【更新休止】Doppelter Gedanke Alchemist   作:APOCRYPHA

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第十五話 理由

「……理由?」

 

「はい、理由」

 

 唐突にやってきたノイエンミュラーは己の問いにそう返す。

 なんでも、己が何故錬金術士になったのかを知りたいらしい。

 

「また、随分と唐突だな」

 

「あはは……」

 

「笑って誤魔化しているが……いや、まあ良い」

 

 先日もシスターイービスの説教でまた世話になった身だ。聞きたいと言うのなら大抵の事は答える義理ぐらいはあるだろう。

 

(……実際、看病しようとしたシスターイービスに回収されたら冗談抜きに日常生活処か生命維持に支障をきたしそうだからな……)

 

 ……そう思ったのだが―――

 

「あ、教えてくれるんだ……」

 

「……聞いておいてそれか?」

 

(……全く、聞いておいてその反応はどうなんだ……?)

 

 まるで『教えてくれるなんて思ってもなかった』と言わんばかりのノイエンミュラーに思わず白い目を向ける。

 確かに義理も義務もない身なら教えなかったが、シスターイービスの件で己がどれだけ感謝しているかをこの女は自覚していないようだ。

 己は少なくともノイエンミュラーの問いにはなるべく答えるし、共に何処かへ行こうと誘われれば『プラフタ』の事を抜きに大抵の所には着いて行くと言うのに……いや、まあ、それは良い。

 

 『冗談ですって! わー、どんな理由なんだろう!』 等と態とらしく声を上げているノイエンミュラーを黙らせて、己は錬金術士になった(錬金術を職務にした)理由を答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、理由だったな……」

 

 そう言って、左手で顎に触っているアインさんはあたしの居る後ろに腰を回して向きながら、右手で持った杖で釜を掻き回している。

 

(これで、アインさんが錬金術士になった理由が分かるんだね……!)

 

 突然こんな事を聞きに来たのは、プラフタと錬金術を始めた理由を話したのが切っ掛けだ。

 あたしはおばあちゃんみたいに皆から頼られる錬金術士になりたい。

 知識の大釜が欲しいのはその為の手段であって、それが目標と言う訳ではないのです!

 

 ……で、おばあちゃんを除けば一番身近な錬金術士のアインさんはどうして錬金術士になったのかが気になったという訳だよ!

 

「……ふむ、そうだな。お前には知る権利があるか」

 

「……?」

 

「付いてくると良い」

 

 話があると言ったアインさんは、何時の間にか出来ていた三色の紙(?)に包まれた飴を手早く錬金釜から取り出して袋に詰めると、仮設だと言うアトリエの扉を開いて外に出て行く。

 

「…………」

 

(相変わらず、不思議だなぁ……)

 

 アトリエの外では今でも、大工道具達が独りでに動いてトンテンカンと木材や石材に見たことのない金属を使って何かを建てている。

 アインさんは『プラフタには劣る粗末なもの』なんて言ってたけど、今のあたしにはその仕組みは分かりそうにない。

 

 そのまま近くの森の深い、モンスターも少し出てくる辺りまで来た時

 

「……ふむ、まあ……ここで良いか」

 

 そう言って、アインさんは立ち止まる。

 いよいよ、アインさんが錬金術士になった理由が……ごくり

 

「以前、少しだけ話したと思うが、己は錬金術での魂への干渉を目標としている」

 

「えっ」

 

「……ん?」

 

「ああいえ、なんでもないです」

 

 あたしはそんな事聞いたかな? と思ったけど、それを聞いたらすごく話が脱線しそうな気がしたから、とりあえず話を進めてもらう事にする。

 『そうか?』 と言いながら、アインさんは無表情を苦々しそうに歪めながら言葉を続けた。

 

「記憶が無い故、己は己が錬金術を学んだ理由を知らぬが、何故錬金術士をしているのかなら答えられる」

 

「それは、己の中のもう一人の己を消し去る事……それが出来なくとも、無力な器に封印する事だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……肝心な時に出ない、か

 いつもいつも、要らぬ場面にばかり現れよって……

 

