無限の世界のプレイ日記   作:黒矢

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前回のあらすじ:いくらでも応用ができる【アブラスマシ】はジッサイヤバイ

諸事情により更新がとても遅れました。申し訳ない……!
それでは本編をどうぞ!


第七十三話 大海賊時代・※ただし<マスター>を除く

■東海・洞穴 【名航海士】ヴィレッゾ・リライト

 

 グランバロア、海の国の国土――この大海原で海賊船団に所属しない、()()()()をやる物は凡そ四種類に分けられる。

 

 一つ目は……ただの屑だ。

 他でやっていく事もできないあぶれ者達が徒党を組んで少し強くなった気になり、国を離れ海賊となる者達。

 ――そして、殆どの場合一週間も持たずに海の藻屑となる。

 この世界の海は何の実力もない奴が生きていける程甘くねぇ。運良く全滅する前に陸地に辿り着ければ多少は延命できるかもしれんが、どの道長くないだろう。

 むしろグランバロアの連中に捕まる方が長生きできるまである。

 ただの魔力タンクと労働力にしかならないかもしれねぇがな。

 

 二つ目は、偉大なる過去の伝説の【海賊王】に憧れ、海賊船団として管理される事を厭い同志を募り誰の手も借りずに海に繰り出す者。

 誇りとやらを抱え義賊めいた動きをする事もある中途半端な奴らだ。やってる事が海賊船団と冒険船団の合いの子の様な奴らだ。

 総じて一つ目の奴らよりは実力がある事が多く、少数精鋭で動くが――それでも、大半はこの海では一年も持たねぇ。

 超級職なんていう規格外に憧れて現実を見れなかった奴らだ。それも仕方ないだろう。今までの掃海で何故毎回何千人も動員されていたのか理解しちゃ居なかったらしい。

 

 そして、四つ目は例外(<マスター>絡み)で、三つ目が俺達の様に現実的に海の脅威を正しく理解して――()()()で海賊を目論見計画を練り、賢く立ち回って成功させてきた者達だ。

 何せ、海賊と言うのは――()()()()。陸でやる盗賊や山賊、砂賊なんかとは比べ物にならない程に。

 

 海洋資源、海洋生物。この広大な大海原で無尽の如く揺蕩うそれらはその全てがグランバロアという一国の独占資源だ。

 他国が手に入れる事は殆ど不可能に等しく、その特殊性からグランバロアからの輸出でも非常に高価となる貴重な物資だ。

 ……だからこそ、利益が出る。だからこそ――海賊(俺ら)が儲かる。

 

 カルディナの商人に、天地の闇市に。正規の手段では手に入れられない者達のお陰で俺達の活動は支えられる。

 特に水棲の亜人種の奴隷と従属された水棲モンスターは高く売れる。亜竜級の水棲モンスターなんて見つけた日には五百万リルは固いだろう。

 【ジュエル】に仕舞えば嵩張らない奴隷と従属モンスターは非常に効率が良い。

 【従魔師】で海賊になる奴は多くないが、下級職でも一人居るだけで金の生る木も同然の幹部級の活躍が期待できる逸材だ。もし見つけられたら非常に運が良いだろう。

 

 何せ――海の賊、海賊は、別に()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 考えてみれば良い。グランバロアが只一国の力で、この大海原で行われる全ての採取行為や従属契約を取り締まれるか?

