無限の世界のプレイ日記   作:黒矢

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前回のあらすじ:其の名の通り、天災児は天上に辿り着くや否や

ちょっと遅れてしまい申し訳ありません
それでは本編をどうぞ!


第六十三話 【双天翻放】

■<【苦鍛窮宮 ダイダロス】> 第五隔離区画

 

 

 数多の<マスター>達と、規格外(イレギュラー)に半歩踏み入れている怪物(〈UBM〉)――【禁忌魔本 アル・マグナス】の戦い。

 既に共に、此処に至るその前から己の意志で戦意を固めこの場に臨んでいる猛者共の戦い。

 

 

 しかし――その中において尚、この激戦に対する恐怖に慄いている者は居る。

 

 それは、《無完の試練(ダイダロス)》によってこの第五隔離区画に隔離された残りの〈UBM〉――【双天翻弄 エドラ・リンデル】と【双天奔放 エメル・リンデル】その二体であった。

 

 

 〈UBM〉でありながら、今まで散々暴虐を働いておきながら、などとは思われるだろうが、()()()()()この【小鬼】の〈UBM〉の兄妹は、血気盛んに戦う<マスター>達を見て戦慄せざるを得ないのだった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〈UBM〉、【双天翻弄 エドラ・リンデル】と【双天奔放 エメル・リンデル】の来歴を説明するのは非常に簡単だ。

 且つて、未だ記憶に新しい凡そ一年半前の事。

 ……そう。<Infinite Dendrogram>が始まって間もない頃の事。

 

 その二体は、何処にでも居る普通の【小鬼呪術師】であった。

 そこそこ大きな【小鬼】族の群れに属していた事、兄妹揃って【小鬼呪術師】の素質を持つ優秀な【小鬼】族だった事、【小鬼】族の中でも仲間思いの二体だった事。

 特筆すべき事など、本当にその程度の何の変哲もない【小鬼】達だったのだ。

 人里から離れた山岳地帯に群れを作った彼ら【小鬼】達は自然の恵みを、動物たちを糧とし、時には迷い込んできた人型範疇生物や他種のモンスターを狩って少しずつ、本当に少しずつ慎重策で群れを拡大していた。

 仲間の【小鬼】達がそれなりに増えてきた頃には末は自分達も群れの幹部か――と兄妹や他の仲間達と朗らかに笑い合う程度に余裕のあった――そう、余裕のあったモンスター達の群れであったのだ。

 

 

 

 そして、当然であるがそんなモンスター達の細やかな幸せは長続きしない。

 

 彼らの不幸は――ある意味ではたった一つに集約できた事だろう。

 それは、彼等が軌道に乗ったその()()

 ……そう。今からこの世界で凡そ一年半前。

 ――<マスター>達の急増し、世界中が慌ただしく動き始め……正しく、時代が移り変わるその時、その時期に在ってしまったという事そのものだ。

  

 異端の力であるエンブリオを持つ数多の<マスター>の跋扈、それに対応して種々様々な動きを見せるティアン達。

 それだけではなく、彼らの活動によって、特に彼らの様な下級モンスターの生態系は乱れに乱れ、【小鬼】の群れの中では大規模な方である彼らの群れであっても<マスター>の急増から数か月の間に何度も縄張りを放棄する寸前にまでなる程であった。

 

 ……尤も。

 その数ヵ月が過ぎ、<マスター>の急増から半年もする前に、結局は彼らの群れも他ならぬ<マスター>の凶手に壊滅させられる事となるのだが。

 

 

 ……幸運だったのは、その【小鬼呪術師】の兄妹達だけは、極めて小規模ながら出力だけは上げた《隠蔽結界》で<マスター>の凶手をやり過ごせたと言う事だ。

 …………仲間達が順番に斬り殺されていくその様を、恐怖で動けないまま眺めている状態で、ではあったが、それでもその兄妹だけは自らの力で生を拾ったと言う事だけは確かだ。

 

 或いは、それだけであれば放浪の【小鬼呪術師】の兄妹として、争いを避け密かに暮らしていくという道もあったかもしれない。

 

 ――その直後に現れた、先程の<マスター>達よりも数段と、数倍も恐ろしい()()()に目を付けられなければ。

 

 