「……おのれあの腐れ外道が」

 

 なんとしてでも切り離してやるぞ……手足を敢えて作らないでおいたホムンクルスは……ダメだな。純粋に己の技術が足りない上にそもそもどうしてそれで完成するのかがさっぱり分からん。なんとか出来るかもしれない劣化版も素材の一番肝心なものが無い。

 

「……なんと言うか、流石に己もへこむぞ……完全になんか誤解されたっぽいし」

 

 どうにもノイエンミュラーは己の話を冗談か何かかと思ったらしく、『話し難いのなら、いつか話せる時がきたら教えてください!』 等と言って己の弁解には聞く耳を持たず、なにやら納得がいったと言わんばかりの生温かい眼差しを向けながら無駄に温かい笑顔で去っていった。

 とりあえずお茶を濁す為に出来上がったおやつの錬金キャンディを半分くれてやったが……

 

【お前も良くやるなァおい】

 

「黙ってろ」

 

【我を封印? 消去? あっはははは!! やれるってんなら殺ってみろよ虫けら?】

 

 ……急激に気分が悪くなるのを感じる。

 とりあえず残りのキャンディを1つ口に入れて転がすが、甘い筈のキャンディが尋常じゃなく不味く感じるのはきっと、これの所為なのだろうな……

 

【そもそもだ、ワタシが貴様の為に動くと思っていたのかァ? 思ってたんですかァ?】

 

(ウザイ)

 

【ぎゃはははははっ!!!】

 

 …………ああ、もう良いや。今日はもう寝よう。

 

 なんだかもう色んな意味でやる気のなくなった己は、とりあえず1割くらい出来てるアトリエの建設状態を確認した後、仮設アトリエの中にあるソファーに座り込み眠りに就いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――って事があったんだよ!」

 

『そうですか』

 

 ソフィーはアインのアトリエ……正確には、錬金術の失敗で爆散したアトリエを建て直す間での仮設アトリエから帰って来て早々に、そこであった事や見聞きした事を錬金釜を掻き混ぜながら聞かせてきたのでした。

 それらは中々に興味深い話しで、特に今ソフィーが舐めている飴はなにか特殊な効果の付与された錬金術の産物のようですが……なんとなく、失った記憶を刺激してくるのは何故なのでしょう……

 

「プラフタ、アインさんの事をちょっと警戒し過ぎじゃない?」

 

『ソフィー、あなたは初対面でいきなり分解させてくれ、皮膚だけでも良いから……なんて言ってくる人を警戒しないでいられますか?』

 

「うっ、それを言われると何も言えないんだけどさ……」

 

 ……まあ、思い出せない事は良いでしょう。

 ソフィーは私がアインの事を警戒しているのが気になっているようですが、私から言わせれば初対面でいきなり分解させてくれなんて言う者を警戒しない方がおかしいのです。

 しょんぼりしているソフィーには悪いですが、私がアインのアトリエに出向くとすれば襲われても返り討ちに出来るようになるか、そうしなければならない時くらいでしょう。

 

『……まあ、そうですね。何時かはアインともゆっくり話をする時が来るかもしれませんね』

 

「……! うん!」

 

『あ、ソフィー、そこは左に回すのが正解ですよ?』

 

「えっ? わあああ?! 煙が出てる!?」

 

『慌てず落ち着いてください。浅く左回りに杖を回せば失敗はありません』

 

「う、うん! えーと、左に浅く左に浅く……」

 

 ……まったく、危なっかしい。

 ですが、ソフィーの顔を立てると思えば……魂への干渉やもう一人の自分等、どうにも気になる事を言っていたようですし、一度くらいなら良く話し合うのもアリなのでしょう。

 

「きゃあああ?!」

 

『ああ、もう……そこは前後に深く掻き回す!』

 

「わ、わかったよ!」

 

(…………それとは別に、アインを呼び出してソフィーに錬金術の指導をさせた方が良いのかもしれません……)

 

 そう思いながら、私は煙を上げる錬金釜を前に慌てるソフィーに正しい掻き回し方を伝えるのでした。


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