスター。ステータスだけでも【ラッキー・ホーク】の上位互換みたいな物なのにその体躯や攻撃性の上げ様は凄まじい。

 更にその呪いの鳴き声には低確率で広範囲に【即死】を与える効果があるんだとか。運ゲーはやめて。

 でも経験値すっごいから狙っちゃう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1月3日(日)

 今日が三が日の最終日!

 明日からはだらけずきっちりと……うーん、そこまで特段だらけていた自覚がないけど、まぁ明日からも頑張っていきたい所存。

 うん、本当に。

 

 さて、三が日は今日で終わりだけど、デンドロでのニューイヤー(『正月』)イベントは大体明日一杯までは続く。

 フィーバータイムはまだまだこれからだ!

 と、今日もカシミヤと一緒にイベントモンスターを狩って狩って狩りまくってレベリングに勤しんでいたんだけど――

 夕食を食べた後、狩りの長い夜の始まりという所でカシミヤがアクシデント。

 【告死凶鳥】の【即死】を運悪く喰らっちゃってデスペナしちゃったんだよね……残念。

 一応【即死】の状態異常に対する耐性を付与するアクセは着けて行ったんだけど、確実に防げる物でもなかったから、仕方ない……本当に運が悪かったよあれは。

 そもそも空を亜音速で飛んでいる相手の呪いの鳴き声を阻止するとか、いくら僕とカシミヤと言えど普通に無理ゲーだからね!?

 まぁ、あれだけ【告死凶鳥】を狙って今までレジストし続けていたというだけで十分なんだよね。

 

 そんな訳で狩りも一時中断してカシミヤとメールで連絡を取ったんだけど、「とりあえずデスペナルティの戦利品だけ回収してくれたら後は各自自由にしましょう」という事になった。

 今回落ちたのは小額のアクセくらいだったけど、武器とか、俗にいう相棒(メインウェポン)ドロップして喪失したら金銭的にも意欲的にもかなり不味いからね……

 <マスター>相手の野試合でも武器がドロップしたら相応の金額で相手の<マスター>に返してあげる事もあるからねー。

 特典武具の武器とか、メインウェポンにできる類のアームズ系統のエンブリオの人はそういう心配はないのは羨ましいよね。

 あ、いや。僕の【ラスリルビウム】も一応メインウェポンと言えばメインウェポンなのかな……武器枠では、ないんだけどね。

 

 その後は僕だけでも《生体探査陣》等の索敵スキルを使ってとりあえずの合流予定地点である将都まで移動しながら狩りを続ける時間。

 リンとイグニスと一緒に少し狩りをしていたのだけど――時間も時間だったからそんなに長くは狩らないで将都に戻ってログアウト前の暫しの休憩を取る事に。

 

 ……アクシデントこそあった物の、イベントのポイントも戦利品も経験値もかなり良い稼ぎになったんだよ。

 

 それは、そこまでは、良かったんだよね……

 

 

 ぐぬぬぬぬ。まさかこの僕が詐欺に遭うなんて――

 この借りは必ず近い内に返させてやるんだ……名前は分からないけど、気配と魔力は覚えたからね!!

 絶対に後悔させてやるんだー!

 

 

 ガチャ:

 D 【鋼鉄のインゴット】

 E 【古木の枝】

 E 【エメンテリウム】

 

 コメントに困るぱっとしなさ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

□■将都 

 

 

 <Infinite Dendrogram>。

 それは世界のVRMMO業界を席巻した巨大タイトル、大人気MMORPGであり、まだ公開されて半年も経過していないにも関わらず世界中にプレイヤー(<マスター>)が居る、正に世界が認めた夢のゲームである。

 自身の嗜好に合わせられる方法で超絶リアリティを実現。三倍時間加速。超高性能AI達に、更には〈エンブリオ〉――

 他のVRMMOではどれも実現できない程のクオリティを持ったその世界に、多くの人々が魅了されていた。

 

 

 しかし、その世界にも……瑕という物はある。それも、かなり大きな問題として。

 

 それは、その最たるものは――運営(管理AI)の怠慢である。

 公式イベントの少なさ……はともかく、特にノーマナーなプレイヤー……俗に言う犯罪者<マスター>への対処の緩さは特にインターネット上で話題にされる。

 

 犯罪者――とは言っても、()()()()全く犯罪でも違反でもない。

 ()()()()()()()()()から、それは当然だ。

 <Infinite Dendrogram>の規約にも、ゲーム内で犯罪を禁止する旨は一切書かれていない――それが、問題だったのだ。

 ……リアルに過ぎるあの世界では、それは、本当に大きな意味を持つ物だった。

 

 その様なアングラな話を聞いて、現実では出来ないから、とログインした直後に短絡的に犯罪に走る者は数知れず。

 一応は抑止の手筈としてある筈の“監獄”も、開始から一ヵ月も経つ頃には仕様も把握されセーブポイントの保持さえしていればそこまで問題にならない事が知れ渡られ。

 むしろ指名手配されない程度の軽犯罪ならば()()()()()()()()()のデメリットしかない事から軽犯罪を行う<マスター>の割合はむしろ微増。

 更には――デスペナルティにさえならなければ結局運営は何の罰則も与えない、という事まで、とある一人の<マスター>のせいで少しずつ犯罪者<マスター>達の間で広まっていく始末。

