無限の世界のプレイ日記   作:黒矢

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前回のあらすじ:ステータス(固定値)は強敵でしたね……

おかしい、こんなに長くなるとは……しかもまた大体説明回っぽい、ぽくない?
それでは、本編をどうぞ!


第九話 武闘大会・ティアンの技

□■<大白宮・闘技場> 【鎧武者】竜胆直寿

 

 

 試合を観戦していた天地の武芸者、竜胆直寿は次なる試合に注意を向けながらも、その意識の片隅では先程の試合の様子を反芻していた。

 ステータスで圧倒的に勝る敵手との戦い、そしてフェイントや小手先の技で相手の裏を斯き、致命部位に自身の最大威力の攻撃を当て相手を死に至らしめる。

 それはまるで――ステータス任せに単純な攻撃を繰り返すモンスターと、それに相対する武芸者、そのお手本の様な捌き方であった。

 

 ――ジョブや装備品からしても《看破》は持っていなかった筈。ならば相手の速さ(AGI)からステータスの推測を?ただの勘という可能性もあるが……

 ――双方のステータス差を鑑みれば確かにあの手が最善手。ならばどの様にそれを導いたのか――

 ――そもそも、あの年齢の<マスター>であれほどの技量を持つ者が――――

 

「――これ、直寿や。何ボゥッとしとる?」

 

 

 その思索の最中、不意に後ろから声を掛けられる。

 気配を消しながら驚かせようとしてきたその人物は、禿頭の老人であった。

 しかし、老人特有の老いによる身体能力の低下等は全く見えず、むしろ身体全体には活力が満ち溢れている様。

 直寿の知己でもあるその人物は。

 

「不動殿。貴殿も来ておられたのですか。姿が見えないのでいらっしゃらないものと思っていましたが」

「カカカ。この様な大舞台を逃す訳があるまいよ?ちぃーとばかし泰央の阿呆に用事を頼まれておっただけじゃ。ま、すぐに片してやったがな!」

 

 

 ――不動藤十郎。この大白宮、いや西白寺領の筆頭客分であり、すべての武芸者が羨望する頂点である超級職の一つ、【鬼神武者(デモニック・サムライ)】のジョブを戴く者。

 同じ西白寺領の客分としても、武芸者としても直寿の数段先を歩むその者は、直寿の隣に腰を下ろしながらも興味深げに決闘場を見つめる。

 

「うん?午後の試合には間に合ったと思ったんじゃが……もう一つ終わってしまってるんか?」

「ええ。展開は兎も角、エンブリオを、<マスター>を見定めるのには良い試合でした」

「あちゃー。本当(マジ)かー……まっ、それなら次からの試合に期待するしかなかろうて。そっちで負けたのにはまた別で見に行けば良いからのー」

「それが宜しいかと。……それも時間があれば、ですが」

 

 直寿と隣に座る老人、不動の付き合いは彼がこの西白寺領の客分として雇われた時以来のものであった。

 数代前より【陰陽頭】を輩出し続け、天地の術師の頭としての地位が確立されつつあるこの西白寺領に集う者達は当然ながら【陰陽師】や【巫女】を始めとした術師系統に偏ってくる。

 天地全体の近接戦闘を得手とした武芸者と術師との割合の偏りも合わさり、一時期の西白寺領の白兵戦の脆さは酷い有様であった。

 以前は隣領であり、同盟相手でもある【超忍(オーヴァード・ニンジャ)】の配下である忍び達に助太刀を依頼していたのだがそれも今は昔。

 そんな折に招聘されたのがここにいる――当時、未だどの領にも属しておらず、実力も知られていた武芸者である二人だった。

 この領の客分としての位を戴いてからはまた色々あったのだが……今ではこの領にも多少は通常の武芸者が増えてはきたが、それでも未だに不動どころか直寿を越える武芸者は現れていなかった。

 その為、術師では対処しにくいモンスターや純竜級を越える力を持ったモンスターなど、他の者では対処できない相手が出没した時には前衛として頻繁に呼び出される羽目になってしまっている。

 それを揶揄しての発言だったのだが……

 

「なぁに、大丈夫じゃよ。今少しはまだ忙しくなるじゃろうが……オヌシはもう見たのじゃろう?<マスター>というモノを、の」

「…………」

 

 

 ――たったの一ヵ月で、自分達のみで亜竜級のモンスターすら討伐せしめた<マスター>達。

 ――この調子なら一年も……いや、半年も待たずに純竜級のモンスターすらも順調に倒せるようになるであろう。

 ――しかも、これらの戦果は特別な天才による物ですらなく、その力を秘めた者が何人も何十人も何百人もいるのだ。いや、もしかしたらそれ以上に。

 ――ならば、自分達も安穏と日々を過ごせる事ができるようになるのやもしれぬぞ?

