無限の世界のプレイ日記   作:黒矢

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前回のあらすじ:天地一新人武闘大会、始まります(八話から

序章最後(?)の普通の日記回です。作中での夏休みが終わったら加速する……はず!
それでは、本編をどうぞ!


第七話 全主権限・準備完了

7月24日(金)

 今日は今日とて昨日の四人とパーティ狩りを続行した。

 武闘大会の開催はリアルの時間で言えば明後日となるので、パーティを組むのは明日の午前中まで、という予定になっている。

 今日、デンドロ内で丸三日掛けて<犀合山岳地帯>での狩りで手に入れる事の出来た【小鬼英雄の宝櫃】は一つだけだった為、パーティでの揉め事を避ける為にも、なんとかパーティを組んでいる間にもう一つは手に入れておきたい所だ。

 

 だけど、それはそれとして――今日は下級職のカンストにも達していないこの五人のパーティで【小鬼英雄】……亜竜級のボスモンスターを倒せた事を祝いたいと思う。

 

 【小鬼英雄】は<犀合山岳地帯>だけではなく、天地や黄河全域の低レベルの様々な場所で出現するボスモンスター。

 その実力と性質は【ゴブリン】達の長、【ゴブリン・キング】と同等の物と言われているし、凡その国での扱いも似たような物みたい。

 【ゴブリン・キング】と似て多くの【小鬼】達を配下として群れを作るモンスターであり――そして、所持するスキルも似通っており、《小鬼英雄譚》という幾つもの効果を複合した特有のスキルを有しているのが特徴だ。

 その第一の効果は配下の【小鬼】達の全ステータスの倍加。

 第二の効果は群れのボス、つまりスキルを所有する【小鬼英雄】の取得経験値の一部を配下の【小鬼】達に加算。

 そして第三の効果は戦闘中、配下の【小鬼】が死亡する度に憤怒によって【小鬼英雄】のステータスが強化されるという事。

 

 どの効果も非常に厄介なのだけど、特に第三の効果が最悪だ。

 効果はその戦闘中しか持続しないものの、何十体と群れの【小鬼】を倒してしまった場合、【小鬼英雄】のステータスは亜竜級どころか純竜級――平均ステータス5000を軽く突破する程に強化されてしまう為、【小鬼英雄】と戦闘する場合はレベルが高いうえにステータスが倍加している【小鬼】の群れを殺さない程度に突破しつつも【小鬼英雄】を討伐しなければならないのだ。

 強化された【小鬼英雄】をも簡単に討伐できる程の実力がある場合は普通に群れを殲滅するのがベターらしいけど、勿論ながら僕達のパーティにそこまでの戦力は存在しない。

 ならばどの様に【小鬼英雄】を攻略したかと言えば、セオリー通りの分断作戦だった。

 それは通常であれば今の僕達の戦力ではやれる代物ではないのだけど、僕達は<マスター>。ならば<マスター>らしく、エンブリオを利用しての作戦と相成った。

 耐久に秀でた純竜級のステータスを持つ【タラスク】と弥生のエンブリオである、副次的に味方のENDを上昇させられる【エイヴィヒカイト】を軸として一人と一匹が群れの【小鬼】を押しとどめ、残りの戦力である僕と烏丸が直接【小鬼英雄】を叩く――字として書くならこれだけだったけど、本当にしんどかった。

 亜竜級である【小鬼英雄】の平均ステータスは1000に届くか届かないかだけど、僕達の平均ステータスは未だに200前後しかない。いくら二対一で数の利があったとは言え、そう簡単に倒せる訳がないのは当然だった。

 

 それでも僕達が勝利できたのはリアルスキルの差か、それとも……群れとの戦闘前と戦闘中に進化したのを入れて、全員のエンブリオが第三形態に進化する事ができたからかもしれない。

 皆のエンブリオが進化した事により、ステータスは各々微量ではあるが増え、【タラスク】と【エイヴィヒカイト】は第二形態まででは習得していなかった仲間を支援するスキルを手に入れていた。