 

 無理だ。出来る筈がないのだ。

 できるのは精々が自国の船に手を出された時の報復程度。都市型戦艦から中央大陸を挟んだ反対側で起きた様な事なんて感知すら不可能。

 七大国家が一つグランバロアの伸ばせる手の長さはとても長く、その力はとても強いが、それでもこの海全てを包み込むには全く足りてないのが現状だ。

 

 故に、()()()()()()()()と言うのは海で生きられるだけの実力者と船を用意した後は、総員【採取師】系統職と【従魔師】系統職、後は交渉の為の【商人】系が少数居るというのが一番理想的な構成なのだ。

 

 だが、ただグランバロアから離れていれば良いという訳ではないのが、この()()の難しい所だ。

 海賊となっている身で言うのもあれだが、やはり先人は偉大だったのであろう――全く掃海されていない、自然そのままの海など、例え数百人の手練れの戦闘職を集めた程度の戦力ではどうしようもないというのが、この海の現実だ。

 掃海されていない海を突っ切っていく等、複数の超級職を擁したと言われている伝説の【海賊王】の船団でしか出来ていない事だ。

 ならば、それに遠く遠く及ばぬ俺達後発の海賊がする事はグランバロア本船、グランバロア号の後追いをする事。

 掃海されて、しかしグランバロアは先を行ってもうおらず、まだ新たなモンスター達が集まり群れを成すその前、そこを狙うのだ。

 グランバロアの船団に補足されない距離で、それでいて集まってくるモンスター達をある程度の余裕を持って対処できる距離。

 海賊をやる上で最も重要なのは自分達の実力を客観的に、正確に把握する術とその()()()だと言うのがこの海賊業の通念だ。

 だが、その距離感さえ完璧であれば、海賊ほど美味しい稼業はきっと何処にもないだろう。

 美味過ぎる海洋資源を次々と活動資金に変え、戦力を規模を増やし更に距離感の余裕が安定感が増し、安定していれば今回みたいに漂流船との接触――ボーナスタイムにありつける事もある好循環。

 まさに海賊ドリーム此処に極まれり、だ。

 

 そして――()()()()()()

 

 15年。初めてジョブに就いた時に決心してから15年を費やし、計画を練り、忠実で有能な部下を集め、海を往く経験を積み、レベルを上げ軍資金を貯めて準備を整えた!

 

 天運が俺に味方していた。

 

 俺は合計レベル500――人類の頂点に達する才能を持って生まれており、ここ数年はグランバロアだけでなく全国的に大きな動きがなく準備に専念でき、そして決行数か月前に漂流者の一団――実力者の天地の武芸者達を仲間に加えた。

 合計六人。一パーティ程度の人数でしかないならず者の漂流者だが……その実力は本物だ。

 リーダー格は当然の様にレベル500(カンスト)であり、残りの五人も400を優に超え、戦闘技術も海賊船団の上位の戦士と比べても全員が一回り以上上回っている程の凄まじい実力者達だ。

 団の総戦力は飛躍的に伸びた。足がつく海賊船団の船は捨てて密かに造船された俺達の船――海賊船に乗り、海賊としてのスタートを切った。

 

 海賊と言っても狙いは様々である。

 海産物を狙う者。レアメタルを狙う者。サルベージを狙う者が居れば<遺跡>を狙う者も居る。

 その中で俺達が狙うのは――当然、最も利率が大きい水棲生物達の密漁だ。

 

 新人達だが実力は他の部下とは隔絶していた武芸者達が居たのも大きい。グランバロアから十分以上に距離を取り、むしろ水棲モンスター達が集まってきた所を狩るのだ。

 相手を瀕死にすれば《従属契約》の成功率は上がる。それは、下級職の【従魔師】と熟練の武芸者達が多く居る俺達にとっては最適な方法だった。

 襲い来るモンスター達は武芸者が撫で斬りにして、潮流の乱れや天候の不機嫌、深海からの強襲は俺達が察知し回避しやっていく。

 グランバロアからの襲撃はない。今までの海賊達と比べても二回り以上離れた位置で活動している俺達の痕跡を察知し戦力を差し向ける余裕はあの国にはないからだ。

 

 ――好循環の成果は直ぐに現れた。

 下級とは言え、才能次第だがモンスターは育てれば進化し十分に使い物になる様になる。

 水棲という他にない特性を持つ俺達が持ち込んだ従属モンスターはカルディナの商人にとても良い値段で売れた。

 繰り返していく内により高品質な【ジュエル】を、新たな船員達を、随伴艦の戦闘艦を――

 より戦力が充実していき、より安定性が増していき、そして更に利益が増していく――――

 

