無限の世界のプレイ日記   作:黒矢

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前回のあらすじ:この子いつもぐぬってんな

それでは本編をどうぞ!


第五十七話 捕り物劇

□<Infinite Dendrogram>という“ゲーム”

 

 

 西暦2043年7月15日。

 その日、ゲーム界隈に激震が走った。

 そう、最早詳しく語るまでもないであろう、ダイブ型VRMMO、<Infinite Dendrogram>の発表と発売の日である。

 

 

 オンラインゲーム――いや、VRMMO(バーチャル・リアリティ・マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン)の歴史は、古くて、浅い。

 五感全てを仮想世界へと誘い、作られた魅力的な異世界での冒険を楽しむ――VRMMOの根幹、その発想自体は、それこそ本当に古く、2000年代から2010年代に掛けては創作物として大きな人気を博しており、サブカルチャーを好む者達やゲーマー達の間にはその実現が強く強く求められてきた。

 しかし、その空想の夢が叶えられるには、多くの、高いハードルが必要となった。

 ……果たして、五感全てを完全にシャットアウトし、仮想の世界にそれを繋げるのに、一体どれだけの設備と配慮が必要か。

 その難易度、コスト、倫理的配慮等も考えれば……実現は例え叶ったとしても、遥か未来の話であると囁かれていた物である。

 

 様々な試行錯誤が、必要であった。

 最低でもゲームとして楽しむ為には、そのプロセスは非侵襲的な物でなくてはならない。…………デスゲームなど、創作の中だけで十分だ。

 ゲーム機自体を――VRに接続し、五感の全てを仮想世界に繋げる為のそれの開発も問題だ。

 当時の技術では、どう考えても非常に大掛かりな物となってしまい、コスト面でも、ゲーム機としても落第点としか言い様がない代物だった。

 その様な物をユーザーに提供するなど、許される訳がない。

 ゲームとは、それも皆が夢見たVRMMOを追い求めて、何人も何人も何人もの技術者がその粋を絞り尽くしても――なお、その夢はとても、とても遠くにあるままであった。

 それに関連した様々な物議や世論が展開され、何年も経過しながら、一般の人達からしたら夢でしかなかった物だった、それ(VRMMO)

 

 

 ――だが、その夢を叶える者達は現れる。

 

 2030年代後半。 

 

 世界初のVRMMO、<NEXT WORLD>――世代を先取りした様な天才により創られた、次の世界への架け橋となるVRMMOの発売だった――――

 

 

 ……しかし、それは皆の知っている通り、残念な結果に終わってしまった。

 仮想世界のリアリティの再現も、仮想世界への没入感も、VRMMOとしての出来の何もかもが――ユーザーの、VRMMOを楽しみにしていた者達の期待に答えられなかったからだ。

 それは、<NEXT WORLD>を開発した会社が無能であった、という理由では決してない。

 ゲームとしてそれを流通させられる程度に、VRMMOという存在を完成させた者として……それは、その所業は天才としか言い様がない物であっただろう。

 だが、悲しいかな。

 そうであって尚――プレイヤーが求めるVRMMOには、遠く及ばなかったという事に他ならないのだから。

 更には、開発会社の想定外の健康被害により……その会社は惜しくも倒産する事と相成った。

 その後も、ぽつり、ぽつりと後追いの様に幾つかのVRMMOが発表、発売された物の……多くのプレイヤーが望む域にあるゲームは、終ぞ出ていなかった。

 

 正にそこが、現時点での技術力の限界だったのだ。

 

 

 

 

 そう。誰も知らなかった、誰も予想できなかった、あの<Infinite Dendrogram>が出てくるまでは。

 

 現実描写でプレイすれば、現実と何の区別もつかない程の、完全なるリアリティに物理演算。

 世界一つを包む程に巨大にして広大な仮想世界を作り出し、それによる単一サーバーにて行われるゲーム。

 NPCの一人一人が、超高度な人工AIに等しい知能を有しており、それにより様々なクエストが自動的に生成され続ける驚異的な技術力。

 ……最早、技術職であれば到底信じられる物ではない、神の領域の業であるゲーム内時間の三倍加速。

 そして、プレイヤーのパーソナリティを、思考を、経験を、選択を蓄積し解析し正に『無限の系統樹』の名に相応しい進化を遂げるエンブリオ――

 