 ――()()は、新たな〈UBM〉を求めて居た。

 <Infinite Dendrogram>が始まった直後の激動期。

 未来の事を演算しても尚、今後引退する<マスター>などの動向を鑑みればこのスタート直後が最も<マスター>の活動率が高いのは自明の理なのだ。

 ならば――この時期にこそ、多くの<マスター>の為に、多くの〈UBM〉を放流したいと彼が考えるのも当然の事であった――――

 

 

 ――結果として、素質を持っていたその【小鬼呪術師】の兄妹は共に〈UBM〉、【双天翻弄 エドラ・リンデル】と【双天奔放 エメル・リンデル】と成り果てる。

 重力と斥力を操る固有スキルと、空間転移を容易く可能とする固有スキル。

 元々の兄妹の素質であったのか、魔法の延長として容易く使えるそれらに加え――共に在る時、互いを強化する兄妹の固有スキルも合わさり、襲撃者である<マスター>を何人も返り討ちにして早い段階で伝説級にまで至った物の――二人の気持ちは全く晴れない。

 

 しかし――そんな二人の前に更なる闖入者が現れる。

 ……そう。二人を探し出した隠密の〈UBM〉である【無影隔絶 アンシィル】と――後の二人の“将”となる、【征討魔将 クオン】の二人組であった。

 紆余曲折はあった物の、自身の力を、安全な暮らしを求めて二人は【クオン】に協力する事を決めてその陣営に入り。

 

 

 

 

 

 

 ――――ものの見事に〈U()B()M()〉として染まった。

 

 【クオン】に、他の仲間達に与えられる力に酔い痴れて、大勢の〈UBM〉の同胞達の存在に気を良くし自意識は肥大し思考は単純化し己の欲の為に行動する事も珍しくなくなっていったのだ――――

 だが、それも致し方ない部分もあるだろう。

 二人はモンスターとしても、〈UBM〉としてもあの集団の中では格段と()()、【小鬼】族の習性として群れの力を己の力だと勘違いしてしまうのも当然であった。

 また、【クオン】や【アル・マグナス】、【ホロゥラストル】と言った集団の中の知恵者はそれについても当然理解していたが――「その方が御しやすいから」というただそれだけの理由で二人の素行は全く問題視されなかった事も原因だろう。

 

 

 

 そんな、弱者を屠り己の力に酔う二人であったが――事ここに至ってはそうもいかない。

 

 【クオン】の加護は無く、頼れる仲間は兄妹と詳細の分からない【アル・マグナス】のみ。

 周囲には――二人のトラウマたる<マスター>達が数十も徒党を組み、戦意を漲らせ此方を睨んでいるのだ。

 

 本来は気弱であった二人の性格が災いし、性能(スペック)上は伝説級の上位に食い込める実力を持つ筈の兄妹も、この状況では伝説級下位程度の力しか発揮できるとは思えな

 

 

 ――『――二人共、聞こえているな? 今から我らが主【クオン】に代わり私が臨時で二人の指揮を行う。此処で死にたくなくば従う事だ』――

 

 ……小鬼の兄妹が思考の袋小路に囚われようとしていた時、聞こえてきたのはこの場に居る最後の仲間――【禁忌魔本 アル・マグナス】の通信魔法。

 

 あの〈UBM〉の集団においても、()()()の実力を持っていた、神話級の〈UBM〉――今見た所、あの<マスター>達にも優勢に戦える程の猛者からの提案だった。

 

 この状況に……この戦況に混乱していた二人がそれに飛びつくのは、彼らの境遇を思えば必然であった。

 かの集団の中でも知恵者として知られていた、しかも実力者である彼(?)に従えば自分達も生き残れるのだと……!

 

 精神的外傷(トラウマ)によって戦闘に参加できていなかった二人の〈UBM〉はこうして戦いの盤面に再び登る。

 二人一緒ならば、双方ともに伝説級上位の〈UBM〉に数えられる程の二人の参戦の結果は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勿論。

 【アル・マグナス】にとって、その兄妹は生かすべき“仲間”などではないのだが。

 それでも、戦力は戦力。それも、状況には非常に適しているモノだ――使わない手もない。

 

 それに、【アル・マグナス】としても、おそらくかの集団に属していながらの最後の戦いとなるこの戦いにおいて――この二人、【エドラ・リンデル】と【エメル・リンデル】と共に戦えるのは都合が良かったからだ。

 何故ならば、それは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「――――チィッ!!」」」

 

「――構わねぇ! 続けるぞてめェら!!」

「合点――」「――承知!」

 

 