 まさに、順風満帆とはこの事だった。

 

 特に、グランバロアから距離を離しての密猟が美味い。何物にも邪魔される事は無く俺達の仕事が続けられるからだ。

 十分以上の安全マージン。海賊をやっている身で妙と思う者も居るかもしれないが――余裕がなければパフォーマンスを発揮し切る事は出来ない。

 それは海賊稼業ではない、海賊船団での15年で身に着けた有用な経験の一つであった。

 その経験は確実に俺達の身を助け、そして俺達の明るい未来を約束してくれるのだった。

 いつまでも、いつまでも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――だったはずなのだ。つい数十分前までは。

 

 DOOM! DOOM!! DDDOOOOOM――!!

 

 洞穴(アジト)内に響き渡る爆音、衝撃、振動――そう、今俺達はある筈がないと思っていた襲撃を受けていた。

 何故? 誰が? どうやって俺達の居場所を……疑問点は無数にある。だが、答えの出せない疑問にいつまでも拘る阿呆は海でなくても死ぬだろう。

 まず考えるべき事、そして迅速にやるべき事は襲撃してきた敵手への対処なのだから。

 幸い、俺の海賊団に居る戦闘員には常日頃から深酒は禁じている。そうでなくともいつも海棲モンスターとの戦いの矢面に立っている者達だ。

 しかもその主戦力はグランバロアの海兵よりも圧倒的に強い天地の武芸者達。

 むしろ海上よりもこの様な地に足の着く洞穴の方がより鋭く動ける猛者達。大方国から寄越されてきたチャチな追手くらい簡単に処理できる筈だ。

 

 その筈、なのに。

 

「黒野! これは一体どういうつもりだ、説明しろ!」

 

 海賊団の頭領である俺は、副頭領――武芸者達のリーダーである偉丈夫、黒野に担がれ洞穴内を逆走していた。

 黒野は完全に戦闘職のみでレベルをカンストさせている猛者の中の猛者。俺が多少抵抗した所で逃れられないのは理解している。

 だからこそ、問う。

 その先は……一般団員には知らせていない、幹部の一人の幻術で隠蔽しておいた隠し通路。洞穴の側面から海に繋がる横穴へと進む道順。

 【アイテムボックス】に入れておいた小型の船さえあれば、この様な横穴からでも海へ繰り出す事はできる。

 それ故に、何かあった時の為の緊急脱出先として用意しておいた筈の場所だ。

 

 その隠し通路を往く選択。その理由。

 今までになかった事態に嫌な想像が脳裏を過ぎ、語気荒く尋ねても……黒野はより早く走る事に集中してか言葉を返さない。

 装備によって強化され、AGIも亜音速域に至っている黒野の足は一分経たずに危なげなく隠し通路を踏破し、即座に【アイテムボックス】から小型の高速船を出して海に浮かべ、跳躍。

 

 

 だが、その一分足らずの間にある程度俺の考えは纏まっていた。

 促されるよりも早く手短に船に魔力を供給し、更に魔力を注いで加速機構を発動させて――洞穴から、俺達の仲間が多数残るアジトから離れる。

 カンストレベルの魔力の半数を注ぎ、更にサブジョブである【翠風術師】の魔法により加速された船は瞬く間に加速して……直ぐに潮風に遮られて洞穴すらも見えなくなった。

 

「――相手は<マスター>か?」

「多分、な。そうでなくとも特典武具だな。単艦……少数精鋭だろう」

 

 犯罪者には、犯罪者なりのネットワークがある。

 数年前には海賊として国を離れていた俺達だが、それでも様々な情報の収集は続けていた。

 ある程度の世界情勢、同業者の情報、掃海や海の〈UBM〉の発見情報や【海竜王】の現在位置なんかは俺達みたいな海賊でも重要な情報であり、収集を怠る事はできない大事な物なのだ。