 

 どれもこれもが、信じられない程の代物であったというのも、仕方のない事だろう。

 その時点での世間一般での技術力からすれば、そのどれか一つ実現するのですら非常に困難な事だったのだから。

 

 しかし――それらは、全て本物であった。

 正しく、数多の人々が望んでいて、そして実現できなかった“夢のゲーム”が、ここに生まれたのだ――!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■<天地・将都>某所――宿屋、その一室 【職人(クラフター)】ジェーン・ドゥ

 

 

 

 だからこそ、()()の様な存在が必要とされるのは、当然であった。

 

 

 その時代を二世代、あるいはそれ以上先取りしたとしか思えない超技術力。

 それは明らかに、オーバーテクノロジーと呼称して何ら問題のない物だ。

 管理AIを十数台も使用していながらも、今まで誰にも察知されていなった隠蔽力もそうだろう。

 

 ……その技術、その叡智の一端、欠片程であっても、果たしてどれだけの価値を生むだろうか。

 そんな代物が、怪物の様な傑作がVRMMOとして世間一般に公開されたのだ――

 

 

 ――そんな物、それらの技術を欲するハイエナの様な者達に狙われない訳がないのであった。

 

 金銭面で<Infinite Dendrogram>を開発運営している者達を買い取ろうとする動きがあった。

 

 ハッキングを仕掛けてデータを抜きだし、その技術を盗んでいこうとする者が居た。

 

 珍しい所では人海戦術でゲーム内に人を送り出し、その内情を調べようとする集団も居た。

 

 権力を使って会社そのものに圧力を掛けようとする者が居た。

 

 ……そして、私の様に依頼を請けて動くフリーの産業スパイは、十分に情報を精査してからゲーム内で情報を得る事を選択した。

 

 個人で動くからにはある程度は自身の安全は自分で守らなければならない。

 故に、僅かに出遅れたとしても、少しでも情報を集めてから動くのが鉄則だ。

 だが――まさか、直接ゲーム内に入った者以外は、殆ど収穫ナシ。それどころか損害すら受けて撤退する者すら居る始末になるとは、この私も想像していなかった。

 流石の技術力、と言った所だろうか。裏技は絶対に許さないという事だろう。

 更に、その手の搦め手を行った者とは違い、正攻法(?)で内部を調べている者は何のお咎めもなし、と来た。

 

 ……それが、ある種の誘いだという事は、直感として感じていた。

 だが、それはそう珍しい物ではない。創作者(クリエイター)としては実に良くある物だ。

 真正面から掛かって来い、逃げも隠れもしない――と、そういう創造主らしい微笑ましい傲慢さだ。

 

 実に都合が良い。競合である者達が軒並み尻尾を巻いて撤退しているというのも嬉しい誤算だ。

 

 故に、私はこの世界に降り立った。

 

 

 ……情報を少し調べただけで、“その世界”の本当の事を僅かでも知った気になったつもりで、降り立ってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――本来は、その“ゲーム”に対してそこまで熱意は無かった。

 仕事の関係上そこそこ関わり合いがある物ではあったが、昔よりそういった娯楽に興味を持てなかったというのもあり、それにハマる者を内心で見下していた事も、まぁ事実であった。

 

 <Infinite Dendrogram>のキャラクタークリエイトの担当は、二足歩行で立ち人語を喋る猫だった。

 中々に人気があるらしいが、それも関係のない事。

 

 アバターは――ゲームの再現性や技術力の細部を確認する為に異性の物を選んだ。

 異性の物や人外のアバターにすれば大きな違和感が生じる事は既に調べてあった。

 だからこそ、その感覚の差異や違和感はその感覚を再現する技術を解き明かす為に重要な物だ。

 流石に人外のアバターでまともに動けなくなるのは論外である為、やむを得ない選択であった。

 

