眩しい光が差し込む。少しだけ涼しい風が、まだ眠っている子供の頬を撫でる。その手を母の手だと思ったのか、その子供はふにゃりと微笑み寝返りを打った。
ごちん!
「ひゃあ、いたい…っ」
その子…ソロは突然の衝撃に頭を抑えて起き上がった。
「あ…、そっか、ぼく…ひとりになっちゃったんだっけ」
朝日が少しだけ差し込むその岩場からひょこりと顔を出したソロは、またもや自分が空腹なのに気がついた。…かといって食べるものなど、ない。
「…ひとのいるところにいかなくちゃ」
洞窟を出て、両親の出て行った近くにまで歩いて行ってみる。ただただ広く、草木のない場所。周りを見渡しても高く積まれた岩が並ぶだけ。そう、恐らくここは何処かの崖の下なのだろう。といっても上に重なっているだけだから他の場所との高度は変わらないのだが。
そんな中を数時間かけて歩き通し、やっと出てきたのが市場の裏だった。ちょうど昼過ぎ時なのか、ソロはそこの美味しそうな香りに釣られてフラフラと近づいていく。
「らっしゃいらっしゃい、そこの坊ちゃんもなんか買ってかないかい?試食どーぞ」
恰幅のいいおばちゃんが、ふらついていたソロに試食のバナナを渡す。ソロは目の色を変えて噛り付いた。
「おばちゃん、ありがとう!ごちそーさまでした!」
そういって去ろうとするソロの首根っこをおばちゃんが掴み、止める。
「坊ちゃん、お金は?買っていかないの?試食を食べたくせに」
「え!?…ごめんなさい…?でもおばちゃん、どうぞって…」
「つべこべ言わない!ここではねぇ、試食を食べたら買うのが礼儀ってもんなんだよ!分かったかい!?」
すごい剣幕で怒鳴り立てられる。ソロはただ、どうぞと言われたからもらって食べただけにすぎなかった。が、総じて貧乏な身柄のその種族にとっては試食を食べる=買うという式は暗黙のうちにあったのだ。
これ以上言われたら涙が出てきてしまう。とっさにそう判断したソロは、そこから逃げるように走り去った。
「待て!待て!この泥棒!ガキのくせに…!」
おばさんの理不尽な叫びが後ろから聞こえ、その意味はまだ分からず走る彼の心に深い傷を負わせた。
自分が何をしたか、と聞かれれば もらったものを食べただけ。ましてや4歳ぽっちの子供にそんなことをいうのは本来なら間違っているのだが…ここではソロよりもっと幼い子もそうして生きていた。
ソロが涙ながらに走り去る時、近くの残飯を漁る子供の集団があった。なんだろうと足を止めたソロに、振り返った子供達が興味深そうに聞いた。
「ようチビ、見ない顔じゃねーか」
「あ…うん、ぼくはソロっていうんだ。おかあさんたちとバイバイして、ここまできたんだ。もうおなかがぺこぺこなんだ…」
ソロは自分にも何か分けて欲しくてそんなことを口走る。
すると、その中でも一際残忍な目つきをした子供に笑われた。
「はぁ?…そんなん知るかよ、ここは弱肉強食なんだ…大人もガキも関係ねぇ!ってことでてめーが強くなって俺たちに勝ったりでもしたらここの食いもんも食えっかもしんねーけど、今はまず無理だろ。ていうかその前にお前、死んじまうんじゃねーか?」
ぎゃはは、という周りの笑い声に幼くて賢いソロは悟った。
あぁ、今までのような生ぬるい考えじゃ生きていけない。もう守ってくれる人は自分しかいないんだ。強くなればいい、強くならなくちゃ。
「…じゃあさ、ぼくとしょうぶしようか?ぼく、つよいんだよ」
幼ながらに悟った彼は、この瞬間から変わった。孤独を理解し、自分の身を守る術を身に付け始めたのだった。今までの表情にはなかった、気味悪い薄ら笑いを浮かべて眉根を寄せた彼の顔は…おおよそ四歳児にできる顔ではなく、残飯置き場の子供達に奇妙な思いをさせた。
「へっ、変な野郎…じゃあ遠慮はしねぇぞ…かかれ!お前たち!」
その声に合わせて残飯を漁っていた子供達が一斉にソロに襲いかかった。だがソロは動かない。
「…なんだこいつ、う 動かねぇけど…まぁいい、やれ!」
集団の拳が、足蹴が近づく。
その瞬間ソロはニヤリと笑った。
ガキィン!!