 

 口にこそ出してはいなかったが……不動が言っているのはそういう事であり、その表情からもこの想像が事実であると察せられた。

 

 しかし

 

「御冗談を」

 

 その想像を、その将来を一言で斬って捨てる。

 

「彼らは確かに強大なる力を秘めている。その力は未だ途上の物ながらも既に光るものを感じさせる程です」

 

「だが、未だ足りない物が多過ぎる。彼らは無敵の超人等では決してなく、我らと比べられる力を有する不思議な隣人でしかない」

「むしろ、これだけ多彩で強力な力を持つ彼らと競い、高め合える――久しく感じていなかった滾りを感じる程ですよ、不動殿」

 

 そう、口にする青年の顔には珍しくも野心の相が見え隠れする。

 

「カッカッカ! 若いのう! こりゃ余計なお世話だった様じゃな?」

「勿論です。その為の一歩目が今日、この大会なのですから」

 

 言葉を交わし合いながらも二人で笑う。発破を掛けようとしていた事は流石にバレバレだったようだ。

 若者のある種傲慢なその宣言すらも、この天地で実力を示し続けてきた実績を思えば否定しきれる程ではない。

 

 (最も、急増したこのマスター達。今は確かに小粒な宝石ではあるのじゃが……彼らの全員が前からいた彼奴(・・・・・・・)に匹敵する程の化け物に成長するのでなければ、じゃがのぅ)

 

 その内心を欠片も表に出さずに胸にしまう。それをここで曝け出す程無粋ではないし、流石にその可能性も低いと考えているからだ。

 それに、この領で唯一自分に伍する近接戦闘の実力を持つ彼は貴重でもあるのだし。

 

 

「それで、次の試合はどうなってとるんじゃ? そろそろ始まるじゃろ?」

「ええ、次の試合は――春香お嬢様と、剣のエンブリオを保有する<マスター>の物ですね」

「ほぅ……」

 

 青年のその言葉と同時に、司会により試合の開始がアナウンスされる。

 決闘場に立つのは長剣を携えた10代後半らしき少女の<マスター>と――先程勝利した少年と同い年程度の、華美な着物を着た一人の幼い少女だった。

 

 彼女こそはこの場にいる二人が所属している西白寺領、その頭目たる西白寺泰央の第二子にして次女である正真正銘の姫君、御年十一歳となり、ここ数か月で一つ目のジョブに就き始めたと聞いていた――西白寺春香その人である。

 

 気迫も十分な様子で見るからに質の良い美しい刀を構え、真っ直ぐに対戦相手を見つめているのが分かる。

 その立ち居振る舞い、そして身を包む着物の過剰なまでの威圧感(・・・・・・・・・)を感じ取り、二人は。

 

 

「……やっぱり、我らの大将は人が悪いですねぇ」

「何を今更。あの大将じゃぞ?」

 

 そう呟き合うのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

□■<大白宮・闘技場>決闘場 【華武者(フラワー・サムライ)】西白寺春香

 

 

 

『さぁ、いよいよ本戦に出場してきた猛者達も四人に絞られてきました!』

 

『敗北を喫してしまった四人も素晴らしい戦いを見せてくれましたが、残る四人は更なる力を以て彼らの期待に応えてくれる事でしょう!』

 

『それでは――“若葉の乱”大白宮の部、本戦。第二回戦第一試合!』

 

『東の門! 【退魔師】ジーニアス、対…………西の門!! 【華武者】! 西白寺春香様です!』

 

 

 

 試合を前にし、集中している私達に司会の声が降り注ぐ。

 まだ前試合の時の憤怒が冷め止まないからか、司会のその無神経な言葉に苛ついてしまう事が止められない。

 こんな場面で様付けだなんて、まるで晒し者にされているみたいで思わず司会を睨み付けようとしてしまうが、何とか堪える。

 自分の存在が目立つ物だという事は物心ついた時から自覚している事であるのだが……だからと言って多くの、実に多くの<マスター>に見られているこの場で、というのは流石に予想だにしていなかった展開だった。