 更に烏丸のエンブリオ――【トツカノツルギ】の攻撃力は今まで以上となり、彼女のエンブリオの固有スキルと僕の《斬魔剣》でなんとか【小鬼英雄】を倒した時点で既に勝負は決まっていた。

 残った群れの【小鬼】達も殲滅し終え、【宝櫃】を手にする時には戦闘前と比べてもレベルも上がっており、皆満足した表情をしていたのを覚えている。

 この調子で明日、また狩りを続けて【小鬼英雄】を倒せば満点の仕上がりだろうと思う。僕も気合いを入れておかないと。……うん、気を取り直して、気合いを入れないと。

 

 

 一応、記録の為に僕のエンブリオの進化についても記載しておこうと思う。

 今回の進化によるステータス補正の変化はHP、SP、MPのステータス補正がEへと上がり、LUCを除くすべてのステータス補正がEになる形となった。

 また、固有スキルである《全主相応》のレベルも3に上がっていたけれど、補正の数字が15%になっただけで前回の様に項目が追加されていたりもしなかった。

 しかし、その変わりに新たに固有スキルが追加されていたのだ!

 

全主権限(オールド・オーダー)》:パッシブスキル。

 自身が所持、習得しているすべてのスキルの使用制限を無視して使用する事ができる。

 【スキル封印】とそれに類する状態異常に対する完全耐性を得る。

 

 

 本当に僕のエンブリオはコメントに困る固有スキルしか習得しない……とは思わない訳ではないけれど、今回習得したこのスキルは今後の事を考えると役に立つ効果ではあった。

 今の僕のメインジョブ、【退魔師】で習得した多くのジョブスキルは汎用スキルである《危険察知》を除き、使用するのにメインジョブに制限があるスキルで構成されている為、他のジョブに転職した際に使用できなくなるスキルが多くなりそうだったのだ。

 ……それでも、まだ下級職の一つ目で殆ど意味がない固有スキルであるのは事実だけど、今後の為にはこういうのも悪くはない、のかな……?

 

 

 

 

 

7月25日(土)

 昨日一昨日から引き続き四人とパーティを組んで狩りに励んでいた。

 ……そういえば、リアルで丸二日以上ずっとパーティを組んでいるけど、彼らもリアルでは僕と同じ学生なのだろうか?雰囲気からすると高校生か大学生くらいだと思うんだけど……

 

 今日の狩りも《生体探査陣》を頼りに【小鬼】の群れを探して狩り回った結果、目的である【小鬼英雄】の群れを見つけて無事、二つ目の【小鬼英雄の宝櫃】を確保する事ができた!

 群れの規模が、昨日戦った【小鬼英雄】のものと比べて倍近い数の配下を率いていたのは本当に驚いたけど……多分、テンションが上がりまくってたからあの時はそこまで気にしなかったんだろうなぁ。

 今までの狩りによるレベルアップと、昨日進化したエンブリオの固有スキルに慣れてなかったら多分、一人か二人はデスペナルティになっていたかもしれない。あの時間にデスペナルティになってしまっていたら明日の武闘大会に間に合うか、ギリギリだっただろうから誰も死ななくて本当に良かった。

 デンドロ内で一週間も共に楽しんでた仲間との狩りのラストでそれは流石に気まずすぎるからね……

 

 その後はこの一週間の狩りで手に入れた戦利品(ドロップアイテム)と【宝櫃】の分配をして、予定通り彼らとのパーティを解散した(ついでにフレンド登録もしておいた。身内以外の登録は初めてだった)。

 パーティ人数の五等分……に、僕が一人で【宝櫃】を一つ貰う分2万リルを差し引いてしめて6万リル分のアイテムとなった。これで今までの所持金と合わせて大体12万リル。

 

 ……明日の武闘大会を控えて最後に行っておかなければならない事がある。そう、装備の新調だ。

 武器の直剣は初日に良い物を選んだとは言え、5000リルで買ったそれは流石の目利きで今まで簡単な手入れのみでも折れたり欠けたりもせずに働いてくれたけど、それでも性能的にも、摩耗の程度も既に限界が近い品物だ。流石に武闘大会に出場する前には新調しなければならない。

