殆ど何も考えていないTS聖女さんのお話   作:茶蕎麦

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 今回はグミさんを。
 主に過去話、ですね。


第十七話 グミと人形

 今回はグミのもの。そのため、男の子に引っ張られている女の子が言葉にまでした思いは数少ない。

 

 あ、バジルの布団でグミが寝てるよー。

 忘れちゃったなあ。

 私には、どっちも魅力的な女の子にしか思えないけれど。

 

 果たして、どうして彼女は人形であったのか。それは、補足してから、理解してもらう必要のあることだろう。

 

 

 

 お気に入りの衣服。それは、誰にだってあるだろう。一張羅、とまではいかなくとも、好みの柄や装いのものを着回し続けている者も、多い。そこに、新たを混ぜて、古いを捨てて、循環させていく。そんなサイクルを、グミ・ドールランドも続けていた。

 偶に早起きして、服に手をかけながら、グミは思う。

 

「うーん。ミー兄の鼻血で駄目になっちゃった服の代わりが、そろそろ欲しいところだなあ」

 

 先にアクシデントもあったが、更に今回は小旅行のつもりで居着いてしまったのであれば、持って来た服のみではバリエーションに乏しくなってしまうのも仕方なく。だが、そろそろお洒落心を抑えきれず、グミも散財をしたくなってしまったようだ。

 

「これは、流石に奢ってもらう訳にはいかないし、ゆっくりと選びたいし……うん。買いに行こうかな」

 

 これまではふざけて、屋台のおじさん等にねだって、お菓子やらをコソコソと無料で食んで満足していたが、当面の生活費としてパール達に渡したお金以外にも、とうとう必要が出たようだ。金貨二枚を必要な資金として、彼女は魔法で癒着を解いた、普段は開かずの大鞄から取り出す。オオマユで売られているような上物でなければ、このくらいでまずまずが買えるだろうという目算で、少女は神祖の図柄が浮かんだそれを弾いて遊ばす。

 

「出来たら、ある程度伸びやすいのがいいな……あんまり、きっちり織られていないの、選ぼう。……うーん。でも、色々と出掛けてるけど、美味しそうなところをフラフラしてばっかりで、服屋さんのチェックしてなかったね。女の子として、駄目だったかな、ボク」

 

 グミは、だから、パールにも女の子として見られなかったのかな、と言葉を落とした。美味しいものが沢山あるからと、活気のあるマーケットばかり好んでいた彼女は、個人商店の有様をイマイチ知らない。きっと、珍しく高いものばかり売っている青空市場よりも、そっちの方が良いだろうし、更に店によっては掘り出し物もあり得そうだ。

 分からないなら人に聞く。そうパールから教わっていたグミは、自分用の貰い物で埋まり始めた部屋から出て、教授してくれた人物の元へと向かんとし始めた。鼻歌を奏でながら、色味で金貨を遊ばせて元気よく。

 

「ふ~ん、ふ~ん。パールは自分のお部屋かな?」

 

 途中で誰に出くわすだろうか、それもグミには楽しみだった。まだ朝の時間。仕事に出るには少し早い。ならば、パールにバジルに、トールは何処かにいて、それと道々出くわし、会話を楽しめるようなことだってあり得るだろう。気を遣っているのか何を考えているのかあまり家内に居ない、アンナは気にしない。これでミー兄ちゃんが遠慮せずに泊まってくれればな、と言いながら部屋までの短距離を浮かれていた彼女だったが、結局誰と顔を合わせることもなかった。

 今日は少し起きるの早すぎたのかなと不思議に思いながら、グミは扉を開けて、パール等の私室に入っていく。

 

「ありゃ、居ないや」

 

 しかし、そこにも誰の姿もなかった。活動しているパールの姿も、ましてや予想していた眠っている様子のバジルも見当たらない。トールも、彼らと同じく行動しているのか、影形もなかった。

 今が、トールの早朝散歩の時間と知らないグミは、それを不思議に思うが、だがふと思い付き、彼女は悪く笑う。

 

「ふっふー。これは、お部屋探しタイム!」

 

 そう、誰も居なくて、何時ものように施錠もされていない、これはイタズラのチャンスといえばそうである。勿論、お金や貴重品を損ねたり盗んだりすることなどをグミが狙っている訳ではない。ただ、彼彼女の恥ずかしい物などがあれば、面白いと彼女は思う。

 パールのそういうものがあれば嬉しいが、しかし開けっぴろげなあの性格で秘密を隠しているなど中々考え難い。きっと大きくて遊べるだろう彼女の服やブラジャー等を探るのも面白そうだが、取り敢えずはバジルの私物を、と彼のベッドへと向かった。

 

「あれ……お、これは何かあるね」

 

 そして、鞄の後ろに、どうも隠しているようなものをグミは見つける。意外と整頓されている一角に、不自然に積まれた物々の下から箱を彼女は取り出した。

 