 カルディナを通す事も多く情報料は高く取られるが背に腹は代えられない――そして、何と言っても近年で一番のビッグニュースと言えば伝説の<マスター>の急増に他ならないだろう。

 <マスター>の存在はそれを抱え込んだ国家に大きな力として還元される。

 力に困窮していた国であれば猶更だ。

 常に海棲モンスターと戦い続けなければならないグランバロアなどは、特に、だ。

 支配海域の増大、掃海の為の戦闘力に安全性、安定性。被害の軽減――どれを取っても<マスター>はグランバロアにとって非常に重要な存在となるだろう。

 

 ――そして、マスターの力たる<エンブリオ>の特異性、固有スキルさえあれば……今までは放置せざるを得なかった海賊達の一掃に乗り出す事も可能になるだろう、と。

 

「ち……だが、お前達なら<マスター>が多少居た所で勝てたんじゃないのか?」

 

 しかし――グランバロアが<マスター>の力を手に入れたと言っても、その<マスター>達はまだこの世界に現れてから二年も経っていないのだ。

 ティアン(自分達)と一緒にはできないだろうが、それでも未だ足りない物は多いだろう。勿論例外は居るだろうが、少なくとも今まで放置していた海賊の討伐は掃海と言った超重要事項と比べれば圧倒的に優先度は低い……初っ端から<マスター>の中でも最上位の者が来るという可能性は少ない筈だと考える。

 ならば。ならば……彼らはきっと負けないだろう。それだけの力を、技巧を、経験を持っているのが天地の武芸者という物だ。

 そうでなくても、既に海賊団の規模は非常に大きなものとなっている。平団員の戦闘員は三桁を優に超え、天地の武芸者達を中心に日頃の連携訓練さえもさせていた。

 相手が伝説の<マスター>と言えども、勝てる。俺はそう思うのだが――

 

 

 

「――ヴィレッゾ、お前には()()があっただろう。おそらく、あの国(グランバロア)に居たままでも大成できた程に」

 

「……それはそうだろう。そうでなければこんな大きな海賊団は率いれないだろうし、此処まで――このレベルにまで至っていないさ」

 

 その返答は自らの自尊心による物だけではなく、客観的な事実だ。

 そもそも、レベル500に至れる逸材すらティアンの中には殆ど居ない。その時点でその領域に至っている俺や黒野には()()があると言えるのだから。

 事実、グランバロアの船団内でも同年代でレベル500に至れる才を持つ者は片手の指の数で足りる程しか居なかった。

 

 しかし。

 才能というのは――限界レベル、それだけを指して言う言葉ではない。 

 

「だが、ジョブレベルにスキルレベル。それだけではこの海を往くのは無理だった。それはお前の才能あってのモノだろう。そういう事だ」

 

「何……?」

 

 確かに。

 ヴィレッゾがここまで大成したのには限界レベルにおいて多大な才能があった故だが――ただレベルが高くセンススキル等の補助があれば何とかなるという程この海は、この世界は甘くはない。

 空を読み、風を読み、海を読み、流れを読み――

 己の直感を磨き信じ、極僅かな違和感に疑問を持ち、例え索敵外であっても強敵が纏う独特な雰囲気を察し回避する様な決断力――それらも、海を往く者としての“才能”だとグランバロアでは長年言われていたし、そしてヴィレッゾもそれを実践してきていた。

 その上で尚被害が大きいのがこの世界の海が魔境と言われる由縁でもあるのだが。

 

 そして、それらがグランバロアにおいて重要な“才能”であるならば。

 黒野が率いる、合計レベル400を優に超える武勇を誇る武芸者達は――天地の“才能”においては()()()だったのだ。

 