 そう、あの伝説の<マスター>達に、だ。

 いや、予想していなかったと言えばその<マスター>がこれほど増える事だってそうだし……自分が、決闘場の場でこうして<マスター>と相対している事自体が既に想像の外の出来事だったのだが。

 

 (本当に、どうしてこうなってしまったんでしょう……)

 

 そう考えつつも、私は以前の事を思い返す――

 

 

 

◇◆

 

 

 私、西白寺春香はこの大白宮を含むそこそこ大きな領地を治める大名、西白寺家の次女としてこの世に生を受け、育ってきました。

 天地中の【陰陽師】を束ねる【陰陽頭】、それだけではなく南北の領地との間に結ばれている大同盟の中核人物でもあるお父様は非常に多忙で、家族として共に過ごす時間は多くはなかったけど、その僅かな時間でのふれあいや態度は私や姉様に確かな愛情を教えてくれました。

 私はそんなお父様やいつも私達を見守ってくれているお母様の愛に応える為に西白寺の名に恥じぬ様に幼い頃からこの世界で生きるのに必要な事を、西白寺の者として必要な様々な事を教育されて来ました。

 しかし、西白寺春香として教育を受け始めて暫くして――致命的な現実が待ち受けていました。

 

 ――私には、魔法職としての適性が全くないのだという現実でした。

 

 【陰陽頭】を父に、【大陰陽師】を母に持つ、天地一の術師の都を治める西白寺の娘たるこの私が、まさか【陰陽師】も、【巫女】も、当然【司祭】や【魔術師】と言った魔法系統のジョブに対する適性が壊滅的だなんて、そんな可能性は想像すらした事はありませんでした。

 確かにジョブの適性は遺伝で引き継がれる可能性は高いが、それは確実なものではないという事は勉強していましたが、この事実を知ってしまった時には衝撃でそんな事は頭からすっかり抜け落ちてしまっていました。

 あわや、もしや昔話や小説で見る様な家庭崩壊の危機では、もしや自分は捨てられてしまうのでは――と、目の前が真っ暗になってしまったのを覚えています。

 お父様も、お母様も、姉様もそんな私を慰めて、認めてくれたのは望外の幸福でしたが……話はそれでは終わりません。

 

 例え家族が認めてくれたとしても、術師の都としての西白寺のイメージを私が傷つけてしまうのは疑い様の無い事でしょう。

 あるいはそれが原因で家の立場が弱くなってしまう未来すらも考えられるのです。家族皆に守られて一人、安穏としていられる訳がありませんでした。

 それからの私は今まで以上に必死に輪をかけて自らを高める事に尽くしました。

 自らがジョブとして適性を持つ剣の鍛錬を繰り返し、礼儀作法を身に着け、課せられていた勉強以外にも時間が空いている時には本を開き知識を詰め込み続けました。

 大名の娘として恥じぬ立ち居振る舞いを備え、ジョブやモンスターについての粗方の知識を詰め込み、剣の動きを反復しその身に馴染ませるだけでなく、家の客分である武芸者に実践的な立ち回りを教えて貰ったり稽古をつけて貰ったりしたその日々。

 そんな日々を続けた私がジョブに就くのがお父様に許されたのはほんの半年前でした。

 私の長年の催促に屈したのか、それとも他に何らかの思惑があったのかは分かりませんが、それで漸く私も第一歩目を踏み出す事ができた気分です。

 そこから数ヶ月かけて、お父様の支援もあり無事レベル50(カンスト)まで上げた私がスキルの鍛錬を行っていたある時、世界的な大事件が起きました。

 

