【更新休止】Doppelter Gedanke Alchemist   作:APOCRYPHA

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第二十一話 錬金術

 ここはキルヘン・ベルの北に在る岩こぶ山の麓にある山道から少し西の拓けた土地

 登山家や冒険者がそれなりに居るらしい道から離れている為に人通りもなく、人通りが無いからこそまともに整備もされずに近くの山から降ってくる大小様々な大きさの岩が点在するこの場所は、己が爆弾の試しをする時に来る秘密の場所だ。

 

「完成だ……!!」

 

 その秘密の場所で己は、通常よりも一回りは小さなフラムを投げた結果である元は4mを越える巨大な大岩だった石塊を前にして歓喜にうち震える。

 このフラム―――便宜上ミニムとでも呼ぶべきか? ―――は、通常のフラムではない。

 特殊な錬金釜を用いて十数個のフラムを1つに圧縮し、オリフラムに匹敵するまでに破壊力を高めた逸品なのだ。

 

「まあ、そんな真似をする位なら素直にオリフラムでも使えと言う話なのだがな」

 

 冗談でも比喩でもなく、費用対効果と言う点で見ればフラムを十数個も使っておいてオリフラム()()の威力にしか出来ないなら、材料に使ったフラムをそのまま使った方が基本的には余程有益だろう。

 その例外に相当する状況も、一定以上の知能を持っている長く生きた獣や上位の魔族、野盗を相手に不意を突くと言った使い方だ。長旅でもしない限りはこんなものに出番はないだろう。

 

「もう少し繰り返して技術が習熟すれば使うフラムの数も減らせるだろうが……まあ、問題はあるまい」

 

 そもそもな話、己の本当の目的は不意討ちに使える爆弾を作る事ではないのだ。

 使ってみて奥の手に使えそうだから幾つか常備しておこうとは思ったが、本題は飽くまでも奴を押し込める事が可能なだけの器を用意する事なのだからな。

 

「実験は成功だ。後はアトリエでノイエンミュラーに頼んだインゴットを待つとしよう」

 

 そして、その願いは叶う。

 魂を選り分けて抜き取る道具は生きてる大工道具を作るのに使った道具を改造した事で既に完成しているし、最悪魔法で強引に引き抜いてもいい。

 出来る限り強引に魂を引き抜くような真似はしたくないが、その程度の覚悟もなく奴を切り離す事が出来るとは己は思えないし、例え半身不随の憂き目に遭ったとしても―――否、最悪死んだとしても、奴と切り離された上でなら本望だ。

 

 それでも今までそれをしなかったのは、奴を切り離すなら必ず()()()()()()()()と、思い出せないでいる記憶の奥底からそんな警告が流れ込んで来るからだ。

 謎の警告に逆らえず、適当に作った器に入れようとした瞬間に爆散したのは何時だったか……

 

「ああ……だがそんな苦労からも解放される……」

 

 そう、そんな苦労も最早これまでだ。ノイエンミュラーから頼んだインゴットが届きさえすれば、そして己が立てた推論が間違ってさえいなければ、己の苦労は報われ、奴の騒音に悩まされる事もなくなり、突然起きる暴走を恐れて街から離れた場所で暮らす必要も無くなるのだ。

 

「はハ、はhaハ……はhaハははhaハ――――」

 

 そうして己は、アトリエへの帰路に着く。

 

 ……暗い歓喜に振り回され、喜び勇んで進んだその道が自滅への第一歩とも知らずに――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――きなさい! ソフィー! いい加減に起きなさい!!」

 

「うわわっ!?」

 

 大きな声と共にあたしの身体を覆っていた温かい布団が剥ぎ取られ、勢い余ってベッドから転がり落ちる。

 ビターン! と音を響かせて冷たい床に落ちたあたしは、布団を剥ぎ取って心地いい眠りを妨げた犯人のいる方に目を向ける。

 

「いたた……ちょっとプラフタ、もう少し優しく起こしてよ!」

 

「優しく起こして起きなかったからこうしただけです」

 

 ぐぬぬ、それを言われると言い返せない……

 

「そもそも、もうこんな時間なのですが……時間は大丈夫なのですか?」

 

「えっ? 確か、約束の時間は10、じ………………あっ」

 