 名前は――それこそ、まともにゲームとして遊ぶつもりのない私にはあまり関係のない物。

 だが、出鱈目に過ぎる名前を付ければゲーム内での情報収集すら苦労する事も流石に理解している。

 その為、付けた名前は――ジェーン・ドゥ(名無しの権兵衛)。実質上の只の匿名だ。

 まぁ、名前としてまともに使えるならば何でも良かった。

 

 その後も、視覚は現実準拠を選び、初期装備、エンブリオの移植、初期国選択と進み――私は、漸く、漸くこの()()に降り立った。

 

 

 

 ――そして、一分も経たない内に、その()()に打ちのめされる事となった。

 

 

 

 吹く風が肌を髪を撫でる感覚、太陽の煌めきと温かさ、靴越しに感じる大地の感触、花の匂い、草のさざめき。

 虫の声、初期地点に降り立った(<マスター>)を見るNPC(ティアン)の視線、表情に声音。周囲に居る<マスター>と思われる者達の活気さ。

 五体を動かす感覚に、実に不思議な異性としての感覚、遠くから聞こえる動物かモンスターの鳴き声、雲の動き、風の音。

 

 

 ――果たして、これは本当にゲームなのか。これがゲームの中なのか?

 ――仮想世界とは、ここまで全てを“真”に近付ける事が出来たのか?

 ――一体どうやって、どの様に、何をどうすればここまでの事が――――?

 

 

 圧倒的な疑問と驚愕と――そして、僅かながらの感心と礼賛、更には敗北感が自分の中で暴れ狂う。

 

 ……だが、そうして居たのも数分の事。

 長年の経験と自負により私は立ち直り、再起して――行動を開始する。

 

 自分がここに来た目的を果たす為に。

 その数分間の中で自身の心の中で纏められずにいるままの、幾つもの感情の突き動かすままに。

 

 そして、その二つは奇しくも同じ場所を目的としているのだった。

 

 それは、即ち――

 

 

「――()()()()()()()()()()()()

 

 

 尊敬、嫉妬、欲心、関心、興味、展望――

 

 元々持っていたパーソナリティ、そしてその時感じたその巨大な感情に翻弄されるがままに……数刻後、エンブリオが孵化する事となる。

 果たして、それは吉と出るか凶と出るか。

 それは兎も角、ログイン直後のこの時から、私はこの“ゲーム”にのめり込む事となった。

 この世界の、この“ゲーム”の技術を解き明かす為に。

 解き明かし、調べ尽くし、自らの糧とする為に――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼頃。

 将都に取った宿の一室で、古本屋から借りた本に埋もれながら目を覚ますのは……産業スパイである、アバター名、ジェーン・ドゥだった。

 いつも通り市場やギルドの資料を漁り、この世界の情勢について勉強をしながら……夜遅くまで()()()の為の準備をしていた為、この時間の起床であった。

 

 

「――ああ、懐かしいな」

 

 夢に見ていたのは、サービス開始初期……つまり、(彼女)がこの世界に降り立った日の事。

 あの衝撃の日の事を……夢見ていた。

 

 あの日から、この世界に降り立ち、エンブリオが孵化し、この世界を調べる事になった彼女であったが――その道程は決して順調な物などではなかった。

 まず、彼女は今までの経験上、ゲームとしてのセオリーという物に非常に疎く、ずぶの素人に毛が生えた程度の知識しかなかった事。

 そして、知識が無いのも問題であったが……当然ながら彼女も、そして彼女のエンブリオであるクロも戦闘能力という物が著しく欠けているのも問題であった。

 酷く物騒なこの世界。何処へ行くにしても何を調べるにしても、街を出るならばまぁ戦闘力は必要と言う魔境でもあるのだった!