 

 

 だが。

 そんな世界であっても――いや、こんなファンタジー世界であるからこそ、犯罪防止に非常に役立つスキルが三つある。

 

 それは、非戦汎用スキル三種の神器とも呼ばれるスキル――そう、《真偽判定》《看破》《鑑定眼》の三つの事だ。

 これらのスキルの存在はどれも詐欺や偽装、欺瞞等の犯罪の抑制に大きく寄与しているのは疑い様もない事だろう。

 特に《真偽判定》――これ一つで悪意の有無や過去の犯罪歴の捜索、冤罪の防止まで出来る、司法の為のスキルだと言っても過言ではない存在だ。

 それらのスキルは汎用スキルであり、習得の難易度も高くない為、<マスター>、ティアンを問わずある程度以上の立場を持っている者の多くが習得している、正に重要スキルと言っても過言ではないだろう――――

 

 

 ――しかし。

 それらのスキルは万能ではなく、完璧と言うには程遠い物であるというのも、また事実である。

 

 単純に相手が《偽装》《隠蔽》系統のスキルを有しているならば、それとスキルレベルやスキルの出力の比べ合いになるし、そもそも相手が物理で犯罪を仕掛けて来る賊の類であれば何の意味もない。

 

 そして、何より。最も防犯として意味のあるスキル、《真偽判定》に至っては――それを()()()手段がそれこそ無数にあるからだ。

 それは、<マスター>がこの世界に大量にやってくる前――ほぼティアンのみで構成されていた時代から連綿と続いてきた、犯罪者とそれに抗う者達の戦いの軌跡の様に……《真偽判定》の抜け道がその両者の資料に大量に残されていたのだ。

 

 そもそもの話として、《真偽判定》は対象の発言や物体に宿る偽証しようとする思念を察知して判定するという、<マスター>からすれば眉唾物の効果を持つスキルであるのだが(尤も、実際に発動するのだから直ぐに納得されたが)。

 即ち、それを騙すならば――偽証しようとする思念。それを()()()()、あるいは()()()()という二点に方法は限られる。

 

 しかし、その二点に限られると言っても尚、その手段は長いこの世界の歴史の中で無数に編み出されてきているのだ。

 

 自身に暗示や催眠系、精神系のスキルを掛けてそれを“真実”だと思い込ませたり。

 逆に相手に精神系のスキルを掛けて“既に《真偽判定》で聞いてみたが問題は無かった”と言う様に記憶を改竄したり。

 一時期は奴隷を洗脳し、《改名》《変装》等を施した上で替え玉にした貴族まで居たとか。

 また、術師の類であればもっと単純に口パクに合わせて幻術や風属性魔法の応用でただの“音”をそう発言している様に制御して配置する猛者も居たのだとか。

 ……記録には殆ど残っていないが、機械を介した声に関しては思念を感じ取れない為、録音機械を利用して《真偽判定》を逃れる者も。

 更に珍しい所では声真似の得意な小鳥の従属モンスターを懐に潜ませてスキルで命令してモンスターに発言させる、という一風変わった記憶も残されている。

 

 その様な、多くの、実に多くの抜け道がある《真偽判定》だが……当然の様に、実際の()()()ではその殆どが既に対策されている。

 魔力やスキルの発動を感知する結界や魔道具を設置し、必ず複数人で質問で当たる様にし、ボディチェックも徹底して行われる様になった。

 ……勿論、その様な万全の対策ができるのは非常に限られており、それ以外の場所では今もまだ個々人で対策していくしかないのが現状であるのだが。

 

 

 ――――そして。

 その様な数多の対策を施し、万全の態勢を整えても尚――欺かれるという事が度々あるのが、この世界である。

 

 それは、何も対策に不備があったりする訳では、ない。

 

 ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という、それだけの理由で、だ。

 つまり――超級職や特典武具による欺瞞系のスキルの仕業だ。

 それを看破するには超級職や特典武具を持つ者の絶技を防げるレベルの上記の対策を完全にこなした上で、その欺瞞系のスキルに対抗できる看破系統の超級職や特典武具が必要になる。

 

 ――不可能だ。

 超級職は、一つの職に最大でも一人だけ。

 【断罪王(キング・オブ・パニッシュメント)】や【法王(キング・オブ・ルーラー)】等、《真偽判定》のLvEXまで習得できる超級職は、今のティアンが把握している限りでは十に届くか届かないか。

 そのジョブに就いた者が協力的かどうかも、そもそも席が空いていて不在の時期すらあるというのに、各所にそれを配置するなんて正気の沙汰ではない。

 そうでなくとも超級職の実力と言うのは他の人からすれば超常的な物なのだ。

 ()()()()()()でその存在を拘束し続けるのはむしろその方が損失であるとすら言える程に。

 