 彼ら天地の武芸者は、今まで蟲毒の如き有り様であったが故に、限界レベルの平均値は飛躍的に上昇し、そして“才能”のハードルもまた同様に伸び続けているのだから。

 それは戦闘に関するあらゆる才能。武の術理に敵手の攻め手を殺気を、一手先二手先三手先、もっともっと先を読み、勝利する為の()()

 達人になれば(リソース)の流れすらも知覚し読み取れると言われる程の異才。

 ジョブスキルによる知覚などでは到底足りぬと自らを常に死地に置き磨き上げよとまで謂われるそれが――彼らには、絶望的に足りていなかったのだ。

 あるいは、中央大陸であればそれでも十分以上の才覚だったのかもしれないが……それでも彼らが生まれ育った天地ではまるで通用しなかった。

 それ故に国を出て漂流の旅をしていた彼らだが……天地において、弱者であった彼らだからこそ、磨けた才もあるのもまた事実。

 

 それは――強者を知る才。

 《看破》などなくとも、直接対峙せずとも敵手が己らよりどれだけかけ離れた実力を持っているのか、どれほど“才能”に開きがあるのかを漠然とした直感で理解する才。

 あるいは、グランバロアでの海賊業でも大いに力を発揮していた才。

 それを持っていたからこそ彼らは……即座に逃走を選択した。

 

「つまりだ。あのままあそこに居たら間違いなく――」 

「――ようやく追いついたよ、海賊ども!」

 

 

 見知らぬ声。

 咄嗟に魔力を練り上げながら構え振り向き――その必要もない事に、気付いた。否、気付かされた。

 

 ――囲まれている! 今まで影も形も無かったと言うのに!

 

 今も尚高速で海を進んでいる小型船に、労せず追い付き包囲している影はどれも同じ姿の少年のもの。それが五つ。

 中空に立ち、背には白炎を背負い推進力と為し、そして周囲には既に風の攻撃魔法を待機している事が同じ【翠風術師】のジョブを持つヴィレッゾには読み取れた。

 

 しかし――それが纏う魔力のなんと強大である事か!

 何らかの幻としか思えない、思いたくない四つの似姿でさえカンストしているヴィレッゾが持つ魔力と比べ尚高い魔力を誇り、そして前方で立ち塞がる少年に至っては実に五倍以上……彼が知る魔法系の超級職、【海神】に比肩する程の魔力をその身に纏っているのだ!

 その容姿、そして特異性から。ヴィレッゾ達にとっては初見であってもそれが巷で噂の<マスター>であると容易く理解させられる――

 

 

「――――黒野。やるぞ」

「……ああ」

 

 だが、敵手が伝説の<マスター>であったと理解した所で海賊である二人に選択肢などないも同然。

 ヴィレッゾ海賊団で最強……否、超級職を除けば彼が知るグランバロアの戦士達と比べても最強と言えるであろう黒野を横目で見、合図を送ろうとして、再び驚愕する。

 

 大柄な偉丈夫。熟練にして頂点(カンスト)の武芸者である筈の黒野が――僅かに震えているのだ。

 

 彼は武者震いをする様な性格ではない。戦闘に愉しみは見出さず、己に適していたから、必要であるから淡々と戦闘をこなす様な男だ。

 そんな男が震えている所を見た事があるのはただの一度だけ。不運にも逸話級〈UBM〉が接近していたあの時、隠蔽機能を使って息を殺して通り過ぎるのを祈っていた時だけだった。

 

「……ヴィレッゾ。あれは天地の《影分身の術》、自身の力を分割した分身を作り出す術だ――本体を仕留める以外に、道はない」

「……できるのか?」

「…………」

 

 できる――とは、とてもではないが、言えない。

 《看破》を使う必要すらない。黒野をして、圧倒的な格上だと確信出来る相手。

 物理ステ―タスだけで言っても、黒野では分割された分身体と同程度……そして、仮にステータスが同等であったとしても――

 

「……言っただろう。それ以外に道はない、と」

「そう、だな――!」

 

