・・・・・。
・・・・・・・。
目の前が真っ暗だ。
いやそれもそのはずだ。私は瞼を閉じているため目に光が入らないのだ。だが、両眼にいかぶさる皮膚を動かすことは叶わなかった。わたしの肉体は既に寿命を迎え、役目を果たしたのだ。
・・・・。
私が最後に見た風景は慣れ親しんだ家の天井と大きく育った従兄弟たちの泣き笑いだった。生涯独り身で終えてしまったが、時々遊びに来る子供たちと遊ぶ時間は楽しかった。両親よりも自分たちの娯楽に理解している私のところへよくきてたものだ。
「・・・・」
今の状態を一言でいうとするならば魂、といったところか。なるほど、これは死んでみないと分からないな。何も重みはなく、かといって私は消えたわけじゃない。『私』という意識はまだあるからだ。
『・・・・』
身体を動かそうと意識してみるが、やはり何も感覚がない。ただただ、浮遊する感覚があるだけだ。
ふっと身体中をこわばる意識を無くして私はこれからどうなるのか、漫然と考えていた。
(ごきげんよう、お目覚めかしら?)
・・・・・。
しばらくしてどこからともなく人の声がした。男性なのか、女性なのか、分からなかった。
(結論からいますと、貴方は健やかに天寿を全うすることができました。親族に看取られ、貴方の魂は仏様へ届けられるでしょう)
・・・そうか。楽土といったところかい?
(ええ、そうなります。まだまだたどり着くには時間がかかりますが)
・・・わかった。
いったん会話を終えて一区切りした。いや、実際には口は動かしていないし、口があるかも正直分からなかった。
(ですが、貴方の心の中にたった一つ小さな物が残っていますよ?)
・・・もの?
(『心残り』、ともいうべき存在です。それが形として見えます。今まで私が出会ったヒトの魂に多かれ少なかれあったもですから。)
・・・そうかあなたには私の『心残り』が見えるのか。
(そうですよ。その人がもう一度やってみたいと思うほど現れます)
・・・私のやりたいこと、か・・・。
ふわふわと浮きながらも意識が保てる間に声の主へあることを聞いてみた。
一つだけあるにはある。
(何でしょうか?)
私には過去一度だけ面白くて何度も繰り返し見たアニメがあった。夜な夜な録画してははまったものだ。かなり期間がたって続編が出るとかないとかの話があったがその時にはもお別の趣味に熱中していて見る気がしなかった。
(・・・。)
だが今でもあのアニメに出会ってよかったなって思う。そして叶うのならばその物語の続きを見てみたい。・・・なんて、死んでしまった私には無理なことですが。
(いいえ、それが唯一の『心残り』であるならば私がその物語へ導て差し上げましょうか?)
・・・本当にそれが可能ですか?
(勿論です、それくらいならばお安き御用です。・・・それがあの子たちの願いですもん)
?・・・なにか言いましたか。
(いいえ、なにも。貴方の過去の行いが良かったので問題ないと言ったまでです)
そうか、それならば安心しました。
(もしよろしければ、その物語へ行くときに何かほしいものはありませんか?)
それは能力とか目に見えないものでなく、財産とか目に見えるものでもいいですか?
(カタチあるものであればです。ただしこちらにも限度はありますが)
そこまでの会話で男は死の喪失感よりも自然と温かい気分に包まれた。
では、お願いしたいと思います。私が見たい物語と貴方に付与してもらいたいのは―――
男が声の主にどこへ行きたいのか、何を欲しているか伝えた。
(それでしたら私のお力で叶えることができます。)
こちらこそありがとうございます。私一人のためにこんな贅沢なことを叶えてもらえるなんて思ってみませんでした。大切に過ごします。
(どういたしまして。・・さっそろそろ時間がきました。どうかよい旅を。)
ふたりの会話は途切れ、男は意識失った。声の主が男の魂を手の平で包み吐息を吹きかけると魂はふわふわしながらも旅立った。
「なあ姉ちゃん、これおじさんが見ていたアニメの続編じゃないの?」
「あ、ホントだ。二期から二年たってたんだ」
「だねー。おじさんと一緒に見たのはコレの前までだったけどあの後引っ越しが忙しくてもお見なくなっちゃんだよね?」
「うんうん、おじさんも会社のことでごたごたしていたし。結局一緒にみれなかったね」
「姉ちゃん、もしこのあと時間あるならこれ借りて見よ?せっかく姉ちゃんといれる間に見てみたいんだ。おじさんも見たかったんじゃないかなーって」
「お、そのアイディアいいね。でも一気に全部は見れないから今日はこの3巻でいいね?」
「うん、今日は僕が出すからその後の3巻ずつ姉ちゃんと交代でだそう」
「りょーうかーい、じゃあこれあんたがカウンターにもっていってね」
「うん」
とあるふたりの姉弟が長期休みを機に実家へ帰省していた。そしてあるレンタルビデオ店で偶然にもそのアニメをみつけ久しぶりにその物語の扉を開けてみることになった。
そのタイトルは・・・・
『魔法少女リリカルなのはStrikerS』
書いてみると前座が思った以上に長くて済みませんでした。でも書くって楽しいですね。