 特典武具に関しては、超級職以上に困難極まる。

 何せ、特典武具を手に入れるには、隔絶した実力を持つモンスター、〈UBM〉を討伐する必要がある。  

 仕様上、それを為せる人物を拘束するという事は結局超級職と同じ問題があるし――そもそもの話として、〈UBM〉とはその殆どが人に仇なすモンスターなのだ。

 ……相手を騙す欺瞞系の固有スキルを持った〈UBM〉の方が、それを看破する類の固有スキルを持つ〈UBM〉よりも圧倒的に割合が多いと言うのもまた、自然の摂理なのだった。

 

 

 その為、大多数、9割9分9厘の施設の対欺瞞耐性は万全とは言い難かった……が、それでも少し前まではそこまでは大きな問題にはなっていなかった。

 何故かと言うと――そもそも、特典武具ならともかく、欺瞞系の超級職自体が、ある意味では看破系統の超級職と比べて絶対数が少なかったからである。

 存在すら不確かでロストジョブだと言われている【詐欺王(キング・オブ・スウィンドル)】や【偽神(ジ・フェイク)】、【大怪盗(グレイト・ファントムシーフ)】他、確かに歴史上で何人か確認されてはいるが……就職条件が厄介なのか、それともジョブの性質上そうなったのかはともかく実際にその存在が発覚する事すら稀である。

 そして、そんな彼らによる被害もまた然りであった。

 故に、今までは被害件数は極小であった。

 

 のだが――そこに登場するのが急増した<マスター>達と、上級にまで進化したエンブリオ達の台頭だ。

 欺瞞系統に特化された上級エンブリオは、ただそれのみで超級職や特典武具による欺瞞に匹敵する――上級職の《看破》や《真偽判定》では突破できない存在の急増、という事だ。

 偽名、偽造、偽装、詐称……《真偽判定》を前提として作られた法律では対処が難しい者達。

 それでいて、その様なエンブリオを孵化させる<マスター>の多くは、つまり()()()()パーソナリティであり――

 

 ……少しずつ、少しずつではあるが、現状も欺瞞に――犯罪に特化した上級エンブリオによる被害は増えていっている。

 エンブリオの固有スキル次第では《真偽判定》による立証も出来ず、現行犯以外で捕まえる事が出来ないからだ。

 今は一部の国がそれに対抗する様に看破に特化したエンブリオを持つ<マスター>を募集していはするが……果たして、その努力が実るのは何時の事か――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 此処にも<マスター>の――エンブリオによる犯罪の被害にあった者が一人居た。

 

 天地の都、将都のセーブポイントの近く。十数分前に買った【救命のブロ一チ】を見て……そして、今漸く違和感に気付いた少年が、一人。

 己が買ったそれを、《鑑定眼》で詳しく見てみると――

 

 

【救命のブロ一チ】

『アクセサリー』

 装備者の命を守る装飾品。

 装備中に《九死にー生》を発動させ、効果発動時に1.0%の確率で破壊される。

 

 ※HP最大値を超過したダメージは超過した時点で二回目の破損判定を行う。この処理を被ダメージの超過が終わるまで繰り返す。

 ※装備していた【救命のブロ一チ】が破損した場合、24時間は【救命のブロ一チ】を装備できない。

 ※装備制限:なし

 

・装備スキル

 《九死にー生》:パッシブスキル

 致命ダメージを受けた際に10.0%の確率でその攻撃を無効化する。

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

「――偽物だこれ――――ッ!!??」

 

 

 

To Be Continued…………

 




ステータスが更新されました――――

 【御神酒】
 『酒類』
 神に振る舞われるという特別なお酒。
 一口で簡単に飲み干せる程度の少量でも、効果は抜群。耐性が無ければ直ぐに酔ってしまうだろう。
 飲んだ場合、一定時間の間全ステ―タスに微量のステータス補正を得る。
 また、一定時間の間ランダムで何らかの効果が発動する。

 此れを飲み干す者は覚悟する様。其れは神の酒なのだから。

 ※使用制限:お酒は大人になってから!


 【幸運のクローバーのアミュレット】
 『アクセサリー』
 幸運を象徴する四葉のクローバーを象って作られたアミュレット。
 これを装備した者には幸運が齎される――かどうかは分からないが、運が良い気分にはなるだろう。
  ※『正月イベント』ポイント交換限定

・装備補正
 LUC+30

・装備スキル
 《一欠片の幸せ》:パッシブスキル
 装備者がモンスターを倒した時、得られる戦利品の質が僅かに向上する。



 はい、今話もご覧頂きありがとうございます!
 (現時点では)まだ二話しかない筈のEpisode Fragmentにプロットとか考えていたエンブリオが粉砕されかかったりしましたが作者は元気です。
 フォルテスラぁ…………

 ……それはともかく、あんなに盛り上がる展開やられるとこっちもテンション上がってももっと書きたくなりますが描写力と執筆速度が全く追い付かない悲しみ。
 まずはペースを落とさないで書いていきたい所ですね!

 それでは、次話もどうかよろしくお願いします!
 
 
 
 

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