 そう、<マスター>の増加です。

 それまでは伝説的な存在として、殆どの人は関わりもなかった異世界より来た旅人達。それが数万数十万と各国に現れ始めたのです。

 天地の<マスター>達の出現位置である慶都と大白宮が近い事からも暫くしてからこの大白宮にも少しずつ<マスター>の人が増えてきていました。

 まだ、その時は大白宮も……いや、世界全体が大騒ぎで<マスター>に対してどの様に反応していいのか分かっていない段階でした。

 そんな時に告知された爆弾が、今回の大会。<マスター>の参加を推奨する新人専門の武闘大会、若葉の乱です。

 年相応の娯楽小説等も嗜んでいた私は、<マスター>の力、エンブリオを、その万能の才の煌めきを(才能への多少の妬みを交えながらも)楽しみにしていました。

 しかし、そこでお父様から命令を出され、私も出場する事になってしまいました! 確かに、私は参加条件にもピッタリ当てはまってはいましたが……

 

 曰く、「春香も大会に出場する様に。今回のこれを【華武者】の、武芸者としての一人前かどうかの試験とするよ」との事でした。

 早く成長して一人前となり、家族を支えられる様になる事が夢であった私にこの機会は逃せません。伝説の<マスター>達と戦うのに不安は勿論ありましたが、それでも今まで行ってきた鍛錬が私に自信を付けてくれます。

 それだけではありません。この大会に向けて、とお父様とお母さまは私専用のオーダーメイドの装備を送ってくれたのです!

 

 

 【真刀 小鴉・花一匁】

 『武器』

 【刀匠】、小鴉によって作成された刀。

 籠められた魔力によって装備者に様々な加護を与える。

 

 ・装備補正

 攻撃力+350

 

 装備スキル

 ・《春嵐の舞》

 ・《重量軽減》Lv2

 ・《破損耐性》Lv2

 ・《■■■■》Lv■

 ・《制限軽減》Lv4

 

 ※装備制限:合計レベル50以上

 

 【濃桜の衣 霧牡丹】

 『上半身・下半身・外套防具』

 【仕立職人】、宵によって作成された後、様々な術が付与された着物。

 【華武者】が装備する事を前提にしており、様々な能力が付与されている。

 

 ・装備補正

 AGI+150

 防御力+850

 

 装備スキル

 ・《疾風耐性》Lv5

 ・《疾風適性》Lv5

 ・《重量軽減》Lv3

 ・《自動保護》

 ・《■■■■》Lv■

 ・《制限軽減》Lv4

 

 ※装備制限:合計レベル50以上

 

 どちらも、今の私には過ぎた力を持った代物です。

 特に、防具に籠められた力は本来であれば最上位の武芸者(Lv500カンスト)に到達して初めて使用できるか、と言える程の性能を秘めています。

 まだこんな物を受け取れる程の実力ではない、と一度は断ろうとしたのですが、これも私に対する期待の表れだと言われては断れる訳がありません!

 また、《鑑定眼》のスキルもなくレベルも低い私では見えないスキルもありますが……其れを見れる事を目標とし精進する様に、との事なので、その言葉通りに精進していきたいと思います。

 

 

 

 それで装備も整い、準備万端で気合十分に大会に出場した私ですが――そこからは本当に想定外の連続でした。

 

 まずは初めて大会の場に、数え切れない程の大勢の民の目の前に立つ事。そのプレッシャー。

 稽古や練習で闘技場施設を利用した時と場所は変わっていない筈なのに、四方八方から突き刺さってくる視線と声援はまるで弾丸の様。

 まだ公の場にはあまり数は出ていなかったのだけど、それでも知っている人がいたのか……普通に司会に名前を紹介された時に判明しただけかもしれないけど、その時の大歓声は咄嗟に縮こまってしまいそうな程でした。多少は人前に出る経験がなければ本当にそうしてしまっていたかもしれません。

 意識的に集中して思考を戦闘に切り替えれば、そういうのも気にならなくはなりましたが。

 

 次が対戦相手――<マスター>の事。

 最初の試合、予選で相手となった<マスター>は大剣を構えた【武士】の<マスター>。

 侮る様な視線が気になりましたが、相手は見るからに二十歳を越えていた青年で、伝説に謳われる<マスター>ですので、それも仕方ない事だと思いました。

 しかし、試合が始まってからの醜態は――見るに堪えませんでした。

 

 

 剣の振り方もなっていない、ステータス頼りの攻撃。

 打ち込んでくださいと言わんばかりの隙だらけの身体。

 相手()を女子供と侮ってか試合が開始されてもエンブリオすら出さない慢心。

 そうと思えば一撃貰えば狼狽し慌てふためきながらも必死の形相でエンブリオ(ガードナー)の獅子を出し始めるその精神。

 