 そうと決断し、戦意を露わにする。――と、同時に。

 囲んだ後、黙していた敵手、<マスター>が、動く。

 それは此方の準備ができるまで待ってくれていた仏心、などでは勿論ない。

 

 瞬間、包囲する五人の少年同士を線で結んだかのように魔力が奔り――五角形の形に空間が寸断された。

 【結界術師】の《隔離結界》。それも、多重に張り巡らされ、一枚一枚の強度自体も、二人の実力では隙の大きい大技でもないと罅一つ入れられない程の強度を持つ代物だ。

 どうやら、隙をついて全速力で逃げ出すという手も塞がれてしまったようだ。

 ……突ける隙があったかどうかは、ともかく。

 

「――っ!」

「――ッ!」

「――――」 

 

 そして、準備は終わったとばかりに発せられた戦意に当てられ、戦闘態勢を取り――言葉を発する間もないままに、戦闘が始まる。

 その結果は……きっと、誰しもの想像通りの結果になった事だろう――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

2/11(木)

 今日は珍しい事があったよ! 学校から帰ってきたら、僕らの家のストッパー役だと思ってた明日香が僕と勝から漫画を借りていくだなんて……デンドロを始めて娯楽に目覚めたのかな。

 この調子だと一家総オタク化となる日は遠くないね!

 ……全員でデンドロをやってる時点で既にそうだと言えるのかな、というのはさておきねっ。

  

 さて、それで今日もデンドロにログインするんだけど――今日は標的のヴィレッゾ海賊団のアジトに向けて帆を進める航海の日。

 以前までみたいに船の中で奇襲を警戒しながら内職に力を注いで牙を研ぐ日々――だと、思ってたんだけど。

 

 ……船、すっごい進んでるよね。昨日の日記にも書いた通り、【紅の牙】団の普通の中型の巡洋艦。

 【ヴェパル】よりも圧倒的に性能が低いのに……【ヴェパル】が一日で進める距離の二倍ぐらい進んでるよね!?

 いや、良く考えなくても当たり前だったんだけどね!

 だって、【ヴェパル】が航海できるのは桑木さんがログインできる短時間のみなんだから、現実(リアル)一日でデンドロ内時間で言うと8~9時間程度しか動けないもんね。

 しかもその時間の中でログインログアウトの度に陸地に接弦してたりするんだし。

 それと比べて、休憩時間等もあるとは言え一日中海を進めるこの世界の人達であれば当然、現実での一日で進める時間は72時間……実に数倍以上の時間があれば、船としての性能に差があるとはいえ、航行距離に勝るのは当然だった。

 【セーブポイント・オーブ】が必要だったり、僕ら(<マスター>)が居ない時には戦力的な不安があるという側面はあっても……そもそも、彼らは<マスター>が来るその前からずっと海を進んでいた人達なんだから無用な心配だ。

 確かに【ヴェパル】の速度は航行距離としても強力な海棲モンスターから逃げる為だとしても有用なのは事実でも、今までのノウハウがある彼らとしては必須という訳でもない……そりゃそうだよね!

 

 むしろ、それだけの技量や経験則があって良くエメラダ達を旗印にしてるね、って思ったんだけど、まぁそこは<マスター>の面目躍如と言うべきか、それともティアンの悲哀と言うべきか。

 彼らをして海での行動に適した<エンブリオ>の力は非常に頼りにできるし、それ以上にレベル差もあるというのはやっぱり大きいみたい。

 【紅の牙】団のティアンの皆々、合計レベルが最大でも300ちょっとくらいで大体が200ぐらいっぽいからね……

 規模自体も海賊船団の中型の戦闘艦一隻を預けられる程の十数名、海賊船団の中でも中堅くらいの立ち位置だったみたいけど――当然の如く、例の<マスター>の急増で世界情勢は一変、と。