 居並ぶ<マスター>達の中でも頭抜けた実力者――餓鬼道戯画丸、カシミヤ、ジーニアスが他の<マスター>の援護射撃を受けながら〈UBM〉達を狙う。

 次撃爆砕の拳撃に、確実に首を刈り取る超々音速で放たれる大長刀の居合一閃に、六本の《星光》を束ねた《星光砲撃(スターライト・ブレイカー)》――どれも、並の伝説級モンスターであれば一撃で屠る事の出来る代物。

 

 俗に言う“必殺”と言っても差し支えのない程の攻撃力を誇るそれらであったが――彼らの舌打ちを見れば分かる通り、それは〈UBM〉達には通じなかった。

 

 

 (――想定通りだ。防御能力に特化したこの二人を突破するのは彼らであっても一筋縄では行かない、か)

 

 

 《イマジナリー・メテオ》の直後の隙に突撃した三者の攻撃の結果は、【禁忌魔本 アル・マグナス】の予想通りとなった。

 

 ……それも当然だ。何せ、あの二人の能力特性、固有スキル、そしてステータスは防御力に――己の生存に特化しているのだから。

 二人して、ENDもAGIも一万を優に超え、その固有スキルも防御性能に因った物。

 互いに強化し合ったそれは、超級職でも破れる者も殆ど居ない代物――それが、兄妹のセンススキルによって、ほぼ自動で発動するのだ。

 それが引き起こす物は――――

 

 

 

 突撃に応じ、即座に【迷宮王(ダンジョンマスター)】の《迷核変動》――()()()()の配置変更を行い、その配置を自身達に都合の良い様に改変。

 

 然る後に――戯画丸の拳は【エメル・リンデル】に肉薄するも、その瞬時に発動する転移能力の前に掠りもせずに空を切り。

 カシミヤの超々音速の速度の居合いの一撃は【エドラ・リンデル】の斥力結界の前に《剣速徹し》の切れ味を発揮するよりも遥か前で塞き止められ。

 ジーニアスの超級魔法と数多の援護射撃(遠隔攻撃)は《ディ・スペル》と《黒星招来(ブラックホール)》によって潰された。

 

 ……【アル・マグナス】の想像通り、かの兄妹が持つ防御能力は特に彼らに対して有効だったのだ。

 

 戯画丸はSTRを含む攻撃能力の高さは先の《イマジナリー・メテオ》を突破した時点で想像以上であった事は把握していた。

 ――それも、拳が当たれば、の話だ。

 AGIも大抵のティアンの上級職よりはマシ程度はあり、その身体捌き(センススキル)も非常に高く見えるが……【エメル・リンデル】のそれに限らず、空間転移――()()()()()とも言える術を破る事は出来ない。

 それも、彼女のそれは魔法スキルとは違い、己の意志で即座に発動できる固有スキルに昇華されている物だ。

 AGIにして1万を越える彼女が一瞬意識するだけで発動する事が出来るそれを越え、意識すらさせずに命を絶つ事ができる者等早々居ない。

 実にAGIにして数十万は必要になるほどの行動、攻撃速度が必要になる事だろう。

 

 そして、それが可能である筈のカシミヤは……それを邪魔する【エドラ・リンデル】によってまともに行動させる隙を与えられない。

 己の全周に張り巡らされた斥力(反発力)の結界――これを突破するには他の結界等と同じ様に純粋な攻撃力さえあれば突破できる分、おそらくは【エメル・リンデル】よりはまだ与しやすい方だろう。

 ……勿論、それでも超級職の奥義相当の威力は出さねばならないが――彼は、己の力をほぼ回避にしか使わない【エメル・リンデル】とは違い、当然の如く敵を排除する力と意思を持っている。

 

 ()()()()()()に張り詰められた超重力の結界――範囲を広めたお陰でその威力は通常時の300倍程度ではあるが……それでも十分過ぎる物だ。

 絶対的に互いの攻撃の対象にならない【エメル・リンデル】や重力軽減の魔法が使える【アル・マグナス】とは違い、<マスター>達はモロにその影響を受ける事となる。

 追撃として、<マスター>達の所持品に《インクリース()ウェイト()》により重量を増加させ、更に【灰重術師(グラビトマンサー)】の奥義、《グレイ・ガーデン(灰色の庭)》により【エドラ・リンデル】のそれほどではないにしても重力を加算する。

 