 結局はガードナーが動き出すまでにその首を切り裂き、勝利を得る事ができましたが……非常に納得のいかない勝利だったことは言うまでもないでしょう。

 あのガードナーの放つ威圧感は強烈だったので、最初から出されていたら間違いなく苦戦したか、敗北していた可能性が高いのですが……なんとも言葉にしにくい感覚です。

 私にとって、いえ、ほぼすべての人々(ティアン)にとって、<マスター>とは伝説上の存在と言っても過言ではありません。過去現在に存在したというマスター達を調べてもその偉業や功績は数え切れず、その能力、特異性どれを取っても“超人”という印象を拭えませんでしたが……それも仕方ないでしょう。それほどまでに<マスター>が持つ力と言うのは大きいのですから。

 

 このなんとも言えないモヤモヤとした感覚は本戦が始まってからも……いえ、本戦が始まってから、より強くなりました。

 本戦、第一回戦第二試合、私の試合の対戦相手となったのは長剣を携えた【剣武者】の少女の<マスター>。

 その身のこなし、剣の構えは実力を窺わせられる物で、私も先の試合以上に真剣に試合に臨んだのですが――

 

 彼女はなんと、試合が始まると同時に私に背を向けて走り――《封鎖結界》に向かってその剣を振り下ろし、結界を破壊してしまいました。

 おそらく、何らかの攻撃用のアクティブスキルを使ったのでしょう。あの長剣が彼女のエンブリオで、その固有スキルを使用したのだろうとは予想が付きました。

 そうでもなければ亜竜級モンスターと伍するか、或いは上回る耐久力を持つ《封鎖結界》が破壊される筈がないのですから(それでも、お父様が展開していれば破壊されなかった筈ですが!)。

 驚愕している私に追い打ちをするように更に展開が動きます。

 ――彼女はそのまま棄権を宣言したのです。

 

 確かに、結界の破壊には賞金が設定されていました。ほぼ不可能な条件であった為気にもしなかったその条件が。

 今までの不満が爆発し、つい我を忘れて激昂し、彼女に詰め寄ってしまいましたがそれも無理もない事……だと思います。

 賞金だけ手に入れられればもう用はないのかと、<マスター>として真正面から戦わないのかと、まともにやる気があるのかと――

 既に戦闘態勢を解除していた彼女はそれを聞いて驚いたような表情をした後、申し訳なさそうに謝罪してきましたが既に試合は終了していました。

 このやり場のない思いを何処にぶつければ良いというのでしょうか……!

 釈然としないまま、時間は過ぎて行き、今に至ります。

 

 願わくば、目の前の彼(ジーニアス)はせめてまともに戦ってくれると良いのですけど。

 

 

 

◆◇

 

 

『――両者、ルール確認が完了しました! 《封鎖結界》が展開されます!』

 

『それでは――“若葉の乱”本戦、第二回戦第一試合、始めぇ!』

 

 

 試合の開始が宣言されると同時に、挨拶代わりとばかりに小手調べの《透魔閃》が飛んでくる。

 【退魔師】の遠距離攻撃手段としては《魔弾》と並んで代表的なそれを横にステップして回避して――接近してきた少年の斬撃を剣で弾(パリィ)いて返す刃で反撃。

 

「そこですっ!」

「ッ!」

 

 だが、その一撃は当てる前にするりと素早く下がり、避けられてしまう。

 その上、相手の腕から魔力の光が――

 

「――《魔弾》」

「くっ……!」

 (織り込み済みでしたかっ!?)

 

 咄嗟に下がって回避するも、結局開始地点の位置に戻る羽目になってしまう。

 父より送られた着物によって物理防御力は高まっているが、魔法に対する耐性は殆どない為、まともに当たる訳にはいかない。

 例え【退魔師】のそう高くはない魔法攻撃力でもダメージが蓄積していってしまうだろうから。

 一度ダメージを貰えばオールラウンダーの器用貧乏である【退魔師】でここまで対処された相手だ。勝機を見出す前に斬り崩される未来が見える。

 

 

 ――そこまで戦闘に集中した思考で考えながらも、自然と微笑みが浮かんでしまうのを止められない。

 