 グランバロアの<マスター>受け入れ政策もあって、なんやかんやの後に自分達以外の経験ある船員を求めていたエメラダ達と出会って今に至る感じみたい。

 最初は【紅の牙】団の人達としては割とビジネス的な関係だったみたいだけど、今となってはそこそこ長い期間一緒していたのもあって仕事が無い時には技術を教えて貰ったり力を貸したりと色々と互いに便宜を図ったりする関係なんだとか。歴史ありだなぁ……

 

 ともかく、ちょっと話が逸れたけど、そんな訳で海賊団討伐はこのペースで進めれば明日! 土曜予定だと思ってたけど早くに済ませられるなら済ませておくに越した事はないね。

 多少と言えないリスクを負って移動に力を貸して貰ったんだから、戦力で貸しを返すのが<マスター>のやり方だよね。頑張るぞー!

 

 

 ……って気合いを入れても、それを発揮するのは明日なので、ちょっと気合いが余っちゃったので。

 桑木さん達がログアウトした後に僕もログアウトしてMHFDにログイン!

 今日はマルチの闘技場で遊んだよ。闘技場は良いよね。装備固定だから僕みたいなのでも同じスペックの装備で戦えるからねっ。

 ……まぁ、課金による差はあるんだけど、闘技場でなら誤差と言っても過言ではないから問題ないよね。

 今日は主にチャージアックスで行ったのもあってかなーりMVPが取れたよ。やったね!

 タイムもスコアも結構良い物出せてたよ。

 いつもはマルチのクエストだと片手剣とかアルケミストでのサポとか中心でやってたけど、やっぱり華はアタッカーだね!

 気絶や部位破壊での貢献だってできるからね。えっへん。

 ……流石に野良でのダメージ計算は面倒過ぎてやりたくないけども。

 それでもTA勢の固定パーティの闘技場とか、レイドイベ、レイド闘技場でのダメージ計算すら進んでこなせるって人も居るんだから凄いよねー。

 ……実例を出されると僕も挑戦したくなっちゃうから我慢我慢。まだレイドイベに参加出来る程の装備はないからね……!

 

 ――闘技場ばっかやってたら装備が整う筈もないんだけどねっ。

 まぁ今日はそういう気分だったからしょうがないね!

 討伐クエストはかなり数行ってるし、むしろ鉱石とか虫とか魚とかの採取素材の方の問題で装備更新が止まってたからねー……地道にやっていかないと。

 採取特化装備も作ったし、また空いてる時間に採取進めないと。

 ……そんな気分になってる時にね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2/12(金)

 週末! 今日も今日とて――抜き打ち小テスト!

 年度末が近付いてきてるからか色んな教科で小テスト多いよねー。

 ……桑木さん達だって、クラス平均よりは確実に上なんだからそんな悲観する様な事じゃないと思うんだけどね?

 

 さて、今日はヴィレッゾ海賊団の討伐作戦決行だけど――うん、問題なく成功。全員捕縛できたよ。やったあ。

 向こうの判断も早くて、頭領格が早々に逃げ出すっていうトラブルもあったけど僕がしっかり捕えておいたからね。

 現実とは違って【アイテムボックス】【ジュエル】があるからそれを抱える頭領格が逃げるだけで容易く再起されちゃうからね、危ない危ない。

 

 捕縛自体は【ムスペルヘイム】の陽動砲火からの僕の突撃で余裕だったよ――と、単純には行かなかったのが問題だったんだけどね。

 いや、実際僕の実力があれば海賊団程度、快勝して全員捕縛できたのは事実だけど……予想外の問題が発生したんだよね。

 まぁ、予想以上に規模が大きかったとか、そこそこ練度の高い人も居たとか、そういった海賊団としての優秀さがあったのは良いとして。

 

 ……問題は、ヴィレッゾ海賊団にいくらか混ざっていた、他の海賊と比べても比較にならない程の腕利きの武芸者達――いや服とか技とかジョブとかからして明らかに天地からの流れ者だよねっ!?