「「「「……??」」」」
「な、なんだとぉー!!?」
ソロが笑っていた理由がわかった。微動だにしない彼の前に突然、シールドが展開したからだった。
「てめぇ、誰に断って道具使ってやがる!正々堂々きやがれ!」
「おにーちゃんたちだってせいせいどうどうきなよ、ぼくひとりなのにおにーちゃんたちはたっくさんいるよね?」
「…ぐぅ、小癪な…てめぇら、ボコボコにしてやれ!」
「「「「おう!」」」」
ゴミ漁りをしていた集団が四方八方からソロに襲いかかった。前で殴りつけ、後ろから蹴りをいれる。ふらついたところを投げ飛ばす。だがそんな妄想はすぐに敗れ去った。
「はっ!」
ソロは前から向かう拳を軽く交わすと相手の懐に潜り込み、そいつの鳩尾に一発拳を見舞う。それと同時に後ろから迫る相手の顔面を蹴りつける。敵からすれば自分がよろける予定だったが、代わりにダメージを与えた相手を他の二人に投げつけ、また後ろから迫る相手にその反動で裏拳を食らわせる。全てがクリーンヒットして、その集団はべしゃりと道に倒れた。
「あ、あり得ねぇ…くっそおおおお!!」
指示ばかりしていた子供のボスがソロに殴りかかってきた。目の前で起きたことがにわかに信じられず、混乱しているのだろう。ソロはその手をとってあっさりと背負い投げした。どうあがいても完敗だった。
「…ほぅら、だからぼくはつよいっていったのに…」
ソロがふぅ、とため息を吐いて残飯に向かおうとすると、後頭部に鈍い衝撃が走った。ゴツン、と音がして、後頭部に小石をぶつけられたことがわかったのだ。…そういえば電波障壁は、自分の前面にしか現れなかったっけ。
「こいつ、化けもんだぜ!!俺たちを纏めて倒しやがった!信じらんねぇ…おっちゃんたち、懲らしめてやってよう!」
「!!?」
ソロが振り返ると、石を持った大人に子供がわらわらとソロに向かってきていた。ソロは一瞬足がすくみ、背を向けて走り出した。
「待て! 化けもの、泥棒! 」
「てめぇみてぇなのがいると困んだよ!消え失せろ!」
「死んでしまえ!二度と現れるな!」
わぁわぁという喧騒と共に石やら空き缶やらが投げつけられた。ソロはもう一度敵に向かい、電波障壁を発生させる。…が、電波障壁は一度しか効かず、少しでもタイミングがズレると簡単にソロの身体を石が襲った。
ガツッ!ガッ!ゴッ!
「いっ…!!」
額を割られた。昨夕転んだ傷を抉られた。もう無理だ、と悟った彼は背中を向けて全速力で走り去った。
背中や足にも沢山石を当てられ、ようやく人影を振り切った彼は よたよたとしながら元いたところとは別の岩場へと足を運んだ。夕暮れの陽がソロの背を暑く照らす。
歩く度に足首に激痛が走る。さっきは夢中で逃げていたため分からなかったが、逃げる際にバランスを崩して右足を捻挫してしまったのだ。そして目には額からの流血が入る。それを拭うこともせず、ソロはただ虚ろな目で岩の上に寝転んだ。
寒い。なんだか身体中が痛い。でも、それ以上に心にぽっかり穴が空いたみたいだ。
だって、あのお兄ちゃんたちは言った。俺たちに勝てたら、って。それなのに大人に頼った。
…そっか、“あいつら”はいっぱいいないと強気になれないのか。
残飯に最初に目を止めた時も、勝った後も、あいつらは集団でぼくのことをいじめたんだ。…でももうどうでもいいや、何だかすっごく眠たいや…
「ん…ふあぁ」
捨てられて二日目の朝、彼は自分の異変に気づくことになった。
近くにはまた丁度よく水が滴っており、その下に溜まった水と明るい太陽光が、ソロの顔の色をほぼ完璧に映し出す。
「え、な、なにこれっ…」
映し出された彼の髪は 雪のように白くなっていたのだった。
ソロの髪の毛は元々黒に近い灰色だったんです(捏造です)。漫画・ブラックジャックやD.Gray_manのアレンなどにも見られたのですが、ショックから髪が白くなるということはあるようです。ソロはそれなんじゃないかな、と勝手に考えた結果がこうなりましたwww
次話もよろしくお願いします。