 結果として、十分なSTRのある戯画丸とジーニアス以外の全ての<マスター>の動きは著しく鈍り、周囲に骨が軋む音が鳴り響き――その二人以外は確認されるだけでも、僅かずつであるがHPが減り続けている程だ。

 

 時間を稼げば、ただそれだけで戯画丸とジーニアス以外の<マスター>全員を始末する程の攻撃。

 それ故<マスター>達も攻撃を焦るが……集中を欠いた状態で行う魔法による援護は《ディ・スペル》で容易く潰される事となる。

 

 魔法攻撃ならば、それも尚更の事だ。

 ――――超級の探知魔法術式と《全知目録》を併用した【アル・マグナス】を相手に魔法攻撃なんて通じる訳がないのだから。

 

 

 

 (しかし、それでも油断は出来ないがな。この優勢もこちらが適切に相手の天敵を宛がえた結果だ。ならば――――)

 

 ――そして勿論、優勢であっても死に物狂いと己の知識欲に従う〈UBM〉達が油断や手加減する事もないのだった。

 

 

 

 

 確実に、堅実に相手(<マスター>)を追い詰める為に【アル・マグナス】が次に選んだ魔法は――《バランス・タイム(双変速)》。

 【時術師(クロック・メイジ)】系統の上級職【時間術師】の奥義であり――範囲内の敵対者のAGIを下げ、味方のAGIを上げる、強化(バフ)弱体化(デバフ)を同時に行う魔法だった。

 強化はともかく、弱体化に関しては相手のレベルやステータス、その他耐性や力量によって効果が増減するので、あの三人の強者であれば然程下げられないだろう。

 

 しかし、それでも、【アル・マグナス】が使えばその効果は十分だ。

 《魔術の王》――その名の通り、【魔術王(キング・オブ・メイガス)】の奥義により、魔法拡張スキルの効果が極限まで上昇している彼が使えば、その範囲も、魔法の効果も、奥義クラスの魔法の発動速度も本来の【時間術師】が使う物とは比べ物にならなくなっているのだから

 【エメル・リンデル】がカシミヤに狙われた時、その刃から転移で逃れられる可能性が飛躍的に上昇し。

 そして何より――強者三人以外、援護をしていた者達の行動速度があからさまに落ちる事となる……まともに抵抗できなかった者はAGIが半分以下まで落とされている事だろう。

 《ディ・スペル》の対策の一環か絶えず連続して放たれていた強化支援魔法。

 三体の〈UBM〉に自由を与えない為連射されていた遠距離攻撃。

 更には、隙を見せれば一撃を加えてやろうと強者三人とは全く別の方向から視界外に逃れながら少しずつ回避と接近を繰り返していた者――

 

 雑兵と侮る事なかれ。

 強者の三人だけではない。彼ら総勢が()()<マスター>なのだから。

 それ以外の者達の中に、隙を見せればすぐにでもかの〈UBM〉達の命を奪える様なエンブリオを持っている者が居ないと――誰が保証できるのか。

 

 

 故に、【アル・マグナス】は一切の慢心なく速度(AGI)が下げられ一瞬動揺した<マスター>達の間隙を縫う様に、更なる魔法を連続して発動する。

 

 ――それも、先の魔法とも違う、超級職のそれを。

 

 

 

『《神業(ミラクル)》《等価変換(コンバート)》――《インスタント・ゴーレム》』

 

 純粋リソースの獲得、リソースの物質変換、そして――ゴーレム(巨像)の即時作成魔法。

 【アル・マグナス】の真価、異なるジョブの魔法を組み合わせて作り出された物は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□<【苦鍛窮宮 ダイダロス】> 第五隔離区画 【求道者】ジーニアス

 

 

 

 

 

「えぇ……それってありかなぁ!?」

 

 タイミングをずらし、攻撃の手を変え品を変え相手を変え、られずにいながらも突破の方策を探っていた僕達の前に現れたのは――3体のゴーレム(巨像)だった。

 ()()()()()()で、体調も5メテルはあるかという立派なそれは間違いなくかの魔導書の〈UBM〉、【禁忌魔本 アル・マグナス】が生み出した物だけど――

 

 ゴーレムが現れた瞬間――区画内の空気ががらりと変わる。

 

 ――――()()()()()

 

 ……それと言うのも、そのゴーレムの、()()が問題であった。

 

 【()()()()()()】。またの名を――()()()()

 魔法鉱石の中でも最上位、火山の中枢部でしか採れないと言われている()()

 金属としての強度は【オリハルコン(伝説級金属)】に一歩劣る程度の物だが……その特性が問題だった。

 その特製は至極単純。かの鉱石の別名の通りに――常に超高温で、煌々と赤く紅く朱く輝いて()()しているのだ。

 それも、触れた鋼鉄でさえも焼き溶かす程の高温で……以前にコテツが持ってる物を好奇心で触ってみたら酷い事になりかけたからね、良く知っているとも!