 勿論、ただこの世界を調べる、というだけであれば街中にいくらでも歴史やこの世界についての資料があるにはあるが――

 それを買うのも借りるのも、地位や金というのは必要になる物だ。

 それに、そうでなくとも――それがこの世界の重要な一要素と言うのであれば、それも調べ尽くさないと気が済まない。

 ……彼女は残念な完璧主義者だった。

 リアルでは、それを実現するだけの実力も才能も兼ね揃えていた彼女であったが――流石に戦闘となるとそうはいかなかった。

 全くの未知の経験。想像すらしなかった世界だ。

 結局は戦闘も金稼ぎもエンブリオであるクロの力を存分に頼る事になるのだが……だが、まぁ。

 

 彼女のエンブリオで使()()である彼の性格を考えれば、それも本望という物だろう。

 ……彼女が寝ている時にも色々と作業して貰っている事を思えば、それも作られたAIだとしても、頭が下がる思いだ。

 

 

「ふぅ。さて、それじゃ今日もクロと――」

 

 

『――(マスター)ッ! 今すぐログアウトしてくださいッ!』

 

 

 突如脳内に鳴り響く、自分のエンブリオたるクロの声――焦燥の念を強く感じる、念話の声。

 

「――クロ! どうした、何があった!?」

 

 念話の先で何が起きているかは分からない。

 それでも、自分の大事な相棒が危機だと察し、念話越しに質問せざるを得ない。

 即座に戦闘準備を始め、一拍遅れて逡巡した後にログアウトの処理を開始し――

 

『すみません、捕まってしまいました。敵襲が――――』

へぇ、そこかー。意外と近くに居たんだね

 

 突然、念話に混ざる――知らない少年の声。

 それに戦慄する暇すらなく。

 

 数秒も経たない内に――轟音と、衝撃。

 ログアウト待機状態が解除されたという簡素なシステムアナウンスを頭の何処かで感じながら、宿の部屋の中で衝撃で壁に打ち付けられた。

 

 衝撃に堪えながらもそれが何処から来たのかを見ると――借りていた宿の壁のその一角。

 その壁に人一人は優に通れるであろうという程の風穴が空いていて、その先からは外が見える。

 ……どう考えても惨状だ、という場違いな事が頭を過ぎる間もなく。

 

 

 その外の先には、微笑んでいる筈なのに、確かな怒気を感じさせる童子、私のエンブリオであるクロを脇に抱えて空中に仁王立ちしていた。

 

 

「初めまして詐欺師さん。とりあえず色々とすっ飛ばして――今日が年貢の納め時だよ!」

 

 

 

 

 …………これは。

 

 もしかして、詰んだのかもしれない…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

1月4日(月)

 今日は三が日が明けてからの最初の日。人によっては今日が新年で最初の日だと言い出すとか言い出さないとか。

 そんな日に良い事があったのならばそれはつまり今年一年が良い年になるという事でいいんじゃないかな!

 『正月』イベントの最終日だしね!

 

 ――そんな訳で、昨日の今日で早速だけど僕を騙してくれた詐欺師をさっくり捕縛する事に成功したよ!

 やったね!

 ふふふん。【陰陽頭】である泰央さんに師事……うん一応、師事していた事もあると言えなくもない僕の手に掛かればこの程度お茶の子さいさいというもの。

 僕の改良した《生体探査陣》の前に逃げ切れる者なんてあまり居ないのだ!

 ……まぁ、ちょっとだけ誇張が入っているけど。うん、ちょっとだけ。

 でも実際はそんな所で間違ってなかったし問題ないよねっ。

 

 兎も角、カシミヤがデスペナ中の時間の間に全て終わらせられて良かったよー。

 こんな事知られたらどれだけ揶揄われる事だったか。

 ……カシミヤの《刹刃圏》もこういう時にはうってつけなんだけど、これをカシミヤに手伝われるなんて僕のプライドが許してくれないからね。

 本当に《全主相応》のスキルレベルが上がっていて助かったよ……

 

 

 さて、今回捕まえた下手人は二人組――と言うより、<マスター>とエンブリオ一組の犯行だった。

 まさかの――と驚く様な事ではない。

 <マスター>全体でのエンブリオの進化に連れて、()()()()行為に手を染める様になる<マスター>は少なくないらしいからね。

 エンブリオの進化が本当に固有過ぎるせい――と主張する人も居るけど、そういう人はそういうパーソナリティだからそういう進化をするんだよね。

 と、僕は自慢の【アダムカドモン】を見て思うのでした、っと。

 ……今回の相手は、さてどうなんだろうね?