 

「何だろう、コレ……あ」

 

 そして、オークで作られた木箱を開けてみるとそこに安置されていたのは、二つ。

 先ずグミの目を引いたのは大きな手製であろう不格好なクマのぬいぐるみ。そして、その隣に置かれていたのは。

 

「人形、だ」

 

 男の子と女の子、黄とグレーの毛糸、恐らくは金と銀のつもりだろう髪が植えられた、二つの不織布で作られた人の形がそこで手を繋いでいた。ああ、これはパールとバジルを模したものであると、ひと目でグミは理解する。

 四つのボタンで出来た瞳が、グミを見つめた。

 

「助けて、あげないと……」

 

 どうしてだか、それに感情移入してしまったグミは封ざれていたことを嫌って、その二体を取り出す。

 そして、それらを強く抱きしめてから、彼女は言った。

 

「寂しかっただろうね……ああ、二人だったのだから、そうでもないのかな」

 

 私じゃないのだから、と歪に魔女は笑む。

 

 

 

 その所以は、愛だった。閉じ込め、着飾らせ、与え続ける。まるで、人形のように少女を扱ったそれに、悪意は更々なかったのだ。

 それはもう、大事である。ただでさえ、可愛い我が子。小さく生まれてしまった彼女。土に水の色を与えられ、神に祝福された娘。それに夫婦が出来る最大を施すのは、ある自然なこと、とはいえた。

 だが、その結果は過ぎたるもの。愛の形は歪んで、グミはそれに取り囲まれる。人形さんでいなさい。それは、人形を愛して店まで作り上げた彼らの、最愛から零れた言葉。だが、それは少女に対して呪いとなった。

 何もしなくていい。どんな苦からも、私達が遠ざけてあげるから。そう語る、二人の家族愛に、グミの生来からの魔性の魅力が影響していない筈はない。

 言葉も満足に喋れず、親の顔と部屋、そして四角い窓からの外の景色しか知るものはなく。喜びの顔が見たいからと、部屋に増えていく送られた物品に、美味しいはずの親子三人での食事。それが、何より無色透明なものだった。

 愛によって、不幸も他人に寄る幸福だって、遠ざけられるそんな日々。それがつまらないとも知らずに、グミはただ座って日々を過ごし。そして小さいままに齢を十数えたその年。

 初めて、父母以外の人間に出会った。

 

「おお、開いたな……あれ何だこの座ってるの……人形?」

「に、ぎょ?」

「喋った!」

 

 開かずの扉をそこらの釘で開けて、グミの前にまで侵入してきたのは、少年のような、少女。

 金髪のボブがよく似合う、男勝りな彼女は、レアと言う。グミの今の髪型に影響していたりするその髪型が、驚きに逆立つ。

 その気の強さから、レアはグミに恐怖まで覚えることはなかったのだろう。むしろ興味津々に、ふりふりな上等過ぎる衣服を纏った人形の少女に話しかける。

 

「子供だったのか。俺、レアって言うんだ。お前は?」

「レー?」

「ん? 何か、遅いなお前。まあいいか。そうだ、俺は大問屋オオマユの当主補佐、ミディアム兄の妹、レアだ!」

「レー」

「はは。そこそこ大きいのにあまり喋れないのか? 全く、シトラスのおっさんおばさんは何教えてんだよ。そうだなレーだけじゃ、何だか変だ……レーちゃん、と言ってみな」

「レー、ちゃ?」

 

 無理に、兄と離れるのが嫌だと、シトラスとオオマユの商談に付いて来てから抜け出して探検の挙げ句にグミを見つけたレアは、舌足らずな彼女の言葉を受け、何やら快感を覚えたようだ。

 普通な胸元を押さえ、もう少し近づきたいと、レアはグミに尋ねる。

 

「おお、愛称みたいで嬉しいな。うーん何だこの気持ち……それで、お前の名前は?」

「グミ」

 

 自分の名前。そればかりは、よくよく二人が口にするから、覚えていた。そればかりは流暢に、グミは伝える。

 

「グミ、か。よし、覚えたぞ。グミも覚えたよな。ならこれで、俺とグミは友達だ!」

「とも?」

「そう、友達なんだ。苦楽を共にして、笑い合う、そんな二人が、友達だ」

 

 あはは。とレアは快活に笑うが、しかしグミにはさっぱり内容も意味も分からない。ただ、良く分からないがどこか魅力的なそれを繰り返し呟く。

 

「く、ら?」

「分かんない……つうか、知らないか? うーん。よしよし」

「わ」

「気持ちいいか? これが楽だ……そして」

 

 レアは一時撫でて喜ばせた手を離し、そう言ってから、軽めに柔らかなグミの頬を抓る。

 そして、その痛みがグミという少女を生むことになった。

 