 前二者との落差か、伝説に謳われる<マスター>との落差か。それとも逸る戦意が無意識に表情に出てしまったのか、常の稽古の相手ではない、見知らぬ相手との試合に昂って来たのか。

 

 が、今はどれにしたって構わないと思っている。

 何故なら――今まで溜まりに溜まってきた鬱憤を存分に吐き出せる相手が現れたという事に変わりはないから。

 

 

「ふ、ふふ……!」

「……何が可笑しいの?」

 

 どうやら笑みが予想以上に漏れていたらしい。流石に同い年くらいの少年に指摘されると少し恥じらいを感じてしまう。

 西白寺の女としても、それはいけない。とてもいけない。意識的に笑みを引っ込めて眼前の少年と対峙する。

 

「いえ、全力で戦う、戦ってくれる事が嬉しかっただけ、ですよ?」

 

「……? そりゃ、ここには戦いに来てるんだから当然だと思うんだけど」

 

 それはその通りだと、私も思う。

 これは武闘大会。未だ未熟な私達でも、全力で己の武と武をぶつけ合い競い合う為のその場所。

 確かに、大会の賞金を狙って参加する事も、参加条件を達成したからとモンスター相手と同じようなやり方で挑戦する事も私が否定して良い事ではない。彼ら彼女らはそれはそれで得る物があったのだろうし。

 しかし、折角の大舞台なのだ。【征夷大将軍】様が大会を開催し、お父様に言われ参加している私であろうとも全力を尽くして戦いたいというのは当然の想いの筈。

 故に。

 

「勿論その通りですっ! だから、アナタも全力で来てくださいね――!」

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 回避、接近、袈裟懸け、パリィング。

 鍔迫り合い――は避けて、フェイント、薙ぎ払い、アクティブスキルによる不意の一撃――

 

 試合が始まってから既に数分が経過している。

 互いが持つスキルを、技を、力を交わし合いながらも、まだ勝負は続いている。

 外側から、観客側から見れば拮抗した良試合の様に見えるかもしれないけど――実際の所、勝利の天秤は少しずつ少年、ジーニアスの方に傾いていた。

 

 

「予想以上に、早い……っ!」

「それは、皮肉かな……っ?」

 

 少年の《透魔閃》を避けながら口に出すが、それは偽らざる春香の感想だった。

 

 春香のメインジョブにして唯一のジョブは【華武者】。

 東方、天地における【貴剣士】と同一の特殊なジョブの一つではあるが、そのジョブの戦闘における特徴は一言で表す事が出来る。

 即ち、“速度、回避特化のAGI型前衛”だと。

 

 スキルには足裁きや回避力を強化する物や速さを利用したヒットアンドアウェイを可能とするアクティブスキルを習得する。

 特にそれらのスキルの中でも装備している防具による回避し辛さ(マイナス修正)を軽減、無効化する《フラワーステップ》が特徴的とされている。豪奢な衣服や着物を着用しての華麗な戦闘は見る者を惹きつける優雅さを持っている。

 

 春香のAGIも、カンストした【華武者】のAGIと父に渡された装備の補正を合わせて450を越える、レベルに対して非常に高いAGIを持つのだが……

 相手のジーニアスのAGIも、諸々の補正を入れて250弱まで上昇している。

 このAGI差でも実際の発揮速度に換算すると1.5倍もの速度差が発生するが……本来、器用貧乏なステータスを持つ【退魔師】を相手に想定するならば、相手がカンストのレベルを持っていたとしても2倍近い発揮速度の差となる筈だったのだ。

 低い知能しか持たないようなモンスターとの戦いと違い、高い知性と技量を併せ持つモンスターや人間を相手取る時、速度差とは非常に重い意味を持つ。

 反応速度、思考速度、行動速度、すべてがAGI(発揮速度)によってそれぞれ表されるのだ。その対処の難易度も全く違って来るのは当然というモノだ。

 想定していた2倍の速度差から実際の1.5倍の速度差。

 それこそステータスの桁が違うような最上位の実力者であれば誤差と割り切る程度の違いでしかないかもしれないのだが……ここではそうはならなかった。

 

 

 (この子、さっきよりも技の精度が――否、読まれてきてる!?)