 

 そんな今回捕まえた犯人は割とアバターのパーツと言うパーツがありきたりな金髪碧眼のお姉さんのジェーン・ドゥさんとそのエンブリオ、白髪の僕と同じくらいの年の少年の姿をした【複写真命 クローン】だ。

 ……金髪碧眼が被ってる! というのはさておき。

 普通に一杯いるしねっ。

 彼女達の驚くべき点はそこではない。

 何と、そのエンブリオである【クローン】(<マスター>であるジェーンさんからはクロって呼ばれてた)、そのTYPEは――アポストル。

 今まで既知だった6種とも、ボディとも違う、全く未知のTYPEだったのだっ。

 TYPE:ボディの話すら掲示板でもデンドロ内でも全く聞かないのにまさかまだ他にもレアカテゴリーがあったなんて……!

 どうやらメイデンと似通った部分があるという事は分かったけど……まぁ、正直例を一つしか知らないからちょっと推論は辞めておいた方が良いね。

 

 ちなみに、彼女のエンブリオであるクロの能力特性は複製――リソースを消費してアイテムを増やす事が可能なんだとか。

 ……それで詐欺アイテム量産して又売りするなら普通の良品量産して売った方が良いじゃん!? って思ったけど、良い品は当然それに見合ったコストが要求されるんだって。

 だから、低いコストで増産できる詐欺アイテムを使って――って事だったらしい。

 なんというか、頭良さそうな気配がしたけど凄くお粗末っ!

 昨日はちょっと意気込んでたのに残念な気配がするよ!

 

 ……まぁ、それでも。

 捕まえる事が出来ない類の、本当にエグイ固有スキルじゃなくて個人的には助かったかな、って。

 

 

 ――そして、ここまで書いて語ってみた所で、一つ問題が生じているんだよね。

 さて彼女にどう罪を償わせようか、という最終的な終着点だ。

 正直僕は割と捕まえた時点で満足しちゃったけど、彼女が行っていたのは間違いなく詐欺。

 勿論天地でも罪に問われる行為であり、どうやら数は少ないながらもティアン相手にも詐欺行為を行っていたみたいだから、国に突き出したら多分何らかの刑罰が下される事になるのは間違いないと思う。

 件数と行為からして、指名手配になる程ではない――と思うけど、実際にそうかどうかは分からない。

 いや多分ならないけど、分からないと言う事にしておいた方が良い反応が引き出せそうだから分からないったら分からない。

 

 そんな風に脅すのもまぁ少しは留飲を下げる事に繋がったのでそれで良しとして――いや、でも此処は将都だから、大白宮で泰央さんに聞いた物がそのまま当て嵌まるとは限らないのは確かな事実だ。

 もしかしたら脅しではなく、本当に厳罰が下るかもしれない――僕が国に突き出せば、の話だけどもね。

 

 そう、彼女の、そして彼女のエンブリオの能力を聞いて僕は一つの案を思い付いていた。

 ――その能力を存分に活かして、身体(固有スキル)で返して貰おう、という案を!

 何らかの形で借りを返させると言っても、別に僕も300万リル程度で事をそんな大きくするつもりはないし、むしろ国に補填で払う分を僕が払ったって良いくらい。

 ……あ、プライドが傷つけられた件はまた別だけどね。それは後々また追及するとして。

 

 彼女は金に困ってこんな詐欺をやっていた訳だけど――僕なら、僕らならそれをもっと上手く、クリーンにやれる筈なんだよね。

 何故なら、僕は元金もコネもあるから! えっへん。

 詳細はまた後日詰めるとして、丁度手元にあった【契約書】でとりあえずの約束は取り決めたし、頑張るぞー!

 ……未知のレアカテゴリー、アポストルにも興味あるし、ね。

 

 

 ……って、そう意気込んだ所までは良かったんだけど。

 ログアウトしてから今日の事を勝に話したら、“組織”の情報でもうアポストルの事は知っていたらしい。

 な、なんだってー!?