 防具もコテツに《海の加護》が付与された防具を一式揃えて使っていたけれど、《海の加護》はモンスターにしか効果を表さないから武闘大会では無意味な為、こちらも更新した方が良いだろう。

 

 ならばまだ碌に大白宮の店も知らない僕が何処に行って装備を新調すべきか――

 そんな訳で、一緒に昼食を食べながら勝――コテツに装備の作成を依頼した。持つべきものは優しい保護者だよね、なんてね。

 それにしても、もう【鍛冶師】をカンストして【採掘師】に転職しているとは思わなかった。

 多分、ジョブクエストを多用したとは思うんだけど……やっぱりエンブリオのおかげなのかな?

 

 午後はコテツに鍛えて貰った剣や動きやすさを重視したプロテクター等を装備しての最後の狩りを行う事にした。

 装備の代金は、コテツは笑いながら「出世払いでもいいよ」と言ってたけど、とりあえず10万リル渡しておいた。これ以上コテツに借りを残しておきたくなかったからね。

 ……今思うと、ミスリルソードを含むこれらの装備、10万で足りただろうか?後でこっそり聞いておかなきゃ……

 

 とりあえずそんな心配は今は他所にやって、最終的にレベルは47まで上げる事が出来た。

 ギリギリでジョブレベルのカンストの50に届かなかったのが残念だけど、あまり無茶をしてうっかりデスペナになったりしたら目も当てられないので、今日はこれくらいにしておこうと思う。

 これでやれる事はすべてやり尽くした筈、あとは自分を信じて天命に任せるのみ!

 

 

 

 

 

 

 

 

□■???

 

 そこは奇妙な空間だった。

 まるで宇宙の真空空間の様に上もなく下もなく、目に見えるような光源がある訳でもないのに適度な明かりによって空間中を照らされている。

 その空間に陣取っていた“彼女”の周囲には用途も分からないようなオブジェクトが複数散乱しており……そして、その眼前には数多のウィンドゥが浮かび上がっている。

 ウィンドゥの中心にいる“彼女”……それは普通の人間ではありえないような姿をしている。

 卵を連想させるような楕円形の膜に覆われた、人形の様に完成された美しさを持った少女だ。

 一体誰が想像できようか。この空間に佇む彼女が、この世界を管理している数少ない管理AI、その一人であるハンプティダンティであると。

 

 彼女の前に浮かぶそのウィンドゥに映っているのは今からたった数刻前、某国某山の一角で行われた類稀なる<マスター>と<UBM>の熾烈な戦闘の光景だ。

 彼女は増えつつある自分の職分である仕事を処理しつつも、上機嫌に笑みを浮かべる。

 その笑顔は、無垢なる童女の様にも、残忍なる悪魔の笑顔の様に見え――

 

「ちょっとごめんよー。ハンプティ、いるよねー? あ、いたいた」

「……何の用かしら? チェシャ。今は貴方に頼むような仕事はないのだけど」

 

 彼女のプライベートスペースに一人――いや、一匹の闖入者が現れる。

 それは彼女、ハンプティダンティの同僚である管理AIの内の一体、二息歩行する白猫、雑用担当管理AI――チェシャその人(?)だった。

 

「いつも通り傍若無人だねー……キャタピラーとジャバウォックからちょっとした苦情が来てたよ。なんでもセーブポイントとUBMを私用で使うのはこれっきりにしろ、だってさー」

「ああ。なんだ、その事ね」

 

 

 チェシャが、そしてハンプティが言及しているのは今から約一週間前に企画したとある騒動の萌芽。

 彼女が見初めた才有る<マスター>(ハイエンド)に対するテストとして、UBMの誘導や一部の場所をセーブポイントにした事を咎められているらしいと漸く思い当たる(担当している管理AIからすれば、当然の苦情ではあるのだが)。

 だが、それは

 

「ええ、分かってるわ。今後は同じような事はしない。そう二人に伝えて頂戴」

「……偉く物分かりが良いとちょっと不気味だなー」

「……流石の私でも怒るわよ? 今後は仕事が増えて忙しくなるから、だと言うのに」

 