 

 

 実際の発揮速度差1.5倍。それだけの差があれば、互いの持つ得物と技量と同等であれば勝負は既に決まっている筈だ。

 しかしそうはなっていない。

 初手の一合は容易く対処する事が出来たし、その後の剣劇でも相手は此方との速度差で防ぐ、避けるので手一杯だった筈なのに……それを繰り返してきた今、いつの間にか此方側が劣勢になってしまっているのだ。

 此方からの斬撃は次第に余裕を持って防がれる様になり、隙を見ての《魔弾》等の遠距離攻撃を避け切れずにダメージを蓄積されてしまった。

 体感では互いの戦闘技術にそこまで差はないと思っていたけれど、その想定も修正した方が良いかもしれない。

 いや、この試合開始時の感触では確かに差はなかった筈だけど――もしかしたら、あの技量を持ちながらもまだ……

 少なくとも、才覚は相手の方が上だと認めなければならないだろうと思う。奇しくも試合開始直後に危惧した通りの展開となってしまっている事に戦慄を禁じ得ない。

 

 (こうなったら……賭けに出るしかない!)

 

 自分の得手とする戦法で勝利する事を一旦頭の中から捨てる。

 邪道であろうとも手段を選ばず、自分の取れる方策を以て最後まで勝利への道筋を考え抜くのも、武芸者としての当然の思考。

 ならば――

 

 

 (――【退魔師】の弱体化(デバフ)魔法、《退魔封印》を誘って、一気に仕留めるしかない!)

 

 

 ――拮抗しているこの戦況を、敢えて崩して距離を開かせて《退魔封印》を狙わせる。

 ――そこで相手が攻撃してくるだろうけど、【退魔師】最大の攻撃手段、《斬魔剣》でもお父様から貰ったこの防具は貫けない!

 ――その隙を突けば、勝てる!

 

 

 《退魔封印》は【退魔師】が覚えるある種一般的とも言える弱体化(デバフ)魔法の一つだ。

 本来は【退魔師】が得手とする種族相手に特効が働き、下級職で覚える弱体化魔法としては強力な魔法の一つでもある。

 それだけでなく、【退魔師】が相手にする特定種族以外の対象にも多少ではあるが効果がある事も特徴の一つとして挙げられる。当然、その数値は他のジョブの弱体化(デバフ)魔法と比べれば明らかに貧弱ではあるのだが。

 しかし、実力がある程度拮抗している今の状況であればその多少の弱体化であろうとも天秤を崩す大きな要因となりえる。

 

 その崩された天秤を、敢えて相手の攻撃を受け止める事で利用する。

 父より渡された防具、【濃桜の衣 霧牡丹】の物理防御力は如何なる魔法によってか、上級職の防御スキルと比肩し得る程に高い。

 合計レベルも低い下級職の全力攻撃程度ではビクともしないその防御力を頼りに、弱体化魔法を考慮しても尚早いこちらの渾身の一撃を相手の攻撃に合わせれば――

 

 

 そこまで考え、相手の剣劇を大仰に後退し回避する。

 そして更に数歩後ずさり、息を整えて見せる。――《息吹》などの特別な呼吸法を行うスキルは所持していないけど、それで十分。

 

 

「――――《退魔封印》!」

 (――来た!)

 

 

 一休み、その隙を突き魔法の待機時間を完了させた少年の弱体化魔法をレジスト出来ずに、若干身体が重くなる。

 自分の術の成否の確認もせずに、相手は肉薄してくる。

 その相手の剣には、《斬魔剣》による魔力の光が集っていて――

 

 

「取りました!」

 

 相手の攻撃にクロスカウンターを決める様に、自分も全力のアクティブスキル、《ローズ・スラッシュ》を――

 

 

 

 ――叩き込もうとしたその直前、着物を容易く斬り裂いたその剣(・・・・・・・・・・・・・・)が自分の身体を斬った衝撃と熱を伴った痛みで中断された。

 

 (……え、なんで――)

 

 

 疑問を感じたその思考も、素早く切り返された次の刃で断ち切られ、意識が落ちると同時に試合終了の宣言を聞いた――

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「やー、やっぱりこうなったか。まぁ、これも愛の鞭という奴じゃな。仕方ないのぅ?」

 

「おいたわしや、春香お嬢様……これは、次の稽古の内容は決まりましたかね」

 

「そうなるだろうの! お嬢の癇癪が楽しみだのう!」

 