 時間は大丈夫かってプラフタに聞かれたあたしは、二つ並んだベッドの間にある小箪笥の上に置いた時計を見て顔を引き吊らせる。

 ハロルさんのお店で買ったそれは11時を示していて、10時なんてとっくに過ぎていた。

 しかも、目の前の窓からは結構強い光が射し込んできていて、今が朝ではなくお昼頃だと強く主張している。

 

「あ、あわわ……?!」

 

「まったく、昨晩遅くまで調合を続けているからですよ? アインも全部揃えなくて良いと言っていたでしょうに……」

 

 横でプラフタが何か言ってるけど、あんまり頭に入ってこない。

 いや、そんな事より……

 

「ね、寝坊したーーーーー!!!」

 

 ええと、着替えは普段着のまま寝ちゃってたから要らない! 調合した金属の入ったカバンはそこに有るアインさんから貰ったバッグを参考に調合した『妖精カバン』を持てば良いから問題ない!

 

「軽く寝癖を直してと……行ってきます!!」

 

 なんだかんだで殆ど準備が終わってたのを確認したあたしは、最低限の身嗜みを整えると直ぐ近くに置いてある杖と妖精カバンを持って慌ててアトリエを飛び出した。

 

「あ、ちょ…聞いているのですか! ソフィー! ソフィー?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、ソフィーは……」

 

 すごい勢いで慌てて飛び出したソフィーの姿は、錬金術で作った靴の力で既に開けっ放しの扉からは見えなくなる程遠ざかっていました。

 その落ち着きの無さに少しだけ、呆れながら扉を閉めた私は、この2週間の事を思い出します。

 

 この2週間、ソフィーはアインからの依頼に出来る限り応えようと釜を回し続けていました。

 最初こそ同じ物を沢山作るのに慣れていなかったソフィーは苦戦していましたが、3日でインゴットを作り終え、5日目にシルヴァリアを十本程作った辺りからは段々とコツを掴んできたのか、一度の調合で作れる量が1本、2本と増えていき、昨日の夜遅くには、私の予想を超えてインゴットからゴルトアイゼンまで、合計100本の作成達成と言う快挙を成し遂げていました。

 

 とは言え、それだけの時間錬金術を使い続けたソフィーは流石に色々と限界だったようで、家事を色々とこなしながら横で見ていた私に『9時に起こして……』とだけ言って、気絶するように倒れて眠ってしまいましたが

 

「私が錬金術を使えれば、ソフィーの負担もかなり減らせたのですが…………」

 

 どうにも、身体が人形だからなのか、それとも無くした記憶の中で何か遭ったのか、今の私は錬金術をまともに使えないでいます。

 知識は新たに学んだ事や思い出せた範囲までなら問題なく、技術もこの身体に変わって直ぐならいざ知らず、ある程度慣れた今となってはぼんやりとしか思い出せていない500年前(当時)に見劣りしない程度までは再現できている筈なのです。

 

「にも拘らず、うに袋や山師の薬より難しいものを調合しようとすると爆発してしまうのはどういう事なのか」

 

 爆発はする事から考えて、()()()()()()使()()()()と言う事はない筈なのです。

 基本的に錬金術は才能が無ければどれだけ正しい手順を踏もうと目的の道具になる事はなく、ただの特殊な溶液とその溶液に濡れた金属や木片等の投入した材料にしかならない筈

 

 それは虫食いの記憶の中、何故()()()()()()()()()()()()は知りませんが、何かのカプセルの前で確認していた資料からしてまず間違いではないでしょうし、その資料が正しければと言う講釈こそ付きますが、爆発と言う錬金反応を示している事から錬金術を行使出来ているのは確かです。

 

「なら一体、何が原因で錬金術がまともに使えなくなっているのか……」

 

 分かりません、分かりませんが…………ひょっとしたら……

 

「…………いいえ、止めておきましょう……ええ、今の私は錬金術が使えない。それで良いではないですか」

 

 だから、ソフィーとアインの二人を見て、妙に頭が痛むのも、疼くのも、虚しくなるのも、気の所為に決まっています。

 きっと……ええ、きっと………………

 

 

 この時、私がもう少し深く、失くした記憶を思い出せていれば、未来は変わっていたのでしょうか?






所で、この時プラフタって錬金術使えたんでしたっけ?(手遅れ)

…………使えたらどうしようorz

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