 半分冗談、半分本気でそう言い、チェシャをあしらう。

 忙しくなるというのは事実だ。まだ<Infinite Dendrogram>が始まって1か月。だが確実にマスターの数は増え続けている。

 マスターが増える程に彼女、エンブリオ担当管理AIであるハンプティダンティの仕事の負担は増大し、今回の様な大掛かりな仕掛けを施す事はできなくなるだろう。

 

 最も、件の<マスター>としたとある“約束”も無関係ではないのだが。

 

――さて、今度はシュウを入れて面白い騒動の種を探さなきゃね……あの双子(イベント担当管理AI)に良いイベントを見繕ってもらうにはどうしたらいいかしらね

 

 騒動に巻き込む事を迂闊にも許可してしまった<マスター>がこれから巻き込まれる災難について考えを巡らせ……ふと、その猫の顔に苦笑を張り付けながらもまだチェシャがそこに佇んでいる事に気をやる。

 だが、彼女が口を開く前に、気まずそうにチェシャが口火を切る

 

「あー、それともう一件……バンダースナッチから、『エンブリオの検閲は万全か』だってさ」

「……そう、もう上級に進化するエンブリオが出てくる頃だからかしらね」

 

 

 検閲。

 無限の可能性を謳い、<マスター>の自由を最大限尊重する彼ら(管理AI)には似付かわしくないものだ。

 だが、数少ないながらもそれには確かな例外が存在する。

 

 

 マスターが孵化、進化させ保有するエンブリオは、それぞれのパーソナリティに応じて千差万別、それこそ無限の可能性を表す奇跡の産物だ。

 だが、それ故に管理AI達には不都合な点が確かにある。

 

 

 それは、例えば数多のデータベースにアクセスし、情報を参照する事の出来る携帯情報端末型のエンブリオ(アームズ)

 それは、例えば森羅万象ありとあらゆる叡智を持ち、<マスター>に助言を与える鮭のエンブリオ(ガードナー)

 それは、例えば<マスター>の好奇心によって“未知”へ向かってひとりでに走り出す馬車のエンブリオ(チャリオッツ)

 それは、例えばこの世界の何処かで記された古文書秘伝書魔術書歴史書手引書教科書実用書種々様々な本が取り揃えられた図書館のエンブリオ(キャッスル)

 それは、例えば周囲で起きた過去を含めたあらゆる事象を観測・把握する事を可能とする己の領域たるエンブリオ(テリトリー)

 

 そう、例えばそれらの様な“全知”や“未知”と言った能力特性に特化されたエンブリオの数々である。

 エンブリオの誕生は<マスター>のパーソナリティによって形作られる――ならば、人類が発展してきたその象徴たる知的好奇心を己のパーソナリティとした<マスター>によって、この様なエンブリオが生まれるのは事前に想定できていた事だ。

 今の<マスター>達はこの世界をゲームとして楽しんでいる為、生まれるエンブリオの殆どが何らかの形で戦闘に関与する形態として誕生しているが、やはり極僅かではあるが、前述した様なエンブリオは誕生している。

 

 ……知識やそれに纏わるエンブリオと、その<マスター>達に咎はない。むしろ情報と言うのは時には単純な戦闘力よりも強い力となる事すらあるのだから、管理AI達だってその誕生と進化を寿ぐ事に何の異論もないのだ。

 だが、彼らには――管理AI達、いや、“化身(・・)”と呼ばれる者達には隠しておきたい事だって山ほどあるのだ。

 それは、この世界における過去、先々期文明においてかの時代を襲った超越者達との関係だったり、その後に行われた世界中における暗躍の数々だったり、その他にも色々だ。

 既にこれらの情報の殆どはこの世界から失われている――が、エンブリオによる固有スキルならばそんな道理は無視できる事が多いという事を彼らは誰よりも知っているのだ。

 

 