 

 それ故に、その【コロナタイト】を素材として(普通は素材に出来る訳がないと思うんだけど)作られたあのゴーレムに()()()()白兵戦を仕掛ける事は自殺行為に等しいと言える。

 対策を重ねに重ねない限り近付くだけで焼け焦げて、攻撃だってまともに出来やしないと思う。

 かといって、下手な矢弾は白兵武器と同じ結果を辿り……魔法攻撃はあの【アル・マグナス】に潰され防がれ徹る気配もない。

 勿論、放置も出来る訳がない。

 この数秒も経たない間で既にこの隔離区画と言う密室がサウナ染みた温度になっているし、更にその温度は上昇し続けている……僕だって【サーマルマント】がなければかなりきついと思う。

 また、その熱を考慮しなくてもゴーレムとしてのスペックだけでも伝説級のモンスター相当だ。

 ……正直、これを無尽蔵に呼ばれる可能性も考えると凄く不味い。是が非でもまずは速攻で潰したい所だと思う。

 

 

 ――つまり、()()()()()()()()白兵戦をして貰えば問題ないと言う事だ!

 

「そういう訳で――ガキドー! あれお願いね!」

「おいジーニアスてめぇ後で絶対覚えてろよ!?」

 

 

 簡単なハンドサインをしながら戯画丸にそういい放ち、僕もまた牽制――否、()()()、数十本に《魔法多重発動》で拡大した光線の魔法、《ディバインレーザー》を撃ち放つ。

 【ラスリルビウム】の《極光剣》を込め、僕の(攻撃力)魔力(MP)が乗ったそれは、本来であれば純竜級のモンスターさえも貫く程の威力を誇っているのだけど――

 

『『――Auuuッ!!??』』

 

 (――ビンゴ! やっぱりこの手に限るね!)

 

 結果として、《ディ・スペル》によってその殆どを――9割程度の発動を潰されはした物の、残りの4本は僕の狙い撮りに発動する。

 4本の《ディバインレーザー》は狙い違わずに――それぞれの〈UBM〉に1本ずつ、そして最も強敵である【アル・マグナス】にもう1本。

 十分な威力を持っている筈のそれは――しかし、総合的に見れば僅かな痛痒を与えるかそれ以下の戦果に留められた。

 

 当然の如くとでも言うべきか、《ディ・スペル》だけでなく己の魔法防御や属性耐性を向上させる魔法でも使っていたのか、【アル・マグナス】はノーダメージだったけど――後の二体の〈UBM〉には、()()()

 尤も、【エドラ・リンデル】の方は斥力・重力結界で光を曲げる程度の事はしてきそうだから、あまり期待は出来ないけれど――

 

 

 ……と、そうしている間に……重い破砕音が響く。

 《ウォーター()スクリーン()》《ウォーター()シールド()》《サモン・ウォーターエレメンタル(水精霊召喚)》《プロテクション(防御壁)》《サモン・アラクネー(蜘蛛糸の守り)

 ――《ディ・スペル》の処理能力を単純に数で突破してみせた多重の対火属性特化を含む数多の防御魔法を重ね掛けされた戯画丸が、身体を焼け焦げさせながらも【コロナタイト】のゴーレムの一体を撃破してみせた音だった。

 

 ほぼ確殺できるエンブリオを持っているとは言え、あのAGIで躊躇なくそれを為せる、というのは――流石はダブルランカーなだけあると思う。

 

 それで残りのゴーレムは――()()()

 

 

 何故なら――もう一体は、既に【エドラ・リンデル】の隙を突いたカシミヤが自慢の魔法金属製の大長刀で上下に両断している所だったからだ。

 

 ――流石、カシミヤは頼りになる。集中して戦闘していても、あのハンドサインを見逃さずやってくれたよ!