 政治的案件は積極的には関わりたくないから、うっかり海葬にしちゃおうかなって魔が差した所でエメラダからのストップが入った。

 海賊船団所属で今までにも何度も海賊団捕縛に駆り出されていたエメラダ曰く、こういう事……他国の者が違法海賊団に居る、というのはまぁ割と良くある事、らしい。

 大抵が元の国での落伍者かあるいは国に居られなくなるほどの犯罪者で、元の国から脱国者である事が公表されている事も多いのだとか。

 だからちゃんと捕まえていっても大事になる事はほとんど無い筈、と――

 

 ……まぁ、レベルとか実力からして犯罪者か落伍者かって言ったら多分後者だったからね。それなら良い、かなぁ?

 一瞬だけ悩んだけど大事にならない事を祈りつつ全員捕縛したままにする事に。

 今の僕は新生【紅の牙】団一の新入り! 親分の指示には逆らわない優秀な下っ端だからね!(※一部例外あり

 【ジュエル】に捕まってた人達にも特に酷い外傷とかもなかったし、クエストは大成功って所だね!

 

 そんな訳で、海賊達は支給品の特別な鎖でぐるぐる巻きにして詰め込んで、捕まってた人達の保護もして――実際に帰還するのは多分明日。

 流石に僕達の戦力なしで、巡洋艦一隻とその船員だけで見張りと保護をこなしながら帰路を行くのは安全面で不安が残るからねー。

 丁度明日は土曜日だし、復活の【ヴェパル】も使って現実の一日でグランバロアまで一気に帰還する事に。

 <マスター>が来る前まではこの規模の海賊団を討伐・捕縛して護送するだけで結構大掛かりな船団を組まなきゃ行けなかったんだから、それに比べればフットワークも軽くなるという物だよね。

 この世界の海を往くのに安全確保は絶対大事だからね……万全で進めていこー!

 

 

 

 ……万全でーって思ってたのに捕縛クエストの大成功に気を良くして調子に乗って26時まで採取クエストに行きまくってたのは僕だけどね!

 デンドロ以外では三倍加速がないの本当にきついね……おやすみなさーいっ。

 

 

 To Be Continued…………




ステータスが更新されました――――

【セーブポイント・オーブ】:追加装備品
 特殊装備品の乗騎に追加して装備する事で効果を発揮する事ができるオプション装備。
 追加装備される事で対象の乗騎に移動式セーブポイントとしての機能を付与する。
 つまりは付け替え式セーブポイントなのだが、運用は非常に難しい。
 まず、最低でも複数パーティが搭乗する事が前提の中型以上の機体や船舶に限定してしか追加装備する事は出来ず、拡張性のキャパシティの消費も非常に大きい。
 また、効果の継続には持続的に魔力(MP)を注ぐ必要があり、注がれ、溜め込まれていた魔力が切れた時点で再起動してもそれ以前にセーブした者に対してのマーカーとしての機能は途切れてしまう。
 そして何より――お高い! 余裕で数千万から億クラスのお金が掛かる。
 だが、それでも<マスター>を海で運用する上でセーブポイント付き船舶の需要が尽きない以上、このアイテムの需要は尽きないのであった……

【囚獄鎖】:アクセサリー
 装備させる事でステータスの大幅な減弱とスキル使用封印、装備変更不可の効果を持つ状態異常を付与する手枷足枷首輪鎖のセット。アクセサリー枠を3つ使用する。
 犯罪者の抵抗を封じる為という以上に敗北し、捕らえられた犯罪者が抵抗はしないという意思表示の為に装備させられる物。装備自体に強制的に装備させる効果はない為だ。
 だがこれを装備しない犯罪者は未だ抵抗の意思ありと看做され、普通に殺されるだろう。賢明な判断を期待したい。
 なお、許可を得ない所持・使用は犯罪なので絶対やめようね!
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