君と過ごす16度目の春に   作:楠富 つかさ

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 スーパーで買い物を終えた二人は氷見家に帰ってきた。花園家と氷見家は隣同士であり、愛真は料理が出来るようになって以来、茜のために夕食を氷見家のキッチンで作っている。最初のうちは茜が花園家に来ていたのだが、愛真の両親も家を空けがちになったため、キッチンの広い氷見家で料理をするようになった。

 

「キャベツ安くてラッキーだったね」

 

冷蔵庫へてきぱきとキャベツ、鶏肉、牛乳、マカロニサラダを入れていく愛真。パスタの乾麺やソース、ツナ缶などはそれらを備蓄している場所に日付を確認しながら並べていく。料理が出来るとは言え愛真もまだ十五歳。パスタはとても重宝している。

 

「今日は何パスタ?」

「うー? 春キャベツと鶏胸肉のペペロンチーノだよ!」

「おお、何かオシャレな響させてんな」

 

とは言え、パスタとキャベツを茹でて市販のパスタソースを絡めつつ鶏胸肉に火を通すだけだから簡単ではあるのだが。

 

「ふぅ。仕舞い終わったから私、家でお風呂の仕度をしてさっと入ってきちゃうね。夕飯は七時くらいだから茜ちゃんもお風呂とかその辺済ませておいてね」

 

愛真がそこまで行ってリビングを出ようとした時、ふっと茜は愛真の手首を掴んでいた。

 

「あ、あのさ。お風呂って言われて思ったんだけど……その、愛真の家でお風呂湧かしてあたしの家でもお風呂湧かすって何か勿体なくねーか。だから、えっと……な?」

 

しどろもどろになりながらも茜は言葉を続ける。

 

「今日は風呂あたししか入らないし、諸々持って愛真の家で風呂入ってもいいか?」

「え? あ? えっと、あーうん! そうだね、世の中エコだもんね! いいよ、一緒に入ろう?」

「……え?」

「え、あ!?」

 

茜の勇気を振り絞ったその発言に、理解が追いつきそうで追いつかなかった愛真が底知れぬ墓穴を掘り茜も再び思考が停止する。愛真も頬を紅く染め口をぱくぱくさせるが言葉は出ない。そんな愛真を見てしっかりせねばと意識をしゃきっとさせた茜は、うわべだけは冷静そうに装って、

 

「一緒に入るか。中三の修学旅行じゃ一緒に入ったもんな。うし、着替えとタオル持ってくるわ」

 

そう言ってリビングを出て洗面所へ向かった。洗面台の水道で水を思いっ切り出すと顔をばしゃばしゃと洗い文字通り頭を冷やす茜。

 

「うぉー愛真の全裸ぁー!」

 

愛真に聞こえないよう小声で叫ぶという器用なことをしながら確実に本人に聞かせられない内容を叫ぶ。確かに修学旅行の時、二人は同じ湯船に入ったがクラスの女子ほぼ全員が入っているわけで愛真をジロジロと見ることは叶わなかった茜にとって千載一遇のチャンスなのだ。ただ、愛真からああいう状況とは言え誘われたことがますます茜を浮かれさせていた。

 

「さて、下着とタオルとジャージ……いや、ジャージでいいのかあたしよ。……せっかく愛真と二人きりなわけで……パジャマをだな……あーだめだ、ジャージしかない」

普段から格好いいと形容させることが多い茜だが、愛真が相手だとどうしても恋する乙女のような一面が覗いてしまい格好良い自分を通せないのだ。今度も可愛らしい花柄のパジャマを着て水玉模様のパジャマを着た愛真とそれこそパジャマパーティーのようなきゃっきゃした雰囲気を妄想したのだが、自身が寝間着として着ているのはジャージしかないことを再確認しがっかりした茜は、結局それらを持って洗面所を出て愛真と合流し徒歩数歩の近さにある花園家へとやってきた。

 

「お風呂抜くとこからだからテレビでも見て待ってよっか」

 

愛真の父親は夜勤、母も飲食店で仕事をして家には愛真と茜の二人きり。テレビを見ながら茜はかなり緊張していた。反対に愛真は腹の据わった様子であり、茜にジュースを出すと自分も隣に座って飲み始めた。

 

「じゃ、お風呂洗ってくるね」

 

そう言ってお風呂場へ向かった愛真を見送ってから茜はジュースを呷って一息ついた。

 

「なーんであんなに堂々としてられんだよ……。ったくあたしばっか恥ずかしがって余計に恥ずかしいだろうが」

 

天井を見ながらネクタイを緩め大きく伸びをすると両頬を叩いて吹っ切れたような表情をする。凜としたその面持ちは愛真が恋した茜のそれであり、お風呂を沸かし始めリビングに戻ってきた愛真は心のときめきを抑えられなかった。

 

「あ、そうだ。明日は何食べたい? お弁当で」

 

少し声を弾ませながら茜に尋ねると、茜は少し考えてから玉子焼きが食べたいと言った。

 

「ん? 今日も入ってたけど、明日も?」

「あぁ。愛真の玉子焼きは美味しいからな。甘さも丁度いいし」

 

愛真が茜のために作る玉子焼きは自分が好む味付けより少しだけ砂糖を少なめにしている。陸上競技をやっている茜のために身体にいい料理を心がけているし、塩分もこまめに調整している。

 

「……毎日食べたいくらいだ」

 

そう恥ずかしげにボソッと呟いた茜の声を、愛真は聞き取っていた。好きだから、か。何も言えず頬を染める愛真は茜が座るソファの後ろにいるため、茜からはその姿は見えない。

 

「あとそうだ、来週には部活に参加してるだろうからレモンの蜂蜜漬け欲しいかな」

 

短距離を専門とする茜は手足の長さに恵まれ、スタートやフォームの技術も身につけてきた。ただ体力はそこまで無く疲れやすい点において悔しい思いをしていた。それを知った愛真は諸々調べてレモンの蜂蜜漬けを作るようになった。それを茜はとても喜んでしばしば頼むようになった。そんな話をしている間にお風呂が沸き愛真から茜を誘って脱衣所へ向かった。




次回はお風呂回です。

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