わたしたちのヒーローアカデミア 作:ddd
安堵し、気が緩んだ。生きた子どもがいた。その事実が、オールマイトの緊張していた心を解きほぐした。
――――次の瞬間だった。
「オールマイト!」
「っ!!!」
一閃。下からなぞるように迸った光の筋が、線となって表れる。オールマイトは思わずのけぞり、自身の血を宙に舞わせながら、一瞬にして子どもから距離を取った。
顎の右下から、斜めに上に向かって。線の濃い顔立ちに傷を負ったオールマイトは、信じられない思いでヒーローに傷をつけるという凶行を行った、自分の背丈の半分ほどしかない小さな子どもに目をやった。
「…死んでない?」
殺気はなかった。攻撃の意思も、動く気配もまた。だからこそ傷をつけられた。百戦錬磨のオールマイトが、むざむざ攻撃を予兆できないわけがない。
まるで自然に。まるでそうすることが当然のように。息を吸い吐き出す生命維持の様に。自分を殺そうとしたその小さな存在に、オールマイトは冷や汗を噴出した。
「君は…一体…」
オールマイトの問いに、少女はこきりと頭を傾かせて沈黙する。
そして、怖気の走る笑みを浮かべた。
「わたしたちは、ここでうまれたの」
「なに…?」
オールマイトに駆け寄って、個性による治癒を行っていたヒーロー。そしてそれを守るように前に出た、色白のヒーローが眉を潜ませた。
「わたしたちはたくさんの苦痛のなかからうまれたよ。大きな悲鳴≪うぶごえ≫を上げてうまれたよ。たくさんの痛いと、苦しいと、寂しさがあつまってうまれたんだよ」
「…」
オールマイトの顔から笑顔が消えた。
「だからころしたの」
――――だから、殺すの。
少女の目が、黄色に染まる。
次の瞬間だった。少女がちょうど背にしていた扉が、ひとりでに開く。そこに広がっていたのは闇――――ではなく、どこまでも白く重たい鉛色をした霧だった。
「来る!」
一人のヒーローが叫んだ瞬間、霧が部屋の中にすさまじい勢いでなだれ込む。少女を飲み込み、瞬く間にヒーローたちをも包み込んだ。
「くっ!なんて濃い霧だよ!」
ヒーローがその霧に押しやられてひるんだ瞬間、オールマイトは霧の中、微かに光る何かに気が付き、そのヒーローの襟をつかんで引っ張る。
その音はあまりにも軽い音だった。風を切り裂く音を放ちながら壁に突き立ったそれ―――小ぶりのナイフをみて、ヒーローは顔を青ざめさせる。
「あ、ありがとうございます、オールマイト…!」
「どういたしまして!…それよりも、あの少女は一体…!?」
「わかりません。個性の登録データにもありません…!」
データベースを小型のデバイスで探ったヒーローが、口を開く。
「ころすね」
しかし少女は待たない。常人ではありえない脚力にて霧の壁を突き抜けて突っ込んできた少女は、ナイフを翻してまるで軽業師の様にヒーロー達にとびかかった。
「あんたみたいな子どもにやられるほどヤワじゃあねえよ!」
ヒーローの一人が手のひらから金属を生み出し、それをこん棒の様に引き延ばして迎え撃った。幾度もヴィランとの戦いを切り抜けてきた熟練の棒術だ。
「くっ、こいつ!実力はプロ並みかよ!」
しかし少女はそれを舞うようにいなし、ヒーローの首に刃を這わせた。すんでの所で交わしたヒーローは、かろうじて血管は守ったものの少なくない出血を噴き出す。
「メタルラック!今援護に…げほっ」
「なんだ…これっ…!?」
霧を吸い込んだヒーロー達は、肺が焼けるような強烈な痛みに襲われてその場にひざまずく。
「この霧、まさか毒入りか!?」
「オールマイト!」
「わかっているとも!」
ヒーロー達の判断は早い。すぐに霧の薄い場所に集まり、オールマイトの背に隠れる。
「SMASH!!!」
オールマイトの拳が、轟音とともに振りぬかれ、霧を吹き飛ばす。
しかし。
「…くっ、密閉された空間では効果は薄いか…!」
霧は波のように押して引いてを繰り返し、再度ヒーロー達に襲い掛かる。
「くすくす…」
そこに、再度光が襲来する。
「だが…甘い!」
オールマイトは一直線に投げられたナイフを手刀で叩き落した。しかし、また霧を突き抜けてナイフが飛来する。
左右に一本ずつ。そして一直線に一本。躱せば後ろで肺にダメージを負ったヒーローにあたる軌道。
「これは…!?」
拳を突き出して吹き飛ばそうとして、オールマイトは目を見開く。
――――殺気。
「ぬっ!?ぐぅう…っ!」
少女が霧を突き抜けて、上方からすさまじい速度でナイフを突き出す。それをオールマイトはすんでの所で拳でつかむ事により受け止める。普通では考えられないような鋭さを持った刃は、掴んだオールマイトの手のひらを容赦なく切り裂く。
「…?」
少女は不思議そうに首を傾げ、ナイフから手を放してオールマイトの太い腕を蹴って、また霧の中へと消えた。一瞬にして気配は消える。
(手際が良すぎる…!これではプロと同等…いや、それ以上の達人級!)