 

 

 実の所、あの【コロナタイトゴーレム】とカシミヤの相性は悪くない――どころか、かなり相性が良い方だったのだ。

 元々、エンブリオの固有スキルのついでの様な物とは言え炎熱耐性スキルを持ち、更には伝説級モンスター相当のゴーレムであろうとも一刀の下に斬り捨てる事ができ。

 更には、()()()()で怯む様な精神でもなく、超高温に耐える武器さえあれば多少のダメージを覚悟する程度で容易く撃破できる程度の相手なのだ。

 

 

 だから、後の問題は――――

 

 

『――《ブロウ・アップ(爆殺破)》』

「――《ミサイルプロテクション(飛来物防御)》!」

 

 ()()()()()! 最後の【コロナタイトゴーレム】を爆発させ、超威力の散弾の弾頭にされた時に、防ぐのみ――!

 勿論、戯画丸の配下の人達も一緒に防御魔法を重ねてくれてはいるけれど――その込められた魔力、質量、破片となって尚残る超高温も合わさり、その破片の礫の威力は想像を絶する物となっている。

 

 僕も、《ミサイルプロテクション》に上級の結界魔法を合わせて対応したけれど、全ての礫を無力化は流石に。

 

 

 (――――ヤバいッ!?)

 

 

 ――防いでいる正にその瞬間。

 悪寒がした。

 おそらくは、敵手の次手。

 

 しかし、ぱっと見ではまだ何の魔法も表には表れていない。

 

 ――表には、だが。

 

 

 即座に【水晶之賢鏡】の《スキル解析》を発動させ、今しがた発動した魔法の詳細を読み取る――

 

 

 

 《ウォーター・ブリージング》:アクティブ(魔法)スキル

 対象に《水中呼吸》の状態を付与する。

 持続時間:60分×《魔法持続拡大》5 消費魔力(MP):45 対象:1体 射程:30メテル×《魔法射程拡大》5/起点指定 属性:水

  

 

 《ディクリース・ウォーター・プレッシャー》LvEX:アクティブ(魔法)スキル

 対象に《水圧軽減/SLv》の状態を付与する。

 持続時間:60分×《魔法持続拡大》5 消費魔力(MP):120 対象:1体 射程:10メテル×《魔法射程拡大》20/起点指定 属性:水

 

 

 《アクアスタンス》LvEX:アクティブ(魔法)スキル

 対象に《水中行動適性/SLv》の状態を付与する。

 持続時間:30分×《魔法持続拡大》10 消費魔力(MP):50 対象:自身《神域の魔術》――1体 射程:自身《神域の魔術》――10メテル×《魔法射程拡大》20/起点指定 属性:水

 

 

 

 ――――いやいやいやいや。

 魔法に長けた〈UBM〉が、()()をする、しちゃう――ッ!?

 

()()――!! え、《エアタイトアーマー(空気鎧)》ッ!」

 

 

『遅いわ、《ディ・スペル》――《タイダルウェイブ》』

 

 【アル・マグナス】のその魔法の発動の宣言と共に。

 完全な密室であったこの隔離区画が――魔力により生み出された大量の水によって()()した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (――ほう。亜人種も居ない彼奴等を前にすればこれで趨勢を決せられると思ったが、これは中々)

 

 天井まで完全に水没したその区画において絶対の有利――魔法による多重の水中適性の付与がされた〈UBM〉達。

 それに対し、一人も水中戦闘用のジョブに就いていない事が確認されており、勿論水中行動用の装備の持ち合わせも無い。

 加えて大量の水圧に加重、重力、重圧も変わらず彼らを蝕むのだから――本来であれば、水底でまともな身動きもできぬまま息絶えるだろうと。

 

 

 ――そう、思っていたのだが。

 

 (面白い。流石は<マスター>、劣化“化身”だ――常識外の状況でも()()()()動けるか!)