 試合が終了した後、観客席で先の試合について批評し合うのは敗北した少女の知己でもある二人の男、竜胆直寿と不動藤十郎だった。

 彼らは彼女の敗因……あの着物に付与されていたスキル(・・・・・・・・・・・・・・・)、《偽装隠蔽》に気付いていた。

 

 付与されているアイテムの説明やステータスを他の物に《偽装》し、そのスキル自体を《隠蔽》する複合スキル。

 本来であれば着物に似合わぬ軽さと敏捷性を強化する、その能力に見合った程度の低い防御力しか持っていなかったあの防具が、それを看破できない者からすれば重金属による全身甲冑にも劣らぬ防御力であると見せかけていたそのスキルだ。

 

 ……《偽装隠蔽》による防御力以外の能力は表示通りで、実際【華武者】に合った物であったから迂闊にも騙されてしまったのだろう。

 本人の能力と技量、戦法、そして時の運によって先の試合まで一撃も攻撃を食らっておらず、偽装が露見していなかった事も向かい風であったが……まさかドンピシャなタイミングでその《偽装》が牙を剥くとは。

 今頃は春香にあの着物を渡した自分達の主、【陰陽頭】西白寺泰央はどんな表情をしているのか……落胆、激励、驚愕、微笑、どれもありえそうで予想が立て辛い。

 あの類の偽装スキルは感知系統のスキルや《心眼》《看破》と言った特定の対抗スキルを習得するか、或いは天性のモノか長年で培われたモノかはともかく、“直感”で違和感に気付かなければ見破る事はできない。

 

 ――確かに、天地の武芸者として頂点を目指すなら、それに類する能力は必須ではあろうが、流石にお嬢の年齢じゃ厳しい物があったようだの。

 

 そう思考の内で先程の試合を締め括る。

 ならば次に気になるのは――次の試合。そして、その勝者達が激突する決勝戦だ。

 

「さて、次の試合は……まぁ、エンブリオの番狂わせがなきゃもう結果は見えてる様なもんじゃな」

「ええ、恐らくは……不動殿が見逃した最初の試合と同じ結果になるかと」

「なんじゃと!? 微妙に気になるじゃろうが!」

 

 二人の武芸者は、次なる新米武芸者達の活躍を期待しながらも囁き合う。

 その目に確かな力を籠めながら、新たなる時代の寵児となるであろう彼らの一挙手一投足を見逃さない。

 特に、マスターの力の象徴たるエンブリオやステータス――だけではなく(・・・・・・)

 既に結果が見えている次試合ではなく、決勝戦でしか見られないであろう、エンブリオとエンブリオの、剣と剣の、刃と刃の、技と技の、才と才のぶつかり合い。

 

 

 天性の才能を持った童の剣士と、天稟の剣才を持った童の剣士の一発勝負。

 この大白宮での武闘大会を締め括る最後の戦いを期待して待っているのだった――

 

 

 

To Be Continued…………




【陰陽頭】<竜王は我が子を暗闇の渓谷に突き落とすと言います……つまりそういう事です。


ステータスが更新されました――――

【華武者】:天地版の【貴剣士】。基本はAGI特化。次にDEXとSPが上がり、その次にSTRHPが上がる。多少はLUCも上がる。他は全く上がらない。
 見栄えの良い戦いが出来る様になる。が、天地では需要(修羅)に合わなかったのか就いている人は少ない。
 装備を選ばず戦闘ができるので公人で就いているがたまにいるらしい。

【鬼神武者】:【武士】系統【鬼武者】派生超級職。
 《鬼の生命》LvEXや《鬼の本能》LvEXと言った【鬼武者】の純粋強化スキルが多く、他にも《神通力》系統の特殊魔法スキルも多数追加されている為、術師の都である大白宮に招かれたのは本人としても都合が良かった。
 当然種族は鬼となっており、《鬼の生命》LvEX等の効果で長命化している。

《偽装隠蔽》:作成協力・隣の領の【超忍】(忍びの里の大名)



 不憫属性に微修羅にうっかりにロリにお嬢様って属性盛り過ぎでは……? と思わないでもない。
 そしてまた主人公の霊圧が薄い……まぁ次の試合はきっと主人公が頑張ってくれる事でしょう!
 
 次回、武闘大会編後編で序章ラストです!
 戦闘描写もっと上達したーい。
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