ロリドワーフ・ハイドワーク〜ts転生して地世界生活〜   作:うほごりくん

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第3話「

「父上、何をおっしゃるのですか。待望の救世主様ですよ」

「そうですぞ。ヒカル殿ならきっと私達を……」

 

 マレラとゴドルが父であるギレンを咎めるが、ギレンは知ったことかと踏ん反り返る。

 

「うるせぇ。オレは自分達の運命を知らねぇおっさんの残した予言だの、何処ぞの馬の骨かもしれねぇ救世主なんかに任せたくねぇだけだ!」

「しかし……」

「しかし、じゃねーよ。自分達のケツくらい自分達で拭くんだよ。オレ達ドワーフは誰かに頼らないと生きていけないほど弱くはねぇ。オレ達だけで解決するんだ」

 

 うーん、正論だよなぁ。

 ドワーフの現状がどんな状態なのかは知らないけれど、『救世主』なんて当てにして、ただ待てば救われるなんて盲信に囚われている。そんな想像はしていたけれど、この指導者……ギレンはそんな事はないようだ。

 自分達で考え、解決するための策を模索することができる人物。それがこの男なのだろう。

 

 しかし、それは危うさでもある。

 ゴルドやマレラ、あの門番の様子を見る限りドワーフは何かしらの大きな問題を抱えている。救世主を頼りにしたいほどの大きな問題なのだろう。

 ギレンは優秀な指導者なのだろうが、その裏返しとして自分達だけで解決しようと固執して、他人に頼ることが出来ない。物事の見方を幅広く見辛く、その結果として思考の多様性を失う。

 

 ……期待されるとやる気を失うけど、何もするなと言われるとやりたくなるのがボクなんだよねぇ。

 

「ギレンさん、別にボクの事は救世主だなんて思っていただかなくて結構です。特別扱いもしなくていいです。ですが、1人のドワーフとして今のドワーフの現状を知りたいです」

「……ほぉ〜」

 

 ギレンが値踏みするようにボクを睨んでくる。この人本当に救世主信仰が無いんだなぁ。まぁ、変に持ち上げられるよりもずっとやりやすい。

 彼の双眸がボクの額を一瞥、そしてボクと目が合う。その無言の行動に、つい身構えそうになってしまう。ピリピリと肌に感じる圧力。日本に住んでいた頃は感じたことのない感覚だ。

 

「正直言ってオレ達は詰んでる、そう言っても過言ではない程の窮地だ。この地下世界千年の歴史に終止符が打たれるのもそう遠くはねーだろうなぁ」

「だからみんな救世主を望んでいる。でも貴方はそれが嫌。現れもしない幻想に期待せずに、今ある現実だけで……自分達の力だけで危機を乗り越え無ければならない」

「あぁ、そうだ」

「だったら、ボクは救世主じゃなくていい。貴方達の仲間の1人として手伝わせてほしい」

 

 要はこの男は勝手に救われる事が、そしてそれに期待する仲間が嫌なのだ。だったら一緒に協力すればいい。勝手に……ではなく一緒になってドワーフを救うのだ。

 

「まぁ、いいだろう。ヒカル……だったか。オレはこの村の住民の顔は全て覚えている。そしてドワーフの村は今ここ以外には存在しない。オレが知らない顔ってだけでお前が未知の存在って証明になる。そんな『未知』にオレ達の情報はやれない」

「でしょうね」

「だが、お前はドワーフだ。数少なくなってきたオレ達の仲間だ。オレはお前を特別扱いするつもりはないし、情報もやるつもりはない。ただ、居場所だけは与えてやる。……マレラ、ゴドル、お前達が連れてきたんだがらお前らが面倒見ろよ」

 

 ギレンのその言葉に2人はただ頷く。

 それを確認して、ギレンは再びボクの方に視線を戻す。

 

「オレからはお前に何も話すつもりはないが……そいつらが勝手に話す分には何も言わないでやるよ」

 

 つまり「オレは救世主なんて信じねーし、何処ぞの馬の骨かも分からないお前に何も話すつもりはねーから、ゴドルやマレラから話聞けや」って事か。

 

「もし何かするにしてもオレは一切手伝わねーからな、あくまで不干渉でいこーや。1人のドワーフとして自由に行動する権利は保証してやる。この村のルールでもあるしな」

「わかった。でも、もしボクの事を認めてくれたら、その時は力を貸してください」

 

 もし何か問題を解決しようとするならば、最大権力者の力はいずれ借りなければいけなくなる。ボクだけの力ではドワーフは本当の意味では救えない、そんな気がする。

 

「ははっ、それもオレの自由だ。もしオレがお前に力を貸したくなるような事があれば、その時のオレが決める」

「……絶対に貴方の力を借りにくるから」

「期待しねーでまってるよ」

 

 決めた。絶対にこの男のぐうの音を聞いてやる。そのためにもまずは……。

 

 ぐぅ……

 

 ……

 …………

 先に自分のぐうの音を聞くことになるとは思いませんでした。そう言えばお腹空いてましたね。

 

「くくっ、なんだお前。腹減ってんのか。じゃあオレはもう行く。ゴドル、なんか食わせてやれ」

「はい、父上」

「それと、なんだったかなアレ。……国宝? あのゴミをそいつにやっとけ。救世主に渡せって予言に書いてあるんだろ。どうせ使うつもりもねーからな」

 

 え、何それ初耳。もしかしてSSS級チートアイテム!? やっとボクにもチートが!