 

 

 兄妹の〈UBM〉が絶対の有利を得て一瞬慢心し……それを見て、目を剥く。

 その先にあったのは――水中と言う、絶対的に不利な状況にあるのにも関わらず、変わらぬ勢い――いや、一部は今までにも増したほどの勢いで突っ込んで来る影が、三つ。

 

 水中を滑る様に《鮫兎無歩》で移動し、超々音速で狙おうとする影――カシミヤ。

 タイミング良く後部――“水”を殴りつける事で爆破し、ジェットの様な加速でむしろ地上よりも高速で白兵戦に持ち込もうとする影――餓鬼道戯画丸。

 そして、《エアタイトアーマー》が消されたのにも関わらず呼吸に問題がある様には見えず、餓鬼道と同じ様に風魔法を利用したジェット泳法で接近し、その長刀を抜かんとする影――ジーニアス。

 

 

 ――息が続く間に決着をつけるつもりか? 流石にそれは悪手であろうよ。

 

 なるほど、強者の三人はまだ動けるかもしれないが……他の<マスター>達はこれでもう何もできなくなっているのだ。

 支援も援護もなく仕留められると思われているのか、それとも苦し紛れの吶喊なのか。

 

 しかし、どちらにせよ、彼らがやる事は変わらない。

 

 

 何処までも効率的に、確実に、悪辣に――敵を戦闘不能に追い込む為に全力を尽くす。

 それは、圧倒的有利な状況である【アル・マグナス】であっても……むしろ、だからこそ、ここで詰ませる為に、カシミヤの接近前に水流操作の魔法、《カレント》と《メイルシュトローム》を発動させる。

 

 これで、今以上の接近を防げる――

 

 ――しかし、その水流が、僅かに()()()()

 

『―《フォースフィールド》』

「――ッ!!」

 

 

 直後に、短時間の小規模物理干渉遮断結界を展開し――一瞬後に、その結界に鈍い音と共に剣戟が浴びせられる。

 

 <マスター>の所在は全員確認してあるつもりだった。……確かに、数瞬前に確認していた筈だった。

 

 しかし、その一撃は――確認していた筈の、ジーニアスその者の仕業。

 

 

 ――《影分身の術》か。まさか、私が見逃す程の《隠蔽》とはな。

 

 驚愕しながらも対応は止めずに。

 即座に、水中でも十全以上に威力の伝わる《ショック(衝撃破)》の魔法を浴びせかけ、最接近していたジーニアスの姿が光の塵になるのを確認する。

 想定外に一撃を喰らってしまったが――結局は無傷のままである。

 

 最早、三人の強者も、残る<マスター>達も、感知結界の強度を上げて遠くに見つけた後三体の影分身も魔力を注ぎ込んだ水流操作の前には何も為す術もないのだった。

 

 彼らにこの水流操作の魔法を如何にかする術はなく、最早敗北は必定の物となっていた――

 

 

 

 

 

「――《大海呑み込む偉大なりし巨龍よ(リヴァイアサン)》!」

 

 

 ――彼らが、各々が千差万別の力を持つエンブリオを持つ<マスター>でなければ。

 

 水中で何もできずに重石を乗せられたかのように沈んでいた<マスター>の一人が、己のエンブリオの名を――必殺スキルを宣言する。

 

 その瞬間、その場に……いや、【ダイダロス】の第五隔離区画という巨大な空間に――()()()()()()()()()()”が現れた。

 それも、身体を幾度も曲げ、なんとかギリギリで区画内に収まったその龍が……一息で区画内を埋め尽くしていた水という水を吸い込み飲み干すという、見た目からも想像が出来ない程の力技で解決させてくるとは、流石に誰も想像できなかったが。

 

 

『『PYIEEEEEッ!?』』

『ははは。……本当に、エンブリオ(化身)というのはどれもこれも規格外な事だ』

 

 一仕事終えた巨龍は<マスター>と敵対している筈の〈UBM〉に一瞥をくれるだけでその姿を消す。

 ……彼らにとっては悪夢が如し光景であった。

 が――現実の悪夢()は、<マスター>は健在のまま、今の策でも2、3人が圧力に耐えられずにHPを全損し消えた(死んだ)だけで既に態勢を立て直していたのだった。

 ……通常であれば、いや、超級職が混じった集団相手であっても必殺を確信できるだけの悪辣な策であった筈。

 しかし、蓋を開けてみれば<マスター>達の間には諦観も絶望もありはしない。

 不死身だから、というだけでは、ない。

 己が、自分達が、共に戦う仲間達が――それだけの力を持っていると、確信しているからであり。

 そしてそれは紛れもない事実なのだから――!!

 

 

 ――――やはり、()()()()()()()! あの三者だけでなく、まだ未熟に見える者のエンブリオであってもこれほどか!