「これが、苦だな……って、わ!」

「ぅわ、わーん!」

 

 そして、初めての刺激を受けて、二度目の産声が上がる。この屋敷では久方ぶりに響く大きな、子供の泣き声に、多くの人間が集まってきた。

 

 

 やがて、始まった騒動は、二方の子供を想う言葉によって大変に拗れていく。方や、異常な育て方だ、娘の行動は悪くなかった、と非難し、方や我が家の方針に口を出されるいわれはない、その娘を出せと言い張り、喧々囂々。

 このままでは、両者にとって悪いことが起こってしまう。それを誰もが感じ取った時。

 

「やめ、て!」

 

 立ち上がり、使われていなかった喉元を再び酷使し、大声を出して今にも取っ組み合いの喧嘩を始めそうだった当主の間に、彼女は割って入った。

 そう、人形であった筈の少女は、目から涙を零しながら、皆が苦しそうになっている今を嫌ったのだ。知ったばかり、でもそれが嫌なものであるのは思い知っていたから。

 そんな想いが、判った。判ってしまったからこそ、皆、押し黙る。そこに居合わせたのは、尊い少女のそれを、汚すことの出来ないような大人ばかりだったから。

 そして、同じ子供の代表として、彼女も声を荒げた。

 

「そうだ。皆、止めろよ! 俺が悪いんなら、それで仕方ないだろ。叱って、それで俺が謝る。そうして、後は仲直りすれば良いんだ。いいだろ? いいよな……だって、俺、新しく出来た友達と離れたくない!」

「レー、ちゃ」

 

 思いの丈は、感情は、言葉になって溢れ出す。グミと同じくはらはらと、涙を流しながら語るレアの思いは、辺りに通じていく。

 そして、それはグミを愛して止まなすぎて失敗してしまった、そんな両親の膝を屈させた。思いの深さなど関係ないのだ。なにせ、どちらが正しい愛か、レアはまざまざと感じさせてくれたのだから。

 ごめんなさいと、涙ながらに両親は皆に、特にグミに謝って。そうして皆はそれを理解して。

 だから、その時の謝意と今までの愛を理解出来なかったグミ本人以外に、しこりが残るようなことはなかった。

 

 

 因みに、である。元々身内に対する愛情が深いレアであったが、この日から彼女もグミの魅力にしてやられてしまう。

 魔法を使ったグミを天才だな、と褒めて可愛がり。長い髪を暑苦しいな、と切ってからその一部を集めて。そうして手ずから言葉に勉強に文字を教えてあげたレアに懐く少女を彼女は中々離さなくなった。

 

「この子は、俺のものだ! 兄ちゃんにも、渡さねぇ……いや、兄ちゃんも誰にも渡さねぇからな……」

「わぷ。レーちゃん……」

「アホか。さっさと家に帰すぞ」

「チッ。流石に兄ちゃんには実力行使出来ないな……後で、隠し部屋でも作るか……」

「聞こえているぞ」

「あはは……」

 

 そうして、強く抱きしめられ頬ずりされながら、困り顔になるグミ。もう、誰から見ても笑顔でもある彼女はただの幸せな子供のように見えた。

 そう、グミが内にある冷えた心を私とし、今の活動的な心をボクとして、分けて本心を隠してしまっていることを誰にも気付くことはない。

 

 

 

「あ、バジルの布団でグミが寝てるよー……あれ、ぬいぐるみに……その人形」

「コイツ、勝手に出してやがるな……」

「バジル、そんなところに隠していたんだね。懐かしいなあ……あれ、でも何時それ作ったんだけ。忘れちゃったなあ」

「オレが来て、間もなくだ。結構前だな」

「ふうん……」

 

 何時しか、感傷を覚えて過去に戻ったグミは、眠り出していた。その胸に、人形を二つ、大事そうに抱きしめて。パールは、出自を思い出せなくとも自分の形が愛されている様子を見て何だかほっこりとした。バジルの、少し悲しげな瞳に気付かずに。

 

「あ、涙の跡があるよ」

「コイツも……まあ何か色々とあったみたいだしな」

「そっか……」

 

 魔法の影響で多少は、その内の空虚が判った。だがしかし、語られずに全てを知るなどあり得ない。バジルは、ただ感じた物悲しさを思い出し、少し後で優しくしてやろうかと思う。だが、大事に隠していた人形を引っ張り出したことは、許さない、と考えつつ。

 

「人形、か……」

 

 そして、パールもバジルを他所に、思い、言う。

 

「私には、どっちも魅力的な女の子にしか思えないけれど」

 

 素直もそう思ってるし、と独りごち。パールはグミの青髪を撫で付けた。

 

 

 




 ある程度、伏線回収出来ましたでしょうか?
 レアさんは、中々素敵な人です。
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