君と過ごす16度目の春に   作:楠富 つかさ

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#4

「ハンガー用意したから制服はここにかけてね。洗濯、こっちでしておこうか?」

「あーいや、大丈夫だ。袋持ってきたから」

 

手渡されたハンガーにブレザーをかけ、備え付けの洗濯バサミにスカートを吊す。ブラウスだけの姿になった時点で二人の姿ははっきり変わってくる。背は小さいが胸の大きい愛真は元から丈の短いブラウスが胸に布地をとられその白い太ももをほとんど覆っていないのだ。なんなら可愛らしいピンクのショーツがちらっと見えてしまうくらいだ。一方の茜は元から丈の長いブラウスがすとんと腿まで覆っている。そこはかとない虚無感を感じながらブラウスのボタンを一つずつ外す茜。愛真もそんな茜の視線をうっすらと感じつつも同様にボタンを外していく。茜は二つ三つと外れていくボタンをついつい目で追い、四つ目が外れると耐えきれなくなり目をそらした。クォーターカップのブラジャーから覗く深い谷間を直視出来なかった。

 

「な、なぁ愛真。あたしと愛真って食べてるもんにそんな差はないよな?」

「え? あ、うん」

「この胸の格差は何なんだろうな……」

 

遺伝です。もしくは運動量。そんな事実を愛真は口にせず、

 

「そんなこと言っても茜ちゃん、大きかったら走りづらいと思うよ。私は走るのつらいし痛いし」

 

そう返す愛真。小学生時代はぽっちゃりしていたために運動を嫌っていたが、第二次性徴を迎え女性らしい体つきになるとそれはそれで運動を嫌がる理由になってしまった。茜に恋しているとはいえ、男子からの視線は気になる。一時は身体に合わない小さなブラをしていたが、茜の愛真らしくしていればいいという言葉に心をうたれ、きちんと選ぶようになったのだ。やっぱり胸が大きいと走るのに不利だよなぁと再認識しながら愛真の言葉を聞いていた茜なのだが、ブラウスを脱ぎショーツと同じピンクのブラに包まれた愛真のおっぱいをしげしげと見ながら呟く。

 

「そりゃ分かっちゃいるんだがな……。羨ましいもの羨ましいわけよ。で、さ。何カップ?」

「ふぇ? あ、えっと、その……Dカップになりました……」

 

驚きながらも茜に隠し事をしたくない愛真は素直に答える。茜はそれを黙って聞くだけ。心の中では触りたい揉みたい揉みしだきたい煩悩にまつわれているわけだが、実際にはそんなこと言えないし出来ないのが茜なのである。

 

「いい加減入るか。春先つったって流石に冷えるし、な?」

「あ、うん。そうだね! 入ろっか」

 

全て脱いだ二人は浴室に入りまずシャワーを浴びる。軽く流すと二人揃って湯船に入るのだが……。

 

「そ、そうだ。明日のお弁当に玉子焼き以外で何か欲しいものある? お夕飯でもいいよ」

「え? あ、っと……任せるよ」

 

そんな新婚夫婦みたいな会話を繰り広げる二人なのだが、浴槽で背中合わせに座っている状況は何ともこそばゆいものである。お互いにお互いの裸を見るのも躊躇ってしまうのだ。愛真にとって茜のスレンダーで引き締まった肉体美は憧れそのものであり、茜からすれば愛真のその女性らしく豊満な体つきは憧れそのものなのだ。

 

「「……」」

 

沈黙は重いが苦しくはない。そんな空気が二人の関係性を表しているように感ぜられた。浴槽に張られたお湯よりも触れあう背中の温もりを強く感じていた二人。愛真も茜も入るまでの緊張をすっかり忘れまったりとした時間にたゆたう。二人が同じタイミングで上を向くと、こつんと小気味いい音を立て頭がぶつかる。

 

「っふ」

「あはは。茜ちゃん、髪洗ってあげる」

 

湯船から一足先に出た愛真が茜に風呂椅子へ座るよう促す。言われるがまま座った茜の後ろからシャンプーを出そうと愛真が腕を伸ばす。その時。

 