 でもゴミって……。期待半分不安半分。

 

「それと、もう一つ。そいつが救世主である事はみんなには黙っとけ。頭の紋章も適当に隠しとけや。……確か特別扱いはしなくていいんだろ、ヒカル」

 

 そう言い残し、ニヒルな笑みを浮かべてギレンは立ち去っていった。

 ギレンが部屋から出ると、マレラがプンプンと怒りを吐露する。

 

「もう、父上はいつも勝手なんだから。救世主様、父上の不遜な態度謝ります」

「いや、別にいいよそんなの。それよりマレラ。ギレンがさっき言ってた国宝って?」

「指導者様……、あっ父上のことではなく初代指導者様のことです。その指導者様が予言と一緒に残した国宝があって、それは救世主様に渡すように言い伝えられてきたんです」

 

 おおお、なんかすごそう。

 絶対チートアイテムだよこれ。エクスカリ何ちゃらとか、ゲートオブバビ何ちゃらとか。……それは宝具か。

 

「おお、それで。何処にあるのそれ」

「神殿に安置されていますわ。ひとまず昼食にして、それから行きましょう」

 

 うん、流石にお腹空きすぎてお腹と背中がくっつきそうだよ。腹ペコー。

 

 

   ■■■

 

 

 芋、ポテト、ポテート。

 ボクの眼前に広がる光景。無数の芋料理。えっ、何ここイギリス? イギリスでもまだフィッシュが付いてくるよ!?

 痩せた土地でも耕作できるのが芋だ。穀物と比べても簡単に栽培できる点も魅力的だ。

 

「いや……しかし……うーん」

 

 ここの料理の基本は芋+芋〜微かに野菜を添えて〜だ。胸焼けしそうなほどデンプンだ。そう言えば小学生の頃、デンプンにヨウ素液を垂らしてヨウ素デンプン反応ってのをやった思い出あるけど、ヨウ素デンプン反応って名前そのまんまだよね。偉い学者の名前とか付ければいいのに。

 

「救世主様、もう食べなくてよろしいのですか?」

「ヒカル殿は小食ですな。もっと食べないと筋肉がつきませんぞ」

 

 お皿一杯でお腹いっぱいなボクと違ってまだまだ食べる目の前の2人。ゴドルはともかく、ボクとあまり体格の変わらないマレラもバクバクと平らげていく。あの小さな体の何処にこの量が入るのだろうか。……あと飽きないのかな、芋ばかりで。

 

「この料理ってここでは普通なの?」

「普通……の意味が分かりかねますが、私達が食べる物は基本的にこの芋です。むしろこれ以外の食べられる物といったらこの葉っぱくらいですよ?」

 

 主食芋文化。栄養偏らないのかな。野菜も添えられているけど、こんなのハンバーガーのピクルスレベルだよ!?

 芋には一応香辛料がかかっているので、薄味では無いけれど……。

 これ絶対飽きるよね。食文化の改善って絶対やったほうがいい気がする。というか、絶対する。芋も嫌いじゃないけどバリエーションが欲しい。

 

「しかし、穀物や野菜を栽培するにしても種がいるし、動物を飼育して乳を取るにしてもまずドワーフ以外の動物をこっちに来てから1度も見ていない」

 

 食の改善は一筋縄ではいかないかもしれない。 この地下世界は不自然に明るいとはいえ、太陽のあった転生前とはやはり比べ物にならない。太陽が無ければ植物が育ちにくいのが、ネックになりそうだ。

 

 キュッキュッ

 

 鳴き声?

 物陰から小さな影が出て来た。その影はマレラの身体をよじ登り、肩に乗ってマレラに身体を擦り付けて来た。

 

「マレラ……それは……モグラ?」

「……もぐら? 違いますよ。この子はモグキューのミィちゃんです」

「も、モグキュー?」

「ドワーフによく懐く動物です。可愛いでしょ?」

 

 かわ……いい?

 モグキューは見た目ほぼモグラだし、モグラを可愛いと思うから人それぞれと思うよね。少なくともボクはネコとか犬の方が可愛いと思う。

 マレラはお皿から芋を一欠片摘んでミィちゃんに食べさせる。

 モグキューは食べられるの?

 なんて聞くと引かれそうなのでやめた。芋料理に動物のお肉が加わるだけでもだいぶ食が華やかになると思うんだけどなぁ。

 

「ちなみにヒカル殿。そのモグキューは幼い個体で成長するとこのくらいぐらいの大きさになりますぞ」

 

 ゴドルが手を広げてサイズを示す。大型犬から猪くらいだろうか。どうにかして家畜化して乳とか取れないかなぁ。あと肉。あぁ、お肉食べたい。

 

 キュッキュッ

 

「よかったら救世主様も触って見ますか?」

 

 マレラは手のひらにミィちゃんを乗せてこちらに近づけて来た。いや、ミィちゃん怯えてるよ。キュッキュッ言って手のひらから逃げ出そうと足掻いてるじゃん。

 

「あっ……」

 

 ミィちゃんは無事(?)マレラから逃げ出して、走って逃げて行った。

 ボクが食用とか考えていたのを察知したのかもしれない。

 

「すみません、救世主様。いつもは暴れる子ではないんですよ」

 

 いや、こっちがほんとごめんなさい。今度会った時は純粋な気持ちで触れ合うつもりだ。……でもやっぱりお肉食べたい。

 


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