 ――こんなモノと敵対するなど、全く元主(フラグマン)もああなって当然か。

 

 ――だが――

 ――面白い。私とて此処で終わるつもりは毛頭無いが――()()のだろう、見せてみせよ。この私達を破る策という物を――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――そろそろこっちもキツいが、()()()()だ。おめぇらは行けるか?』

『はい、手応えはありました。()()()()()()()

『僕もオッケー! 失敗したなら三体纏めてでも相手しちゃうよ?』

 

 

『ハッ、言ってろ。――それじゃ行くぞ。作戦Z(後先考えず全力攻撃)だ――!』

 

『『『『『『了解――!』』』』』』

 

 

 

 

To Be Continued…………

 




ステータスが更新されました――――

星光砲撃(スターライト・ブレイカー)》:アクティブ(魔法)スキル
 必殺スキルによって第五形態の時と比べ、上級職に就き更にMPも数倍化し、己の自力のみで《星光》を撃てる様になったジーニアスがつい勢いで作ってしまったオリジナル魔法スキル。
 複数本の《星光》を束ね収束し超威力の極太光線を発射する魔法。
 光速の光線なので発射されたら回避は不可能だろうが束ねている僅かな隙に潰されたらちょっとどうしようもなかった。
 消費MPはちょっと自力じゃ賄いきれない為大部分を【符】で補っていたりする。

 ちなみに、個人的には「まだ名前負けしてるし《星光砲撃(スターライト・ディバインバスター)》……ちょっとくどいかも。やっぱりこれがいいかなぁ」とか悩んでたとか悩んでなかったとか。


等価変換(コンバート)》:アクティブ(魔法)スキル
 【錬金王】の最終奥義。自身の所持リソースをリソースの種類を問わず変換する魔法。
 制御の難易度が非常に高く危険な最終奥義であり、身体の一部を“持っていかれる”程度なら良い方で、制御に失敗し自身を含む周囲一帯が完全に無の空間と化してしまった【錬金王】も居たとか。
 勿論魔導書の神話級〈UBM〉である【禁忌魔本 アル・マグナス】がそんなミスをする訳がなかった。


名称:【巨海龍 リヴァイアサン】
<マスター>:D-31061
TYPE:ガーディアン
能力特性:??
到達形態:Ⅴ
スキル:《大海呑み込む偉大なりし巨龍よ(リヴァイアサン)》他
モチーフ:旧約聖書に登場する海中の巨大な怪物“リヴァイアサン”
紋章:大海原に悠然と佇む龍
備考:超巨大な海龍型のガーディアンのエンブリオ。
 同到達形態の【レヴィアタン】や当作の【タラスク】に並ぶ超ステータスにスキルに至っては【タラスク】以上の物を所持する怪物級のガーディアン。

 ……勿論、ここも【タラスク】と同様にそんな強力なエンブリオにデメリットがない訳がなく。
 【リヴァイアサン】が抱えるデメリットは『無制御』。
 エンブリオの癖に<マスター>の状況も命令もガン無視で普段は付近の海で普通のモンスターとほぼ同じ様に過ごしている。
 ぶっちゃけ<マスター>自身が意思疎通が取れてエンブリオの成長が連動している以外はほぼ野良のモンスター。
 その為、<マスター>は【リヴァイアサン】に()()()を聞いてもらう為に身体を張ってスキンシップしたり(ウザいと殺される)、体表の掃除等の手入れをしてやったり(不十分だと殺される)、餌を調達したり(味が気に入らなかったり量が少ないと殺される)と涙ぐましい努力をしている。
 一応エンブリオである為、勿論<マスター>がログアウトしていたり左手に格納する事も可能だが長期間ログアウトしっ放しであったり格納したりすれば機嫌が直ぐに最悪まで下がる羽目になる。

 必殺スキルの《大海呑み込む偉大なりし巨龍よ(リヴァイアサン)》は実は分類としては魔法スキルに入るのだが、その効果が他の【リヴァイアサン】の固有スキルと同様の【リヴァイアサン】自身の強化+MPとSPを極限まで消費してそのリソースで【リヴァイアサン】を自身の近くに転移+転移で使わなかったリソース全てを【リヴァイアサン】に捧げて機嫌を取る、という実に複雑な複合効果であった為、解析と《ディ・スペル》が間に合わなかったらしい。



 はい、今話も最後までご覧いただきありがとうございました!
 今話はちょっとネタに寄りすぎましたが反省はしていません……
 7個以上ネタが分かる人は作者と握手!

 そんな訳で、次話が決着編です。
 最後までお付き合い頂ければ幸いです。どうぞよろしくお願いします!
 
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