 特記事項二番、機密事項露呈の危機対応。

 この事案は特記事項に該当し、その対処の為にエンブリオ担当管理AI、ハンプティダンティが個々のエンブリオに対して検閲(・・)を行うのがその肝となっている。

 

「――現状、該当する、計68のエンブリオの検閲を問題なく継続しているわ。1か月でこの数はどう見るのが良いのかしら?」

「この世界の……ゲームの説明を鑑みれば多い方なんじゃないかな? でも、本当にいいの?」

「あら、何の事かしら?」

 

 

 

「――検閲は、第六形態まで進化したエンブリオからすべて解除する、なんてさー」

 

「問題ないわ。だって――エンブリオがなくたって(・・・・・・・・・・・)、いつかはどの道知られる事でしょう?」

 

 

 何故なら、この世界にある尋常ならざる力を持った存在は、エンブリオだけではないから。知識を、彼らの存在への手がかりを得る手段などいくらでもあるのだから。

 

 その筆頭は超級職――かつて、先々期文明崩壊直後、生き残った人類(ティアン)の中の戦闘型超級職が、復讐心からか彼らの存在を探し当てた時の様に。

 かつて、凄腕の【超探偵】が、腐れ縁たる【超記者】と共に世界の深奥に隠された真実を暴かんと全力で動いた時の様に。

 かつて、死者の無念の嘆きを聞いた【冥王】が、親友である【魔術王】と共にその怨敵である化身を狙った時の様に。

 かつて、世界の過去を垣間見た【巫女姫】が、配下である天地の益荒男たる神域の武術を操る戦闘型超級職達と共に化身を討たんと立ち上がった時の様に。

 

 そして、当然ながらそれ以外にも<マスター>に取れる方策ですら無数にある。

 未だ管理AI達が見つけていない未踏の遺跡から資料を発見するかもしれないし、古く、とても古くから生き残っているモノと友誼を結び、古の時代の事を聞く事もできるだろう。

 

 ……事実、件の先々期文明、それ以前より生きている例外(・・)も確かに存在しているし、今よりも格段と発達していたあの時代の寵児達の自分達に向ける執念には舌を巻く思いをした事も多い。

 彼らなら自分達(化身)の目を逃れて後世に記録を伝える手段を幾つも残していたとしても不思議ではないし、実際前述した自分達を襲ってきた多くのティアンの超級職のいくらかは何らかの方法で先々期文明時代の者の思惑が関与していた可能性が高い。

 

 ――最も、その思惑も執念もすべて、一切合切を切り捨てて、目的の為に自分達(化身)が鏖殺したのだが、閑話休題(それはともかく)

 

 

「それはそうなんだけどねー。実際、もう検閲に引っかかってる子ってどれくらいいるのー?」

「……さっき言った68の内、50以上は既に何らかの形で検閲された情報に触れようとしてたわ。好奇心が強いのは良い事なんだけど、ね」

「あらら……まぁ、そんな子達じゃなきゃ情報に強いエンブリオは生まれないんだろうねー」

 

 全くだ。と同意する様にため息を吐く。

 検閲それ自体ではそこまで演算リソースを食う訳ではないが、エンブリオ担当としてはそれだけに拘っている訳にもいかない。今後も増え続けるであろうマスターとそのエンブリオを思えば、そして彼らの目的を考えれば彼女のリソースはいくらあっても足りなくなるのだから。

 

「それで用件は終わりかしら? なら、さっさと他の所を手伝ってきなさい。こちらは問題ないから」

「はいはーい。今の時期は何処も大忙しだから本当に大変だよー……」

「残念ね。生憎と私はこれからもっと忙しくなる運命なのよ。皮肉かしら?」

「違うけどー!? 本当に捻くれてるね!?」

 

 軽い冗談を交えながら手をひらひらを振り、チェシャを追いやる。

 実際、<マスター>達にオープンされたばかりであるこの世界(ゲーム)の管理運営に管理AI達の殆どは忙殺されている。特にその中でも並列演算処理能力に特化されたチェシャの負担は予想以上だろう。それを思いやった……のかどうかは彼女の声音からは判断できないが。

 