――ふにゅ――

 

柔らかな感触が茜の背後にやってくる。一瞬であったため愛真は気に留めなかったが茜はそうもいかなかった。顔をますます紅くする茜を鏡越しに不思議に思いながら泡立てたシャンプーを茜の髪に乗せる愛真。やわらかな手つきで茜の短く少しだけ硬い髪を洗っていくと、茜はすっかり表情を蕩けさせていた。その表情と同じ柔らかな口調で、

 

「なぁ、愛真は髪伸ばさないのか?」

 

と尋ねる茜。その言葉にちょっとだけムッとする愛真。なにせ昔は伸ばしていたのに、中学の文化祭準備でペンキを飛ばしてしまい思い切って切ったのを、茜が可愛いと言ってくれたからそれ以来セミロング程度の長さに切り揃えているのだから。とは言え、茜からすればどんな愛真も可愛いわけで、久々にロングヘアの愛真を見たいという気持ちが湧くのも自然な流れなのだ。

 

「じゃあ久々に伸ばしてみようかな。茜ちゃんも伸ばさない? スポーツ選手が願掛けで髪を伸ばすことがあるって前に聞いた気がするんだけど」

「うーん、そういう願掛けをする人もいるんだろうけどさ、あたしからすりゃどんな願掛けよりも愛真の応援の方が心強いからいいわ」

 

それは紛れもない茜の本心であると同時に、滅多に言えない本音である。こうした弛緩した空気のなかで溢れたその言葉に、嬉しさがこみ上げて表情の緩みを隠しきれない愛真だったが、それを恥ずかしがって、

 

「泡、流すから目瞑って」

 

その表情を茜には見せないようにした。隠したくはないけれど見せなくないのもまた、乙女心であるのだ。シャワーからお湯を出すとシャンプーの泡を流しきると今度はリンスを出して茜の髪に染み込ませるように揉んでいく。

 

「もっかい流すね」

 

リンスも流すと愛真は茜の広い背を見ていくつかの小さな傷跡を見付けた。それは二人の過去の傷跡。そっと撫でると、愛真は茜を後ろから抱いた。

 

「傷、残ったままだね。ごめん……私のせいで」

「気にすんなよ。あたしが、自分の思ったように振る舞っただけだから」

 

七年前の夏、上級生の男子からの告白を断った愛真は腹いせにその男子を含めた数人の男子に呼び出され石を投げられた。その時、愛真を心配してついて行った茜は愛真を庇ってその背にいくつもの石をぶつけられた。夏で薄着だったため鋭い石は服越しであっても茜の肌を傷つけた。その後すぐ通りかかった先生によって男子たちは連れて行かれ、茜も消毒等の治療を受けた。時を経るにつれて傷は小さくなっていたが、完全に消えることはなく今も残っている。遠目には分からないかもしれないが、愛真には分かる。この一件を機に愛真は茜への想いを自認し茜に尽くそうとした。そんな愛真の振る舞いを茜は最初、快く思っていなかった。当時はその感情が何なのか分かっていなかったが、今なら分かる。茜は最初、愛真の行動は自分を庇った茜への負い目から来るものだと考えていたのだ。だから最初のうちは断っていたのだが、少しずつ愛真の想いに気づき始めた茜はだんだんと彼女を受け入れるようになった。

 

「あの時のこと、私……絶対忘れないよ」

「そうか」

 

言葉は短いがそれ以上の感情が込められた一言であった。愛真はボディータオルに石けんを出して泡立てると優しく茜の背中を流し始めた。

 

「ねぇ茜ちゃん。私の髪、洗ってくれる?」

「あぁ、もちろんだ」

 

その後、おっかなびっくりしながらも愛真の柔らかな髪を洗い、二人で湯船にもう一度浸かった。今度は背中合わせではなく、茜が愛真を抱くように、愛真は茜に背中を預けるようにしていた。茜から見える愛真の裸身を見るに見られない茜は愛真のお腹が可愛く鳴くまで上を見続けるのだった。

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