わたしたちのヒーローアカデミア 作:ddd
いたい。
いたい、よ。いたい。たすけて、だれか。
おかあさん、おかあさん。
どうして、どうして、すてたの?
くらいよ、こわいよ。
どうして、どうしてーーーーー
------わたしたちは、いらないこ、なの?
▽▼▽
「被検体0215の呼吸が止まりました。心拍数も激減しております」
「薬を注入。効果はありません」
「心臓マッサージ。効果はありません」
「このままだと被検体0215は死亡します。繰り返します、0215は死亡します」
ブザーが鳴り響く薄ぐら闇の部屋の中で、様々な機械につながった一人の子どもが眠りにつこうとしていた。
あわただしく白衣を着た研究者風の人々が駆け回る。その顔は焦燥に包まれてはいるが、その中に子どもーーー被検体0215の心配をしている者など一人もいない。いるはずがなかった。
なぜなら、これは人体実験である。人体実験など公式に行われるものではない。つまりそれは、この実験が犯罪に手を染めて行われた非人道的な実験であることを意味した。
焦燥は『モルモット』がなんの結果も出さずに死のうとしている事に対してのみ急き立てられる。
「0215の個性は『集束』。ただ集めるだけの没個性のモルモットだ。一匹くらい死んでも問題はない。実験を続けなさい」
そんな研究者たちをいさめたのは、一人の老人だった。背骨が前にゆがみ、まるでブリキのように生を感じられないひび割れた顔をニタニタと楽し気に歪ませながら、興味深そうに子どもに目を向けていた。
「し、しかし、このままでは普通に死んでしまいます」
「その時はまた新しく上から調達してくればよかろう?」
「ヒーローの対処が、ここ最近過激になっています。リスクが大きすぎる。慎重になるべきです」
「そんなことで最強の個性が生み出せるとでも思っているのかね・・・それとも、君がモルモットになるかね、柴田君?」
目を子どもに向けたまま、一切動かそうとしない老人の言葉に、柴田と呼ばれた男は青ざめた顔をして下がった。
「それでいい。さて、実験もそろそろ佳境だろう。そこの被検体はもう殺してしまいなさい。データの収集が終わり次第、次の実験を進めよう」
「は、はい!」
緩慢な動きで目をそらした老人は、自動で開いたドアをくぐってどこかへと向かった。
それを黙って見送った研究者たちは、完全にいなくなったことを確認してほっと一息吐き、言われたとおりにデータの収集に明け暮れる。
「それではこれにより、人体における、薬物による個性の誘発的発動、及びそこから発せられるエネルギーのデータ収集実験はこれにより終了します。各自、データを収集した後は、次の実験へ移行してください。残った実験体は直ちに撤去、焼却処分を行ってください」
穴という穴から血を流す子どもの形をした歪な肉の塊を見て、何人かの職員が吐き気を催した。
「薬物による誘発的発動、ね。どうみてもただの処刑だよ」
「薬物っていうか、個性の誘発性があるだけで完全な毒薬だからな。それも一滴で大人数人は殺せる。それをほかの薬物で無理やり中和させながら、効果だけ得させるなんて、無茶な実験にもほどがある」
「これで今日一日で何匹減った?」
「18。そろそろ在庫も厳しくなってきたっていうのに、このペースで実験を進めていたら本当にヒーローに見つかって、全部ぶっ潰されちゃうわ」
「その辺は、マキリ博士もちゃんと対策を練っているさ」
「そうだといいけど」
肉片をゴム手袋や口の大きな掃除機で片付けながらぼやく職員たち。そのうちの一人が、ふと動きを止めた。
「どうした?」
「いや、何か聞こえた気がして・・・」
「気のせいじゃないか。コーヒーでも飲むか?」
「・・・そんな気分じゃないのは確かだな」
それ以上会話は続かず、実験はそのまま終了した。
▽▼▽
ーーーおかあ、さん
誰もいなくなった実験室で、小さな声がつぶやいた。
ーーーおかあさん、おかあさん。いたいよ、いたいよ。たすけて。ぼくのからだ、どうなっちゃったの?
薄く、ぼんやりとした光が暗闇の中に次第に子どもの姿に成形されていく。そして現れたのは、すでに死したはずの子どもの姿だった。
ーーーみんち、ぐちゃぐちゃ。はんばーぐ、みたい。ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ。いたい、いたいの。だれかたすけて
子どもはただ一人、声もなく泣き叫んだ。母親を恋い焦がれる子どもの慟哭が響き渡る。
ーーーみんなも、しんじゃったの?どうして、しななきゃいけなかったの?
光が次第に収束する。その光は先ほどの子どもーー被検体0215のものだけではない。何度も、何度も実験が行われた。非人道的な実験だ。血をぶちまけて、母親を、父親を求めながら無念にも死んでいった子どもの魂は軽く百は超えていた。壁に染みついた血が、匂いが、かすかに残った肉片が、少しずつ光を放っては一か所に集束する。
ーーーわたしたち、しななきゃいけなかったの?ぼくたち、こんなにくるしまなきゃいけなかったの?
悲しい。苦しい。痛い。悔しい。だけど、それ以上に。
ーーーわたしたちをくるしめるやつらをみんな殺せば、この苦しみもなくなるかな
殺意、憎しみがあふれ出た。
輪郭が不定形だったその光は、次第に一人の子どもの姿をとっていった。
血が染みた白い髪の毛に、黄色く淀んだ大きな瞳。華奢な身体は女性のものだが、幼すぎて見分けはつかない。地面に足をつけて、影が伸びる。その存在はーーー子どもたちの怨念の集合体であるそれは、この世に生まれ出でた。
モルモットとして最低限配布された、黒いマントを羽織った少女は、腰に大小さまざまな解体に適したナイフを具現化させた。それが誰の個性によるものなのか、すでに自分でもわからなかった。
「・・・殺しに、いくね?」
闇の中を、二つの黄色の光の軌跡が、ゆらり、と揺らめいて溶けて消えていった。