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人里離れた閑静な土地に、何かを抱いた人間が2人立っていた。
周りには木も草もなく、辛うじてあった大きい岩の窪みに その抱いたものをそっと置く。
「ごめんね…ごめんね。でももう母さんたちは貴方を…
育てられない」
Solo's lonely story
バタン、ブロロロ…と音が響き、窪みに降ろされた幼児(おさなご)は覚束ない足取りでそれを追う。
「おとーさん、おかーさん…」
齢4歳、今までは共にいたはずの父母を追う。
それもそのうち不可能になった。彼は近くの小石につまづいて転んでしまったのだ。半ズボンを履いただけの彼の膝は 何も妨げになるものがなく、直で傷を負ってしまう。
「う、ぅ、うわああぁん!!おとーーさぁん!!おかーさーーん!!ぼく、ばいばいやだよーー!!」
泣いたって誰もきてくれない。いつもは少し遅れてでも来てくれる母はもう、どこにもいなかった。
幼児はこの瞬間、一人になった。…たった4歳の子供が親元を離れ、一人で野生で生活するなどどう考えても無理であった。
「うぅ…ごめんね、ソロ…」
「…、まだ泣いているのか。俺たちはやっと厄介払いができたんだぞ」
「あっ、貴方!…何言ってんのよ、あの子が何者であろうとうちの子には変わりないのに…」
「何がうちの子だ。…俺たちは二人ともうっすらとムーの血を継いだもの同士だ。そんな俺たちの子供にまさか…あそこまで濃い血が流れるとは。近所にも散々疎まれて、あいつが熱を出しても病院は取り合ってくれなかったじゃないか。もういいだろう?」
「…、貴方って… もういいわ、分かった」
ソロ、と呼ばれた幼児を置いてきた2人であった。内容からするに どうやら両親のようだった。
それも、母親は慈悲深く いつでもソロを守ってきたのに父親の方はそうでなかった。
自分の子に「厄介払い」は無いだろう。
母、でなくなった男の妻は、一度言い出したら聞かない屈強な夫に逆らえもせず、心の中でソロに謝りながら去っていく。
彼を捨てることになったきっかけは、彼の体に色濃く流れるムーの血だった。
この2人はムーの血をうっすらとでも引いた最後のものたちだった。他は皆なにかで死んでいたのだ。自分たちは子供を作らず、このまま血と共に死んで代を終わらそうと考えていた夫にとって、妻の妊娠報告は辛いものがあった。だが妻は産むと聞かなくて、ムーの血が現れぬようにと必死で願うも虚しく 産まれたソロの身体には色濃く血が受け継がれていた。
自分たちは大人になってから漸く薄く見えていたウェーブロードなどがあの子にははっきりと見えている。ほんの赤ん坊の頃からきゃっきゃと笑ってデンパくんに手を伸ばしていた。それに、近所の子供と喧嘩した時も 体格は全然良くなかったのに彼は周りの子を気絶させてしまったのだ。しかも自分より2つ3つ年上の子を、数人まとめて。それを見た時、また血の強さを感じた。
年と共に強くなるムーの兆候に、耐えられないと2人は彼を捨てた。妻には躊躇いがあったが、屈強な夫に勝てるはずもなく(逆らったら殴られるのが常だ)、泣く泣く置いてきたのだった。
今頃あの子はどうしているだろうか。暗くなる辺りを見回し、彼らは家へと帰って行った。
一人取り残されたソロの暮らしは壮絶なものだった。
4歳の彼は泣き疲れ、岩に凭れて眠ってしまった。だが、疲れ果てぐっすりと眠る彼を上空から狙うものがあった。…鋭い目でじぃと見つめるそいつは大型の鷲だった。このままではこの幼い子供は簡単に死んでしまう。…もちろんソロはそれに気づくこともなくすやすやと眠り続けている。
ころりと寝返りを打ったところで、鷲がとうとう行動した。ソロに向かって急降下し出したのだった。 みるみるうちに距離を詰める鷲と、目覚めないソロ。あとソロまで3m、2m…
ガキン!
「!!?」
ソロは何事かと跳ね起き、目の前の事態に直面した。…自分の前に大きな壁のようなものができていて、目の前にはそれにぶつかった大きな鳥がいたのだ。
「…と、とりさん…?なぁに、これ…」
そういって目の前の壁…孤独になって初めて現れた電波障壁にそっと触れる。その瞬間、いとも容易くその障壁は崩れ去った。そして気を失った鷲がぼとりと地面に落ちる。
「…ぼく、ぼく…ばけもの、なのかなぁ…」
自身の身体に初めて「もの」として現れた電波障壁を見て、ソロは父や周りのものがいつも口にしていた言葉を繰り返す。化け物って、人間ではないんだって。ぼくは人間じゃないのかな。
とりあえず、鷲が目を覚まさぬうちにと賢いソロは岩場の奥へと逃げ込んで行った。
「はぁ…はぁ、ここまでくればだいじょーぶかな…? おなか、すいたぁ」
こそこそ隠れ、危機が去ったことを知ったソロはずるずると座り込んだ。辺りは真夜中で、普段ならとっくの昔に夕ご飯を食べているのに彼は食べていなかった。盛大に腹がなる。この音で見つかっちゃったらどうしよう、そう考えた彼は必死に体を折り曲げて音を消そうとした。…するとその岩場の奥から何かが聞こえてきた。
「…おみずの、おと?」
ぴょこんと跳ね起きてそろりそろりと奥へ向かう。たくさん泣いたから喉もカラカラだ。
しばらく歩くと、案の定岩から滴る水があった。ソロは夢中で駆け寄りその水を見つめる。
「おみず…のんでもだいじょうぶ、だよね」
彼の見たて通り、この水は純粋な地下水(彼は夢中で気づいていないが、岩穴…洞窟は緩やかに下降していたのだ)で、水道水よりも綺麗なものであった。ソロは小さな手を水滴の下に当てがい、水が溜まるのを待つ。
「わぁ、つめたい…でも、がまん」
…約一分後、水がたくさん溜まった。ソロは無我夢中で水に口をつけ、一気に飲み干した。
「…!おいしい…」
その後もそれを繰り返し、なんとか腹に溜まるまで水を飲んだ。
そして元いた穴の入り口付近にまで戻り、外を見た。
「あめ、ふってる…どこにもいけないや、ここでねなくちゃ」
お母さんの子守唄もない。たまに部屋にきて、捲れた布団を適当に掛け直してくれるお父さんもいない。布団がない、ふわふわベッドもない。あるのは固くて冷たい岩だけ。
「おとーさん、おかーさん…」
(ごめんね、ごめんね…)
身体を丸めて寝ると少しだけあったかいことに気づいた彼は、ちょびっとだけ涙をこぼして眠りについた。
ソロくん(4)が寝付いたところで止めておきます!
ソロくん、昔はちゃんとした性格だったと思うんです。お父さんはダメでもお母さんにはそれなりに愛をもらってたんじゃないかな、と。でもお父さんのせいで十分な愛情は受けられず、結局物心ついた頃に「自分は愛されない」ことを知ってしまうのです。
次もよろしくお願いします。ご感想等ありましたらお気軽に。