 あ、明日またジェーンさんに会うまでに詳しく教えて貰わなきゃ……

 

 

 ガチャ:

 C 【ミスリルインゴット】

 E 【清潔箒】

 F 【塩】

 

 ちなみに【清潔箒】は一定時間で自動で汚れが落ちるスキルが付いた箒みたい。……箒自体の汚れが落ちるのかぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1月5日(火)

 今日は日付をずらして、朝から三人で少し遅めの初詣に行く事になったよ。

 ……年末年始のイベントラッシュが終わるのを待っていたとかでは、決してない。ないったらない。

 あまり神頼みする様な性格でもないから後回ししていたというだけなんだよね。

 ……それもどうかと思うけどもっ。

 

 それでも、僕的には初めての初詣。

 勝と明日香が連れ出してくれた行事だけど……うん。

 あの場所の空気と言うか清浄感というか、何かこう引き締まる物を感じさせるあれは悪くないかなって。

 これは良い影響、なのかな。良い影響だといいなー。

 ――まぁ、神様が居る様な気配は微塵も感じれなかったんだけどね!

 残念な事だよ。

 

 帰ってきた後は勝と一緒にデンドロにログイン!

 コテツの方も丁度将都に来る用事があったらしく、そのついでに今回の件……ジェーンさんの件についても色々と助言や口出しをするという事だ。

 まぁ流石に僕一人でああいうの決めるのはどうかなーって思ってたし、どちらにしろ相談はしていたから渡りに船という奴だねっ。

 勿論僕一人でもちゃんとやるつもりではあったんだけどね?

 まぁコテツは何故か【最上級契約書】とかも持っているらしいからそれを使いたいのだとか。

 ガチだー!

 やっぱり、生産系だと契約は何よりも大事……なのかな?

 あ、ちなみに。

 アポストルに関してだけど――やっぱり、流石に“組織”と言えどサンプル数が多くなくて、こんな有利な状況で情報を得られるのなら使わない手はない、っていう凄い黒いお言葉と共にGOサインが出たよ。ひゃっはー!

 ……凄く悪役っぽいね!

 僕だって別に正義の味方とかは柄じゃないから、良いんだけどもっ。

 

 

 さて、コテツと一緒に臨んだジェーンさん(とクロ)との契約交渉だけれど、概ね僕の希望通りに話が進む事になった。

 つまりは暫くは僕――と、コテツの預かり、なんだけど名義的には泰央さんが間に入る感じだね。

 符を用いた通信魔法を使って泰央さんにも話を通しておいて、泰央さんの方から将都での犯罪者を捕縛した事やそれの賠償を行わせる事を報告して貰う事に。

 賠償は一時的に僕が支払う形にして、他の被害者がもし見つかった場合でも僕達の方から補填するという事になった。

 その代わり、ジェーンさんには賠償や補填に使用された金額分、相応しい期間……まぁ、そこそこ長い期間僕らの監視下、指揮下に入ると言う事で合意して契約する事になったよ。

 これでも<修羅の奈落>のお陰で結構小金持ちだからね、これくらいは……ふふん。

 

 それにしても、ふと思えば実は昨日僕が使った【上級契約書】と今日コテツが使った【最上級契約書】の値段だけで僕の被害金額の半分は優に超えるんだよね。

 本来はそれで余裕で赤字だけど……

 今後の犯罪者<マスター>が確実に一人減って、そして僕達の有力な協力者兼、珍しいエンブリオの情報も得られると考えれば十分じゃないかなって。

 【クローン】の有効活用もそうだし――って、これ、多分コテツの方が上手だよね。

 どうしようかなぁ……と、とりあえず考えていたのだけやって貰って後はコテツとまた話し合いだねっ。

 

 ジェーンさんも、僕達が持つ情報網は割と喉から手が出る程欲しいらしいから契約にも素直に応じてくれたのは嬉しい限りだよ。よろしくね!

