リクとシュヴァがイチャイチャするだけ。
――リク達『幽霊』は大戦を終わらせる為に暗躍する。
その知識、知謀、知恵。力なき『幽霊』はその身体を犠牲にし、思考によって世界を操る。
脆弱な身体しかもたない『幽霊』達は毎日毎日その身体をボロボロにしながら、夜に少ない休みを取る。
それは『幽霊』の長――リクだろうと……。
■■■
――疲れた。
リクはベッドに身体を投げ捨てる。
上位種族を相手にミスを許されない暗躍は、リクの心も体も蝕む。一九七の仲間の前では、不安を煽らないために弱みを見せれない。リクは常に自信を持ち気丈に振る舞わなくてはいけないのだ。
「……リク、水……飲む?」
ベッドに寝そべるリクのそばにシュヴィが水を持ってくる。
あぁ、とだけリクは答えてそのコップを受ける。
疲れた身体に水が染み込み、心が少し軽くなる。
――心が軽くなったのは水だけが要因ではないだろう。
「ありがとな、シュヴィ」
「……シュヴィ、はリクの……お嫁さん。……リクに、尽くすのは……当然」
――――。
――――あぁ、もう。なにこの可愛い
「なぁ、シュヴィ。抱きしめて良いか?」
「……リクが、したいなら……いつでも、どうぞ」
ギュッ、っとシュヴィを抱き寄せる。
シュヴィの長い髪に顔を埋めて、その匂いと感触を味わう。
土埃と灰の匂い。今日一日ずっとリクと一緒に外で任務をしていたからだろう。
――そして、そんな匂いに混じって微かに感じる、甘い匂い。
コロンの匂いと似ているが、少し違うその匂いは身体の疲れを忘れさせてくれる。
「……んんっ」
リクの胸に顔を埋めているシュヴィが顔を擦り付けるように動く。
くすぐったくも、そして心地よくも感じる。
「……シュヴィ、リクの……匂い、好き。……ずっと、このまま……でいたい」
「そっか」
リクは短くそう答え、シュヴィを強く抱きしめなおす。それが、自分も同じだという証明のように。
その後二人は疲れた身体を預けあい、無言で抱きしめ合う。
〝独り〝じゃないって、いいもんだな。
森精種の廃墟都市で言ったあの言葉は正しかったとリクは心の底から言える。
シュヴィと二人だからこんな人生に抗える。
シュヴィと二人だから確率〝絶無〝の可能性を信じることができる。
シュヴィと二人だから今が楽しいって思える。
――ずっと――お前と一緒に居たいよ。
「……ねぇ、リク……」
名前を呼ばれて胸元にいるシュヴィに視線を向ける。上目遣いで――ほんのり顔を赤らめたシュヴィがこちらを見つめていた。
「……シュヴィ達、夫婦……」
「おう、そうだな」
「……人間の、夫婦は……ちゅー、するって……コロンから、聞いた……」
――――ちゅー。接吻。キス。
リクの脳内に浮かぶのはシュヴィと出会ったあの時。
押し倒されて貞操を――唇を奪われたあの瞬間。
あの時は突然のことで、キスの感触を記憶する暇もなかった。
――――。
――――――。
「……リク、どうして……黙ったの? ……もしかし、て……シュヴィと、キスするの……やだ?」
「そ、そ、そんなわけッ! ただ、シュヴィと初めて会った時にキスされたなぁと思ってな」
「――リク、あのシュチュエーション……では、……充足……できなかった」
「そりゃあ、いきなり機凱種に襲われてキスされたらそれどころじゃないからな」
シュヴィは目をパチクリさせる。
まるで人間のように顔を傾げて、考える仕草をする。
「……じゃあ、……リクは、シュヴィに……どんな風に、ちゅー……されたい……?」
「キスするのは確定なのな」
「……やっぱり、嫌……?」
「いえむしろご褒美ですッ!大好きなシュヴィとキスできるなんて童貞一九歳泣いて喜ぶぜッ!」
「……そう」
顔を俯かせるシュヴィ。
長い髪の隙間から見える顔が真っ赤なのは恥ずかしさからだろう。
「……えいッ――」
えっ?
突然リクは押し倒された。
かつて、あの森精種の廃墟都市でシュヴィに押し倒された時のように。
「…………」
自分にまたがる少女――嫁。
あの時と違うことと言えば、二人とも服を着ていること。
――そしてあの時は無表情だった少女の顔が今日は真っ赤に染まっていること。
「おにぃちゃん、もう我慢出来ない。私を女にして」
一言一句違わないセリフ。
感情のこもらない棒読み――っぽい感じでそうほざく。
――――。
――まったく。
恥ずかしいからって、昔の真似して誤魔化すなよ。
「なぁ、シュヴィ。俺はシュヴィの〝本音〟が聞きたい」
「――――」
小さく唇を尖らせるシュヴィ。
数秒の思案。シュヴィは何でも正直に言える自信があった。だが、この気持ちはなぜか恥ずかしさを覚える。
キスして、と誘う行為がこんなにも恥ずかしいなんて。
「……リク」
「ん、どうした?」
「……シュヴィは、……リクとちゅー……したい……」
「あぁ、俺もだ」
やっとの思いでシュヴィが紡いだ言葉をリクは受け入れる。
しかし、そこで二人の動きが止まる。
変な時間が流れた後、シュヴィが一言。
「……リクからちゅー、して……」
「お、おう」
童貞に主導権を渡してきた。
落ち着け、落ち着け。
まずはゆっくりと――
「……リク、ヘタレ……だから、無理……?」
――――。
――――――。
明らかな挑発。
だが、挑発と分かっていても嫁にそこまで言わせて自分からやらないのは男じゃないッ!
自分の上に跨っているシュヴィをベッドに押し倒す。シュヴィの乱れた髪がベッドに広がる。
シュヴィの大きな瞳が、期待の色に染まっているように見えた。
――ゆっくりと。
――二人の唇が近づいた。
チュッ。
軽く触れるだけのキス。
シュヴィの唇は、機械の唇のはずなのに瑞々しく、本物の人のように柔らかかった。
「…………リク、おかわり……」
一度だけでは不満なのか、シュヴィは目を閉じて二回目を要求してくる。
リクは自然と笑みをこぼしながらそれに答える。
二度、三度……幾度もなく繰り返されるキス。
心が熱い。
シュヴィとキスをするたびに心の奥が熱くなる。
シュヴィが愛おしい。もっとシュヴィを感じていたい。
シュヴィの唇を舌で強引に開いて、口内へ侵入させようとする。
「んんっ」
シュヴィは驚きの声を漏らしたが、すぐにリクの舌を受け入れる。
そして、リクの舌に自分の舌を絡ませて対応する。
ピチャ……ンチャ……。
艶かしい音だけが室内を奏でる。
シュヴィのキスの腕前はリクの反応に対応し進化し続ける。リクが気持ちいいと思う場所を刺激し、リクがやりたいと思うことは自由にやらせる。
シュヴィの唇はリク専用に生まれ変わる。
「んっ……ぱぁ」
やりきったように二人の唇が離れる。
二人の唇からは唾液の糸がキラキラの繋がっていた。
「……えへ、……しあ、わせ……」
――シュヴィは思う。
機械に生まれた自分が、リクと出会い『好き』という感情が芽生えた奇跡。
そんな奇跡が幸せだと。
だから、シュヴィはもっとリクの願いを叶えてあげたい。リクの幸せは自分の幸せでもあるのだから。
シュヴィは心の中で一つ決める。
――『穴』を作ろう、と。