思考しながら、残った拳を振りかざして霧もろともナイフを吹き飛ばす。
「オールマイトに、また傷を…!?」
ヒーロー達は戦慄した。世界最高峰のヒーローオールマイトに、幼い少女が傷をつけたのだ。一回目は不意打ち、二回目は戦って、さらに多対一で、だ。
脅威は非常に高い。またこの密閉された空間が、霧のような毒を生み出す個性と相性が良すぎた。
「オールマイト、ここは一旦引きましょう!」
「…」
ヒーローの言葉にオールマイトは逡巡して、そして前を見たまま口を開いた。
「あの少女相手じゃあ、そう簡単には逃げられない…ここは私に任せて、君たちはその間に何とか外に逃げてくれ」
「で、でも…!」
「私なら大丈夫!」
オールマイトは笑った。
「それに、あの少女も助けてあげなくちゃいけないからね…!」
「オールマイト…」
「…わかりました、どうかご無事で!」
ヒーロー達が引き上げるのを、オールマイトは背中で見送る。
「…あなたは、どうしてしなないの?」
ヒーロー達が見えなくなった頃、少女が霧の中から姿を現した。
「ヒーローだからさ」
「…ひー、ろー…?」
「あれ、聞いたことないかな。私とか、一応結構有名なんだけど!」
「しらない」
「そっか…!」
オールマイトは微かにダメージを受けた。
「ねえ、ひーろー」
「私はヒーローの中でも、オールマイトっていうんだ」
「じゃあ、おーるまいと」
たどたどしく名前を口にした少女は、人形のような動きでオールマイトに近づいた。
「こわいの。くるしいの、さびしいの。わたしたち、こわいのが嫌でたくさんころしたの。きっところせば苦しいのも、さびしいのも全部きえてなくなるからって」
でも、と少女は言葉を続ける。
「きえない、きえないの。こわい、くるしい、さびしい…わたしたちをくるしめてるのはおとなたちで、おとなたちは殺したのに、どうしてこんなに苦しいの?」
「…それは…」
「またたくさんころせば、こたえ、出てくるかな」
「違う!そんなことをしなくても、答えなど…!」
空気を割く音が迫る。
「くっ、大人の話を聞かない、悪い子だ!これは少し叱ってあげないとな!げほっ」
巨体とは思えない身のこなしでそれを避けて、笑って言ってのけるオールマイトに、少女は不思議そうに首をかしげて霧の中に消えた。
「解体するね」が「殺すね」
本家のジャックとは起源がちょっと違うので、性格とか色々と変わってます。
PS.
本作品がクロスオーバータグをつけていない等の理由により運営様に検索妨害行為と見なされ一時的に非公開となりました。今はタグをつけて公開状態にして様子見しております。
皆様には多大なご迷惑をおかけしてしまい、またお目を汚してしまった事を深く謝罪申し上げます。誠に申し訳ございませんでした。
なお、検索妨害行為と見なされたことは納得し、反省しておりますが、それとは関係なく、作者本人の豆腐メンタルが災いし、本作品のモチベーションが著しく下がったので、続きが出るかどうかは未定となりました。
完結状態にするかどうかは、完全に続きを出すことを諦めた際に考えようと考えております。
感想欄などでのご声援、ご感想、ありがとうございました。しばらくは読み専に戻ります。