 それにしても、あんなエンブリオを持ってるのに金欠になるとか、あまりゲームに慣れていない人なのかな、もしかして……

 

 

 

 ――――と、そんな所が今日の午前の事。

 午後からはまた、カシミヤと一緒に、ジェーンさんも連れて近場の自然ダンジョンにでも繰り出そうと思っていたのだけど。

 午前中に泰央さんと通信魔法で話していた時にちょっと提案されて、何でも攻略して欲しい自然ダンジョンがあるのだとか――

 割と大白宮を出てから期間空いてたのにばっちり動向掴まれている!? というのは兎も角、割と依頼自体は真っ当な物。

 その自然ダンジョンの名は――<絡繰り屋敷・忍>。

 そう、“忍者の里”で御馴染みの霧影領にある絡繰り城だ。

 

 先日の【傾城九尾 ウォルヤファ】との戦いにより、ほぼ壊滅した霧影領。

 ……その戦いで生じた怨念が核になった――とかそういう訳ではなく、城主であり大名でもある霧影朧が施した防諜機構が領を放棄する際に自動的に発動してしまい、城に蓄えられた魔力や術式により、モンスターを呼出し続け、トラップが自動的に増産されまくる魔の城、自然ダンジョンへと変貌してしまったらしい。

 やりすぎだよ……!

 自分で解除できない物作るとかどうかしてるよねー!?

 そして、それを止めるには最奥部にある核を停止させなければならない、と……

 

 まぁ超級職である泰央さんを含む精鋭ティアンならそれでも時間を掛ければ攻略できるんだろうけど、泰央さん達は今めっちゃ忙しいからそれ所じゃないし。

 自由に天地を回ってる僕らに紹介して攻略してくれるなら万々歳、という奴なんじゃないかな。

 

 まぁ、それでも僕達は未踏(?)の自然ダンジョンに挑んでも良い、ってなったら否はないんだけどね!

 それも泰央さんには借りを作ったばっかりだし、尚更やる気が出ると言う物。

 <修羅の奈落>で鍛えた直感が今、冴え渡る時――!

 

 そういう事で午後にはカシミヤとジェーンさんを連れて霧影領までひとっ飛び!

 ジェーンさんはコテツと一緒に将都に残りたがっていたけど、最初に引き受ける提案をした僕がそんな直ぐに責任放棄なんてあらゆる意味でできる訳がないからね。

 レベルは結構あるみたいだし十分戦力にはなるんじゃないかな、って。

 それに、まずやるべき仕事――領を放棄されてから、ティアンや<マスター>の脅威がなくなって格段に距離を縮めて周囲に住み着いているモンスター達の掃討もしなきゃならないからね。

 足元を固めないでするダンジョン攻略は無謀という物。環境整備は重点に、だね!

 

 

 ガチャ:

 F 【リンゴジュース】

 F 【ゼロピー】

 F 【オークの丸太】

 

 F三連続ぅー!?

 ぐぬぬぬ……

 

 

To Be Continued…………

 




ステータスが更新されました――――

名称:【複写真命 クローン】
<マスター>:ジェーン・ドゥ
TYPE:アポストルwithルール・キャッスル
能力特性:解析・複製
到達形態:Ⅴ
スキル:《クローニング・ラーニング》
モチーフ:とあるモノを複製する事、あるいはされたモノを意味する“クローン”。
紋章:二人のヒト
備考:人型状態の時は白髪に赤目の小柄な少年。キャッスル形態の時は鏡台型のエンブリオ。
 その能力はモチーフからすぐ分かる通りに複製。
 マスター(ジェーン)が完全に解析した物ならば相応のリソースを用いて複製する事を可能としている。
 ただし、その複製に使用されるリソースはアイテムを捧げて【クローン】内部へ蓄積された特殊なリソースを消費する。
 上級エンブリオになった現状ですらその変換効率は変わらず、捧げたアイテムと同程度のリソースの物しか複製する事は出来ない。
 勿論、それでも市場で安価でありながら含有リソースを高い物を買い漁りリソースに変換し、市場で高価でありながらも含有リソースが低い物を複製しまくる――とすれば容易に金策はできる。
 ただし、含有リソースは別に数字化されて表示されている訳ではないのでそれを見分けるセンスが超重要ではあるのだが。

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