「それじゃ、また何かあったらー……ってそうだ。一つ忘れてた」

「まだ何かあるの? 酷使し過ぎじゃないかしら」

 

「うん、大した事じゃないんだけど……その情報に特化したエンブリオで【邪神】を探し出せるのがいたら教えて欲しい、ってドーマウスからー」

「……それは流石に望み薄だと思うけど。ま、もののついでに探しておくわね」

 

 最後に大した事ではない――と言いながらも、管理AI達にとっても重大なソレを依頼し、今度こそチェシャはこの空間を退出した。

 

 ――エンブリオ(異物)のあらゆる干渉を跳ね除け無効化する、世界の終焉(・・)のトリガー。

 それがマスター達を迎え入れる時期までに見つけられなかったのは痛恨の事実だった。

 故に、彼らは一縷の望みを捨てずにあらゆる方法を駆使して捜索しているのだが……まさか、この出来事の僅か数日後に、全く関係ない方法で探していた相手を見つける事になるとは、管理AI達の誰も想像していなかった――

 

 

 

To Be Continued…………




ステータスが更新されました――――

名称:【暴慙竜 タラスク】
<マスター>:エリーシア
TYPE:ガードナー
能力特性:懺悔&??
到達形態:Ⅲ
スキル:《懺悔の祈り》《堅牢の甲羅》《癒しの奇蹟》
モチーフ:レヴィアタンの子とも伝えられる、聖マルタに改心させられた後、今まで苦しめてきた村人達の石礫により打ち殺された怪物“タラスク”
紋章:項垂れ涙を流す竜
備考:レヴィアタンと同様に基礎ステータス特化ではあるが、MPやLUCにもステータスが割り振られている為に若干数値は落ちる(それでも第三形態で純竜級レベルのステータスはあるのだが)
 また、レヴィアタンと違い防御スキルや回復スキルも覚えているが――それ以上に特徴的なのは初期スキルでもある《懺悔の祈り》。
 他者を殺生する度にタラスクの全ステータスに永続的なマイナス補正を与えるとんでもないデメリットスキルである。なお、ガードナーを含むエンブリオによる殺傷は自動的にマスターの物とカウントされる為、つまりはマスターにすらも他者の殺生を禁じているのと同義である。
 ――最も、このスキルを生んだのはマスターのパーソナリティ自身なのだから、上手い事付き合っていけるのだろうが。

名称:【永劫時転 エイヴィヒカイト】
<マスター>:弥生
TYPE:テリトリー
能力特性:不変&永遠
到達形態:Ⅲ
スキル:《時よ止まれ》《不壊なる願い》
モチーフ:ドイツ語で永遠を意味する言葉“エイヴィヒカイト”
紋章:何重にも取り囲む茨
備考:ステータス補正はAGIとEND特化。防御ステにしか振らないとか無駄ステータスの極み。
 第三形態に進化した事により、老化による変化を無効化し、ENDを倍にまで引き上げる《時よ止まれ》が自身だけでなくテリトリー範囲内の任意の対象にも使用できるようになった。
 《不壊なる願い》は自身が所持しているアイテムと作成したアイテムに《経年劣化無効》《腐敗無効》《破損耐性》等を付与するスキル。


《全主権限》:第二形態での進化で余らせたリソースをも注ぎ込んだ新固有スキル。
 デンドロ特有のエンブリオによるチート固有スキル無双、颯爽と始まりません?


 そんな訳で武闘大会前の調整回でした。参加するにあたってさくっと進化なんかさせたりして。
 ちなみに、後半の管理AI達の話に特に意味があったかはさておき、ほぼ作者の妄想の残滓でした。エンブリオの多様性を考えれば必然の事(?)よ……
 次回は序章締めの武闘大会編なので少し時間が開く予定ですがご容赦ください……!


追記:
 4/5の原作更新でもしかしたら検閲してるのダッチェスの方では……?とお思いになられた皆さん。
 僕もそう思いました。けどまぁ時期が云々とか実は微かに存在していたのかもしれないハンプティの優しさだとか云々で納得して貰えたらなと……ぐぬぬ。
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